秘密の部屋編 20
勝負はクィディッチで。
しかし、ここで問題発生。
グリフィンドールのシーカーであるハリーは、ハーマイオニーと一緒にロンを連れてハグリッドの小屋に行ってしまったのだ。
「がシーカーやってよ!」
「僕が?!何言ってるんですか!僕の飛行訓練の成績は散々なんですよ?」
ジョージの提案には反対する。
だが、グリフィンドールで反対するのはだけのようである。
彼らは去年がみせた、あの素晴らしい飛びっぷりを覚えている。
「大体、僕は箒も持ってないですし…」
「箒ならある!」
ジョージが指したのは、授業で使うボロボロの箒。
以前、が彼らの前で素晴らしい飛行を見せた時もあれと同じ箒だった。
はその箒に近づいてその中の一つを手に取る。
「!やろう!」
「……仕方ないですね…」
「さすが、!そうこなくちゃね!」
「でも!僕はあくまで数合わせですからね!期待しないで下さいよ!」
「大丈夫さ!皆君がマルフォイなんかに負けないって思っているから!」
全然大丈夫じゃないし…。
期待しないでって言ってるのに、本当に聞いているのか?
はふぅ…とため息をつく。
ボロボロの箒を手に取り、スリザリンチームと対峙するために向かう。
とりあえず、ローブを脱いでその辺において置く。
制服なのはだけだ。
グリフィンドールとスリザリンチームが並ぶ。
は丁度ドラコの向かい。
「飛べないヤツをチームに入れてどうするんだ?」
「は飛べる!君なんかよりも上手にね!」
「の飛行訓練の成績を知らないからそんなことをいえるんだな」
「君こそ、の飛び方を見たことないからそんなこと言えるんだね」
見下すような笑みを浮かべたドラコに、丁度の隣位置に立っていたジョージが言い返す。
としては、ドラコの意見に賛成したいものだ。
飛行訓練の授業で、は一度も飛べてないのだから…。
先生からはスクイブなのでは…と心配されもした。
「僕はただの頭数あわせだから、マルフォイ君。飛べなくても気にしないでね」
「そうだな、精々、邪魔にならないところに立っているといい」
「そうするよ」
がそう答えたのが合図かのうように、選手達はそれぞれ箒にのって浮き上がる。
スリザリン選手達は、ニンバス2001を自慢するかのように綺麗に浮き上がる。
グリフィンドール選手達も負けじと飛ぶ。
は迷っていた。
試合が終わるまでここでぼぅっと突っ立っていては危ない。
しかし、箒で飛ぶとなるとあの力を使わなければならない。
昨日、力の使いすぎか、使い方が悪かったからなのかは分からないが、倒れてしまったばかりなのだ。
ここにヴォルがいれば絶対に反対しただろう。
かちんっと音がして振り向いてみれば、スリザリンのリーダーのフリントが魔法でブラッジャーとスニッチの入ったカバンを開けていた。
ブラッジャーが飛び上がり、スニッチがどこかに素早く飛んでいった。
回収はどうするんだろ…と思うだったが、悠長に考えている暇はないようだ。
試合は始まっていた。
「仕方ない…」
頭数あわせとはいえ引き受けた手前、ぼぅっとしているわけにはいかない。
それにいつ又ブラッジャーが飛んでくるとも限らないし。
は箒に跨り、小さく呟く。
我が意のままに…と。
ふわりっと空高く浮き上がる。
「ん〜…、気持ちいい…」
風を体中でいっぱいに感じる。
が飛べたことにドラコが驚いた表情をしているのが見えた。
スリザリン選手達とグリフィンドール選手達の間をすいすいっと抜け、高く上がる。
下を見下ろし、スニッチを探す。
「ハリーみたいに、上手く見つけられればいいんだけどね…」
ふぅっと息をつき、目を凝らす。
ドラコがこちらに向かってくるのが見えた。
「飛べるじゃないか、。間違っても落ちるなよ」
「努力はするけどね…」
「何だその返事は…、張り合いがないな…」
「そうは言っても、僕は飛ぶこと自体が初心者なんで、クィディッチなんて……」
「まぁ、いいけどな…。でも、負けたら恐らくシェリナにスリザリン寮へ連れてかれるぞ」
「何で?」
確かにこの試合のきっかけはの噂のことだ。
を取り合いに決着をつけるためクィディッチでの勝負となったようなものなのだが、本人にその自覚はない。
ただ、グリフィンドールとスリザリンの仲が悪いから勝負にもつれ込んだだけだと思っている。
「シェリナを初め、あの噂を”楽しんでいる”スリザリン生もごく一部いるからな…」
「だからその噂って何?」
「知らない方がいいと言っているだろう?」
「でも、気になるって言ってるよね?」
ドラコはの答えに顔を顰める。
本人を思って話さないドラコなのだが…。
「勝ったら教えてやってもいいぞ」
「ほんとに?」
「僕が約束を破るとでも?」
「うん、破ると思ってる。」
「!!」
だって、去年、ハリーに勝負ふっかけておいて、その場所に来なかったはずだし。
まぁ、狡猾さをみせたと考えればそれまでだけど…。
「冗談だって、マルフォイ君。それじゃあ、その噂を教えてもらうために……頑張ろうかな」
にっと挑戦的な笑みを見せる。
一瞬あっけにとられたドラコだが、すぐにを見下すように見る。
相手を見下す視線はどんな時でも変わらないようだ。
それが、ドラコのいい所なのか、悪い所なのか…。
「飛ぶのすらやっとの君が僕に勝てるか?」
「さぁ、どうだろうね。でも、マルフォイ君。自分が優位だと確信している時こそが危ないんだよ。…油断は命取りってね」
ぐっとは箒を握り締め、ぐんっと高度を一気に下げた。
ドラコからみれば、丁度目の前のが消えたように見えただろう。
はっとして下を見れば、何かにめがけて飛んでいく。
の先には金色に光るスニッチ。
ドラコは、遅れをとるまいとするように自分もスニッチに向かう。
金色のスニッチ目指してかなりのスピードで飛ぶ。
その表情は平気そうに見えるが、心の中はかなりドキドキものだ。
手には緊張からか汗まで…。
スニッチのみに集中。
吹きぬく風も、ブラッジャーも、障害物も、なんでもないようにするりっと抜けていく。
ドラコが後ろから追いかけてくるのも気にすることなく、は集中していた。
もっと、早く!!
のスピードが上がる。
そのスピードにドラコは驚く。
はっきり言って、授業で使うボロ箒が出せるようなスピードではない。
それは、の力だからこそできること。
の力には箒の持つ性能など全く関係がない。
金色のスニッチに手を伸ばす。
あと少し……そして……
捕らえた!!
はスピードの勢いを殺すように体の向き上の方に変える。
丁度箒を立てて、飛んでいるような感じになる。
急なブレーキに体への抵抗もかなりモノだが、堪えられないほどのものじゃない。
なんとか止まり、ゆっくりと箒から降りる。
ふぅ…
軽くため息をつく。
手の中には、スニッチがおさまっている。
「「!!」」
声のした方をみれば、双子がこっちに向かってくる。
いかにも飛びつきそうな感じで…。
がばっとに抱きつく予定だった双子は、がひょいっと避けた為に地面と激突する羽目になった。
「ひどいや、」
「よけることないだろう…?」
「普通避けますって」
「には僕らの親愛の情が分からないのかい?」
「そう!僕らはこんなに感激しているのに!!」
感激するほどのことでも…。
「やっぱり、はすごいや!」
「君は選手になるべきだということがこれで証明されたね!」
「あ……」
言われて初めて気がついた。
これでは、飛行訓練での劣等性ぶりが無駄になってしまう。
……これもマグレで済まそう、うん。
心に決める。
「ほら、見てみなよ」
「スリザリンの連中が負けたから競技場での練習は諦めたようだね」
「当然さ、あのの箒さばきを見れば!」
「スリザリンのドラコ=マルフォイが練習なんかしても無駄だってね!」
「いや、あの……シーカーはポッター君で、僕は選手じゃないんだけど…」
「まだそんなことを言っているのかい?!」
「大丈夫さ!僕らが先生を説得してを選手にしてみせるから!」
「「そう!どんな手を使っても!!!」」
は頭を抱えた。
厄介だ、実に厄介だ。
この双子の相手は…。
でも、にしてみれば、飛行訓練で箒に乗って飛べることを証明するつもりなどない。
授業で最低の成績を続ければ、いくら双子の脅し…もとい推薦があろうとも、マクゴナガル先生が許可しないだろう。
「じゃあ、僕は行くから…」
「何言ってるんだい、!」
「選手候補なんだから、ちゃんと練習しないと!」
「いつ僕が選手候補になりましたか!それに、僕はマルフォイ君に用があるんです」
競技場から出て行こうとするドラコ初めスリザリン選手達。
は、手に持ったスニッチと箒を無理やり双子に押し付ける。
双子の厳しい追求よりも何よりも、やはりルシウスからの手紙が気になる。
「練習頑張ってくださいね!ジョージ先輩!ウィーズリー先輩!」
まだ何か双子が叫んでいたようだが、無視してドラコを追いかけるように駆けた。
競技場が見えなくなったところでは歩みを止める。
立ち止まり、壁に寄りかかる。
手を目の前で、握ってみる。
震えているのが分かる。
「さすがに怖かったかもしれないね」
恐怖という感情は自分の中にはなかった。
それでも、下手をすれば地面にたたきつけられてもおかしくないような飛び方をした。
握る手は汗ばみ、震えていたのだった。