秘密の部屋編 34






翌朝は「秘密の部屋」の事件の話題ばかりが飛び交っていた。
昨日、が戻った時間はかなり遅く、とりあえず事情はさておきヴォルを授業に同行させることにした。
特にペットの同行は気にしてないようであり、先生方もなにも言わなかった。
否、先生方すらも「秘密の部屋」の件での不安でペット云々など言う気などおこらなかったというべきか…。

これから丁度魔法史の授業だ。
ハリー達も「秘密の部屋」について調べようとしているようだが、図書館の本が殆ど貸し出し中になっていて調べられないと言っていた。

「50年ぶりに秘密の部屋が開かれた…か」
「とめなくていいのか…?」

の呟きにヴォルが問う。
ハリー達の心配をいつもしている
リドルがハリーになにもしないなど考えられない。

「とりあえずはね…様子見だよ。あ、そうだ、ヴォルさん。聞きたいことがあるんだけど…」
「何だ?」
「うん、ちょっとね…。リドルっていうかバジリスクの動きは知っておきたいから…パーセルタング、理解できる?」

精神は同じとはいえ肉体は違う。
果たして魔力や魔法力、それに特性などは精神に受け継がれるのかそれとも肉体に受け継がれているのか分からない。
だから、今のヴォルがパーセルタングを理解できるかは分からない。

「多分…な」
「…多分?」

自信なさげなヴォルの様子には不思議に思う。
ヴォルのことだから「当たり前だろう」か「答える必要はない」のどちらかだと思っていたのだが…。

「この体になってからパーセルタングを話したことがない。おそらくは大丈夫だろうがやってみないことには分からん」
「今、話してみてって言っても無理なの?」
「いいのか?今ここで、周りに沢山の生徒がいて、パーセルタングで話しても?」
「…あ、いや……。あとでいい」
「それが懸命だな」

ヴォルは深いため息をつく。
それには少し拗ねる。
分かってはいるが、よりヴォルのほうが周りを冷静に見て判断している。
自分はあまり考えずに突っ込んでしまうことがある。

「頼りにしてるから…ヴォルさん」

ぽつりっと呟く
ヴォルはその言葉に驚いたようにを見上げる。

「珍しいな…」
「え…?」
が誰かを頼るなんてな…」
「そうかな…?」

苦笑する
そうかもしれない。
なるべく誰にも迷惑をかけないようにしているつもりなのだ。
それでも沢山の人に助けられ、心配されているのだが…。
が自発的に協力を頼むのはこれが初めてかもしれない。

「それだけ、ヴォルさんのことを信用してるって事かな?」
「俺が裏切るとは思わないのか?」

ヴォルデモートであったヴォル。
過去闇の世界にいた。

「分からない…。でも、信じてるよ、ヴォルさんのことは…。頼れるのはヴォルさんしかいないし…。迷惑とか嫌とかなら遠慮しなくていいよ。ヴォルさんは私に協力する義務なんてないからね」

それを聞いたヴォルはに分からない程度に顔を顰めた。
そうやって…信じながらも裏切った時も信じきるような言葉を言うから…俺はお前を守りたいんだよ。
ヴォルがそう思っていることなどには分からないだろう。

「俺は…おまえの期待は裏切らない、

少し驚いたような表情をする
すぐにその表情は笑みに変わり…

「うん、ありがとう…ヴォルさん」

ヴォルを抱いている手に力を込める。
信じきっているのかもしれない。
ヴォルデモートでも、今「秘密の部屋」を開いているリドルと同じような存在でも…。
ヴォルだけがの知る未来にいないから…。
一緒にいても、の影響をうけてもいいと思える存在だから…。



授業中も「秘密の部屋」の話題でざわざわしていた。
その中、ハーマイオニーがビンズ先生に「秘密の部屋」について質問をしていた。
ビンズ先生は仕方なしにため息をつきながら説明する。

千年以上も前に4人の偉大な魔法使いによって創立されたホグワーツ。
しかし、サラザールとゴドリック達3人の意見が合わず、サラザールはこの学校を去った。
そのサラザールが自分の真の継承者であるものが現れた時、「秘密の部屋」が開かれると予言めいたものを残していった。

「「秘密の部屋」はなにもサラザールだけの専売特許じゃないがな…」
「ヴォルさん…?」

机の上で丸くなりながらぽつりと呟くヴォル。
は首を傾げる。
「秘密の部屋」といえば、バジリスクのいるサラザールの「秘密の部屋」ではないのか?

「言い伝えや資料ではサラザールは意見の対立で学校を出て行ったとあるが、それまでは4人はかなり親しくしたそうだ。サラザールが「秘密の部屋」を創ったように、ゴドリック、ヘルガ、ロウェナも自分達の「秘密の部屋」を創ったと聞いたことがある」
「へぇ…。それじゃあ、どこかにあるんだね…、サラザール以外の創立者達の「秘密の部屋」が…」
「だろうな…。サラザールの「秘密の部屋」はサラザールの血をひく者が、ゴドリックの「秘密の部屋」はゴドリックの血をひく者が…。そう言われているらしい」
「でもさ、サラザールの「秘密の部屋」はパーセルマウスでないと開けないでしょ?」
「そうだな…。元々サラザールの血をひかなければパーセルマウスではありえないんだが…」

ヴォルはちらっとハリーの方を見る。
ハリーは他の生徒達と同様、ビンズ先生の話を真剣に聞いている。
ハリーはヴォルデモートの力の一部を移されたからこそ、パーセルタングが理解できる。


「噂話や神話はこれぐらいにして、授業を始めますよ!」


ビンズ先生はパンパンと手を叩いて気を取り直したように授業を再開させた。
生徒達は残念そうな表情をしたが…数人はハリーをちらりっと見ていた。
の方をみる生徒などいなかった。

ハリーが疑われて、第一発見者でありもっとも疑わしい私は疑われていない…か。
マルフォイ君もこれっぽっちも疑ってなかったようだし…。
私が犯人っていえば犯人のようなものなんだけどね…。

あの壁に血文字…正確には血文字ではないのだが…を書いたのは自身。
バジリスクがミセス・ノリスを石化させたことも知っている。

「知ってて、知らないふりをするって言うのはやっぱ難しいもんだね…」
「だったら、関わらなければいいだろう?」
「それもそうなんだけどね…」

そういうわけにはいかないんだよ、ヴォルさん。




魔法史の授業が終わり、今日の授業はこれまで。
はとりあえずヴォルと一緒に「秘密の部屋」の入り口に行こうと思っていた。
そう、つまりはあの女子トイレなのだが…。

!」

呼び止める声が一つ。

「ねぇ、はどう思う?」
「私も是非の意見を聞きたいわ!」

否、呼び止める声がさらに2つ。
ハリー、ロン、ハーマイオニーである。

「えっと……何が?」

いきなり問われても困る。
まぁ、想像はつくが…。

「「秘密の部屋」のことだよ、はどう思う?」
「どうって……」
「ほら!誰があんなことしたのかとか!」

ハリーが聞いてくるが、困ったように笑みを見せるしかない。
ロンとハーマイオニーも何かを期待しているようにを見てる。
何をそんなに期待しているのやら…。

「私が思うに…ミセス・ノリスを石にしたのって…ヒトじゃないのと思うの…」
「どうしてそう思うの?グレンジャー」
「だって、ダンブルドアがあの場ですぐ治してあげられなかったのよ?闇の魔法だとしてもかなり高度なものか…そんな高度な魔法使える魔法使いをダンブルドアが学校に入れるわけないし…」

そうとも言えないと思うけど…。
去年はクイレル先生をホグワーツの教師として学校に招いていたし…。
ダンブルドアだって完璧じゃないんだしね。

「まぁ、僕は…犠牲がでないことを祈るだけかな?それ以上はなんとも…」
「ええ?それだけなのかい?」
「やけに不満そうだね、ウィーズリー君」
「僕も不満だよ、なら絶対に犯人をみつけてやるって言ってくれると思ったのに!」
「思わないって。僕は自分から危険に巻き込まれるつもりはないよ。ただ静観してるだけさ」

嘘付け。
ヴォルは心の中で思いっきり突っ込む。
ロンもハリーもどこか残念そうな不満そうな様子だ。

「でも…、僕は疑われままなんて嫌だよ…。僕はグリフィンドール生なのに…」

ぽつりと呟くハリーは少し悲しそうで苦しそうで…。
見に覚えのないことで疑われるのは誰だって嫌だ。
それもまだハリーは小さな子供なのに…。
は…仕方ない…とため息をついた。