秘密の部屋編 38
「闇の魔術に対する防衛術」の授業で、ハリー達3人はどこかソワソワしていた。
は口出しすることなく大人しく授業を聞いている。
恐らく禁書棚からの本の貸し出しを許可してもらう為だろうと思う。
ロックハートの授業は別の面からみれば面白い。
普通の授業じゃないからだ。
「今日は私の体験の話とそして…」
ロックハートは大きな布をかぶせた何かを示す。
どうやらこの授業のために何か用意したらしい。
一部の生徒達は以前のピクシー騒動のせいで怯えるような視線を向ける。
「安心してください!今から紹介するものは以前のように暴れるようなものではありませんよ。大人しく可愛いものです。貴重だといわれているものでもありますが…この私の名前があってこそ、ある方がわざわざ探して授業に役立ててくれと言われまして…。そもそもあの時私が彼に……」
布を被せられたそれは何も動くことなくそこにある。
はそれが気になってロックハートの話を聞き流していた。
ちらっと周りを見回せば別に変わった様子はない。
前回のドビーを警戒したが、そもそもドビーが見えたは偶然のようなものだった。
今回もドビーがなにかしら仕掛けてくるとしても、ドビーの姿を運よく見つけることができるとも限らない。
くいくい
「?」
ローブの袖を引っ張られては隣を見る。
いつの間にか隣にハリー。
ハリーの隣にロンが座っていた。
「ポッター君?あれ?席そこじゃなかったよね?」
の隣の席は大抵ネビルだ。
ネビルは先程までハリー達がいた場所に移動している。
「ロックハートが自己陶酔している間に席を変わったって気付かれないよ」
じ、自己陶酔って…。
いや、間違ってはいないけどね。
「それで、どうしたの?」
席まで変わって何か話でもあるのかと思う。
急ぎの話なのだろうか…?
それともただロックハートの話を聞いているのがつまらなかっただけとか?
「どうしたのって聞きたいのはこっちだよ」
「え…?」
「だって、ってば、やけに真剣な表情であれをみてるからさ…」
ハリーはちらっと布ががぶさっているモノを見る。
ロックハートが持ってきた、可愛くて大人しくて珍しいもの…らしい。
あれが気になるのは確かだが…。
「別になんでもないんだけどね…」
「そういう表情には見えなかったよ?」
「う〜ん……、ただちょっと気になっているだけで…、勘みたいなものだから気にしないで」
「本当?」
「本当だよ」
苦笑して答える。
「さぁ、では!さっそくこの世にも珍しいものをご紹介しましょう!」
ばさっ
ロックハートは布を剥ぎ取る。
そこには、少し大きめの籠に入った、白いもの。
ふわふわの毛にくりくりの瞳。
「これは『ファンディ』という聖なる生き物です!どうですか?可愛いでしょう?」
現れたものに生徒達はピクシーのように暴れないとほっとする。
ファンディは「きゅぃ〜」と小さな声で鳴く。
「『ファンディ』はユニコーン以上に珍しい生き物で、ユニコーンと同様聖なる属性の生き物です。めったに見られることはなく生息地は不明とも言われていますね、ですが、その珍しい生き物も私にかかれば見つけることなどたやすいのです!これがその証拠です!」
「ある方がわざわざ探して…」とか何とか言ってなかったっけ…?
とりあえず、ロックハートの言葉には誰も突っ込まない。
疑問に思ったのはだけではなかったようだが。
「それでは、誰か『ファンディ』を抱いてみますか?ミス・グレンジャー、どうですか?」
「いいんですか?」
「どうぞ…。可愛らしい『ファンディ』は可愛らしいミス・グレンジャーにお似合いですよ」
ロックハートの言葉に顔を赤らめるハーマイオニー。
嬉しそうである。
他の女の子達はハーマイオニーを羨ましそうに見る。
ロックハートは籠をあけ、ファンディを取り出そうとする。
ファンディに触れようとした瞬間、ファンディが逃げるように籠の中から飛び出した。
ファンディはぴょんぴょんっと跳ねて、ハリーの前まで来てちょこんっとその机に座る。
クリクリしたその瞳でハリーを見つめている。
「おいで…」
ハリーはファンディに笑顔で手を差し伸べた。
はそれをじっと見つめる。
何かが引っかかった。
ファンディは少し迷ったがハリーにちょこちょこ近づいて、ハリーがファンディを抱き上げようとした時…。
キ……シャー
ファンディの口…それまでふわふわの毛に隠れて口など見えなかったのだが…が大きく開きハリーの手に噛み付こうとした。
はとっさにハリーの手を引く。
ボコリ…ボコ……
ファンディが変な音をたてる。
白いもこもこの毛がぱらぱらと抜け落ちる。
腕に収まるはずのサイズの体は大きさを増していき…、肌の色は緑色へと変化していく。
大きくくりくりしていた瞳は金色に…瞳孔が縦に割れ…獣のような瞳に。
ファンディであったソレはハリーの目の前の机に立ち、生徒達を見下すように見る。
緑色の肌をした、4本足の金色の瞳の獣。
「こ、これは…、あの聖なる『ファンディ』に変身する特技が…あるとは…」
ロックハートは言い訳なのか分からない言葉を言う。
これが『ファンディ』の訳がない。
「ロックハート先生!そんなこと言ってる場合じゃないです!早く避難指示を!」
はその獣から視線を外さすにロックハートに怒鳴る。
イレギュラーにも程がある。
それに、ピクシーだけでなくこんな得体の知れない獣までも……懲りないというかなんと言うか…。
獣に驚くだけで怯えるだけで…何もしようとしないロックハートには待てず立ち上がり…。
「皆!早く避難!誰かダンブルドア先生を!!」
の言葉にはっとなり、急いで教室の外に逃げ出そうとする生徒達。
『……久々の肉と血を逃すと思うか………?』
聞こえた声はどこかフィルターがかかったような声。
その獣の声のようだ。
ははっとしてそれを見る。
生徒達をかばうようにそれの前に立ちふさがり…
「悪いけど……、手出しはさせないよ」
睨みつける。
あわてて逃げていく生徒達。
果たしての言葉を理解し、ダンブルドアに知らせてくれる人はいるだろうか…?
「、も早く逃げないと!」
ハリーがのローブをひっぱる。
だが、は獣から視線を外さずに首を横に振った。
「ポッター君達は逃げて。誰か一人が残らないと、これは皆を問答無用で襲うから……僕は行かない」
「それじゃあ、僕も行かない!」
「私だって!」
「僕も!」
ハリーはの隣に立つ。
そして、ハーマイオニー、ロンも逃げることを選ばない。
『……邪魔をするのか…。たかが半人前の魔法使いが…』
低く殺気を帯びた声にひるみそうになるがそうは言ってられない。
「もしかして、君がミセス・ノリスを襲った…?」
ハリーはぽつりと呟いた。
その言葉に獣はくっくっく…と笑いを漏らす。
『餓鬼は思考が単純だ…。オレをあんなのと一緒にするな……。オレは手加減などしない…、肉を裂き血が流れるのを見るのが何よりも楽しみなのだからな…』
「じゃあ、君はなんなの…?」
ハリーが問う。
それに答えたのは目の前の獣ではなかった。
をかばうように前に出てくる黒猫。
「『ファンダール』、それは聖なる獣『ファンディ』に擬態し、油断して近づくものを引き裂く闇の獣」
「ヴォルさん?!」
紅い瞳でヴォルはその獣…ファンダールを睨む。
今日はヴォルを連れてこなかったはずなのだが、どうやらヴォルの独断でついてきていたらしい。
「ルシウスの仕業だな……、こいつは…」
「え…?」
「『ファンダール』だ。聞き覚えがあるだろう?」
「あ……。」
ルシウスの手紙に書いてあった、ヒントの一つ。
『ファンダール』とは闇の獣のことだったのか。
しかし、この獣相手にどうやって戦えというのか…。
はちらっとハリー達を見る。
巻き込みたくないって思ったのに…。
でも……、それでも……、ハリー達に手出しはさせない!