秘密の部屋編 12
「駄目!!止まれー!!」
ロンの大声でははっとなる。
多少揺れても大人しく着くのを待っていただけだったが、流石にロンの切羽詰ったような声に何があったのかと思う。
「ウィーズリー君?何が……」
ひょいっと前を覗き込めば、目の前に大きな木が迫っていた。
ロンは止まれ!と叫びながら車を叩いている。
ハリーはハンドルをとって動かそうとする。
しかし、間に合わない。
はとっさにハリーとロンのローブを掴む。
衝撃で二人がフロントガラスを突き破って放り出されない為だ。
がしゃぁぁぁぁぁん!!
フォード・アングリアと暴れ柳が激突。
窓を突き破ってくる枝。
枝を容赦なく折り曲げるフォード・アングリア。
が二人のローブを掴んでいたお陰で、二人はどこも怪我することがなかった。
ほっと息をつきローブを放す。
「、ありがとう」
「安心するのは、まだはやいよ」
「…?」
ほっとした様子のハリーには笑顔を見せずに息をつくだけ。
ロンはといえば、情けないような表情で何かを掴んでいる。
「ハリー、僕の杖が…」
ロンは手に持っていた杖を見せる。
どうやらロンの杖だけはぶつかったところが悪かったのか、見事に真っ二つに折れていた。
「ウィーズリー君、それ以上杖を粉々にされたくなかったらしまった方がいい」
「え?それってどういう…」
どごぉぉぉん!
ロンの言葉が終わらないうちに上空から衝撃が来る。
休む間もなく、横から窓を突き破って枝がぶつかって来る。
「後ろ!!後ろに下がって!」
「え…?」
「早く!!ウィーズリー君!」
ロンは慌てながらもギアをバックにいれる。
がくんっと車が下がる。
暴れ柳は車を攻撃することをやめない。
はハリーとロンが怪我をしないよう注意をはらうだけで精一杯だった。
だから、気付かなかった。
自分を突き刺すように伸びてきた枝に。
「!!」
ハリーが気付いて名前を呼ぶ。
ははっとなり枝に気付くが…
「デリオス!去れ!」
呪文を唱えたのはヴォルだった。
猫の姿のままである。
ヴォルが使った魔法で枝はおかしな方向に曲がり、に刺さる事はなかった。
ヴォルはとんっとの肩の上に乗り、ハリーを睨む。
「何をしている!はやく暴れ柳から放れろ!串刺しにされたいか?!」
「う?え?!!あ、はい!ロン!」
「分かってるよ!!」
車を動かしなんとか暴れ柳からがくがくっと揺れながら抜け出ていく。
枝に攻撃されたせいで車体はボロボロだ。
それでも、なんとか暴れ柳から抜けでた。
少し放れたところで、ほっと息をつくロンとハリー。
無事に到着できたようだ。
ばんっ!
フォード・アングリアのドアがいきなり開き、ハリー、ロン、を放り出す。
は放り出されるときにとっさにヴォルを抱えることを忘れない。
トランクからも荷物が放りだされる。
そのまま、どこかへと行ってしまうフォード・アングリア。
「え?!嘘だろ?!行くな!戻って来い!!」
ロンが慌てて呼び止めるが、フォード・アングリアは止まらなかった。
ハリーはゆっくり自分の荷物をかき集めながら、ヴォルの方をじっと見ていた。
ハリーの視線に気付いたヴォルはひょいっとの腕から抜け出し…
べしょっ
ちょろちょろしているスキャバーズの上に見事に着地。
放り出されたときにスキャバーズはペット用の籠からでてしまったらしい。
ヴォルさん、絶対わざとでしょ。
スキャバーズの正体を知ってるとしてはそうは思わずにはいられない。
別にいいけど…と思う。
「とりあえず大広間に行こう。ポッター君、ウィーズリー君」
は自分の荷物を持ち、ヴォルは大人しくその後をついていく。
ハリーとロンも慌てて自分達の荷物を掴みの後についていった。
大きな怪我はないものの、葉っぱや枝が掠り、ローブが汚れていたりかすり傷があったりする3人。
それでも、なんとか大広間近くまで行き、中にははいらず窓からそっと覗き込む。
「ロン、。もう組み分けが始まってるよ」
「ほんとかい?ジニーは?」
「まだみたい。ほら、新入生の列にいるあの赤毛の子じゃないかな」
「そうみたいだね。グリフィンドールになるといいけどな…」
窓から身を乗り出すように覗きこんでいるハリーとロン。
がちらっと覗き込めば、何故かダンブルドアとばっちり視線が合ってしまった。
どうやら、かの校長はお見通しのようだ。
怒った表情もなく、楽しげな笑みを浮かべているだけだった。
ダンブルドアはお見通し…か。
ふぅっと軽く息をつき、は視線を大広間の中ではなくまわりに向ける。
すると少し離れた所からこちらに向かってくる人影が一つ。
カツカツと怒っているような感じの足音である。
…教授、みたいだね。
はハリーとロンの方にちらっと視線を向ける。
「ハリー、教職員の席にスネイプがいないぞ!」
「ほんとだ…」
「病気かな?」
「もしかして辞めさせられたんじゃない?あまり贔屓が激しい上に児童虐待スレスレのことしているからさ」
「…ハリー、それは言いすぎ…。でも、本当に辞めたらならそれはいいんだけどね…」
「可能性は高いよ!ロン。だってあんな陰険教師をダンブルドアが認めている方がおかしいんだ!」
ハリー…それは言いすぎ。
「ほぉ。陰険教師とは誰のことかね?」
ハリーとロンのすぐ後ろから聞こえてきた冷たい声。
はそのようすにやれやれと肩を竦める。
ハリーとロンははっとなりすぐ振り向き、セブルスの姿を目に留めると顔色を変えた。
セブルスは笑みを浮かべている。
「有名なポッターとその友人はどうやら列車での登場は不服だったと見える。他の生徒達を驚かせるような登場の仕方をしたかったと?」
「違います!駅で柵が…!」
「言い訳かね?あの車はどうした?ウィーズリー?」
反論したハリーでなく、セブルスはロンの方に視線を向ける。
何故それを知ってるのか…とロンの顔色は真っ青になる。
セブルスは手に持っていた「夕刊預言者新聞」を見せる。
それにはトップ記事に「空飛ぶフォード・アングリア!未確認飛行物体か?!と騒ぐマグル!」とある。
「へぇ。本当に新聞なんてあるんですね…えっと?「ロンドンで、二人のマグルが郵便局タワーの上を中古のアングリアが飛んでいるのを見たと断言した…」でも、未確認飛行物体だって思われてるならそのまま放って置けばいいと思うんですけどね、そう思いません?教授」
「…。貴様は反省しているのか?」
「いえ、全く」
「!!」
「そんなにすぐ怒るようじゃ血圧上がりますよ。落ちついてください、教授」
「誰のせいだ!」
「教授自身のせいだと…」
反論しようとしたセブルスだが、自分を落ちつかせるようにふぅ〜と息をつく。
のペースに巻き込まれるわけにはいかない。
ハリーとロンは、セブルス相手にすぱっとあそこまで言えるを尊敬の眼差しで見ていたりした。
「…ついてこい」
セブルスはそう言ってばさっとローブを翻した。
う〜ん、つまんない。
もうちょっと乗ってくれると思ったんだけど…。
あっさり引き下がったセブルスには物足りなさを感じていたりした。
ついたのは地下のセブルスの部屋。
は何度も来た事のある見慣れた部屋である。
ハリーとロンは気味悪そうにきょろきょろ見回している。
「ウィーズリー、確か君の父は「マグル製品不正使用取締局」に勤めていたのではないのかね?」
「…はい」
「わが子がその法を犯しているとは…いや、学生にあんなものが作れる筈もないだろう…すると」
「憶測で物事を進めないでいただきたいですが?それだけいうのなら動かぬ証拠というものもあるのですか?教授?」
「!貴様は黙っていろ」
「イヤ、です。確かにロンドンで空飛ぶ車は目撃したでしょうけど、それに僕達が乗っていたという証拠は?僕達がマグル製品を不正使用したという証拠は?」
「…多くのマグルが目撃している」
「人の証言なんて一番あてにならないものです。非難するなら物的証拠を出して納得させてくださいね、教授。そう、例えばその空飛ぶ車とか…ね」
は笑みを浮かべる。
セブルスは苦々しい顔つきでを見ている。
「…それより!貴様らの処分は我輩には決められん。もうすぐそれを決める者がここにくる」
話題を摩り替えたな。
「とにかく、。貴様は座れ」
「ふえ?」
にだけ何故か椅子をすすめるセブルス。
きょとんっとなるだが大人しくすすめられた椅子に腰掛ける。
セブルスは奥からなにか木箱をとりだしその蓋を開ける。
中には、消毒液や包帯、飲み薬など…マグルの世界では日用品として売っているものばかり。
セブルスはのところどころにあるかすり傷を手当てしていく。
「ポッターとウィーズリーはあとで医務室でも勝手に行くがいい」
「なんですか、それは。ここで一緒に手当てしてやってもいいでしょうに」
「魔法で治す方が早いだろう。この薬は数に限りがあるから無駄には使えん」
「無駄って…」
当たり前のようにセブルスの手当てを受けているをハリーとロンは不思議に思う。
しかも魔法でではなく、マグル式の手当てでなのだ。
ロンはマグル式の手当てなど見たのが初めてで驚いているが…。
「ん?何?」
は二人の視線に気付く。
「、なんで…その傷の手当て」
ハリーはちらっとセブルスの方に視線を向け、に視線を戻す。
その視線にああ、と気付く。
「僕はちょっと事情があってマダムでは傷の手当てが出来ないんだ。だから教授が僕の専属医なの。去年からなんだけど…知らなかった?」
「うん、知らなかった。あ、じゃあ、去年怪我したときには…」
「そう、教授にお世話になってたんだよ」
それが何か?
というにハリーは顔を顰める。
グリフィンドール生に、特にハリーに対してはかなり厳しいセブルスである。
グリフィンドール生の殆どに嫌われているのだが…。
はグリフィンドール生なのにセブルスを嫌っていないのが、ハリーには何故か気に入らなかった。