秘密の部屋編 32
スリザリンとはいえ、部屋の作りはのグリフィンドールのものと変わらない。
ベッドが4つ。
4人部屋のようだ。
「マルフォイ君って、誰と相部屋なの?やっぱり、クラッブ君とゴイル君?」
「なんだ、いきなり…」
「なんとなく…。気になったからさ……」
4人部屋ということは、その二人をいれてもあと1人いるはずなのだが…。
しかし、まさかドラコの部屋に入ることになるとは思わなかった。
「スリザリンがよかったな…」
ぽつりっとこぼれる呟き。
純血ではないはスリザリンでは歓迎されないだろうが…それでもハリー達とあまり深くかかわることはなかったはずだ。
の立場からすればスリザリンの方が都合がよかったかもしれない。
「純血じゃない君がスリザリンに来てもいいことなんかない。君にはあのグリフィンドールが合ってるだろ…」
「マルフォイ君…?」
「何を考えてグリフィンドール生がスリザリンに来たいと思うのか…僕には見当もつかない」
「うん…でもね…、やっぱ組み分けの時、スリザリンに来たいと思ったのは本当だよ」
苦笑する。
ドラコは少し顔をしかめてを見る。
「は穢れた血だ。魔法の成績も実技関係は全然駄目だから、間違ってホグワーツに来たマグルじゃないのか?」
「マルフォイ君?いきなり何…?」
「でしゃばりで口煩い。ついでにおせっかいだ。……大体、スリザリン生の僕のところに平気で来るってことは、僕なんて眼中にないって馬鹿にしてるのか?」
「そんなことないよ?」
いきなりのことを貶めるようなことを言い始めたドラコには苦笑するだけ。
別に怒ることもなくただ言葉を受け止めている。
ドラコはイライラしたように、近くに積んであった荷物を蹴り上げる。
「どうしたのさ?マルフォイ君」
「君は変だ、」
「は…?」
「グリフィンドール生の癖に、スリザリン生を嫌わないどころか僕に話しかけたりする?何をされても怒らないし…君はっ!」
「うん?」
は首をかしげる。
ドラコの言いたいことが分からないのだ。
先ほど拾ったかけらのこととか、ルシウスが言いかけたこととかを教えてもらうつもりできたのだが…。
「スリザリンに来たかったならば、最初からスリザリンになればよかっただろう?!」
「そう言われても、寮を決めたのは組み分け帽子だし…」
「だったら、スリザリンに来たいなど言うな!」
「何で?」
「何で…って…」
ぐっと黙るドラコ。
スリザリン生と何のこだわりもなく話す。
そして、来いと言われて何の抵抗もなくスリザリン寮に来る。
―スリザリンがよかったな…
だったら最初からスリザリンに来てくれれば良かったのに…。
ドラコはなぜかそう思ってしまったのだ。
だから、それを否定したかったからを貶めるようなことを言った。
ドラコはを対等な存在として認めてしまうことを、プライドが許さない。
「まぁ、いいや。話を元に戻そうよ、マルフォイ君。これ…何か知ってるんだよね?」
は虹色に輝く欠片を取り出す。
不思議な反射をする欠片だ。
虹色に輝く欠片など見たことない。
もっとも魔法界ならこういうのもアリなのかもしれないが…。
「あ、ああ、それは…この間のイースター休暇の時に父上が見せてくれたものの欠片に似ているんだ」
「何なの?これって…」
「『イレイズ』だ」
「…イレイズ…?」
「僕が見たのはもう少し大きくて完全に円の形だったものだが…、昔の魔法使いで魔法がまったく効かないやつがいたらしくてその魔法使いに魔法が効かない原理を少し利用して作られたものらしい。『イレイズ』があればある程度の魔法は無効にできるらしいな」
「でもなんでその『イレイズ』の欠片をミセス・ノリスが…」
そこではっとする。
本来ならば、ミセス・ノリスが石にされた時は水溜りがあったはずなのだ。
その水溜りに映ったバジリスクを見たから石化した。
しかし、あの場に水溜りなどなかった。
でもこの欠片があったから、ミセス・ノリスは石化で済んだのではないのだろうか?
これがバジリスクの視線の効力を弱めたか、もしくはこの欠片に映ったバジリスクを見たのかは分からないが…。
思ってみてぞっとする。
の知る限り、バジリスクの犠牲者は皆石化で終わるはず。
だが、それはどれも運が良かったとしか言いようがないものではないのだろうか…?
ヴォルの存在もあってリドルのことを助けたいと思うが…。
「……やばい…こんなことしてる場合じゃないんじゃ…」
呑気に傍観者をしている場合ではないのだ。
石化はともかく、死人を出すわけにはいかない。
次は……多分まだ先だ。
「でも……どうしよう…」
リドルをとめるわけにはいかない。
それは未来を変えないため。
犠牲は出したくない。
なにより後悔したくない。
「…?」
様子のおかしいにドラコが呼びかける。
の顔色は良くない。
「あ、マルフォイ君…、ごめん。教えてくれてありがとう」
「どうしたんだ?」
「ううん、何でもないよ」
迷っていても悩んでいても仕方ない。
なるようにしかならないのだ。
自分がパーセルマウスだったらバジリスクの動きも分かって動きやすいのだが…。
パーセルマウス…?
そういえば…肉体が違えどヴォルさんってパーセルマウスなのかな?
ヴォルさん…頼めば協力してくれるかな…?
「よし!うん、マルフォイ君、僕頑張るよ」
「はぁ?何がだ?」
「じゃあ、あの欠片のことも分かったし行くよ」
「え?ちょ、ちょっと待て、!」
「何?まだ何かあるの?」
あっさりと出て行こうとするをあわてて引き止めるドラコ。
としてはとりあえずはヴォルに会って話をしようと思ったので、引き止めて欲しくはなかったのだが…。
「父上がちらっと言っていたが…」
「ルシウスさんが…?」
「スリザリンの継承者が誰かは分からないが気をつけた方がいい」
「何で…?」
どうしてここでスリザリン継承者の話題がでてくるのだろうか?
今日、ミセス・ノリスが襲われたから…?
「秘密の部屋を開くスリザリン継承者…、父上が絡んでいるとみて間違いない。だから、もしかしたら継承者はを狙ってくるかもしれない」
「そう?まさかスリザリンの継承者はマルフォイ君だったなんてオチはないよね?」
「それはない。僕はあの時間帯大広間にいたからな。ポッターかもしれない…気をつけろ」
「…何でポッター君…?」
「あの場にいたのは、とポッターとウィーズリー、それからグレンジャーだろう?」
「うん…そうだけど…。僕がスリザリンの継承者って可能性は考えないの?」
「が…?それはありえないだろ?スリザリンの継承者は穢れた血を始末するつもりなんだぞ?」
「それだったら、ポッター君もありえないと思うんだけど…」
ハリーの父親ジェームズは魔法族、でも母親のリリーはマグル出身だ。
それに穢れた血などと、ハリーは言わないし考えもしない。
「は知らないかもしれないが、ポッターはマグル界で酷い目に合わされてきたらしいな。だからマグルを憎んでいる可能性がないわけじゃない。現時点で一番怪しい」
「よく知ってるね、マルフォイ君。実はポッター君と親友になりたくてストーカーまがいのことしてた?」
「茶化すな。真剣に聞け」
「ノリ悪いな〜、マルフォイ君」
ノリの問題ではない。
ドラコは真剣なのだ。
自覚はないがのことを心配して言っているのだ。
「スリザリンの継承者がどうやってなにをするつもりなのかは分からない。ただ、僕から言える事はひとつ……」
「ひとつ?」
「蛇には気をつけろよ」
「え……?」
蛇って…まさかマルフォイ君知ってるわけないよね…バジリスクのこと。
知ってるのはリドルだけのはず。
ダンブルドアあたりなら気づいているかもしれないが…でもの知る未来で何もしなかったということは、気づいていなかったことにもなるのか…。
「スリザリンのシンボルは蛇だ。仕掛けてくるとしたら「蛇」に関係があるはずだ。僕から父上に「秘密の部屋」については聞いてみるけど……」
「あ、うん。気をつけるよ……マルフォイ君もあまり深追いしちゃ駄目だよ」
「僕がそんなことすると思うか?」
「思う…って言ったら怒る……って、マルフォイ君杖振り上げないでよ!」
ぺしっ
ドラコの振り上げた杖がの頭にあたる。
軽く叩かれただけなのだが…。
「痛い……」
「痛い訳ないだろう?…って、前にも言ったな」
「そうだね…」
くすくすっと笑みをこぼす。
でもすぐにふっと真剣な表情になる。
「マルフォイ君。油断は禁物だからね…、違う寮だから僕はマルフォイ君まで守りきれないよ」
「僕は君の守りなんか必要ない!」
「それでも……一人じゃあどうにもできないこともある。その時は助けるから言って」
「だから僕は別に助けなんか……」
「マルフォイ君。君が秘密の部屋の情報知っているってことは危険なことに変わりないと思うんだ。それがたとえ純血であれ…。僕に協力してくれるのは嬉しいけど、マルフォイ君が危険な目にあうなら無茶なことはしないでね」
「べ、別に僕は…っ!」
ドラコが素直に助けを求めるとは思わない。
でも、思っていた未来と違う。
そう、特にドラコの態度が…。
だから心配しているのだ、は。
「ありがとね、マルフォイ君。じゃあ、僕は行くから…」
ルシウスに比べドラコは素直な方だ。
意地っ張りなところがなければグリフィンドールでもうまくやっていけるだろうに…。
とても本人の前でそんなことは口にできないが…。