秘密の部屋編 13





暫く待っているとダンブルドアとマクゴナガル先生が来た。
ダンブルドアはいつもの穏やかな笑みを浮かべたままだったが、マクゴナガル先生は怒りのオーラが見えるほど静かに怒っていた。
ハリーとロン、までが思わず引いたほどである。

「説明をしなさい」

マクゴナガル先生はそっけなくそう言っただけだった。
周りの空気が重い。
それでも事情を説明しなければこのままなのでハリーが口を開く。

「柵が…越えられなかったんです。それで仕方なく」
「ふくろう便を寄越せば済んだでしょう?」
「あ…」

今思い出したというようにハリーは顔色を変える。
ロンもその可能性には気付かなかった為に気まずそうに下を向く。
マクゴナガル先生ははぁ〜と深いため息をつく。

「ミネルバ、もう少し詳しく事情を聞こうとしよう」
「ダンブルドア…」
「どうかね?詳しく説明してくれんかね?」

優しげに彼らを見るダンブルドアだが、いたたまれなくなってハリーとロンは下を向いたままだ。
まだ、怒られた方がましだと思っているのだろう。
変わりにが説明に出る。

「僕が駅に着いたのはぎりぎりの時間でした。そうしたら柵の中に入れないポッター君たちを見つけたんです。柵に手を置けば何の変哲もない柵になっていて確かに中に入れなくなっていました」
「それでどうしたのかね?」

優しく先を促すダンブルドア。
事情などどうせ知っているだろうに…と思う。
知らぬフリをして聞くダンブルドアと、事情を知っている上でさらっと嘘八百を並べる
は偶然空飛ぶ車を見つけてそれに乗ってホグワーツまでに来たということを話す。

「…と、言う訳なんです」
「それで、楽しかったかの?
「二度とご免です」

ふぉっふぉっふぉっといつもの様に笑うダンブルドア。
セブルスがそんなダンブルドアをぎろっと睨んでいたが…。

「それで、ダンブルドア?僕らは退学ですか?」

のその言葉にびくっとなるハリーとロン。
セブルスはかすかだが、嬉しそうな笑みを浮かべた。

「君らの処分はミネルバに任せよう。しかし、君らの保護者には連絡をしておくからの。それと、次に同じようなことがあったら、わしとしても退学にせざるをえないことを覚えておくんじゃよ」

はっと顔を上げるハリーとロン。
つまり今回は退学にはならないということである。
その決定にむっとしたのはセブルス。

「校長、それではあまりにも甘いのではないですか?」
「セブルス、それを決めるのは君ではないじゃろう?それはミネルバの役目じゃ。わしは歓迎会に戻らんと。セブルス、行こうかのぅ?今日は美味しそうなタルトがあるんじゃよ」

子供のように目を輝かせて、セブルスをともなって部屋でていくダンブルドア。
その時のセブルスの表情は眉間にシワを寄せ、不機嫌そうだった。
それでもダンブルドアの言うことを聞いているのは、ダンブルドアにそれだけ信頼があるということなのか。


「さて、貴方達のことですが…」


マクゴナガル先生はハリー達に向き直る。
退学はなんとか免れただろうが何にもお咎めなしとは行かないだろう。

あの!先生!

ハリーがマクゴナガル先生の言葉を遮り慌てように口を挟む。

「僕達が車に乗ったときはまだ新学期は始まってはいなかった。ですから…あの…グリフィンドールの減点はない…ですよね?」

恐る恐る尋ねたハリー。
マクゴナガル先生の表情が一瞬緩む。
確かに、ハリーの言った事はグリフィンドールを減点しなくてもいい理由になる。

「減点はありません。ただし、罰則は受けてもらいます。けれど、まずはポッター、ウィーズリー、二人は医務室に行きなさい。そこに食事も用意してあります」
「…はい」

沈んだように返事を返す二人。
それでも、減点がなかったことに安堵しているようだ。

「それから、。貴方は校長室へ、ダンブルドアが話をしたいそうです」
「僕…だけ、ですか?」
「そうです」

首をかしげる
何の用があるのだろうか…?
だけはセブルスに傷の手当てをしてもらったので特に医務室に行く必要もないが…。
分かりました、と頷き、ハリー、ロンと分かれては校長室へと向かった。
彼らの荷物とペットは先に誰かが運んでくれたらしく、置いていた場所になかった。
ヴォルが大人しく連れて行かれるとは思わなかったのだが、探してもいないので1人で校長室に向かうことになっただった。





校長室の目の前で、ばったりと意外な人物と出くわす。
本来ならホグワーツにいるべきではない。

「ルシウスさん?」

そう、ルシウス=マルフォイである。
妙に遭遇率が高い気がすると思う
ルシウスはに気付くと僅かにだが笑みを見せた。
それは冷たい笑みだったが…。

「どうしたんですか?ダンブルドアに何か用でも?」
「君こそ、ダンブルドアに用でもあるか?」
「いえ、僕は呼ばれたので来ただけなんですが…。ルシウスさんは?」
「ウチの屋敷しもべがホグワーツに無断で来ているようだから、それを聞きにな」

ドビーのことかな?
思い当たる屋敷しもべ妖精はドビーだけなのでそう思うが…。
なんだろう…、それだけじゃない気がするんだよね。

「ルシウスさん、何を企んでいるんです?」
「何のことだね」

はじっとルシウスを見る。
嫌な予感。
でも、には分からない。


、ルシウス。何をしとるのかね?」


その声にはっとすれば、すぐそばにいつの間にかダンブルドアがいた。
いつもの穏やかな笑顔を浮かべたまま…。
ほっと息を吐く
そこで改めて気付いた。

私、ルシウスさんに対して緊張していた?

ルシウスに視線を向ける
きっと彼は油断できない人物。
それこそ、ヴォルデモートよりも…。
もしかしたら、今年は予定外のことが去年よりも沢山起こりうるのではないかと思わせる。

「二人ともこんなところで話すのも何じゃからの…、部屋で温かいお茶でも飲もうかの」

ダンブルドアが合言葉を言うと、像の立っていた場所からゴゴっと音がして階段が現われる。
知ってはいるものの、実際見ると結構迫力があるものだ。
にっこりと入室を促すダンブルドアに無言でついていくとルシウス。
奇妙な組み合わせだ。



部屋に入って椅子を勧められたはおずおずとだがそれに座り、ルシウスは当然のように腰掛ける。
ダンブルドアが紅茶をだしてくれるが、二人ともそれに口はつけなかった。

「それで、ルシウスはどんな用件かね?」
「私の屋敷しもべがこちらにお邪魔していると聞いたものでな…」
「はて、誰がそんなことを?」
「別に見つからなくてもこちらには代わりなどいくらでもいるがな…、もし見つけたらドラコにでも知らせてやって欲しいと思って来ただけだ」
「構わんよ。見慣れぬ屋敷しもべ妖精がいたら知らせれば良いんじゃな?」
「ああ、それでいい」

ダンブルドアはにっこりと快く引き受ける。
ああ、それと…と思い出したようにルシウスは何かの包みを取り出しに差し出す。
はきょとんっと首をかしげる。

「これをドラコに渡しておいてもらえるか?」
「は?」

差し出されたのはA4サイズの紙袋のようなもので包まれた何か。
形からしておそらく何かの本なのだとは思うが…。

「あの、ルシウスさん?僕がグリフィンドール生って分かってますよね?」

のネクタイはグリフィンドールカラーの入ったもの。
夜の闇横丁でも店主のボージンにだが、スリザリンではないと言ったはずだ。

「見れば分かる。だが、なぜ私がスリザリン寮までわざわざ届けねばならない?」
「は、はぁ、そうですか…」

ぽんっとの了解の返事も聞かずにそれを託す。
託された方としては受け取るしかない。
ルシウスは用が終わったとばかりに立ち上がる。
そして、そのまま立ち去ろうとしたが何かを思い出したように立ち止まる。

「ああ、…
「はい?なんでしょう?」
「今度『白き花の雫』を手に入れたら、私が買い取ろう。直接持ってきたまえ」
「は…?」

ルシウスは言うだけ言ってそのまま行ってしまった。
は呆然とするだけである。

『白き花の雫』
それは『覇王の社』のみに咲くという『白き花』がこぼす雫。
『覇王の社』は昔闇の魔法使いが魔法を失敗して、わけの分からない怪物がうようよしている場所である。
魔法省も手を焼いている場所で、実験などで失敗したものをそこに捨てていく者が多く、危険は増えるばかりである。
人を襲うような植物や獣達。
その中心に、『白き花』がある。
周りのわけの分からない植物や獣達の力を吸い取り浄化し凝縮する花。
これも一種の闇の魔法から生まれた植物。
今はもうどうやって作り出されたのかも知られていないが…。
表世界でも裏世界でもかなり貴重なもので、が初めてボージンのところに換金しに行った時に持っていったのでもある。


「ふぉっふぉっふぉ…。はルシウスに気に入られたようじゃの」
「あまり嬉しくないんですけど…」

できれば、デス・イーターであるルシウスとは親しくはなりたくないのだが。
どうやらルシウス自身に気に入られてしまったようである。

「さて、。君に話したいことがあったんじゃが…」
「あ、はい。何ですか?」

はダンブルドアに呼ばれてここに来たのだ。

「リーマスは元気かの?」
「ええ、元気ですよ。それを聞きたくて?」
「それだけじゃないぞ、リドルは元気かね?」
「リドル?ヴォルさんのことですか?…ええ、元気ですよ」
「それと、今回のフォード・アングリアのことは、の場合は報告するのはリーマスでいいんじゃな?」
「え…?」

冷や汗がつぅっと伝う。
ダンブルドアは保護者に連絡すると言っていた。
リーマスにばれる…?
リーマスの怒りようが恐ろしい。
でも、ははっとなる。

「あの、ダンブルドア…」
「他に連絡する保護者がいれば別じゃがの」

ダンブルドアはをじっと見る。
は驚いたように目を開くが、すぐに気まずそうに目を伏せた。
ダンブルドアのことだ、が両親に連絡もせずにイギリスに残ってることに疑問を覚えないはずがない。
両親はいなくてもホグワーツに来る前に暮らしていた場所とかはあるはずなのだ。
そう、この世界の人間ならば…。

「いえ、リーマスでいいです」
「そうかね」

ダンブルドアは何も言わない。
にっこりと微笑むだけ。
何も追求してこないのはありがたい。
そのまま、気付いていないフリをしていて欲しいと思う。
何故なら、これだけは話す事はできないと思うから…。

「それで、ダンブルドア。話はそれだけですか?」
「それだけじゃよ。おお、そうじゃ、ここで食事をしていきなさい」

ダンブルドアが杖をふると、ぱっとサンドイッチが沢山出てくる。
ジュースもある。
食事をみて嬉しくなる
お腹はすいていたのだ。
そのままゆっくり食事をとることにする。
恐らくダンブルドアは、ハリー達の前でに保護者の確認をしなかったのは、ハリー達に疑問を抱かせない為なのだろう。
保護者は両親ではない。
けれど、に両親がいることをハリー達は知っている。
当然疑問に思うだろう。
はダンブルドアのそんな気遣いが嬉しかった。