秘密の部屋編 41
ふっと意識が浮上して目が覚めたの目に入ったのは、自分の寮の天井ではなかった。
当たり前だが…。
見慣れぬ天井。
「ここ……どこ?」
ぽつりっと呟く。
どうしてこんなところにいるのかと思い出そうとする。
確か、「闇の魔術に対する防衛術」の授業を受けていたハズだ。
そこで……。
「そっか…。ファンダールだ…」
右肩を固定されている。
それだけでなく、おそらく右肩から背中にかけては包帯がぐるぐるに巻いてあるのだろう。
痛みはまだ消したままなので特に痛みはしないが…。
の力を使って痛みを消している、それはつまり…痛覚を戻せるのも自身だから、痛みは感じてない。
「あらあら…目が覚めたのね」
の声で目が覚めたに気付いたのか、マダム・ポンフリーが来た。
マダムがいるということはここは医務室なのだろう。
「具合はどうかしら?傷はまだ痛む?」
「あ、いえ…。大丈夫です」
「無理はいけませんよ。それから……」
ぺちっ
マダムがの右頬を軽く叩いた。
叩いたというより強く触れたという表現の方が正しいだろうが…。
「マダム…?」
「少しは反省なさい!貴方は自分のことをもう少し自覚しておくべきですよ!魔法薬のアレルギーのせいで魔法で怪我を治すことができないことを分かっているのですか?!」
「…ご、ごめんなさい」
「謝るのは誰でもできるわ、…今後はきちんと気をつけなさい」
「は…い」
マダム・ポンフリーの心配そうな表情には心が痛んだ。
おそらく怪我が酷かったのだろう。
「あの、マダム…」
「どうしたの?やっぱりどこか痛むのかしら…?」
「いえ、痛みは特にないんですが…。あの…、手当てしてくれたのはマダムですか?」
マダムがマグル式の手当てを苦手とするから去年の怪我はセブルスにみてもらっていたのだ。
ここが医務室だということはマダムが手当てをしてくれたのだろうか、と思う。
マダムは困ったようにため息をつく。
「ごめんなさいね。私はまだマグル式の治療法は得意じゃないの。スネイプ先生に来ていただいて治療してもらったのですよ。でも、貴方の怪我があまりにも酷いから何かあったときのために誰かが着いていた方がいいだろうって、アルバスが言っていましたからね。それで医務室にいるんですよ」
「…そう……ですね。教授は魔法薬学の授業がありますからね…」
「スネイプ先生もかなり心配していましたよ。毎日のように授業が終われば様子を見に来てましたからね」
「毎日……?」
きょとんっとなる。
時間の感覚がつかめないが、もしかして…。
「マダム…、僕ってどれくらい寝てました…?」
マダムの口ぶりでは1〜2日ではないのだろう。
果たしてどれだけ時間がたっているのだろうか?
聞くのが少し怖い気もするが…。
「もう、10日は経ちますよ」
「10日?!!」
「そうですよ!皆心配してますよ…」
10日も経ってるのか…。
って、ちょっと待て。
その間になにも起こってないならいいけど…!
はあわててがばっと起き上がる。
「何をやっているのですか?!!貴方は絶対安静なんですよ!」
「でも、マダム…!」
「でも、もありません!全治2ヶ月の絶対安静です!」
「2ヶ月?!そんなに休んだら授業が…!」
「大丈夫よ、ゆっくり休んでなさい。あと1週間大人しくしていれば、『飛行訓練』以外の授業を受けることは許可しますよ。ただし、ここから授業に行ってもらいますけどね!」
そう言われてはは大人しくするしかない。
マダムとしても最大の譲歩なのだろう。
全治2ヶ月もの怪我をたった1週間で治るはずがない。
でも、怪我をしているのは右肩。
噛みつかれ、さらに爪を食い込まれればかなり酷い怪我だろうが…先生方の話を聞くだけの授業なら特に問題ないだろう。
足の怪我ではないので、歩くことに問題もないし。
ただ、問題は…クイディッチの試合で起こる事。
ドビーのことだから、ブラッジャーの暴走だけですめばいいが…。
…クイディッチの試合っていつだろ…?
まさか、もう終わってたりしてね…。
一筋の汗が伝うが…ここで考えても仕方がない。
医務室に一人のところから、まだ特にバジリスクの犠牲はあれから誰もいないということが分かる。
ただ、医務室に一人だからといって犠牲が全くなかったとは言い切れないが…。
「…失礼する」
がぼぅっと考え事をしていると、セブルスが医務室に入ってきた。
どこか怒った様な表情での方にツカツカと歩いてくる。
「目が覚めたのか…、」
「はい。手当て、教授がしてくれたんですよね?ありがとうございます」
「我輩に何か言うことはないか?」
「へ…?」
「何か言うことはないかと聞いている」
「教授に…ですか?…えっと……」
は首をひねる。
何か忘れていたのだろうか…?
それとも実は授業中の課題がいつの間にか出されていてそれが出ていないとか…。
「あ…。そういえば、マダムから聞きましたけど殆ど毎日お見舞い来てくれたそうですね。ありがとうございます、教授」
「そんなことはどうでもいい」
「そんなことはどうでもいいって…。えっと…じゃあ…」
なんだろう…?
はよく分からず首を傾げる。
セブルスは眉間のシワを深くする。
「……。我輩は散々怪我には気をつけろと言っていなかったか…?」
怒りをこらえるかのようにセブルスは低い声でに問う。
さすがのもセブルスの声のあまりの不機嫌さにびくっとなる。
どうやら、セブルスはかなり怒っている…というか心配したようだ。
「あの…教授…?」
伺うようにセブルスを見ると、セブルスはギロリっとを睨むように見る。
「、貴様は魔法で怪我を治すことができないとちゃんと自覚しているのか…?」
「勿論。…さっきマダムにも似たようなこと言われましたけど…」
「それのどこが自覚しているというのだ!」
「…いえ…あの…自覚していたからこそこの程度で済んだ……かな?」
「この程度……だと?」
セブルスの睨みが増す。
流石のもそれはかなり怖いと思った。
…なんか、リーマスが笑顔で怒った時より怖い気が…。
「思ったよりも出血が酷くなかったのが幸いだったが…、右肩は複雑骨折、肩や腕に多数の内出血の痕と全身打撲。命に別状は無かったとはいえ…一つ間違えれば死んでいたぞ?貴様は」
「そうですね…、それは運がよかったというか…」
「それは本気で言っているのか?」
「へ…?」
はただ単純に思ったことを述べたのだが、セブルスの眉間のしわがさらに深くなる。
「運がいいだと…?そこまでの怪我をしておきながらよくそう言えたものだ」
「はぁ…、すみません…」
「謝って、が反省するならいくらでも聞いてるが…」
「反省はしますが、改善は見られないかもしれませんね…、僕の場合は」
「…」
セブルスはを思いっきり睨む。
その視線をは平然と受けとめる…ように見えるが、実際ちょっと怖かったりする。
「とにかく…。2ヶ月は絶対安静だ。大人しくしていろ」
「ええ?!でも、マダムは1週間大人しくしていたら授業にはでていいって…!」
「できるのか?」
「え…?」
「1週間大人しくベッドに寝ていることができるのかと聞いている」
「う……」
できると断言できない自分が悲しい。
そもそもこの時期は呑気にベッドに寝ている場合ではないのだ。
「…」
「し、仕方ないじゃないですか!……えっと…ほら、事件が僕を呼んでいる!!…なんてv」
「馬鹿か?」
「教授…、それはちょっと酷いですよ」
間髪いれずに突っ込まれた言葉にちょっと傷つく。
セブルスが本気で言っていないことは分かっているのだが…。
さすがに間を置かずに答えられると悲しいものがある。
「授業に行く時でも、医務室をでる時には必ずこれを持っていけ」
セブルスは小さな紅い石をに差し出す。
直径5ミリほどの小さな紅い石。
セブルスはその紅い石を持ったままの右耳に近づける。
「き、教授?!」
「これは血の臭いに反応するものだ。、もしくは近くにいる誰かが怪我でもすれば我輩に知らせてくれるようになっている」
セブルスが手を離した後には、の右耳にピアスのようにはめ込まれている紅い石。
はピアスの穴を空けてはいない。
魔法界の品だからか、穴など開けなくてもピアスのように耳に付けることが可能なのだろう。
「あの…教授?」
「なんだ?」
「それって、血が出る以外の怪我とか危険とかだと反応しないってことじゃ…」
「それは貴様が怪我以外の危険を承知で今後行動するということかね?」
「あ…いや…その…、何事にも例外があるので…それを言いたかったのですけど…」
「それならば、多分大丈夫だろう。一度だけだが、危険を察知したら持ち主の身を守る機能がついているからな…」
「そうなんですか…」
それは便利なものだ。
「それじゃあ、これでいつでも外出OKですか?」
「何を言っている?1週間は絶対安静だ。ほら、とっとと寝ろ」
「さっきまでずっと寝てたので眠くないですよ〜」
「ガキみたいなワガママを言うな」
「今の僕は表向き12歳ですから、十分ガキですよ」
「………屁理屈を…」
セブルスが苦虫をつぶしたような表情をする。
元々眉間にシワよせている表情だったのであまり変わりがないと言えば無いのだが…。
はセブルスのローブをつかんでくいっと引っ張る。
「教授が添い寝してくれるなら、大人しく寝ますよ」
くすくすっと笑いながら冗談のつもりで言ってみた。
相手がヴォルあたりならばこの冗談は冗談で済まなくなるが…。
セブルスはむっとしたままの表情での手を振り払う。
そのままツカツカと薬品棚へと向かう。
怒らせちゃったかな…?
セブルスのことだから慌てるような反応を見せてくれるかと思っていたのだが…。
ちょっと冗談にしては言いすぎだったのだろうか…?
が考えていると、セブルスがコップに何か注いで戻ってくる。
「あの、教授…さっきのは冗談……」
は苦笑しながらそう伝えようとした。
しかし、セブルスの表情が先程の不機嫌な表情とは違い言葉を止めた。
セブルスはコップの中の液体を自分の口に含み、に顔を近づける。
「きょう…じゅ……?」
そして、唇を合わせた。
合わせられた唇から流れ込んでくる液体。
はそれを無意識のうちにこくりっと飲み込んだ。
それを確認したセブルスはゆっくりと唇を離す。
「冗談だということくらい分かっている。いいから、今日はそのまま休め。睡眠薬を飲んだからすぐに眠くなるだろう」
セブルスは顔を近づけたままそう言う。
目をぱちくりさせては、セブルスにされたことを自覚すると…かぁぁぁっと顔に血が上るのが分かった。
左手で口元を覆う。
「き、教授っ!なん…!」
「人を散々からかうからだ。たまには立場を逆転するのもいいだろう?」
「逆転って…だからって何でこんな…!」
「今まで散々からかってくれた仕返しだ」
「〜〜〜っ!!」
楽しそうに笑みを浮かべるセブルス。
確かに、はセブルスの反応が楽しくてからかったりすることが少しはあった。
いや、少しというか…多少というか…かなりというか…。
回数は覚えていない。
でも、でも…だからって何でこういう方法取るのさ?!
嫌じゃなかったけど…だけど……だけど…!
なんか、すっごい悔しいぃぃぃ!