秘密の部屋編 17
ネビルがいないので、『闇の魔術に対する防衛術』の授業ではは隣には誰もいない、ひとりだった。
しかも一番前の席である。
斜め後ろにはハリーとロン。
一列隣のハリー達の前に当たる席にはハーマイオニー。
「諸君、待たせてしまったかな?」
ロックハートがにっこり笑顔を浮かべながら教室に入ってきた。
女生徒の多くが彼に見惚れる。
男子生徒の中でも彼に憧れている人がいるらしく興奮している子も数人。
他、しらけた様子で見てる生徒。
「私のことを知らない生徒などいないとは思うが一応自己紹介をしましょうか…。ギルデロイ=ロックハート、勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、そして『週刊魔女』5回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞。最もこの賞は私の魔法使いとしての実力には関係ありませんがね……、あまりに魅力的な笑顔なのが罪なのか…」
ふっとかっこつけるように髪をかきあげる。
はそれをすぅっと冷めた視線で見ていた。
この人がかっこいい…ね…。
あまり、そうは思わないんだけど…。
だって、ヴォルさんとかリーマスの方がかっこいい……って、私は何を思ってるんだ!
「さて、今日は君達がきちんと教科書を読んでいるかのミニテストを行おうと思います。難しいものではありませんよ、君達が覚えているかいないかチェックするだけですからね」
ロックハートはテスト用紙を配っていく。
配り終わって教壇に再び立つ。
「時間は40分です。それでは、始め!」
はテスト用紙を見る。
その内容にやはり…という気持ちがある。
仕方なく答えを記入し始める。
1 ギルデロイ=ロックハートの好きな色は何?
黄色。(ちなみに黄色は変態色らしいです)
2 ギルデロイ=ロックハートのひそかな大望は何?
自分のブランドの育毛剤を売ること。
3 現時点までのギルデロイ=ロックハートの業績の中で、あなたは何が一番偉大だと思うか?
笑顔で泣き妖怪バンジーを追い払ったこと。
4 ギルデロイ=ロックハートの好きな食べ物は?
百味ビーンズ、耳クソ味。
5 ギルデロイ=ロックハートの出身地は?
ここではないどこか。
は適当に答えを記入していった。
答えが分かるものもあったが、正解を記入せずにいた。
全54問。
確かに答えるのに最低でも30分はかかるだろう。
時間になり、テスト用紙を集め、ロックハートが採点していく。
はロックハートの採点後の話を全く聞いていなかった。
ハーマイオニーが全問正解だと褒められ、10点を与えられていた。
その後も何か言っているのが聞こえた。
ふと何かの視線に気づく。
気になって視線を上に向ければ…何かがいた。
屋敷しもべ妖精のようだ。
その屋敷しもべ妖精は何か魔法をかけたような様子を見せて、ふっと消える。
何?
嫌な予感がする。
「さぁ、捕らえたばかりのピクシー小妖精ですよ!」
はっとなったがロックハートの方を見ればちょうど、籠に入ったピクシーを生徒達に見せたところだった。
キーキー叫ぶピクシー達。
生徒達からはくすくす笑いがもれる。
どこが怖いのか…というように。
でも、はどこか違和感があるように思えた。
「さあ、それでは、君達がピクシーをどう扱うのか見せてもらいましょう」
ロックハートが籠の鍵に手をかける。
駄目だ!
ピクシーを外に出しては駄目だ!
「駄目!!」
は制止しようと声を出した。
しかし、とまることなく、ロックハートは鍵を開けてピクシー達を解放してしまう。
その数、十数匹。
本来ピクシー小妖精は悪戯好き。
人に危害を加えることは合っても、人を襲うことなどない。
悪戯で軽い怪我をさせてしまうことくらいだ。
だが、このピクシーは生徒達に襲い掛かる。
「きゃぁ!」
「何?」
「いやだ!来るな!!」
「…いやっ!」
悪戯程度ではすまない。
噛み付かれる生徒達。
怪我人多数である。
ロックハートは慌て杖を取り出す。
「ペスキピクシペステルノミ、ピクシーよ去れ!!」
何の効果も現われない。
は自分の教科書を掴み、近くの生徒達に噛み付いているピクシーを殴りつける。
噛み付かれた生徒達の中には泣いている生徒もいる。
「早く教室の外へ!」
の声にはっとなり教室の外へと悲鳴をあげながら逃げていく生徒達。
はピクシー達を教科書で殴りつけて追い払う。
けれど、殴られたピクシー達は堪えてないようで再び襲い掛かる。
ハリー達をみれば、のように教科書でピクシー達を殴りつけていた。
まだ教室の外に出てない生徒達はハリー達を含め6人。
席が前の方だった、シェーマス、ディーン、ハーマイオニー、ロン、ハリー、そして。
はシェーマスに襲い掛かるピクシーに教科書を投げつける。
「フィネガン君、今のうちに出て!それから、怪我人を医務室に!」
「あ、…うん。ありがと」
シェーマスは急いで教室の外へと向かう。
ハリーが同じようにディーンの側のピクシー達に教科書を投げつけてディーンを外へと向かわせた。
残るはハリー達4人。
ロックハートは教壇の机の下に潜り込んだまま。
「ロックハート先生!誰か他の先生に知らせて!あと怪我人の方へ行ってあげてください」
「わ、わかりました。そんな責任ある役目は私にしか出来ませんからね」
こんな時でも虚勢を忘れない。
尊敬に値するが…とりあえず、今の時点でロックハートは足手まといだ。
慌てて、教室の外に出て行く。
はそのロックハートが外に出る時のフォローも忘れずに、ピクシー達を追い払っていた。
「ポッター君たちも早く外へ!」
「も!」
「僕はいいから!早く!!」
それでもハリー達は動かない。
ハーマイオニーが意を決したように杖を取り出し
「ステューピファイ!」
赤い光がハーマイオニーの杖からでる。
その光は2匹のピクシーに向かい、その2匹が気絶する。
ほっとした様子でハーマイオニーは次々と魔法を使っていこうとする。
ハリーとロンも杖を取り出し魔法を使おうとする。
しかし残っているピクシーたちが突然、甲高い声をあげた。
「きゃぁっ!!」
「わぁっ!」
「な、何?」
ばちっ
何か電撃のようなものが走り、ハリー達の手から杖が弾かれた。
杖は足元に転がる。
その隙を突いてハリー達に襲い掛かるピクシー達。
狙いはハリー?!
じゃあ、さっき見た屋敷しもべ妖精はもしかしてドビー?
『止まれ!ピクシー!』
は叫んだ。
言葉の力。
しかし、ピクシー達は寸前で止まったもののの力に逆らおうと動きを見せる。
駄目だ、あっちの力の方が…強いかもしれない。
の束縛の力が外れようとしている。
万能ではないのだ、この力も。
ピクシーたちのこの力から逃れようとする思いが強ければ解けてしまう。
「ポッター君、ウィーズリー君、グレンジャー。今のうちに早く外へ!」
「も!!」
ハリーの言葉には首を横に振る。
今、自分が動けば、集中力が途切れてピクシーたちは動き出してしまう。
だから自分は行けない。
「駄目だよ、をおいていけない!」
「そうよ!」
「ここは危険なんだ、外へ行こう!」
ハリー、ハーマイオニー、ロンが言う。
は黙って首を横に振るだけ。
「…駄目。…もう」
「?」
「伏せて!!」
の叫ぶような声に反射的にしゃがみ込む3人。
どうじにピクシーたちが動き出し、さっきまでハリー達が立っていた頭の辺りに一斉に襲い掛かっていた。
はハリー達の元に行く。
庇うように立ち、集中する。
襲い掛かってくるピクシー達。
『弾けろ!砂になれ!』
ばぢっ……ぱぁんっ!!
襲い掛かってきたピクシー達が弾けて砂になる。
その様子に目を見開いて驚いているハリー達。
ピクシー達の動きを止めたとかそういう問題ではない。
ピクシー達を倒してしまったのだ。
跡形もなく…。
力を使ったの方といえば、かなり消耗していた。
跡形もなく消してしまうしか手段もなく、方法も思い浮かばなかった。
おさえ続けるより、一瞬強い力で葬ってしまう方が簡単といえば簡単なのだが…。
流石に疲労感がくる。
眩暈までしてくる。
「あ、…」
ハリーが呼びかける。
けれど、それに答えるほど余裕がなかった。
意識を保ってるのだけでも精一杯な気がする。
思えば、ここまで力を使ったのは初めてかもしれない。
動きを止めたり、記憶を封じたりすることは大したことはない。
対象の存在を消し去るなど…負担は比べ物にならない。
「これは、どういうことかね?」
呆れたような声が聞こえてきた。
ハリー達ははっと振り返る。
そこにはセブルスとロックハートがいた。
も二人の姿をちらっと視界に入れる。
「体験学習をさせようと思ったのですよ。そうしましたらいきなりピクシーがですね」
「暴れだしたと?そういいたいのですかな?」
「そ、そうです!私もピクシーを静めようとしたのですが…襲われる生徒達を助けることを優先して生徒達を教室の外へ避難させたのですよ」
「ほぉ。まだポッター達が中にいるようだが?」
かつかつとセブルスはハリー達に近づく。
「教室に残ってピクシーどもを自分の手で捕まえて英雄になろうとでもしたのか?ポッター?」
「ち、違います!」
「ピクシーを気絶させただけでは飽き足らず、殺したのか?」
「ぼ、僕じゃありません!」
ちらっとセブルスが周りを見回せば、気絶しているピクシーが2匹。
あとは青い砂があるだけだ。
その青はピクシーの色。
「言い訳か?ポッター。ピクシーの数が聞いていた数と違うようだが?」
「ポッター君じゃ…ありませんよ。教授」
「…」
「僕がやりました。言い訳はするつもりはありません、減点でも謹慎でも罰でも受けます。でも、聞いて下さい」
「何だね」
「ピクシー達の様子は確かにおかしかったんです。皆を襲うとしましてました、怪我人が多数出たのがその証拠です」
「それで、貴様はピクシー達を砂に変えたのか」
「僕にはその方法しか思い浮かびませんでしたので…」
頭がくらくらする。
セブルスの質問になんて答えているのかも分からなくなってくる。
ハリー達が、ピクシーを一瞬で砂に変えてしまったを見たからなのか…すこし怯えた様子が見える。
「…校長に知らせるべきだな。来い、」
歩き出すセブルス。
はそれについていこうとした。
しかし、踏み出したはずの足ががくんと崩れ……床が見えたのが最後だった。
どさっ
倒れる音。
その音にセブルスが振り返る。
「?」
セブルスは倒れたに駆け寄り、の額に手をあててみる。
熱さが普通ではなかった。
眉間にシワを寄せながら、ひょいっとを抱き上げる。
「あ、の!」
を連れて行こうとしたセブルスを呼び止めるハリー。
「何だね?ポッター?」
「あの、は…」
「は、高熱があるようだ。恐らく無理をしたのだろうな、ピクシーを砂に変えるなど…。大方貴様らを助けようとして無理をしたのだろう。助けられた貴様らはの力に怯える、これでは助けたの想いは無駄だったようだな」
「ぼ、僕はそんな…」
「助けられたのに恩も感じず怯えるなど、所詮貴様らはその程度ということだな…。ポッター、ウィーズリー、グレンジャー、貴様らは今後一切に近づくな」
「何で、貴方にそんなこと言われなきゃならないんですか!」
「分かってないようならはっきり言おうか?」
セブルスはを抱き上げたままハリー達を見下ろす。
ハリーも負けじと睨みかえす。
セブルスは怖い。
それでも、ここで引き下がってはいけない気がする。
「このままでは、はいつか貴様らのせいで命を落とすことになりかねん。貴様らが自分の身も守れないような…誰かの力をいつも当てにしているようではな」
ぐっと押し黙るハリー。
に助けられたのは事実だ。
セブルスはハリーから視線を外し、を抱き上げたまま教室から出て行った。
思い返せば助けられてばかりのような気がする。
ハリーはセブルスを睨むことしかできなかった。
「ハリー、気にするなよ」
「でも、ロン。確かに、僕はに助けられてばかりだよ…」
「そうね、だからこそ、ちゃんとお礼は言わないと…」
「でも、あれ見ただろ?!ピクシー達を杖もなしで砂に変えたんだぞ?!アイツ…おかしいよ」
「ロン!そう言うのは良くないわよ!助けてもらったのよ、私達は」
「そうだけど…」
少し沈んだ気持ちのハリー。
の力に疑問を持つロン。
の力に疑問を持ちながらも助けられたことに感謝しなければならないと思うハーマイオニー。
3人の気持ちは……ぐちゃぐちゃだった。