秘密の部屋編 35
「一つ…「秘密の部屋」はサラザールの血をひく者、もしくはそれに関わるものが開く」
「…?」
突然話し始めたにハリーは不思議そうな顔をする。
はハリー達の困惑を気にせずにずんずんと歩き、ある場所で止まる。
そこは丁度ミセス・ノリスが石化していた場所。
もう、あの血文字は消されているが…。
「二つ…グレンジャーの言う通り、ダンブルドアが治すことができない石化魔法…それは人が使う魔法という可能性は殆どないだろうね」
「そうよね!」
「そして最後三つ目…、僕が思うに「秘密の部屋」は過去にも開かれたことがある」
「なんだって?!!」
大声を上げて驚いたのはロン。
さすがにそこまで話すのはどうかと思ったが、ある程度の状況さえ把握していれば予想できる範囲内だと思う。
腕の中のヴォルが少し顔を顰めたが、気にしないことにする。
「少し考えれば想像つくことだよ。石化したミセス・ノリス、壁に書かれた血文字、それに驚く先生方。…そう、初めて起こった事にしては先生方の反応は落ち着きすぎていて…そして心配しすぎている」
「そう言われればそうね…でも、それだけじゃそこまで言い切れないわよ、」
「そうだね。あとは、先生方…特に昔からこの学校にいるだろう先生に限るかな?…その先生方はやけに「秘密の部屋」という言葉に敏感だね。それを生徒達に絶対に知らせまいとするように…。唯一例外はロックハート先生だけ」
「ロックハート先生はどんなのが相手でも実力があるから大丈夫なのよ!!」
ハーマイオニーが間髪いれずにそう言う。
顔がほんのり赤い。
盲目的に信用するファン心は分からなくもないけどね、ハーマイオニー…。
案の定、ハリーとロンは呆れていたが…。
苦笑しながらは続ける。
「こういう言い方はよくないんだろうけど…、ただ石化するだけならそこまで気を張り詰めなくてもいいんじゃないかな?だって、治すことはできるんだし。先生方はまるで取り返しのつかない犠牲を恐れているように思える。それは過去に同じようなことがあったからじゃないのかな?」
成る程…とハリー達は感心していた。
「すごいよ、…。ちょっとした事でそこまで考えられるなんて…」
「やっぱり、君に意見を求めて正解だね…」
「それで、は誰がやったと思うのかしら?」
聞いてきたのはハーマイオニーだが、3人ともの意見を期待している。
は困ったようにぽりぽりと頬をかく。
犯人は知ってる。
しかし、ここはどう答えるべきか…。
「まぁ……現時点で一番怪しいのは…僕……だろうね…」
「が犯人のわけないよ!」
「そうだよ!君が犯人なんてありえないさ!」
「がそんなことする人じゃないことを私達は分かってるわ!」
の意見に反論、というより弁護をしてくる3人。
恐らくハリーがまわりに少しでも疑われている時にも、ロンとハーマイオニーがこうやって弁護していたのだろうか。
「ありがとう……。僕でないとしたら、多分、昔「秘密の部屋」を開いた人が戻ってきたんじゃないのかな?」
「戻ってきた…?どういうことなの…、…?」
ハリーが聞こうとしたが、ハリーの疑問を遮るようにハーマイオニーの声が響いた。
「ねぇ、見て!」
ハーマイオニーは窓の方を指差す。
それを見てロンがびくっとした。
ハリーも流石にぎょっとする。
窓の方に向かって蜘蛛が列になっているのだ。
そう、何匹もの蜘蛛が…。
「蜘蛛がこんなに、しかも列になっているなんておかしいわ…」
「そうだね…。こんな蜘蛛の動きなんて見たことない…。ロンは?」
魔法界ではありえることなのかもしれないと思い、ハリーはロンに尋ねる。
しかしロンは返事をしなかった。
「ロン…?」
「…ぼ、僕…、蜘蛛は駄目なんだよ…」
「何言ってるのよ?魔法薬学で散々扱ってたじゃない」
「死んでるのなら平気なんだよ…。……あの動きがどうも…嫌なんだ」
「まぁ、確かに…。1匹くらいならともかく、僕もこんな集団の蜘蛛はちょっと苦手だな…」
はロンの意見に同意するように列になってる蜘蛛を見る。
ここにいるのは小さい蜘蛛だからまだいいだろう。
禁じられた森にいるのはこれより大きく…さらに沢山…。
……アラゴグに会うのに同行はしたくないかも…。
ちょっと弱気な考えをする。
「あら?も蜘蛛駄目なの?」
「…グレンジャー…、楽しそうに尋ねないで欲しいんだけど…」
「だって、の弱点が分かるなんて嬉しいものv」
「……僕は嬉しくないんだけど…。別に大嫌いってわけじゃないよ、あまり得意ではないだけで…苦手というか…」
「そう、残念だわ」
「いや、残念がられても…」
弱点にぎらても困る。
特にハーマイオニーには、ジニーに本を返してもらった借りもあることだし。
なにより、彼女は頭がいいから鋭いのだ。
そこから他に何か気付かれるかもしれない。
「それにしてもどうして蜘蛛なんて…」
「この先に蜘蛛の嫌いなものがあるからとか…?」
ハーマイオニーの疑問にぽつりと正解をまぜて答えてみる。
確か、ここでは本来あった水漏れでマートルのトイレに行ったはずだ。
しかし実際は水漏れなどなく、ミセス・ノリスを石化で留めたのは『イレイズ』の欠片があったら。
水溜りからマートルのトイレになにかあるのでは…?となるはずだった。
ここでハリーとロンには是非ともマートルの存在を知ってもらわなければ困る。
「でも、。この先にあるのはマートルのトイレくらいよ?」
「そうだね…」
「じゃあ、はそこが怪しいって思うんだ?」
ロンが尋ねる。
ロンはトイレであるだろう扉に近づいていく。
扉に手をかけ、あけようとした所で手を止めた。
「ここ、女子トイレだ…」
「あら、平気よ、ロン。…だってここは『嘆きのマートル』のいるトイレだもの。ここのトイレを使う人なんて誰もいないわ。入っても大丈夫よ」
ハーマイオニーは気にせず扉を開く。
どうぞっとロン達を中に入るように促す。
ハリーとロンはやはりどこか戸惑う様子を見せている。
は平気そうに入る。
を見て、ハリーとロンも躊躇いながらトイレの中に入っていった。
「どう?…。どこか怪しいところはあるかしら?」
「僕に聞かれてもね…グレンジャー…。僕だって何も知らないんだよ」
苦笑しながら、手洗いの蛇口に近づく。
洗面台の手すりにヴォルをおく。
『何やってるの…?ここは女子トイレよ』
ふわりっと一人の少女が彼らに近づいてくる。
ハッフルパフの幾分古いデザインの制服を着た、眼鏡をかけた少女。
その姿は透けて見え、そして浮いている。
「君がマートル?僕は=だよ、よろしくね」
『よろしくですって…?ここは女子トイレなのよ?あなた達どうみても女には見えないわ』
「うん、そうだね。勝手に入ったことは謝るよ。でもちょっとここに用があったんだ」
『用?用ですって?この薄汚れた場所に何の用かしら?…そう、どうせ私のことを笑いに来たのね!』
「違うよ…」
「そうよ、違うわ、マートル!私はここをちょっと見せたかっただけなのよ…。その…ハリーとロンとに…」
ハーマイオニーの目が泳ぐ。
どう言い訳しようか迷ってい様子だ。
「ねぇ、君…ここで何か見なかった?」
ハリーが勇気を出して尋ねる。
マートルはハリーをちらっと見てふんっと顔をそらす。
どうやら気に入らないようだ。
ハリーはめげずにマートルに話しかける。
「別に君の邪魔をするつもりなんてないんだ。ただ、昨日ちょっとした事件がこの近くであって…何か見なかったか聞きにきただけなんだ」
『そんなの知らないわ』
「そうは言っても、頼りになるのは君だけなんだ…マートル…」
『そんなこと言われても……私はその時ずっと閉じこもっていたもの…。ピーブズが酷いことばかり言うんだもの、私は何もしてないのに…だから…だから…』
「うん、それは酷いよね…」
『酷いですって…?!私の気持ちなんてこれっぽっちも分からないくせに!そんなこと言わないで頂戴!貴方なんて二度とここにこられないように…』
「できるの?」
にっこりとハリーは笑みを浮かべていた。
しかし、周りの温度は一気に下がった気がした。
思わずマートルもハリーの笑顔に後ずさる。
…ハリー…オーラが怖いんだけど…。
『……で、できるに決まっているじゃ…』
「…そう。」
『な、なによ!なによ!私は何も悪くないわよ!だって何も見てないし何もしてないもの!!』
マートルはそう叫んでトイレの一番奥の扉の方の隠れてしまった。
ハリーはそれを少し困った顔で見ているだけだった。
「ごめん…。何も分からなかったね、僕が彼女を怒らせちゃったみたいだし…」
「い、いや…。ハリーは悪くないよ」
「そ、そうよ。あれでもマートルは機嫌が良いほうだったと思うわ…」
ハリーの僅かに残る黒そうなオーラにおびえて答えるロンとハーマイオニー。
確かにハリーは黒かった。
「じゃあ、行こうか?」
「そうだね…」
「そうね…」
ここにはもう用はないとばかりに出て行こうとするハリー、ロン、ハーマイオニーだが、はここを動こうとしなかった。
そんなを不思議に思ったハリーだが…。
「…?」
「あ、うん。ごめん、ヴォルさんがここから動かないみたいだから僕はもうちょっとここにいるよ、先に寮に戻っていていいよ」
「え?でも…」
「いいから…。こんなとこにいるの見つかったらポッター君とウィーズリー君はやばいでしょ?」
「それならだって!」
「大丈夫だよ、見つからないように隠れるからさ。つき合わせるのは悪いし…すぐ追いかけるからさ」
「う…ん…。それなら……」
納得しきれない様子ながらもハリー達はを置いて出て行った。
ぱたんっと扉が閉まり…はヴォルを振り返った。