秘密の部屋編 27
はなるべくジニーに近づかないようにした。
何故かと言えば、リドルが良く分からないからである。
条件とか言いながら、あんなことをされたのだから…。
「…つまり、トム=リドルは手がはやい…?」
たどりついた結論をぽつんと呟いてみる。
考えてみれば、にキスした人物は二人とも同一人物のようなものだ。
はぁ〜とため息をつき考えるのをやめる。
今日はハロウィンである。
は去年見つけた隠し部屋の一つにいた。
ヴォルはいない。
一人でゆっくり本を読んでいたのだ。
パタンと本を閉じ、集中できない為に寮に戻ろうと思う。
かつかつと足音だけが響く。
さすがにハロウィンの日に廊下を歩いているような生徒はいないのだろう。
かなり静かだ。
歩いていると、少し離れたところに誰かがっているのが見える。
誰だろう…?と思いは近づいていく。
「…あ」
その相手の姿がくっきり見えてきたところで、思わず声をあげてしまう。
相手の方も少し驚いたようにこちらを向く。
「…なにやってるの?リドル」
は呆れたような表情をした。
そこには、日記ごと置き去られたらしいリドル。
やっぱり、その姿は透けている。
『君こそ、ハロウィンのパーティーには参加しなくていいのかい?』
「ん…、ちょっとね。それにしても」
ちらっとはリドルの足元見る。
そこには固まって動かないミセス・ノリス。
それから、何かキラキラとひかるものが所々。
じっとみればそれが鱗だと分かる。
バジリスクは巨大な蛇だ。
いくら配水管の中を移動していたとしても、犠牲を出す時には配水管の外から出ているはず。
となると、移動した場所には鱗が多少落ちるのも当たり前で…。
「ねぇ、リドル。そこに転がってる鱗をちゃんと片付けないと、バジリスクだってすぐにばれるよ?」
『分かってるよ。それの後始末をしようと思っていたんだよ。…それが器の暗示がまだ完全じゃなくて……』
「置き去りにされた、と」
『五月蝿いよ』
むっとするリドル。
はその様子にくすくす笑う。
冷徹な優等生なんかじゃない。
結構可愛いところもあるんだ…と思う。
「で、どうすればいいの?」
『…何のつもりだい?』
「何って…勿論手伝うつもりだけど?」
『何を考えているんだい?僕はバジリスクを使って穢れた血を一掃するつもりなんだよ?それを理解した上で言っているのかい?』
「うん、理解はしてる。ただ、命の犠牲がでるのは止めるつもりだけど…、石化程度の被害なら止めるつもりは全くないよ」
は目に付く鱗を拾い始める。
こんな所で、リドルのやるべきことをとめられては困るのだ。
話が進まない。
リドルは鱗を一つ一つ手で拾っているにため息をつく。
『魔法を使えばいいだろう?半人前とはいえ、君も魔法使いだろうに…』
リドルの言葉には困ったようにぽりぽりと頬をかく。
使えるものなら使いたい。
でも、に魔法は使えないのだ。
「そうは言ってもね…。僕は魔法の実技の成績は散々なんだよ…」
『だろうね。その微量な魔力じゃ…』
「…微量な魔力?」
『自覚なしかい?君から感じられる魔力はマグルと言ってもいい程度の極微量のものだよ』
呆れるリドルに対し、は首をかしげた。
微量でもから魔力を感じるはずはないのだ。
なにしろ、自身に魔力など全くないのだから…。
そこでふと思い出す。
指にはめた指輪を…。
もしかして、リドルが感じてる魔力ってこの指輪の…?
指輪に込められた魔力で、は少年の姿を維持している。
魔力を常に使用しているのだから、魔力が感じられても不思議はない。
『別に鱗を片付ける程度なら簡単なんだよ』
リドルはぱちんっと指をならす。
廊下に散らばっていた鱗は一瞬で消えた。
『この程度の簡単な魔法なら、今の僕でも杖ナシで使える』
「すごい…」
『何も凄くないよ。この程度のことも出来ない君の方がおかしい。』
「そうは言われてもね…、僕は劣等生だから」
自分が魔法をうまく使えないことを決して恥じない。
としては、魔法自体が珍しく、自分が使うことが出来なくても見てるだけで十分楽しいからいいのだが…。
「それで、どうするの、リドル?『バジリスク参上!』とかって書くんだっけ?」
『君馬鹿?』
「…馬鹿って」
『そんな馬鹿丸出しなこと書くわけないだろう?与えるのは恐怖でいいんだよ、穢れた血が狙われる、そう、再び恐怖の扉が開かれたことを知らしめることができれば…』
「悪趣味だね…。えっと『秘密の部屋は開かれた。継承者の敵よ、気をつけろ』だっけ?」
の言葉に驚くリドル。
それはまさに自分が壁に書こうと思っていた言葉そのままだったからだ。
はきょろきょろと周りを見回し、赤い液体が入った小さなバケツのようなものを見つける。
これで、壁に書くのかな…?と思う。
『どうして…』
「ねぇ、リドル。これで書けばいいの?」
はひょいっとバケツを持ち上げる。
中身の液体は、少しドロッとした感じだ。
まさに血のような…。
「これまさか本物の血じゃないよね」
『…違うよ。赤い果実を絞って、その中に多少薬品を混ぜたものだよ』
「そうだよね」
はじっとその液体を見る。
ふぅ…と息をつき、その赤い液体に手を沈めてから、壁に文字を書いていく。
こちらに来て一年経ったとはいえ、何故か英語の読み書きができるようになっていたとはいえ…やはり英語は慣れない。
「秘密の部屋は、開かれた…。継承者の敵よ、気をつけろ…と。ばーい、りどるvな〜んてねv」
『それは書かなくていい』
「分かってるって、書かないよ。ちょっとした冗談だって」
くすくすっと笑う。
リドルは不思議な気持ちになる。
恐怖を再び振りまく為に自分がするはずだったこと。
それを目の前の少年はなんの抵抗もなく手伝う。
『君は本当に分かっていて手伝っているのかい?』
「何?疑っているの?理解はしてるつもりだよ?」
『僕は穢れた血を一掃するつもりなんだよ?』
「分かってるよ。さっきも言ったけど、僕は命の犠牲がでるのは止めるけど、それ以外は別に邪魔する気はないよ」
『考え方が甘いんじゃないかい?僕は石化するつもりでバジリスクを仕掛けているわけじゃないんだよ?命の犠牲がいつ出るかなんて分からない。僕に協力したことをいつか君は後悔することになるよ』
リドルは静かにを見る。
は困ったような笑みを浮かべる。
「後悔だけはしないよ。…だって、これは自分の意思でやっていることだから…」
分かっている。
リドルは穢れた血を本気で一掃してしまおうとしていることは…。
それでも、これはの身勝手な思いなのだ。
知っている歴史を変えてしまうのは怖いから……ただ、それだけの為に…。
「これは僕の…我侭だよ」
自分の知る未来が唯一の最良の道ならば…その通りにするまで。
その為に、全てを偽る。
ヴォルもダンブルドアもハリーも…そしてリドルも…。
『全く、君は変わってるね』
「そうかな?」
『変わっているよ。僕が断言する』
「…いや、断言しなくてもいいんだけど」
くすくすっと笑うリドルに、変わっていると断言されてしまったは困っていた。
からみればリドルも十分変わっていると思う。
変わっている相手に変わっていると断言されてしまうのはどうも複雑だ。
しかし、ここでリドルに「リドルも変わっているよ」などといえば、どんな言葉が返ってくるか分からない。
おそらく、はリドル相手に口では勝てないだろうから…。
『どうでもいいけど、そろそろ片付けしないとハロウィンパーティーが終わる頃だよ』
「あ、そうだね…」
『すぐそこの壁を押せば隠し通路が開くから、そのバケツはそこに放り込んでおけばいい』
はリドルが示した壁を軽く押してみる。
するとゴゴ…と音がして壁がずれ、通路が開かれる。
その中にバケツをことんっと置く。
「バケツはこれでいいけど…汚れた手はどうしよう」
『どうしようって……、全くしょうがないね』
ぱちんっ
リドルが再び指をならすとの汚れていた手はすぐに綺麗になる。
『これじゃあ、君は僕を手伝ったのか、迷惑かけただけなのか分からないね』
「それを言わないでよ…。僕もちょっとそう思ったんだから」
『少しでもそう思ったってことは自覚ありってことだね』
それでも、がいなければリドルはやはり途方にくれていただろう。
魔法は使えても実体がないのは不便なことなのだから…。
「別にいいけどね…。それで、ミセス・ノリスはこのまま転がしておいていいの?」
『いいよ別に』
「いいの?だって、ほら、ちょっと血まみれして、そのへんの蝋燭置きのトコに引っ掛けておくと怖さ倍増だと思わない?」
『趣味悪いね』
リドルには言われたくないんだけど…。
だって、たしか本の中ではそうなってたはずだから…。
まぁ、本人がそうするつもりがないなら別に転がしたままでもいいんだけどさ。
「じゃ、ジニーのところに送るよ、リドル」
は日記を拾い上げる。
リドルは何も言わずにすっと姿を消した。
彼の性格からして頼むような言葉は出てこないだろうとは思っていたが…。
やっぱりである。
軽くため息をつき、は歩き出すが……すぐにぴたっと止まる。
「…。何をしている…?」
驚いた表情で立つセブルスがいたからだ。
かなりやばい状況かもしれない。
リドルの姿を見られていたら、セブルスの記憶は操作させてもらわなければならない。
でも、できることならしたくはない。
「何を見ましたか?教授」
「…貴様は…」
「僕は何を見たかと聞いているんです。教授」
「…………それが人にものを聞く態度か?」
はすっとセブルスを見る。
『今、何を見たんですか?』
言葉に力をかぶせる。
リドルになるべく気付かれないように…。
「我輩が見たのは、貴様がミセス・ノリスを見て立っていたところだけだ…」
そう言ってからセブルスははっとなり自分の口に手をあてる。
すぅっとの方を睨むように見る。
はその視線をまっすぐと受け止めた。
「答えていただいてありがとうございます、教授」
壊してしまったかもしれない。
教授が寄せてくれていたかもしれない信頼を…。
今の一瞬で。