秘密の部屋編 23






はヴォルに抱きしめられた格好のまま、驚きで固まり、ジニーはその現場を目撃した驚きからなのか、驚愕の表情のまま固まっている。
唯一ヴォルだけが落ちついていた。
ヴォルはを抱きしめていた腕を離し、ジニーの方に近づく。
ジニーが落とした本を手に取り、差し出す。

「落ちたぞ」

ジニーは差し出された本を受け取ることなく、ヴォルを見上げる。
驚き…というより、信じられないものでも見るような表情。


「貴方………誰?」


ジニーの口からようやく出た言葉はそれだった。
ヴォルはそれに答えずに本を差し出したまま。
が何かを言おうとするが、それを制す。

、お前は寮に戻ってろ」
「え?何で?」
「お前は俺のことを説明できるのか?」

くぃっとヴォルは顎でジニーを指す。
ヴォルと一緒のところを見られた
ヴォルのこの姿を知るのはダンブルドアのみである。
説明など……
彼が、かつてヴォルデモートの一部であったもので、今は黒猫としての側にいるなど……言えるはずがない。
かといって、に上手い言い訳など考えられるはずもなく。

「ちゃんとフォローしておいてやる」
「できるの?」
「誰に言ってるつもりだ?」
「……じゃあ、任せるけど…」

は何かを言おうか言うまいか迷うようにヴォルを見る。
何だ?とヴォルは言うように促す。

「ヴォルさんについてのこともだけど…、変な誤解されていたらちゃんとそれも説明してよね!」
「変な誤解って何だ?」
「何って……。だって、さっき、ヴォルさん、わた…じゃない僕にだ、抱き…」
「ああ、そのことか。それはどうかな……、思考というのは個人の自由だからな」
それ困る!だって、教授との妙な噂もあるんだよ?それにヴォルさんとの噂まで加わったら大変な事になるよ!」
俺は別に構わないが…。

むしろ、に変なムシがつかなくていいことだと思う。
など、ヴォルが思っているとはは思わず…。

僕は構うの!!いい!ちゃんと誤解はといてよね!」

顔を赤くしながら言うだが、それではさらに誤解が広がるだけだとは気づかない。
普通、同じ性の相手に迫られて、顔を赤くするような人はそういう趣味か両刀か…であろう。
ヴォルをびしっとさしてから、ジニーの横をすり抜け、はその場を去るのであった。
ヴォルとジニーの組み合わせを気にしながらも…。




気に入った存在か…。
グリフィンドールの寮に向かいながらは思う。
ヴォルとルシウス。
同じスリザリン出身の者同士。
彼らにとって気に入った存在とは、子供が玩具を気に入ることと同じようなことではないかと思ってしまう。
何故かと言えば、ヴォルは自分に触れることでそれを愉しんでいるふしがある。
ルシウスに関しては、純血以外には見向きもしないだろうという先入観があるせいか、どうも気に入るといっても玩具のように扱われているとしか思えない。

「この先苦労だけはしそうな気はするんだけどね…」

はふぅ…と息をつく。
ため息をつかずにはいられない。
とぼとぼと寮に向かっていただったが…


「ああ、ここにいましたね、


マクゴナガル先生に呼び止められた。
は立ち止まり、マクゴナガル先生を見る。

「ポッターとウィーズリーには伝えましたけど、処罰が決まりましたよ」
「処罰…?あ、はい、それで……?」
「貴方はフィルチさんやウィーズリーと一緒に、トロフィー室でトロフィー磨きです。もちろん、魔法を使ってはいけませんよ」

使いたくても私には魔法使えませんけど…。
そもそも、魔法使ってトロフィー磨きってどうやるんだろ?

「8時きっかりにトロフィー室に来なさい。いいですね」
「はい、分かりました」

マクゴナガル先生はそれを言ったきり、さっさとどこかへ行ってしまった。
学校が始まれば、教師は忙しいのだろう。

「ウィーズリー君と一緒か」

組み合わせに苦笑してしまう。
ハリーはおそらくロックハートのサイン書きを手伝わされるのだろう。
は、ハリーならともかくロンとはあまり話をすることがない。
いい機会だから、いろいろお話してみるのもいいかな…?
どうも、ウィーズリー君には好かれてはいないみたいだから…。
そう考えながら、は今夜の処罰を少し楽しみにしていた。
普通、処罰は楽しみにするようなものではないということがに分かっているのだろうか。




「くそっ…」

悪態つきながらもトロフィーをきゅっきゅっと磨いているロン。
もすぐ側で別のトロフィーを何故か楽しそうに磨いていた。
二人を見張るようにフィルチが王立ちになって部屋の入り口にいる。
8時きっかりにがトロフィー室に来た時には、もうロンとフィルチはいた。
遅い!と叱られながらも、一枚の布キレを渡されてトロフィーを磨くように指示された。
それは、かれこれ20分前のことになる。

きゅっきゅっ

楽しそうにトロフィー磨きをするをロンは横目で見て、呆れていた。
何がそんなに楽しいんだ?とでも言いたい表情である。

「フィルチさん、次はどれ磨きますか?」
「つ…、次はこっちを…」
「はい、分かりました!」

楽しそうなをフィルチも異様なものでも見るように見ていた。
普通の生徒ならトロフィー磨きなど嫌がるものだ。
フィルチはその嫌がる生徒にネチネチと嫌味を言ったり、もっと綺麗にしろと嫌がらせをするのが少し楽しみだったりするのだが…。
つまり、はフィルチにとっていじめがいがない、…のである。

「何で、君はそんなに楽しそうなんだよ?」

ぼそっとロンが小声で呟く。
その声はには聞こえていたらしく、はロンの方をちらっと見て

「え?だって、自分で磨いたのがピカピカに綺麗になるのって気持ちよくない?」
「……そんなの君だけだよ…。大体マグル式なんて面倒でしかないよ」
「そんなもんかな?僕は魔法界のやり方を知らないから…トロフィー磨きはこういうものだと思うんだけど…」
「そういえば、君はマグル出身だったよね」

うんっとは頷く。
生まれも育ちもマグルである。
話しながらもは磨くことを止めていない。

「箒で満足に空も飛べないなんて…君本当は魔法使いじゃないんじゃないの?」
「うん、そーかもね」
「………なんでそこで頷くんだ……あ、いや、違う……………ごめん」
「うん?」

ロンの言葉をさらっと受け流しただが、いきなり謝られてきょとんっとなる。
何の事?と首をかしげる。
ロンは気まずそうにを見る。

「ウィーズリー君?」
「僕……さ、本当は君にずっと謝るべきだって思ってたんだ」
「何で?」
「だって、いろいろ助けてもらっているのに…去年だってトロールから助けてもらってたのに…酷いこととか言って……」
「酷いこと…?」
「うん、だから………ごめん」

は首を傾げたままだ。
なにについて謝られているのかさっぱり分からない。
別にロンの言う事はいつも正論だと思っているし、そう思っても仕方がないと考えていたから…。

「別に気にしてないから…。ウィーズリー君が謝ることなんてなにもないよ。…それに本当のことだしね」
「…僕さ……ハリーやハーマイオニー…それにフレッド、ジョージまでもが君の友達になりたいって言っているの聞いてて……多分、僕一人置いてかれたみたいだったんだよ」
「う〜〜ん、僕は、ポッター君もグレンジャーも、ジョージ先輩とウィーズリー先輩も友達だって思っているけど?それにウィーズリー君もね」

双子のあのしつこさは実に厄介だが…。
それでも、友として考えればいい友人になるのだろう。


「ありがとう…」


ロンは照れながらも笑みをみせる。
もロンに笑みを返す。

「あ、あの…
「うん?」

話にひと段落つき、トロフィー磨きに集中しようとしただったが、ロンはまだ話したいことがあるようだ。
ロンは言うかどうか迷って、口を開いたり俯いたりしていたが…。

「あのさ…、君ってハーマイオニーのことどう思ってるの?」
「どうって…友達だと思ってるけど…?」
そうじゃなくて!……ほら、好きとか嫌いとかの意味でだよ」
「好きとか嫌いとか……?そりゃ、どっちかって聞かれたら好きだと答えるけど…」
好きなの?!

いや、そんな尋問されるように言わなくても…。
なんか迫力ありすぎるよ…ロン。
なんでまたそんな拘る…
とそこでは思いつく。

「…もしかして、ウィーズリー君って、グレンジャーのこと好き?」
だ、誰があんなガリ勉!!!

ロンは顔を真っ赤にしながら否定する。
その声が大きすぎたのか、フィルチにぎろっと睨まれる。

「何をしている?!!さっさと磨かんか!」

びくっとなり、ロンは声を潜める。

「そんなんじゃないよ。た、ただ、ハーマイオニーは君のことが好きみたいだからどうなのかなって思っただけだよ」
「……ま、いいけどね。僕はグレンジャーの事は好きだけど、それは大切な友人としての意味だよ」

恋愛感情だったら怖いって。
私、ホグワーツでは男でも本当は女なんだからさ。
心の中で苦笑する
の言葉にあからさまにほっとするロン。
これではロンの気持ちはバレバレである。

「何を話している?!!寝る時間を無くしたいのか?!さっさとやれ!」

再度フィルチに怒鳴られ、とロンは顔を見合わせて苦笑しながらトロフィー磨きに集中するのだった。
トロフィー磨きが終わった後は、二人でフィルチへの不満を言い合いながら楽しく寮まで戻った。
ロンは、もっと早くとこうして話していればよかったと思った。
つまらない意地をはっていただけの事に気付いたのだった。