秘密の部屋編 19
「どうして、スネイプ教授の部屋にいたんだ?」
グリフィンドール寮へ向かうと、クィディッチ競技場へ向かうドラコ。
途中までは一緒の方向なので並んで歩いている。
まだ、周りに生徒は誰も見当たらない。
「あ、それはね…。昨日、僕、授業中に熱出して倒れちゃったんだよね」
「熱…?父上の仕業か?」
「いや、多分違うと思うけど……」
辿っていけばルシウスのせいにもなるかもしれないが…。
なにしろ、あの時ピクシーに魔法をかけたのはドビーらしき屋敷しもべ妖精なのだから。
ドビーはマルフォイ家に仕えているはずである。
「そうか…。それならまだこれからなんだな…」
「嫌なこと言わないでよ」
「仕方ないだろ、それだけ哀れなものだからな…、父上に気に入られるということは…」
「でも…、ほんとに僕なんかが気に入られてるの?」
「それは確実だ。ああ、そうだ、父上から手紙を預かっているぞ、君宛の」
確実って、おもいっきり肯定しないでほしい。
「僕宛の手紙…?なんでマルフォイ君が預かってるの?」
「さぁな…。一応、父上には手紙で、に何かするつもりなのか?と書いたが…」
「マルフォイ君、その質問ストレート過ぎだよ……」
もう少し遠まわしに尋ねるとか、探りを入れる事はできないのだろうか?
仮にも狡猾なスリザリン生だというのに…。
いや、さらに狡猾においてはヴォルさえも一目おくルシウス相手に頭脳戦を仕掛けるなど無謀かもしれない。
何しろ、ドラコはまだ12歳の子供なのだから…。
「それでも、ニンバス2001についての手紙についでで書いただけなんだが…」
「で、その手紙って…?」
「今は僕の部屋だ。まさかがスネイプ教授の所にいるとは思わなかったからな」
「あんまり言いふらさないでね。グリフィンドール生がスリザリン寮監の所にいるなんて絶対変に思われるから…」
「別に気にしなくても去年散々スネイプ教授にお世話になっていたらしいから、今更だろ」
「そうだね…って、何でそんなこと知ってるの?!」
「有名だぞ?特に、お前スリザリンの女生徒達にはすこぶる評判悪いからな」
「は…?」
「スネイプ教授はスリザリンの女生徒には人気があるらしいからな、取り入ろうとしているが気に入らないんだろう」
「…はは、そういうことね。でも、なんで女生徒だけ…?」
スリザリン生から、疎まれるのなら分かる。
女生徒だけに限定されているのは何故か。
「さぁな、僕には分からないが、女はそいうことにかなりしつこいらしいからな。憧れのスネイプ教授に近づくのは、スリザリン生以外は気に入らないんじゃないか?一部では変な噂も流れているが…」
男の子は意外とさっぱりしていることが多い。
セブルスに近づくのことは良くは思わないが、女生徒ほどあからさまではない。
「変な噂って何?」
「…いや、聞かない方がいいと思うぞ」
「何で?気になるよ」
「知りたいなら勝手に調べればいいだろう」
「うん、そうだね」
その噂については気になったが、たいした問題ではないと思い、あとで調べればいいと思う。
スリザリンの女生徒達にべつに疎まれていてもには支障はないことだし。
「それで、、手紙はどうする?僕はこれからクィディッチの練習だが…」
「あ、待ってるよ。マルフォイ君の練習終わるまで。だって、ルシウスさんからの手紙なんてすっごく気になるし!」
幸い今日は授業がない日。
だからこそ、朝からクィディッチの練習ができるのだが…。
グリフィンドール寮に戻るつもりだっただが、ドラコについていくことにする。
ドラコは箒の置いてある場所へと向かう。
そこでクィディッチ用のユニフォームにも着替えるのだ。
もその後をとてとてとついていく。
「僕は着替えるけど…」
「うん、待ってるよ」
「…騒ぎを起こすなよ」
「起こさないよ、失礼な」
ぱたんっと着替える部屋の中に入っていくドラコ。
は外でぼうっとしながら待っていた。
ここはスリザリン生のクィディッチ用の部屋がある場所なのである。
つまり、グリフィンドール生は殆ど来ない。
ちらほらいるスリザリン生に睨まれてもは全く気にしていなかった。
しばらくして、パタンと扉が開かれる。
最初に出てきたのはドラコではなかった。
かなり体の大きい上級生…とは言ってもの実年齢を考えれば年下なのだが…だった。
「グリフィンドール生が何の用だ?」
思いっきり顔を顰めて、そして見下すようにを見る。
は特に嫌な顔もせずににっこりと笑みを見せる。
「マルフォイ君を待っているだけですのでお気になさらず」
「ドラコを…?グリフィンドールの穢れた血が…ドラコに何の用だ?」
「マルフォイ君が僕宛の手紙を預かっているそうなんで、クィディッチの練習の後にそれをもらうことになっているんですよ。フリント先輩?」
は彼―マーカス=フリントを覗き込むように見る。
クィディッチの試合は見たことないが、遠目で彼の姿を見た事はある。
ウッドとたまに対立していたのを…。
スリザリンチームのキャプテン、マーカス=フリント。
「お前のようなヤツに先輩呼ばわりされたくはな…」
「なにやってるの?マーカス?」
ひょこっとマーカスの後ろから顔を出してきたのは、気の強そうな顔立ちの少女。
彼女はに気付き、驚いた表情を見せる。
「あら?=じゃないの。どうしたの、こんなところで…」
「僕のこと知っているんですか?」
「勿論よ」
ふふっと意味ありげな笑みを浮かべる彼女。
クィディッチ用のユニフォームを着ていることから、彼女もスリザリンのチームメンバーなのだろう。
でも、は彼女に見覚えがない。
「シェリナよ、シェリナ=リロウズ。スリザリン、5年生よ」
「あ、はじめまして、=です。リロウズ先輩」
ぺこりっとお辞儀をする。
お辞儀をしたを不思議そうに見るシェリナ。
イギリスにはそういう習慣がないからであるのだが…。
しかし、スリザリンの女子生徒には嫌われていると思っていたが、彼女は友好的に見える。
「貴方とは一度、会って話をしたかったのよ。ねぇ、スネイプ先生との噂って本当なの?」
「教授との噂…ですか?僕、その噂のこと知らないんですが一体どういう内容なんですか?」
「知らないのね…。あの他寮の生徒には厳しいスネイプ先生が貴方にだけは優しいのは、実は…。」
「シェリナ!」
に話そうとしたシェリナをとがめるような声。
シェリナの後ろでドラコが睨むように立っていた。
スリザリンのユニフォームに着替え終わったようである。
手にはニンバス2001。
「に余計なことを吹き込むな」
「あら〜、ドラコ。もしかして貴方もスネイプ先生のお仲間なのかしら?」
「噂は噂にしか過ぎない。僕もスネイプ教授もそんなんじゃない」
「そう…?つまらないわね…。ルシウス小父様なら噂が嘘でものってくれそうなのに…」
「父上と一緒にしないでくれ……。」
疲れたような声を出すドラコ。
は噂の内容を知らないので何の事なのかさっぱり分からない。
「ねぇ、マルフォイ君。その噂って何…?」
「知らない方がいい。聞いても不愉快になるだけだ」
ドラコはシェリナを押し出すように先に進ませる。
これ以上余計なことを言わせないようにと。
「マルフォイ君って、リロウズ先輩と知り合いなの?」
「シェリナか?リロウズ家といえばかなりの名家でマルフォイ家とも付き合いが深いからな」
「じゃあ、純血?」
競技場に向かうドラコについていくようにも隣を歩く。
ちらっとがシェリナを見れば目が合う。
にっこりと微笑まれ、驚いて目を開いてしまう。
疎まれているようにも思えないし、嫌われているとも思えない。
これで、の事が嫌いなら相当の演技上手だろう。
「ええ、あたしは純血よ。貴方は?」
「僕はマグルですよ」
「そうなの?ドラコにしては珍しいわね…、純血じゃない相手と一緒にいるなんて…」
ちらっと何か言いたそうにドラコを見るシェリナ。
ドラコはむっとして黙ったままである。
「あ、違うんですよ。マルフォイ君は僕に同情してくれるだけで…」
「同情?ドラコが?それこそありえないわ。」
「いや、マルフォイ君が同情するほどのことがあったわけでして…」
「ドラコが同情するほどって…、ルシウス小父様に気に入られたわけでもないでしょう?」
はその言葉にひつった笑みを返すだけである。
その通りだとは言えまい。
「まさか…、ルシウス小父様のお気に入りなの?貴方」
「はは…」
「そのまさかだ、シェリナ」
ドラコがシェリナの言葉を肯定する。
驚きの表情をするシェリナ。
それほど珍しいのだろう、ルシウスに気に入られるという事は。
「貴方、ルシウス小父様に何をしたの?気に入られるなんて…」
「僕は何もしてませんって。何で気に入られたのかも分からないんですから…」
「小父様が何の理由もなしに気に入ったりはしないはずよ。…でも、大変ね…、あのルシウス小父様に気に入られるなんて…」
ふぅ…とため息のようなものをつき、を見るシェリナ。
同情されているかもしれないようである。
そこまで酷いものなのか…と不安になる。
そうこうしているうちに競技場につく。
競技場にはすでにグリフィンドールの選手達が集まっていた。
赤いユニフォームを着ているのが見える。
「じゃあ、僕は競技場の外で見学してるから…」
「あら、いいじゃない。近くで見ててなさい」
競技場の中に入るのをやめようとしたの腕をひっぱり、強引につれていくシェリナ。
振りほどこうとするが思ったよりも引っ張る力が強い。
思いっきり振り払うには、相手は女の子だし…と思ってしまう。
ぐんぐんとグリフィンドールチームに近づく。
そこには選手達の他に、ハーマイオニーとロンもいた。
どうやらハリーの練習の見学に来たようだ。
ウッドがこちらに気付き、怒った表情で向かってくる。
「フリント!何のつもりだ?!」
スリザリンキャプテンのマーカスに怒鳴りつける。
マーカスはウッドを見下すよう笑みを浮かべる。
「別にいいだろう?競技場は広いんだ」
「駄目だ!ここは僕らが先に予約していたんだ!」
「だがな、こちらにはスネイプ先生が特別に許可までしてくれたんだ」
「スネイプ…?」
セブルスの名前を聞いて顔をしかめるウッド。
マーカスはドラコの方に視線を向け、見せてやれとでもいうように顎で示す。
ドラコはセブルスから渡されていた紙をみせる。
「『私、スネイプは、本日クィディッチ競技場において、新人シーカーを教育する必要があるため、スリザリンチームが練習することを許可する』」
ドラコは読み上げる。
は、一人称は我輩じゃないんだ…と思っていたりした。
ちらっとグリフィンドールのチームを見れば、ウィーズリーの双子とハリー、ハーマイオニー、ロンがこちらを見ているのが分かった。
ロンはを睨み、ハリー達はがここにいることに驚いていた。
「僕が新しいシーカーだ。父上が皆に新しい箒まで買ってあげたんだ」
自慢げにニンバス2001を見せ付けるドラコ。
グリフィンドールの面々は驚いたように、しかしどこか羨ましそうにそれを見る。
スリザリンチーム全員がニンバス2001だ。
「でもさ、マルフォイ君。新しく性能のいいものもいいけど、今まで使っててなじんでいたものの方がよくない?」
「それもそうよね…」
ぽつりっと呟くに同意したのはシェリナ。
自分の持つニンバス2001を眺める。
ドラコはむっとした表情でを見る。
「何だ?、父上が買ってくださったこの箒にケチつける気か?」
「別に、ケチつけてるわけじゃないけど、使い慣れてないのって危なくない?」
「ニンバスを使いこなせないような選手など、スリザリンにはいないさ」
「自信過剰……ま、箒の力で強くなったなんて思われないように頑張ってね」
肩を竦める。
の言葉にますます機嫌が悪そうな表情になるドラコと、フリント達スリザリン選手。
ただし、シェリナを除く。
「当たり前だろう?ボロ箒しかないグリフィンドールなんかには負けないさ」
ドラコはちらっとグリフィンドール選手達を見る。
スリザリン選手達はそうだと言うようにグリフィンドールチームをあざ笑うかのように見る。
グリフィンドールチームはスリザリンチームを睨む。
そこへ、ドラコの言葉に反論するように言ったのはハーマイオニー。
「あら、でも、グリフィンドールの選手はそんな立派な箒がなくても勝てる実力を備えているわ。箒の力に頼らなくてもね」
きっぱりとドラコに向かって言い切る。
そう言われては不機嫌になるしかないドラコ。
「君はクィディッチとは無関係だろ?でしゃばるなよ、穢れた血が…」
その言葉でグリフィンドール選手達が反応した。
怒ったようにこちらを見る。
ハリーだけは何の事か分からないようにおろおろした様子だ。
ウィーズリーの双子がドラコに襲いかかろうとする。
けど、それより早くロンが動いた。
「マルフォイ!!ハーマイオニーに謝れ!」
「何で僕が…、だって本当のことだろう?グレンジャーは穢れた血だ。魔法界に相応しくない…な」
「なんだと?!!マルフォイ!!!」
ロンは怒りで杖を振り上げる。
ハーマイオニーに対する暴言が許せなかったのだろう。
魔法を使おうとするが…
ぱぁぁぁん!!
魔法を使った方のロンの体が吹き飛ぶ。
ハーマイオニーはロンの方に駆け寄る。
ロンは苦しそうに口元に手をあて………ナメクジを吐き出した。
ぼたぼたっとナメクジがこぼれおちる。
「ロン!ロン!大丈夫?!」
「ハーマイオニー、ハグリッド、ハグリッドのところに行こう!」
ロンの元に駆けつけたハリーはそう言い、ロンに肩をかす。
ハーマイオニーも反対側からロンを支えてハグリッドの小屋のほうに向かっていった。
スリザリン選手達は、その様子を笑いながら見ていた。
ロンはドラコにナメクジの呪いをかけようとしたのだろう。
しかし、ロンの杖はまだ折れたものを無理やりテープでつなぎとめたもの。
ちゃんとした杖でないから、魔法が暴発したのだろう。
「笑いすぎだよ、マルフォイ君」
まだ、爆笑のさなかのドラコに忠告する。
グリフィンドールの選手達がこちらに飛び掛りそうなほど怒っていることを忘れてはいけない。
「!何で君がそっちにいるんだ!!」
ドラコの丁度隣に立っている。
がいるからドラコには飛びかかれないウィーズリー双子の片割れジョージが叫ぶ。
ドラコをぎろっと睨んだまま。
「何でって…。マルフォイ君に用があるからついてきただけなんだけど…」
「マルフォイに一体なんの用があるっていうんだよ!」
「って言われても…」
「いいじゃないの。彼ならあたしはスリザリンに歓迎するわ」
ジョージを挑戦的に見るのはシェリナ。
どうも、彼女はスリザリンなのにのことが気に入っているようだ。
「なんて言っても、小父様のお気に入りだって言うんだからかなり興味深いわ」
「期待してもらっても、僕は大したことないただの人間ですから」
「はグリフィンドールだ」
「小父様に頼めば、寮の変更くらいできるわ。そうしたら関係ないでしょう?」
「いや、僕は狡猾じゃないし純血じゃないから無理だと………」
「寮は組み分け帽子が決めるんだよ、変えられるわけないだろ?」
「往生際が悪いわね、ウィーズリー双子片割れ。寮なんて関係ないでしょう?寮が違うからって仲良くしちゃいけないなんてないわ。…それでも気に入らないなら勝負でもする?」
「望むところだ!」
「…僕の意見を聞いてよ」
普段からスリザリンとグリフィンドールの仲はかなり悪い。
ささいなきっかけさえあれば、かなりの大喧嘩などにもなることがある。
今日もそのパターンかもしれない。
にそれを止められることなどできるはずもなく、にらみ合うシェリナとジョージを見ながらため息をつくのだった。