秘密の部屋編 21
ドラコを待つために、はスリザリン寮の入口に立っていた。
暫く、心を落ち着ける為にその場でぼぅっとしていたので、ドラコを完全に見失ってしまった。
震えがなくなった頃に移動しようとしたのだが、寮の前で待っているの方がすれ違いもなくていいだろうと思って、ここにいる。
くぃ
突っ立っているのローブを誰かが引っ張る。
下のほうを向けば、のローブの端を咥えたヴォル。
「ヴォルさん…?」
珍しくグリフィンドール寮の外で会うヴォルに吃驚する。
大抵、ヴォルは寮で大人しくしてくれているのだが…。
はヴォルに視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「どうしたの?何かあった?」
「それをお前が言うのか?」
「え?何で?」
ヴォルははぁ〜と深いため息をつく。
「昨日の夜から戻ってこない。その上、外を探してみれば、クィディッチ競技場で飛んでいるお前が見えた。………どういうことだ?」
低い声。
かなり機嫌が悪いとみえる。
心配掛けちゃったかな?と思う。
「はは、いや、いろいろと事情がありまして…」
「ほぉ…。事情、な、まぁ、いい」
「いいの?…珍しい。ヴォルさん怒ると思ったのに」
「そう思うという事は、少しは悪いという気持ちはあるのか?」
「うん、少しは…」
「少しだけ、か。…後で存分にお詫びはしてもらうからな」
にやりっと笑みを浮かべるヴォルに、嫌な予感が突き抜ける。
こういう時のヴォルの考えていることは、にとっては嬉しくないことだったりする。
思わず顔を顰めてしまう。
「何してるんだ??」
しゃがみ込んで猫と向き合っているに声をかけたのは、の待ち人のドラコ。
どこか不機嫌そうな表情なのは、先ほど負けたからなのか。
は、ひょいっと立ち上がる。
「マルフォイ君を待ってたんだよ。ルシウスさんの手紙の件でね」
「ああ、そういえば、そんなこともあったな…。来るか?」
「いいの?」
「…グリフィンドールの制服でスリザリン寮の中に入ってこれる度胸があるならな」
「あ、その辺全然気にしないから平気」
ぱたぱたと手を振る。
ドラコは不機嫌そうな表情のまま、寮の入り口に向かう。
はそれに黙ってついていく。
その後に、ヴォルも続く。
「気高き者達」
ドラコが合言葉を言うと、スリザリン寮への道が開ける。
気高き者達って…スリザリンらしいというかなんというか。
まぁ、「純血」とかが合言葉じゃないだけましなのかもしれないけど…。
は、何も気にせずにスリザリン寮の中に入っていく。
ドラコは談話室へとまず向かった。
初めて入るスリザリン寮には周りをきょろきょろする。
グリフィンドール寮は、イメージカラーが赤のせいか明るく温かい感じがする。
その分、夏などは暑苦しいのだが…。
対するスリザリン寮は、イメージカラーは緑。
寮の雰囲気も涼やかというか落ち着いた感じがする。
「あら?じゃないの。スリザリン寮に来るなんてどうしたの?」
談話室に入れって、は声を掛けられた。
声の主をみれば、それはスリザリン5年、シェリナ=リロウズ。
先ほどクイディッチ競技場でも会った彼女だ。
「マルフォイ君が僕宛の手紙を預かっているので、取りに来たんですよ」
「ドラコが?ルシウス小父様からの手紙だったりするのかしら?」
「はい、よく分かりましたね」
「検討はつくわよ。どう?少しここで話でもしない?」
「え?でも…」
はちらっとドラコを見る。
ドラコは肩を竦め
「僕は手紙を取ってくる。それまでシェリナと話でもしていたらどうだ?ついでにスネイプ教授との噂のことでも聞けばいい」
さっさと自分の部屋のあるほうへと歩いていってしまった。
さっそくというように、はシェリナに引っ張られる。
スリザリンの談話室のソファーに座らせられる。
座ったの膝の上にひょいっとヴォルが乗ってくる。
「ヴォルさん、ついてきたんだ…」
はヴォルがここまでついてきたことに驚く。
ヴォルは顔を顰め「悪いか」と、視線で訴える。
「綺麗な猫ね」
シェリナの言葉にふと顔を上げる。
の目の前にはシェリナだけでなく、彼女の友人と思われるスリザリンの女生徒が3人。
興味深くを見ている。
は、シェリナに綺麗といわれたヴォルに視線を移すが、ヴォルはふいっと顔を背けていた。
愛想のない…。
まぁ、ヴォルさんに愛想なんてあったら……といっても、学生時代は愛想ふりまいていたらしいけどさ…。
「やっぱり、納得だわ」
「噂も分かる気がするわよね」
「美少年と黒猫っていうのも結構萌えよね」
「でしょう?」
をじろじろ観察する彼女達の意見に、嬉しそうに頷くシェリナ。
「あの…何が?それに噂って何なんですか?」
セブルスとの噂の内容をは知らない。
その言葉にシェリナが嬉しそうにを見る。
「教えてあげるわよ」
にっこりと微笑むシェリナ。
「スネイプ先生と貴方って、仲がいいじゃない?」
「仲がいいと解釈できるようなものでもないような気がしますが…」
「あら、でも、私達からみればスネイプ先生は貴方にだけは優しいように見えるわよ」
「そうですか?」
「そうよ、ね?」
シェリナは後ろにいる友人達に同意を求める。
彼女達も頷く。
「スネイプ先生が貴方だけに優しいのは、実は貴方はスネイプ先生の…」
「教授の?」
「隠し子とか」
「は…?」
「もしくは、恋人とかv」
「へ?」
…………
ちょっとまって。
隠し子って噂は年齢的に分かるとしても…いや、そもそも私と教授って髪の毛の色くらいしか似てないのに…。
けど、それよりも!
「こ、恋人って…、僕、男なんですけど…」
「そんなこと分かっているわよ。でも!!!禁断の愛!生徒と教師!萌えるわ〜」
「は、はぁ…」
ぎゅっと拳を握り締めるシェリナ。
…つまり、リロウズ先輩はいわゆる…あれってことなんですね。
そりゃ、確かに私もこれが自分に降りかかっていることじゃなくて、第三者の立場だったから楽しかったかもしれないけど…。
「でも、噂は噂ですよ」
「あら?じゃあ、どうしてスネイプ先生は貴方にだけ優しいの?」
「別に僕だけにじゃないと思いますけど…。教授は優しい人ですよ」
「そんなこと言うの貴方だけよ?自覚ないの?スネイプ先生はやっぱり貴方だけに優しいわ。だから、スリザリンの女子生徒達は、貴方が嫌いなのよ」
「リロウズ先輩もですか?」
「あたしは別。確かにスネイプ先生は素敵だと思うわ。でも、のことも好きよ」
「僕…も?」
「ええ。あのスネイプ先生に優しくされるグリフィンドール生なんて、とても興味があるわ」
にこっとに微笑むシェリナ。
その笑みは、狡猾なスリザリンらしく何かを企んでいるように見える笑み。
とセブルスの噂を楽しむだけでなく、何かを考えているような…そう、あのルシウスと似たような笑みだ。
ははぁ〜とため息をつく。
「ところで、」
「なんですか?」
「ルシウス小父様に何したの?」
「ですから、何もしてませんって。ただ、ちょっとノクターン横丁でばったり会っただけで…」
「ノクターン横丁で?!」
「え、ええ…」
思いっきり驚いた様子のシェリナ。
ノクターン横丁は闇の魔法使いが数多くいる、闇の濃い場所。
普通の魔法使いでさえ、平然と歩けるようなところではない。
はそれを知識としては知っているものの、理解はできないようだ。
まぁなにしろ、魔法界で一番良くいくところがノクターン横丁だったのだから仕方ないといえば仕方ないのかもしれないのだが…。
「それって、偶然に迷い込んだところに出会ったとかなの?」
「ええ、そうです。ちょっとフルーパウダーでの移動に失敗しちゃって…」
「変ね…、いくらノクターン横丁とは言っても、迷い込んだだけで小父様に気に入られるなんて」
「ですよね?」
「それだけじゃないからだろ」
ぽすんっとの頭に何かが置かれる。
手紙を持って戻ってきたドラコが、手紙での頭を軽く叩いたのだ。
シェリナは興味深そうな視線をドラコに向ける。
「それだけじゃないって、どういうこと?ドラコ」
「たまたま初めて迷い込んだようなヤツが、父上のお気に入りの店の店主と仲良く話したりするか?普通?」
「小父様のお気に入りの店って「ボージン・アンド・バークス」?」
「そうだ」
「、貴方、ボージンの知り合いか身内か何かなの?」
シェリナはをじっと見る。
は頭に乗せられた、ドラコからの手紙を受け取りながら首を横に振る。
「知り合いではありますけど、身内ではありませんよ」
「どういう知り合いなの?」
「それは僕も気になるな」
どういうもなにも。
「ただの店主と客という知り合いですけど…」
がとってきたものを、ボージンの店で売る。
ボージンはそれを鑑定し、買い取る。
はあまり買う事はなく、大抵売る方である。
あの店からすれば、は仕入先にあたるのか。
「店主と客ね…、あの闇が濃い店の客なんて、貴方はやっぱり興味深いわ。成る程、ルシウス小父様が興味持つのが分かる気がするわ」
「ただの店主と客の割には親しかった気がするが…、まさか、常連ではないだろ?」
「まさか!去年、入学前に少しお世話になっただけだよ」
入学の資金稼ぐ為に。
と心の中で呟く。
は立ち上がり、とにかくこの場から逃げようと思う。
追求されては面倒なことになりそうで困る。
「じゃあ、僕は手紙ももらったし、行くね」
「あら、ゆっくりしていきなさいよ」
「いえ、流石にスリザリン寮にグリフィンドールの制服では目立ちますから」
何より、ドラコたちはともかく、他のスリザリン生達の視線は痛い。
何故、グリフィンドール生がここにいるのかというような視線。
興味深い好奇心の視線と、睨むような視線。
「失礼します」
「また、今度ゆっくり話しましょう」
「あ、はい」
一応、シェリナの言葉に頷く。
彼女はに対しての態度が好意的だ。
だから、自身もシェリナに対して好意的になれる。
にこっと笑みを向けて、はスリザリン寮の出口へと向かった。
についていくヴォルが、ちらりっとシェリナを見て、顔を顰めたのに気付かずに…。