秘密の部屋編 11
ホグワーツ特急が出る日の朝である。
は……迷っていた。
しかし、最近はよく迷っている気がする…。
ヴォルは疲れたためか、眠りに入っている。
魔法界に詳しくない…どころかイギリスの地理など全く分からないにとって迷う事は当然である。
とにかく言葉は通じるのがなによりである。
でかい荷物に怪しまれながらも、にっこりと微笑みでごまかしキングクロス駅までの道を聞く。
「あの角を曲がって真直ぐ行って……右曲がって左だよ」
「あ、はい、わかりました。ありがとうございます!」
ぺこっとお辞儀をして言われた通りの道を行く。
ちらりっと腕時計を見れば…10時半。
今からだとギリギリになりそうだ。
「急がないと…!」
大きな荷物を抱えて駆け出す。
果たして間に合うのだろうか…。
キングクロス駅。
そこは人ごみでごったがえしていた。
は何とか9番線と10番線の間まで来これた。
急いで来た為か、息が乱れている。
時間は10時50分。
「うん、これなら大丈夫そうだね」
ほっとして、入り口の柵に向かう。
柵の側には誰かがいた。
しかもの見覚えのある二人。
「ポッター君?ウィーズリー君…?」
の声にはっと振り向くハリーとロン。
驚いたようにを見る。
「どうしたの…?」
「どうしたのじゃないよ、!向こうに行けないんだ!」
「ハリーが行こうとしたら突然向こうへの空間が閉じちゃったみたいで…」
「え…?」
驚いてはちらっと自分の時計を見る。
時間は10時51分を指している。
まだまだ時間はあるはずなのだが…。
「でも、あと出発まで9分あるし…」
「何言ってるの、!もう59分だよ!」
「え?!嘘っ!」
「本当だって!」
ハリーは駅の時計を指す。
駅の時計は10時59分を指していた。
しかも、まもなく11時になろうとしていて残り1分もない。
「時間合ってなかったのか…」
「のん気そうに言わないでよ!!もう間に合わなくなっちゃうよ?!」
「そうみたいだね…」
柵に触れてみる。
やはり通り抜けられない。
行こうと思えばいけないこともないけど…。
の力を使えば扉が閉ざされていても関係ない。
しかし、ハリーとロンが列車にのれないのは予定通りのことである。
かちりっ
駅の大時計が11時を示す。
ホグワーツ特急出発の時間だ。
「あ〜…、いっちゃったよ…。どうする…、ハリー…?」
「お金持ってないし…は?」
「僕も一文無し」
ぱっと両手を広げてみせる。
本当は少しくらいなら持っているのだが…。
ここはハリーとロンが無事にフォード・アングリアでホグワーツに見送るのを見届けて…
「とりあえず、ここから出よう、ロン。車の側で待っていれば…」
「ハリー!そうだよ!車だ!」
「ロン?」
「ホグワーツまで車で行けばいいんだ!」
「でも、未成年の魔法使いの制限なんとかって法律が…」
「緊急事態なんだ!僕らは学校に行かなきゃならない、本当に緊急事態だからいいんだよ!」
ハリーの不安そうだった表情が喜びに変わる。
ロンもどことなくワクワクした表情になる。
ホグワーツ特急に乗れなかったがっかりした気持ちが嘘のようだ。
これから冒険でもするような気分になる。
「ロンは車運転できるの?」
「勿論!」
「じゃあ、急ごう!ホグワーツ特急に追いつけるかもしれない!」
ハリーとロンは駆け出した。
荷物を乗せたカート引いて…。
はそれを見送るつもりだった。
「!何やってるの?!急がないと!!」
ぐぃっとハリーに腕を引っ張られ半ば強制的に連れて行かれることになった。
しっかり荷物を引きずりながら…。
私を巻き込まないで欲しいんだけど。
などと思ったりしていたが…。
はフォード・アングリアの後部座席へと、ハリーに無理やり押し込められ、3人の荷物はトランクに無事押し込められた。
まだ寝たままのヴォルまで危うくトランクに押し込められそうになり、は慌てて腕に抱えた。
その時のハリーはとても黒かった気がする。
本当に大丈夫だろうか、と思うほどガタガタなところとか…、空に浮いてすぐ透明ブースターをつけるのに気付いたりしたところとか…なかなか危ういようでる。
はとりあえずハリーとロンの好きにさせておき、ヴォルでも叩き起こそうかと思って、ぺしっと頭を叩く。
「ヴォルさ〜ん、いい加減起きようよ…」
疲れて眠るヴォルを見ることなど初めてである。
一体何をしていたというのか…。
出かけるときは、魔力の回収にいくと言っていたが…。
「ヴォルさん、何があったの…?こんなに疲れてさ…」
帰ってきてからはずっと猫の姿のままだった。
には魔力を感じ取ることなどできないから、ヴォルが魔力をどれだけ消費したかなど分からない。
こんな時は、魔力が全くない自分が嫌になる。
「ねぇ…、ヴォルさん」
「さっきから、煩いぞ」
「え…?」
返事が返ってくるとは思ってなかった。
の腕の中で目を閉じていたはずのヴォルは、深紅の瞳を開きじっとを見た。
「起きてたの…?」
「ああ、荷物と一緒にトランクに放り込まれそうになった時からな…」
「ご、ごめん」
「別に謝るな。が悪いわけじゃないだろ…」
確かに。
ヴォルを荷物と一緒にトランクへと押し込もうとしたのはハリーである。
「それで…?どうしてこんなことになっているんだ…?」
「はは…どうしてだろうね…」
乾いた笑みを浮かべるしかない。
正直に現在の状況を言おうものなら絶対にヴォルに何か言われるに決まっているからだ。
空飛ぶ車でホグワーツを目指している達。
運転手はロン。
「…」
「な、何かな?ヴォルさん」
「お前の頭には学習するという言葉はないのか…?」
「ヴォルさん、それって何気に酷いんだけど…。しょうがないじゃない、今回は私が自ら進んでやったことじゃないもん」
「……まぁ、が無事ならいい」
の頬が少し赤く染まる。
ヴォルは心配してくれていたらしい。
予想外の何かに巻き込まれたりしてが怪我でもしたら…と心配してくれたのだろう。
「それで?無事に着くんだろうな…?」
「う〜〜ん。無事に…と言われると微妙かもしれない…」
「ほぉ……」
「うわ、ヴォルさん、そういう目しないでよ!しょうがないじゃない、どうにもならないんだから!」
そういう目とはどこかを責めているような目である。
どうしてこんな状況におちいったんだ…とでも言うような…。
「無事に着くことを祈ろう…、ヴォルさん」
「祈るだけか」
「だって他に何も出来ないし……なにより…」
「なにより…?」
「………酔ったかもしれない……。」
「…?」
顔を顰めながら口元に手をあてる
ロンの運転が悪いというか…なんというか…。
運が悪いというのもあるのかもしれない。
フォード・アングリアはくねくね進んでいる。
は目を瞑って、大人しくホグワーツに着くのを待つことにした。
でも、確か、暴れ柳に突っ込むことになるんだよね…。
こんな時は先を知っている自分をちょっぴり恨みたくもなる。
未来が変わって無事につけるといいな…と、思ってみたりもするのだった。