秘密の部屋編 30
「ところで、教授」
「何だね」
「私のことこれっぽっちも疑ってないんですか?」
ダンブルドアの部屋へ向かう途中、は気になることを聞く。
今はダンブルドアとセブルスだけなので、一人称が「私」でも構わないだろうと思う。
「疑う…?何をだ…?」
「何をって…」
あの時、無理やりセブルスの口を割らせたことに対して何も思っていないのだろうか。
確かにあの時、セブルスはを警戒するような目つきになったと思ったのだが…。
「貴様が何をしたというのだ?自ら危険に突っ込む事はあっても、ポッター達を危険にさらすような事はないだろう?」
「あ…いや…。信用してくれるのはありがたいですけどね、私は以前も言いましたけど、ハリー達が危険だからといっていつも手助けするわけじゃ……」
セブルスは深くため息をつく。
確かにあの時、自分は無意識に答えてしまったことに対して疑問は持った。
けれどの性格と行動を去年見てきた上で、また危険に首をつっこんでいるのか、と心配することはあっても疑う理由などはでて来ない。
「貴様がポッター達を危険な目に合わせるはずがないだろうが」
「教授、それは買いかぶりすぎですよ」
「自分のことをわかっていないのは貴様の方だ、。貴様が自分で言うようにいつもポッターの手助けをしないほうが普通だ」
「そうは言ってもですね……」
「貴様は首を突っ込みすぎだ。少しは大人しく出来ないのか?」
「とは言われてもですね…」
思ったものと違ったセブルスの対応には困惑する。
どうも、セブルスはがまた危ないことに首をつっこんで、ハリー達を巻き込まない為にあの場にいたのだと思っているようだ。
ハリーに疑いがかからないように、そして危険に近づかないように…。
なにしろ、あの場で一番疑わしいのはなのだから…。
そうこうしているうちにダンブルドアの部屋につく。
この部屋に入るのが、はあまり珍しくない。
思えば、よくダンブルドアとは話をしている気がする。
「。これを役に立てなさい」
部屋に入るなり、ダンブルドアから一冊の分厚い本を渡される。
古びた表紙の一冊の本。
はきょとんっとしながらもそれを受け取る。
「禁呪書をみるよりも役に立つじゃろう…」
「え?!…ダンブルドア、何でそれを知って…」
「ふぉっふぉっふぉ…」
「もしかして、ルシウスさんの件を知っているんですか?」
この学校で起きたことなら、大抵はダンブルドアならお見通しだ。
恐らくが禁呪書を漁っていたのを知っているのだろう。
「ルシウスなら『闇の魔術』関係で仕掛けてくるじゃろうな…。知識としては知っておいた方がよかろう?今後の為にもな…」
「ありがとう…ございます」
「分からないことがあればセブルスに聞くと良い。セブルスも『闇の魔術』には詳しいからの」
「おい……」
ダンブルドアの言葉に突っ込むのは勿論セブルス。
何故自分がそんなことをしなければならないのか…とでも言うように。
抗議しようと思っていたセブルスだが…。
「う〜ん。でも、あまり教授にご迷惑はかけたくありませんから、出来る限りは自分でがんばってみますよ、ダンブルドア。それに、この本があれば大分助かると思いますし…」
迷惑をかけるわけにはいかないというより、セブルスが嫌がるだろうと分かっていたからは先にそう言った。
しかし、セブルスからは思わぬ言葉が返ってくる。
「別に構わん。聞きたいことがあるならいつでも来い……」
「セブルスもこう言っておることじゃしの、」
「いえ…、でも…」
「我輩が構わないと言っているのだ。変な遠慮は無用だ…。それに貴様を放っておいたら何をしでかすかわからん」
「どういう意味ですか…それは…。」
「そのままの意味だ。無茶なことでもされては困る」
「セブルスはが心配なんじゃよ」
ふぉっふぉっふぉ…といつものように笑うダンブルドア。
セブルスは眉間のシワを一本増やす。
本当なら、ダンブルドアの言葉など聞かなかったことにしてに協力などするつもりはなかった。
しかし、はセブルスの協力など期待してない…いや、協力が得られないことが当然のように言った。
あれだけ危ない目に合っていながら、他の協力を望まないに手を差し伸べざるを得なかったのだ、セブルスの性格としては…。
「別に協力してくださるのはありがたいんですが…教授」
「何だね?」
「私と教授の噂がさらに変なことになるかもしれませんよ?」
「噂…?」
セブルスは顔を顰める。
あれ…?知らないのかな?
スリザリン寮ではかなり有名な噂っぽいんだけど…。
「なんでも、私が教授の隠し子だとか…」
がたがたっがたんっ
セブルスは動揺のあまり、ダンブルドアの部屋にあった飾り棚に足を引っ掛けて思いっきりこける。
その反応に驚いたのはだ。
「何やってるんですか?教授…」
「か……隠し子だと…?!」
「もしかして知らなかったんですか?」
「何処の誰だ、そんな下らない噂を…!」
「さぁ…。噂の出所は知りませんが、私が教えてもらったのはスリザリン寮のシェリナ=リロウズ先輩ですけど…」
「リロウズか……」
呟くセブルスの眉間のしわがさらに増える。
しかし、この噂で驚いているようでは、もう一つのメインとも言える噂の方も知らないのだろう。
それを言ったらどうなるのだろうか…?
ちょっと興味深いと思う。
「とセブルスが親子とな…。面白い噂じゃのう…」
「え?ダンブルドアもご存じなかったんですか?」
「いや、知っておるよ。勿論、もう一つの噂も…有名じゃからのぉ…」
「もう一つの噂……だと?」
ダンブルドアの言葉に反応するセブルス。
もう一つのあの噂はもしかしたらセブルスにとってはかなり不快なものかもしれない。
シェリナとドラコのあの反応の方がおかしいのだから…。
「とセブルスが恋仲じゃという噂がのぉ…」
がたがだだぁぁん
何もないところで大げさ再び転ぶセブルス。
せっかく起き上がろうとしていたところだったというのに…。
弾みで、壁一面に並べられた本棚にあった本が十数冊ほど、セブルスにばさばさっと降り注ぐ。
「き、教授…?大丈夫ですか…?」
素晴らしい転びっぷりに流石のも驚く。
そこまでセブルスが動揺するとは思わなかったのだ。
セブルスに積み重なった本をとりあえず、どかしていく。
「…」
「はい?」
「貴様は知っていたのか…?」
「…?…ああ、噂のことですか?」
「そうだ」
セブルスは不機嫌そうな表情でに問う。
知っていたかと聞かれれば…。
「一応…。でも、知ったのはつい最近ですよ。噂自体は前からあったみたいですけど…」
苦笑しながら答える。
別に噂の内容など気にしていないかのように…。
「何でも、教授は私にだけ優しすぎるから…妖しい関係に見えるそうです」
「妖しい関係…だと?」
「ええ…、だって、実際私はホグワーツでは男としてすごしているじゃないですか?だから妖しい関係、です」
「………平気なのか?」
「別に噂なんか気にしてませんけど?」
「そうではない…いや、というか……、そういう対象として見られる事は平気なのかと…。普通なら我輩を避けたりするものでは……」
言いにくそうにするセブルス。
はセブルスの言いたいことが何なのか気付く。
世間一般では、男同士のカップルは異質だ。
実際は女の子なので、異質ではないのだが…ホグワーツではは少年として過ごしている。
「そうですね…。そういう対象に見られて気持ち悪いとか、他の生徒達に気味悪がられる……ってことも無きにしも非ずですからね」
普通の健全でまっとうな少年なら、そんな噂は絶対嫌だろう。
思いっきり拒絶して、相手のセブルスを憎みすらするのではないのだろうか…?
しかし、はそういう噂は第三者の立場で見る分には結構好きだったりする。
今は自分の身に直接降りかかってきていることだから、なんとも言えないのだが…。
「とりあえず、私がここで生活する分には支障はないから平気ですよ。有名な噂って言っても、知らない人もいるみたいですし…」
「そうか…」
少なくともハリー達の耳には入っていないだろうと思われる。
そんな噂が耳に入れば、必ず態度に表れるだろうから…。
よりによって、グリフィンドールの天敵のセブルスとの噂なのだから…。
は気を取り直してダンブルドアの方に向く。
「ところで、ダンブルドア。私と教授に話があるのでは…?」
ダンブルドアはわざわざとセブルスを呼び止めたのだ。
だから二人はここにいる。
まさか、に本を渡す為だけに呼び止めたわけではあるまい…と思いたい。
「そうじゃの…。その本を渡すのもあったんじゃが…、にひとつ言いたいことがあっての…」
「何です?」
言いたいこととは随分曖昧な言い回しだ。
注意でも忠告でも、頼みでも…明確な言葉ではない。
「ルシウスのことは止められんとしてもの……、そのほかの事に関わってはいかんよ」
「…ダンブルドア……?」
「、お主は自分で思っているよりも危険な場所にいることを忘れてはいかん。はハリーと同じでトラブルを抱え込むことが好きなようじゃからの……」
「別にトラブルを抱えるのは好きじゃないんですけど……」
「それならば、今年からは大人しくしていてくれるかい?」
「う………。」
答えられない。
それは勿論、今年も秘密の部屋の事件に介入する気がある…というよりもやは介入してしまった後なのだから…。
見ているだけなどできないだろうことを自覚している。
「、いいかね?の存在がもし、ヴォルデモートに知られれば、ヴォルデモートは何よりも優先してを狙うはずじゃ。その存在が知られてからでは遅いんじゃよ。、もっと自分の身を案じなさい」
「わかっています。わかってはいるんです……でも…」
未来を僅かながら知っている。
それでも、その通りにならならない…もしくはが知らない犠牲がでてしまうかもしれない。
そんな時は動かざるを得ないのだ。
役目だからとかではないのだ。
なくてもいいはずの犠牲をなぜそのまま見逃すことができようか。
「気をつけることはします。でも……私は黙ってみてるだけなのは嫌なんです」
たとえ、先に待っているのが悲しい未来でも。
それを遠くから見ているだけなのは嫌だから…。
ハリー達が大変な思いをするのを分かっていて、何もしないのは嫌だから。
自分のできることをしたい。
少しでも、ハリー達の負担を減らしてやりたいと思う。
「仕方ないの…、」
ダンブルドアは深いため息をつく。
どこか諦めたような、困ったような雰囲気で…。
「それがのよいところじゃろうて……。じゃが、気をつけるんじゃぞ?」
「はい、分かってます」
「それから、セブルス」
「…………何だ?」
「目の届く範囲でいいから、のことを頼めるかの?」
「え…?ダンブルドア…、いいですよ、教授に迷惑…」
「構わん。我輩の目の届く範囲ではを守ろう」
「教授…」
セブルスは本来優しい性格なのだ。
素直でないから誤解されやすいのだが…。
ダンブルドアを始め、ヴォルにセブルス、そしてリーマス。
を理解して守ろうとしてくれている人たちは沢山いる。
彼らだけではないはずだ。
「ありがとう…ございます」
泣きそうな笑顔を浮かべる。
心配してくれるのは嬉しい。
でも、その反面…自分にはそんな資格はないのではないかとも思えてしまうのだ。
未来を知って、…犠牲のでる未来を知ってその通りにしようとしている自分。
誰かを悲しませることを分かっていて、そうしようとするのだから…。
だから、はこの世界の人たちに今一歩踏み込んで接することができない。
どこか遠慮をしてしまう。
そう、本来ならいるはずの無かった存在であるヴォルを除けば……。