秘密の部屋編 22






はグリフィンドール寮には向かっていなかった。
ルシウスからの手紙を寮で読むわけには行かないだろうと思って、静かな場所を探しているのだ。
去年見つけた隠し部屋でもいいのだが…。

「あれ?ヴォルさん…?」

きょろきょろと見回せば、側にヴォルがいなくなっていることに気付く。
遠くの方まで見回してみれば、かなり先の方に黒猫ヴォルの姿。
は慌ててヴォルを追いかける。
ヴォルはひょいひょいっと、階段を上り廊下をかけていく。
はヴォルを必死で追いかける。
ヴォルが入り込んだのは……

「あ…れ?ここって……」

ゆっくりと歩みを止める

「ヴォルさん…?何でこんなところに?」
「ちょっと気になることがあってな」

はここにくるのは初めてだ。
話は聞いた事はある。
でも、ここにが来る事はない。
なにしろここは、女子トイレなのだから…。
嘆きのマートルのいる……。
ヴォルは、水道の蛇口に近づく。
蛇のシンボルのある蛇口。


「…形跡はない……か」
「ヴォルさん?どうしたの?」

ヴォルはの方を振り向き、ひょいっと蛇口の所から降りる。

「あの記憶の魔力の気配を感じたからな。もしかしたらと思って……」
「記憶の…?リドルのこと?秘密の部屋が開かれたかどうかなんて分かるの?」
「ああ、分かる」

は水道の蛇口を覗き込む。
ここが秘密の部屋の入り口。
パーセルタングでないと開かない。
ぺしぺしっと蛇口を叩いてみる。

「パーセルタングで開くなんて、どういう仕掛けなんだろ?」
「…、お前知ってたのか?」
「うん?何を?」
「ここが入り口だということを、だ」
「うん。ここで、パーセルタングで『開け』って言えば開くんでしょ?」
「そうだが…」

はぁ〜と深いため息をつくヴォル。
をふと見上げ、すぅっと姿を変える。
淡い光に包まれ、光は人の形になり…ヴォルは人の姿に変わる。

「ちょっと、ヴォルさん?なんで人の姿になるの?!」
「お前な……、無防備過ぎだぞ?」
「な、なんでそうなるの?」

ヴォルはをはさむように手をつく。
の後ろは秘密の部屋への入り口の水道。
目の前にはヴォル。

「ルシウスには気に入られる、スリザリンの寮に入る、ここがあの部屋の入口だと分かっていて平気でこの場所にいる」
「でも、それは大丈夫だって分かってるからで!」
「どこが大丈夫だ。…ほら、とりあえずそれ見せてみろ」

ヴォルはの手に握られたルシウスからの手紙を取り上げる。
器用に片手で手紙を開き、内容をザッと読む。
ヴォルの顔が思いっきり顰められる。

「ルシウスに気に入られることもお前の知っていた未来のうちに入るのか?」
へ…?
は未来を知っているんだろう?」
「いや、全て知ってるってわけじゃないんだけど…。少しだけだよ?それに、大体ルシウスさんの件が分かっていたら、その手紙にそんなに拘らないって」

それに、自分の未来なんてには分からない。
の知る未来に、自身はいないのだから…。

「だったら、あまり無防備になるな」
「だ、大丈夫だよ」
の大丈夫はアテにならないな」
「大丈夫だって!それより、ルシウスさんの手紙なんて書いてあったの?」

ヴォルは手紙をの方に向けて見せる。
はその手紙を目で追うように読む。
綺麗な英語の筆記体。
書かれていたのは、3つだけ。


「『ファンダール』『カナリアの小屋』『伝導の書』…って何?」


箇条書きにその3つだけが書かれていた。
には何の事かさっぱり分からない。

「分からなければ自分で調べればいいだろう?」
「調べるって…。あ、ヴォルさんその言い方だとヴォルさんは知ってるんでしょ?教えてよ!」
誰が教えるか。
「何で?」
「それじゃあ、お前はそれが何か知ってどうするつもりなんだ?」
「どうするって…もちろん対策たてるに決まってるじゃない」

ヴォルは思いっきり深いため息をつく。
に見せていたルシウスからの手紙をたたむ。

「対策立てて、見事にルシウスの試練を乗り越えられたら困るんだ」
「何で困るの?」
「お前はルシウスの本当のお気に入りになりたいのか?」
「ホントのお気に入りって……?」
「アイツが気に入ったヤツに試練を与えたりするのは知ってるよな?」
「うん。聞いたよ」

今現在、の状況がそれだ。
まだ、試練らしき事件は起きてはないのだが…。

「アイツが与えた試練を乗り越えれば、アイツはますますお前にこだわるようになるだろうな。まぁ、味方にしておいて悪い奴じゃない、むしろ味方についてくれた方が助かるようなやつだが……」
「気に入られただけで、味方になってくれるような人かな?ルシウスさんって…」
「なる。断言してやる。あの手のヤツは、一度気に入るとなかなか手放さない上に、気に入ったモノに関して手を出されるのを嫌う。どうでもいい相手には損得でしか動かないようなヤツだ」
「随分とルシウスさんのこと理解してるんだね…、ヴォルさん」

意外だと思う。
ヴォルデモートは、部下のことなど駒程度にしか思ってないような気がしてた。
ヴォルとヴォルデモートは違う、ということは分かってはいるが…。

「似てるからな、俺とルシウスの性質は」
「似てる?どこが?」
「気に入った相手に手を出されるのを嫌うとことか、一度気に入った相手に対しての独占欲の強さとかな……」
「へぇ〜、ヴォルさんにも気に入った人とかいたんだ」
「現在進行形でな」
へ?…今もまだってこと?」
「ああ」

は闇の帝王時代に気に入った相手がいたのだと思う。
そして、その相手のことを今でも思っているのだと…。
少し心が痛む
ヴォルのことは大抵知っていると思っていた。
一年以上もずっと一緒にいたのだから…。

「そっか…。知らなかったよ、私。だったら、その人に会いたいんじゃないの?ヴォルさん」
「そうだな、俺はずっとそいつの側にいるって、何があっても俺だけは側にいるって決めている」
「じゃあ…、会いに…いかなくていいの…?こんなところにいないで…」

はヴォルを見上げる。
その表情が少し寂しそうに見えるのは、ヴォルの気のせいではないだろう。
にとってこの世界では、ヴォルが一番身近な存在なのかもれない。
の役目を知って側にいてくれる存在。

、お前が何を考えているのか知らないが…、俺はお前の側にいると決めたし、それを実行してるつもりだが?

ヴォルはの反応に満足したように微笑み、をゆっくりと抱きしめる。
右手での頭を抱え、左腕で腰を抱き寄せる。
はヴォルの言葉に驚き、抵抗もせずにおとなしく抱きしめられる。

「俺はずっとお前の側にいる。その分、他のヤツがお前に近づくのは嫌だと思うし、妨害もする。ルシウスなんぞに気に入られたら面倒なるに決まっているだろう?」
「え…と、あの…、ヴォ、ヴォルさん?」
「セブルス=スネイプとの噂のことも気に入らんが、が学生でいる間、アイツの助けはあるに越したことはない」
「教授との噂って…、だって、ヴォルさんあんなの嘘だってわかってるでしょ?」
「嘘だと知っていても、気に入らない事はあるさ。言っただろ?俺は独占欲が強いんだってな」

ヴォルはの首筋に顔を埋める。
そのまま、首筋に唇をあてて吸い付く。

ひゃっ…!ヴォ、ヴォルさ…?!」

抵抗しようとするだが、抱きしめられたままの状態でヴォルの体はの力ではビクともしない。
は顔を赤くしながら、ヴォルの唇の感触を首筋に感じていた。
そこに気持ちが集中ししまうせいか、よりリアルな感触が伝わってくる気がする。
ようやく唇を離したヴォルは満足そうにを見る。
顔を真っ赤にしたの額に自分の額をこつんと当てる。

「ヴォ、ヴォルさん…い、いまの……?」
単なる所有の印。
「しょ、所有の印って……?!」
「見たければ鏡で見るか?一応、見えるか見えないかギリギリのところにつけたが…」

見るか?って、つけた場所とかが問題じゃなくて!
印って、それってつまりキスマークな訳?!
何で?!
それに独占欲が強いって、何の関係が…。
そこまで思ってようやく気付く
顔をさらに赤くする。

「ヴォルさん…?」
「何だ?」
「あの、ヴォルさんが気に入ってる相手って……もしかして………」
「もしかして?」
「………私、……とか言わないよね?」
「今更気付いたのか?」

しれっと肯定するヴォル。
しかし、つい最近への自分の気持ちに気付いたヴォルにはあまり言われたくない言葉である。
どっちもどっち、お互い様。

「わ、私…、何で?…え?どこが…?」
「そういう自覚がないところも、気に入ってるけどな」

ヴォルは、の唇に軽くキスを落とす。
一瞬触れるだけのもの。

「ヴォ、ヴォルさん!」

抗議するの頭をヴォルは自分の胸に押し付ける。
抱きしめる力をさらに強くする。
どこに行かせまいとでもするように…。

「本当は……閉じ込めておきたいくらいだがな……」
「え?何?ヴォルさん?何か言った?」
「…いや」

は困っていた。
ここ最近、特に人の姿になると、ヴォルはスキンシップが多い気がする。
イギリスではこれが当たり前なのかと思った時期もあったが、同じ同居しているリーマスはそこまでしてこない。
気に入った相手…か。
それってどういう意味なんだろ…?
キスとかしてくるし…。
恋愛感情とか……は、なんかヴォルさん相手だとピンと来ないし……。
ヴォルに抱きしめられままで考え込んでいたの耳に


ばさっ


なにか本が落ちたような音がした。
音は、ヴォルの後ろの方から。
はヴォルの肩から後ろを覗き込み、ヴォルはを抱きしめた腕はそのままで顔だけで後ろを見る。
そこには、驚愕の表情で立つ、ジニー=ウィーズリーがいた。