秘密の部屋編 40
は拳を握り締める。
怖くないと言ったらそれは嘘だ。
怖い…でも、逃げるわけにはいかない。
それに勝機がないわけではないのだ。
全てはの想い次第。
「他の人たちに手を出すつもりなら、僕を倒してからにするんだね」
『貴様……ただの学生って訳じゃないな…』
ハリー達を教室の外へと突き飛ばしたのがの仕業であるとファンダールは分かったようだ。
でも、その時のは杖も持っていなかった。
すっと黒猫姿のヴォルがをかばうように立つ。
「ヴォルさんも下がって…」
「冗談じゃない。俺がお前を置いて逃げられるわけないだろう?」
すっと紅い瞳を閉じたヴォルは一瞬光に包まれる。
そして、光が消えた後には人の姿。
の持っていた杖を構える。
『アニメーガスか…』
「そんなことはお前には関係ない。を傷つけようとするヤツは誰であろうと俺が許さない」
「ヴォルさん!これは私の問題だから…!」
「そんなの知るか」
自身のせいでこれは起こったのだ。
だからヴォルがファンダールを相手にする理由などない。
迷惑はかけたくないというのに…。
「のことだ。こいつにまで情けをかけそうだからな…。言っておくがファンダールはそんなに甘くない。ホグワーツで犠牲を出したくなければ殺すしかない」
「ヴォルさん……」
「お前はアイツを追い払う程度にしか考えてないんじゃないのか?」
「そんなこと…ないよ」
躊躇いはある。
だが、やらなければならないことは分かっているつもりだ。
何しろ、ファンダールの目には通常見られる僅かながらの優しさが何もない。
狂気にとらわれ怪しい光のみ。
「ファンダールは闇の世界に生きる獣。人の恐怖に歪む表情を愉しみ、血で染めることを快楽とする。アイツよりもタチが悪い」
『ほぉ…、よく知っているな、若造』
「若造?外見だけで人を判断するなど…、お前は下級のファンダールだな」
『何?!』
「まぁ、ルシウスに利用されている時点で下級だとは分かっていたがな…」
ヴォルはファンダールを見下すように見る。
その言葉にファンダールは怒りを見せる。
『その口が災いの元となることを………後悔するんだな!』
「誰がするかよ!」
ぐわっと大口を開けて襲い掛かってくるファンダール。
ヴォルはをぐいっと引っ張り腕に抱き寄せて、そこから跳ぶ。
がっだぁぁぁん!!
机が、椅子が破壊される。
戦うにはこの教室は少し狭い。
「インペディメンタ!!」
『…っその程度の魔法など…!効かん!』
ヴォルの呪文は一瞬ファンダールの動きを止めた。
だが、完全に動きを封じることはできず、ヴォルはを抱えて再び跳ぶ。
「ステューピファイ!」
『…くっ………。効かないと………言っただろう!!』
ぐぉぉんっとファンダールは吼えてヴォルの魔法を無効化する。
分かっていたのかヴォルは慌てないが舌打ちをする。
睨み合うヴォルとファンダール。
「何…、ファンダールって魔法が効かないの…?」
「まったく効かないわけじゃない。効きにくい体質なだけだ。抱擁する魔力量が大きいために人が使う程度の魔法じゃあビクともしないということだ」
『本当に詳しいな…貴様は』
「褒められても手加減などしないがな…」
『手加減だと?この状況でよくそんなことが言えるな』
全くだ。
と言いたい所だが、ヴォルには幾分余裕が見られる。
ファンダールが何なのかを知っていながらも余裕が見られるということは倒す手段があるということなのだろうか…。
「この呪文も無駄だとは思うが…」
ヴォルは杖を構えなおす。
『貴様のような若造に何ができる…?』
「その余裕が命取りになるだろうがな………クルーシオ!!」
『何?!禁じられた呪文だと?!』
かっ!!
光がファンダールを襲う。
さすがのファンダールも禁じられた呪文に苦しみを見せる。
抗おうと歯を食いしばっている。
『グ……、この程度の魔法……』
「メガフィンド!!」
ヴォルはファンダールが苦しみに耐えているのを黙ってみてはいない。
風がファンダールを切り裂く。
それでも、かすり傷程度しか負わせられないが…。
『舐めるな!餓鬼がぁぁぁぁ!!』
ぐぉぉぉぉぉぉぉん!!
ファンダールは大きく吼える。
「!どいてろ!!」
「ヴォルさん?!!」
ヴォルは腕の中にいたを離れたところへと突き飛ばす。
突き飛ばされたの目にはヴォルと襲い掛かろうとするファンダール。
クルーシオも完全には効かなかったらしい。
どごぉぉぉん!!
ヴォルが跳ね飛ばされたのが見えた。
壁に叩きつけられそうなところをヴォルは体をひねり、綺麗に着地する。
「…ちっ…。まだこの体に完全に慣れてないようだな…」
ヴォルは呟く。
まだこの体になって1年と少し。
そして人型として安定するようになってはまだ数ヶ月。
高度な魔法を使い続けるのは多少難しい。
『強がりもここまでではないのか?若造が…』
「なんのことだ?」
『だが……貴様より先に……先程邪魔をしてた方から引き裂いてやるさ!』
「何だと?!」
ファンダールはさっと視線をに移し、ヴォルが止める間もなく、魔法をつかう間もなく、襲い掛かる。
「ちぃ………インペリオ!!やめろ!!」
『くっ……服従の呪文か……だが、効かん!』
とっさに唱えたヴォルの呪文でできたのは一瞬だけファンダールをとめたこと。
が向かってくるファンダールに感じたのは…ただ、倒すということだけ。
不思議と恐怖を感じなかった。
だから、襲い掛かるファンダールに集中して力を使う。
『久々の血を…悲鳴を聞かせてみろ!!』
「誰が…!……悲鳴を上げるのはそっちだよ!」
想う強さが大切。
1点に集中。
相手がどれだけ大きな魔力があろうと、の力には関係ないのだから。
『光よ貫け!!!』
ヴン!!
の手の中に光が生まれる。
に襲いかかるファンダール。
その隙を狙ってはファンダールの懐に飛び込み光でファンダールを貫く。
ファンダールの牙と鋭い爪がの肩と背中に食い込む。
痛覚はすでに消してある。
何も感じないからこそ、この光の一撃に集中できる。
『貫きしものから全てを奪い去れ!』
ぐぉぉぉぉぉ!!
苦しむようなファンダールの声。
その声が、響き…そして次第に小さくなっていく。
僅かに見えるファンダールの瞳から命の光が消えていくのが見えて少し安心した。
安心からか、の意識は急速に沈んでいく。
「!!」
駆けつけてくるヴォル。
その表情が心配そうなもので嬉しかったこと。
そして…
「無理をするなと言ったじゃろう…?」
どこからか、ダンブルドアの咎めるような、それでいて心配そうな声を聞いた気がした。