秘密の部屋編 16
今年の最初の授業は薬草学。
マンドレイクの植え替えだ。
はネビルと並ぶ。
この授業はハッフルパフとの合同だ。
スプラウト先生が植え替えの説明をする。
「ねぇ、…。大丈夫かな、だってこれって泣き声聞くと…」
「大丈夫だよ、ネビル。スプラウト先生もまだ苗だから泣き声を聞いても気絶するだけだって。それにちゃんと耳あてをしてれば平気だよ」
「う、うん」
スプラウト先生の合図で皆一斉に耳あてをする。
もこもこふわふわの耳あて。
感触がなかなか気持ちいい。
まず、スプラウト先生が見本を見せる。
マンドレイクを引っこ抜き、別の鉢に植え替える。
土をかぶせて終わり。
見た目は簡単そうに見えた。
だが実際やって見ると…。
はマンドレイクを引っこ抜く。
マンドレイクが何か叫んでいるようだが聞こえない。
鉢に植え替えようとするが、マンドレイクが暴れてなかなか上手く鉢に入ってくれなかった。
やっと植え替えが何とかできたと思ってネビルの方をみれば…
ネビルは倒れていた。
「ネビル!」
の声が聞こえたのか、それとも様子がおかしいと気付いたのかスプラウト先生が駆けつけてくる。
まだ、植え替えをしている生徒がいるので耳あては外せない。
スプラウト先生がネビルの側により、確かめる。
ネビルの耳あてを見ておかしい…というように首をひねっていた。
は周りを見回して、植え替えの終わっていない生徒がいない事を確認してから耳あてをとる。
「スプラウト先生?」
はしゃがみ込み、ネビルとスプラウト先生を交互に見る。
スプラウト先生も耳あてを外す。
気絶しているネビルをみてくすくす笑う声が聞こえる。
「おかしいですね。ロングボトムはきちんと耳あてをしているはずなんですが。耳あてが壊れているのでしょうか…」
「あの、ネビルは大丈夫なんですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。気絶しているだけです、医務室で暫く休めば目が覚めるでしょう。ですが、分からないのは何故…」
不思議そうにネビルを見る。
周りの生徒はネビルが耳あてをきちんとしてなかったからだと思っているだろう。
でも、ネビルはきちんと耳あてをしていた。
もしかして…。
「先生、『リズ・イヤー』ってご存知ですか?」
「『リズ・イヤー』…、ええ、聞いたことはありますよ。どんな声でも正確に聞き取る…まさか、ああ、なんてこと!その可能性に気がつかなかったわ!」
「スプラウト先生?」
「『リズ・イヤー』には耳あてなんて意味がないのですよ。聴力がいい分、こういう『声』にはすごく弱いことを忘れていたわ。ロングボトムは『リズ・イヤー』なのですね?」
「はい、そうです。本人も少し前までは知らなかったらしいんですが…」
スプラウト先生はに確認をとり、立ち上がってぱんぱんっと手をうつ。
生徒達が注目する。
「しばらく自習してなさい。私はロングボトムを医務室に連れて行きますからね」
杖で一振りしてネビルを浮かせて連れて行くスプラウト先生。
おそらくマダムにネビルが『リズ・イヤー』であると説明にいったのだろう。
は気付かなかった自分に少し反省した。
少し考えれば分かっただろうに…。
そのままネビルが戻ることなくこの授業は終了した。
後でネビルのお見舞いに行こうと思うだった。
次の変身術の授業ではコガネムシをボタンに変える魔法を使った。
実技系の魔法がに使えるはずもなく、は目の前のコガネムシを全く変えることなくその授業は終わった。
はすぐに医務室に向かう。
医務室でネビルはまだベッドに横になったままだった。
「マダム、ネビルは大丈夫なんですか?」
マダムは優しげな笑顔を浮かべてしっかりと頷く。
「ええ、勿論大丈夫ですよ。ただ、彼は人より『声』に敏感ですからね、『声』に関するダメージは人一倍大きくなってしまうんですよね…。命に別状はありませんからね」
「そう…ですか」
「まだ、目が覚めるのにはもう少し時間がかかるでしょう。貴方は授業に行きなさい」
「でも…」
「心配なのは分かります。けれど、貴方が授業を休んでしまって彼は喜びますか?」
そう言われては黙るしかない。
ネビルは、自分についていたからが授業に出なかったと知ったら、申し訳なく思うだろう。
ネビルは優しいから…。
は頷き、医務室を後にした。
次はロックハートの『闇の魔術に対する防衛術』である。
沢山の教科書を持って、役に立たない内容になるだろう授業を受けにはひとりで教室に向かう。
途中、何か揉め事でも起こっているようだった。
10人ほどが立ち止まって何か言い合っているようである。
「僕は額に醜い傷があるだけの特別な人間なんかにならなくてよかったよ。本当にね」
見下すようにグリフィンドール生を見回すのはドラコだった。
向かうはやはり、ハリー、ロン、ハーマイオニー。
ドラコの言葉に、ロンがかっとなり何かを言おうとしたが…
ばこっ
ドラコの頭に何かの包みが軽く振り落とさせる。
が持っていた、包みでドラコの頭を叩いたのだ。
「っ…!誰だ!!」
ばっと振り返るドラコ。
「よく分からないけど言いすぎだよ、マルフォイ君」
「!何をする!」
「何って、…ああ、そうだ、コレ」
ドラコを叩いた包みを差し出す。
これはルシウスから預かっていた物だ。
ドラコは顔を顰めて受け取ろうとはしない。
「どういうつもりだ、これは…」
「どういうも何も、ルシウスさんから預かってたんだよね。渡してくれって頼まれてたから」
「父上から?」
父親の名前を出されては受け取らないわけにはいかない。
しかし、に向ける視線は怪しむものだ。
「何故、君が持ってくる?」
「それは僕の方が聞きたいよ。昨日偶然ホグワーツであったら、頼まれただけなんだから。ちゃんと「僕はグリフィンドール生ですよ?」って言ったんだけどね」
「…」
ぽんっ
ドラコはの肩に手を置く。
「同情はする。…けど、頑張れ」
「は…?」
ドラコに哀れむような視線を向けれて困惑する。
何故同情されることになるのだろうか…。
「あの…?マルフォイ君、それってどういうことかな?」
「つまり、は父上に気に入られたんだろう」
「え?え?!!ちょっ…!」
「僕には同情するしかできない」
「マルフォイ君から同情されるなんて…。じゃなくて!!マルフォイ君が同情するほど、嫌なもんなの?」
「僕が知る限りは…」
「それなら!!同情するくらいなら説得してよ!僕はマグル出身だよ?ルシウスさんもマルフォイ君も大嫌いなマグル出身!!なんで気に入られるの?!」
「…僕に聞くなよ」
そう言われても困るドラコ。
ルシウスを説得などできない。
「とにかく!僕にはどうにもできない。父上も君のどこが気に入ったのかわからないが…」
「それは僕にも分からないよ。なんでルシウスさんに気に入れるの?やっぱ、あの時ノクターン横丁に平気でいたからかな?」
「そう、いえば…」
ドラコはふと考える。
は何?と聞く。
心当たりでも思い出したのだろうか…?
「父上、夜の闇横丁で君と会った後、妙に機嫌がよかったんだよな…」
「え…」
「…まぁ……、そうだね…。………頑張れ、」
「結局それ?!息子でしょ?何とかしてよ!」
「無理だと言っただろう。…一応、情報教えるくらいの協力はしてやるから諦めろ」
「情報…教えてくれるの?」
「僕の分かる範囲でならな」
仕方ないっとため息をつくドラコ。
ぱっと明るい笑顔になる。
少しでも情報がもらえるのは嬉しい。
ルシウスに関しての事はさすがのも予想外のことだから…。
「ありがとう、マルフォイ君」
「別に…。父上に気に入られた相手の哀れさは見てきてるからな、さすがの君でも同情する程だし…」
「不安にさせるようなこと言わないでよ」
顔を思いっきり顰める。
グリフィンドール生を嫌っているドラコが、グリフィンドール生であるに同情するほどのすごいものなのだろうか…。
かなり不安になる。
それでも、気に入られてしまったものは仕方がない。
ため息をつきながら、結局ドラコにお礼を言って次の教室に向かうだった。
ロンとハリーが険しい顔つきでを見ていたことには気付かずに…。