秘密の部屋編 25
は休み時間のたびに図書館で調べ物をしていた。
ハーマイオニーもハリー達に話を聞いたのか、今日は付き合ってくれている。
さすがに禁書の棚には手を出していないが、今の様子だと時間の問題かもしれない。
何故なら、なかなか見つからないからだ。
ぱたんっと見ていた本を閉じる。
ふぅ…と息をつき、また違う本を見ようと席を立つ。
ハーマイオニーはまだ本を読んでいる。
は別の本を持ってきて開こうとしたが…。
「ね、グレンジャー。少し休憩しようか?」
ハーマイオニーはぱたんと栞を挟み、本を閉じる。
もうかなりの時間本を読む事に費やしている。
そうね…とハーマイオニーは同意した。
「今持ってる本は、禁書の類じゃないから借りて外に行こうか」
「外?」
「お茶でもしようよ。いい場所知ってるから」
にこっと笑みを浮かべる。
ハーマイオニーとは一応今もっている本を借りる手続きをして図書館を出て行く。
少し話をしてついたその場所は、禁じられた森の近くの小さな木陰。
それでも、穴場なのか人影は何もない。
それでも日当たりがほどよく、日光浴などをする分にはかなりいいだろう。
「ちょっとお茶セットみたいなの持ってきたから…」
は水筒をハーマイオニーに見せる。
いつのまに…とハーマイオニーは思った。
は、その水筒はさきほどハーマイオニーに分からないように取り寄せたのだ。
持っていたわけではない。
それに関して深く突っ込まないハーマイオニーに感謝すべきだろう。
「魔法瓶だからね、冷たいよ」
は水筒からお茶を注ぐ。
中身は緑茶である。
ダンブルドアが以前持っていたのを思い出し、分けて貰ったのである。
小さなプラスチックのコップに冷たいお茶を注ぎ、ハーマイオニーに渡す。
自分の分も汲み、一口。
「冷たくて美味しい…」
「でしょ?天気が良くてあったかい日には、冷たいお茶が一番だよね」
「これ…紅茶じゃないわよね…?」
「緑茶だよ。日本のお茶。結構美味しいでしょ?」
「日本…、そういえばって日本人だったわよね?」
「うん、それが……?」
「私、のこと何も知らないなって思ったの!教えて頂戴」
どうやらハーマイオニーは賢そうに見えて意外と直球勝負師なのかもしれない。
かなりストレートな質問には驚いていた。
少し悩むが、まぁ多少の家族構成くらいは教えても別に支障はないだろうと思う。
確かには誰にも何も教えていない。
今住んでいる所さえも……。
「別に大それた出生の秘密があるわけじゃないんだけどね…」
苦笑する。
本当にの家庭は普通の家庭だったのだ。
魔法使いもなにも関係のない家庭。
が話そうと口を開いた時だった
かさりっ
草を踏む音がして振り返れば、気まずそうに立っているジニーがいた。
とハーマイオニーを目に留め、あ…と声を出す。
「あら?ロンの妹じゃないの」
「どうしたの?ウィーズリー?もしかして、ここは君のお気に入りの場所だった?」
の問いかけに、ジニーは遠慮がちにこちらに近づいてくる。
はどうぞ、と自分の隣を薦める。
ジニーはの勧めるままにの隣に腰掛ける。
はジニーにもお茶を注いで渡す。
「あ、あのね…」
ジニーはからのお茶を受け取り、口に運ばないまま話しかける。
まだその表情から、話すことを迷っているような感じもあるが…。
「あのね…、私の友達……あの、トムって言うんだけどね…」
「もう友達ができたの?」
ハーマイオニーがひょいっとジニーを覗き込む。
その言葉にジニーの顔が少し赤く染まるが、嬉しそうに頷く。
「そうなの!トムって言ってね。いつも私のお話をちゃんと聞いてくれるのよ。相談ものってくれて、困った時はちゃんとアドバイスもくれるの!」
っていうか…、そのトムって…もしかして日記のリドルのことじゃあ…。
よくみればジニーはちょうどのその日記らしきものを抱えている。
ちらっとその日記に視線を送る。
「それで…その……」
ジニーが言いにくそうに口ごもる。
ちらっとを見るが…。
は首を傾げるだけ。
「あの…ね。トムにのこと話したらなんか面白いねって言って、もっとのこと教えてほしいって言ってきたの」
「………は?」
リドルが?
なんでまた?!
「私、トムと約束したの。にいろんなこと聞いてくるからね、って。だから…」
ジニーは申し訳なさそうにを見る。
「あのさ、ウィーズリー。ちなみに聞くけど、僕のことってどいうこと話したの…?」
「去年お兄ちゃん達から聞いたこととか、夏にフォード・アングリアでハリーと一緒にきたこととか…」
…お兄ちゃんっていうと恐らく双子だろうな…。
ウィーズリー君が話すわけないし…。
双子となると、その話の内容は絶対誇張されているだろうし…。
「ちょうどいいタイミングね、ジニー。私が今からに、のこといろいろ聞こうとしてたところなのよv」
「本当に?!」
「この際だから何でも聞いておいたほうがいいと思うわよ。のことなら、あのフレッドとジョージ相手の取引材料に使えるわよv」
こらこら、そういうことを教えるものではない。
「グレンジャー……。」
「あら、いいじゃない。教えてくれるんでしょう?」
にこっとハーマイオニーは笑顔を見せる。
は思った。
リリーさんに似てる…と。
この世代の女帝は彼女かもしれない。
「僕の話なんて聞いてもつまらないと思うけどね…。ま、知ってると思うけど、僕は日本人だよ。出身地がどこかなんて…言っても分からないと思うから省くけど…。ただ、僕はごくごく普通の家庭で育ったんだよね」
「両親は何をしている方なの?」
聞いたのはハーマイオニー。
はハーマイオニーの両親が歯医者であることを聞いている。
ジニーの両親はいわずとも魔法界の住人だ。
「父は普通の会社勤め、母は近くのスーパーでパートだよ。一応兄がいるんだけどね、もう結婚して家はでているんだ」
「随分年の離れたお兄さんなのね」
「あ…、あ、うん。そうなんだ」
一瞬自分がホグワーツの2年生だということを忘れていた。
現在自分が12歳だと考えても、兄が結婚しているという事はその兄は18歳以上。
つまり6つ以上は年が離れているということになる。
実際の年齢は19歳なので、そう年が離れているわけではないのだが…。
「でも、ってマグル出身の割には結構魔法界とかに詳しいわよね」
「え?そう?」
「そうよ。普通なら驚くはずの事に驚かないし。まぁ、貴方が魔法界に関して本を読んで予備知識があったっていうなら別だけれど…」
「う〜〜ん、でも、それが半分ホントかな?」
「…え?」
「だから、その本での予備知識っていうの」
ハリポタの本を読んでいたからこそこうやってあまり違和感なく、驚くことなく溶け込める。
何も知らないままでは流石にもっと慌てていただろう。
「どの本を読んだの?」
この問いはジニー。
さすが双子の妹、突込みが厳しい。
聞かれたくないところをざくっと容赦なく聞いてくる気がする。
「それは、内緒。ちょっと言えないんだ…、ごめんね」
いえる訳がない。
この世界の誰にも…このことだけは…。
「気になる…」
「そんなこと言われてもね…」
「日本の本なの?」
「まぁ、そうだね…。僕がホグワーツに来る前に読んだものだから…、日本の本だよ」
一応ねと心の中で付け加える。
正確にはあの本はイギリス出版の原書を日本語に翻訳したものだ。
をじっと見るジニー。
その本のことが気になるらしい。
「じゃあ、この間一緒にいたスリザリンの人とはどういう関係なの?」
「この間…?」
「、スリザリン生と一緒にいたの?!」
ハーマイオニーがどこか責めるようにに聞く。
この間というと、おそらく秘密の部屋の入り口でヴォルと一緒にいた時のことだろう。
ハーマイオニーの勢いに圧されながらも頷く。
「誰となの?!」
「いや…、誰って言われても……。」
正確にはこの学校の生徒ではなく…といっても卒業生ではあるのだが。
ヴォルのことは説明しようがない。
黒猫のヴォルが人の姿になれるなどハーマイオニーは知らないだろうから…。
「…グ、グレンジャーの知らない人だよ?」
「分からなくても名前さえ教えてくれれば、そいつの顔くらい拝みに行ってあげるわ!誰なの?!」
「いや、だから…」
「名前は?!」
「…言えない、って言ったら怒る?」
「当たり前よ!」
きっぱりと言い切るハーマイオニー。
よほどスリザリン生が気に入らないようだ。
かなり困った。
「そう言われても…」
「まさか名前を知らないとか言わないわよね?」
知らない人と会話していたなんて…とハーマイオニーの視線が物語っている。
ジニーは大人しくハーマイオニーとの会話を見ている。
口を出すつもりはないらしい。
「名前を知ってるには知っているんだけど…、彼は自分の名前が嫌いみたいだから…」
「自分の名前が嫌い?」
「う〜ん、何でも大嫌いな父親の名前と一緒だからそう呼ばれるのは嫌…だったと思うけど…」
のその言葉にぴくっとジニーが反応したのをもハーマイオニーも気付かなかった。
ジニーはの顔を少し睨むように見る。
「それに勝手に教えたりすると、彼が怒るし…」
「まあ、いいわ。けれど、教えて」
「何?」
「その相手はの何?」
「何って……」
は考え込む。
友人…という言葉は当てはまらない気がする。
でも大切なひとだとは思う。
自分が今こうして平然としていられるのもヴォルがいたから。
「支え…かな?」
大切だけれども、友人とも違う。
一緒に暮らしてはいるが家族とも違う気がする。
「はその人が大切なのね…。信用している?」
「勿論、信用はしているけどね…」
苦笑する。
ハーマイオニーは少し顔を顰めた。
「…けど?」
「もし、彼に裏切られても、僕はしょうがないと思うんだよね」
「どういうことよ、それは?信用していないってこと?」
「ううん、信用はしているよ。でも、僕は彼に裏切られても、彼を恨む事は筋違いだと思っているだけ」
「…?」
そもそも、裏切ること自体違うかもしれないと思うだが…とにかく、ここにいるのは自分の役目の為。
別にヴォルは闇の陣営に戻っても構わないのだ。
の側にいる理由など、何もないはずなのだ。
魔力を手に入れ、人の姿になることができる今なら…。
はそう思っているからヴォルの本当の気持ちに気づかない。
「裏切るってことは、その人…って『例のあの人』と何か関係があるの?」
突然ジニーが質問をはさむ。
驚いたようにジニーを見るとハーマイオニー。
ハーマイオニーは、裏切る=闇の関係者、つまりヴォルデモートと関係がある、と結びついたんだと納得する。
だが、は少しひっかかった。
「何でそう思うの?ウィーズリー」
「だって、裏切るなんて…闇の関係者だから裏切るっていうように聞こえたんだもの…」
ハーマイオニーが思っていた通りの返事を返すジニー。
少し申し訳なさそうにを見上げるジニー。
「否定もしないし肯定もしないでおくよ。そろそろ行こうか?」
は水筒を持って立ち上がる。
ぱんぱんっと足に付いた草を払い、本を持つ。
ハーマイオニーとジニーも立ち上がる。
ジニーはまだ何か聞きたそうだったが…。
「そろそろ寮に戻る時間よね」
ハーマイオニーが言った言葉に頷き、結局寮に向かうことになった。
借りた本は時間のある時に読めばいい。
一応休憩にはなったのだろう。
だが、は少し気がかりなことができてしまった。