秘密の部屋編 39






目の前の獣は作戦を立てる時間など与えてくれない。
目を逸らしたら…気を抜いたら、その瞬間に襲ってくるだろう。
震えながらもハリー達は杖を構えていた。
も形だけ杖を構える。

『子供の肉は柔らかく引き裂くのが楽しい……。くく……切り裂き恐怖と痛みにもがく姿を見るのもいいだろう…』
「そんなことは、僕がさせない……」
『魔力が殆ど感じられない半人前がよく言う……、まずは貴様から……引き裂いてやろう!!』


「「「インペディメンタ!!」」」


に襲い掛かろうとしたファンダールにハリー、ロン、ハーマイオニーがそろえて呪文を唱える。
妨害の呪文。
ファンダールの動きが一瞬とまる。
だが……

避けろ!

ヴォルの声にはハリー達を巻き込んでその場から飛びのく。
自分だけ逃げてもハリー達に襲い掛かっては意味がないから…。
すぐにファンダールに向き直る。
ファンダールには妨害の呪文など殆ど聞いていないようだった。
先程までがいた場所の床がファンダールの爪でえぐれている。

「インセンド・ラウ!!」

ぼう!!

ヴォルの呪文に炎が広がる。
杖がなく、しかも猫の姿のままの為、ファンダールにはあまり効いていないようだ。

『邪魔だ……!!』
「ヴォルさん!!」

ファンダールは前足でヴォルを払おうとする。
ファンダールの足には鋭い爪、はヴォルの元に駆け寄りヴォルを抱きしめかばうようにファンダールの爪から逃れる。

がっだぁぁぁん!

…っ!!

勢いあまって近くの机を巻き込んで体のあちこちを軽くぶつけが、すぐに立ち上がろうとするて、肩に痛みがはしることに気付く。
ヴォルがはっとしてを見上げれば、の右肩はローブが裂けていた。

!お前……」
「大丈夫、……大丈夫だから…」

少しかすっただけ。
たいした痛みではない。
ふぅ…とは息をつき、全ての痛覚を消した。
打撲やかすり傷に集中力を殺がれると隙ができてしまうから…。

!怪我!!」
「大丈夫だから!ポッター君達も余所見しない……」
『そんな会話をしている暇があるのか……?』

ファンダールはハリー達に襲いかかろうとする。
は近くにある椅子を持ち上げ……投げつけた。

がすっ

見事に命中。
いきなり椅子が飛んできたことにハリー達は驚いていたようだが…。
流石に少し痛かったのか、ハリー達から視線を外しをじろっと見るファンダール。
は怯まず立ち上がる。

「ポッター君達には手を出させないよ!相手は僕がする!さぁ、来い!
『貴様……』

は杖など構えない。
持っていても意味のない杖など構えるだけ無駄だ。
杖を懐から取り出し…床に落とす。

からん…

『どういうつもりだ…』
「さぁね…」

魔法使いの攻撃手段であり、武器である杖を放り出したことをいぶかしむファンダール。
はファンダールとやりあってる最中に折れては困ると思っただけ。
が魔法を使えない事を知っているヴォルはそれを悟ったのか、杖をくわえハリー達のところへ向かう。
ファンダールはヴォルの存在を気に留めなかった。
にらみ合うとファンダール。



ヴォルはハリー達をじろっと睨む。

「お前らは足手まといだ…。さっさと逃げろ」
でも!が…!」
「俺は前に言ったよな?の側にいたいのなら守られなくてもいい程度の力をつけろ、と…」
っ!

は知らないヴォルとハリー達の会話。
ヴォルはそのとき、ハリー達に言ったのだ。
中途半端な想いだけでの側にいられるのは迷惑だと。

「邪魔だと俺は言っているんだ」
「でも、私達もの役に…!」
「役に立ちたいのなら、その辺で白目向いている教師を外までひっぱっていって、ダンブルドアでも呼んで来い」

まだ教室内にいたロックハート。
だが、恐ろしさのあまり逃げ出すこともせずに気絶しているようだ。
騒がれないだけましとも言えるが…。

「いいか、誰かが残らなければファンダールは手当たり次第に誰かを襲うんだ。ホグワーツを血の海にしたくなければ、ダンブルドアを呼んで来い」
「でも、その誰かがじゃなくても…!」
お前に何ができる?ハリー=ポッター」

ヴォルはイラつきながらハリーを睨みつける。
親切に説明してやる義理などないのだ。
だが、説明しなければ納得しない彼らだ。
このまま彼らを放っておいては、彼らを守るだろうの怪我が増えるだけだ。

「相手がヴォルデモートならばお前は役に立つだろう。だが、あれは闇の獣だ。殺戮と血だけを好む…な」
「でも、だって僕達と同じ学生だ!まだホグワーツ2年の…」
「何も知らないお前らと一緒にするな。それに…自身が自分以外が残ることを認めないだろうからな…」

ファンダールが今ここにいるのはがルシウスに気に入られてしまっため。
闇の獣のファンダール。
その名は闇の世界では知られている。
闇の世界ですら恐れられる獣。

「わかった…。納得はしてない…、だけど、を助ける為に…ダンブルドア先生を呼んでくるよ」
「それが懸命だな」

ハリーはロンとハーマイオニーを見て、互いに頷きあう。
ロンはロックハートを引きずり…ハーマイオニーに「もっとそっと運んであげて!」と言われながらだが…ハリーもそれを手伝う。


『逃げられると……思っているのか…?』

教室からでてこうとするハリー達を視界に移したファンダールは目を細める。
獲物を狙うその瞳。
ファンダールはから視線を外し、それをハリー達に移した。
がそれに気付いた瞬間、ファンダールはを飛び越しハリー達に向かう。

ポッター君!!

一人の大人を引きずっているせいか、ハリー達の進みは遅い。
の声にはっとするが、ロックハートを引きずっているハリーとロンの手は塞がっている。
ハーマイオニーだけが杖を構え呪文を唱える。

「インペディメンタ!!」
『そんな魔法など無駄だ!』

止まらないファンダール。
ハリー達に襲いかかろうとしたその時…


『教室の外へ!!行け!!』


は力をこめて叫んだ。
何かに押されたわけでもなく、魔法を使って吹っ飛ばされた訳でもなく…ロックハート含むハリー達4人は、突き飛ばされたように教室の外へ放り出される。
いきなりのことで驚いているハリー達。

……!」


ばたんっ

ハリーがを見て名前を呼んだところで扉が閉められた。
はふぅ…と息をつく。
ハリー達を力で突き飛ばし、扉を無理やり閉めた。

「ファンダール…。君の相手は僕だと言った筈だよ?」

すぅっとはファンダールを見る。
振り向いたファンダールの視線は見下すようなものでなく、どこかを警戒するようなものに変わっていた。