秘密の部屋編 9
グリンゴッツの恐怖のトロッコをなんとかクリアして、無事にお金をおろしたは教科書を買いに「フローリシュ・アンド・ブロッツ書店」へ向かった。
今年の教科書は妙に値段が高いものが多い。
それはロックハートの本ばかりなのだからなのだが…。
書店についてみれば人だかり。
それでも、覗けば何が起こっているのか分かる程度ではあるが…。
人だかりの中心を覗き込めば、微妙に時代が違うような気がする服装の男が笑顔で、周りに集まったご婦人方になにやら語りかけている。
「あの…、今日は何かのイベントか何かですか…?」
は近くにいた魔女の1人に話かける。
彼女はばっと振り返り興奮した様子で…
「知らないの?!ロックハート様のサイン会よ!」
「ロックハート………様?」
「あの甘いマスクに数々の武勇伝。顔も良くてファンサービスも欠かさず、それでいて高等な魔法もあつかえるなんて素敵よね〜」
ほぅっとうっとりとした様子で彼女は自分の世界に入ってしまっているようだ。
はとりあえず『泣き妖怪バンジーとナウな休日』を掴み、サインする列に並ぶ。
なんか、サインが貴重っぽみたいだからもらっておこうかな。
それにロックハートって、1年後には、結局自分ことも忘れちゃう…はずだから。
きっと、このサインは貴重になるだろうしね。
笑顔で楽しそうにサインをするロックハートに本を差し出し、一応ぽつんっとお礼をいって人ごみから抜ける。
「私のためにこんなに沢山の綺麗な魔女達が集まってくるなんて、私の魅力はそれほどまでに素晴らしいというのか。…これはまさに罪だ…。しかし、私は私を求めてくれるご婦人方の期待に応えなくてはならない。たとえ……」
サインしながらもうだうだ何か語っているロックハート。
どうも、人ごみが増えてきたようだ。
避難するために階段へと上がる。
う〜〜ん、これじゃあ、教科書はもうちょっと後だな…。
手にしたのは、ロックハートのサイン入りの本一冊のみ。
待てば人ごみもおさまるだろうと待っていただったが…。
「あ…れ?」
ハリー達を見つける。
ハリーとウィーズリーの兄弟とモリー、それからハーマイオニー。
モリーとハーマイオニーは顔をほんのり赤くしながらロックハートのサインの列に並んでいった。
ふぅっとため息をつきは階段に座り込んだ。
「何をしてるんだ?君は…」
ふっと上のほうから声がしたと思って見上げれば、ドラコの姿。
ぼけっと階段に座り込んでいるに呆れた表情を向ける。
「何って…。この人ごみがおさまるの待ってるんだけど…。マルフォイ君も教科書買いに…?」
「それ以外の何の用があると思っているんだ」
「いや、てっきり新しい『闇の魔術に関する防衛術』の先生になるロックハートのサインでももらいに…」
「誰がもらうか!」
「いや、冗談なんだけど……」
「冗談でもそんな気味が悪いこと言うな!」
相変わらず可愛い反応返してくれるよね。
しかもなんか、反応が教授と似てるし…。
「ふ……。有名な英雄ポッター様……か」
ドラコは人ごみの方を苦々しい表情で吐き捨てるように言った。
ハリーがロックハートと肩を組みながら写真を撮られているらしい。
もひょこっと覗き込む。
「何?マルフォイ君、羨ましいの?もしかして、ロックハートの密かなファン?」
「んなワケないだろう?!」
「いや、だって、ポッター君のこと羨ましいみたいだからさ」
「そんなことない!」
「でもね…。マルフォイ君にはああいいう煌びやかな舞台は似合わないと思うんだけど…。裏で暗躍するのが似合うタイプっていうのかな…?」
「…お前は僕をどういう目で見てるんだ…?」
「どういうって……」
は眉を寄せ、難しい顔つきを作り…
「こういう…?」
ぺしっ
即座にドラコから突込みが入る。
持っていた杖で、軽く頭を叩かれた。
「痛い…。」
「痛いわけないだろう?杖も持たない間抜けな魔法使いに魔法使うなんて馬鹿馬鹿しいからな…。これで勘弁してやる」
ふっとを呆れたようにみるドラコ。
から目をそれせば、ロックハートから逃げられたハリーの姿が目に入る。
思いっきり顔を顰めるが、その表情を押し込み…ニヤリと笑みを浮かべる。
「有名人だと実感してさぞかしいい気分だろうな、ポッター?」
ハリーはドラコの声にはっと振り返る。
階段の途中からハリーを見下ろすドラコ。
が隣にいるのに驚く。
はドラコより2段ほど上の階段から下を見ている。
「なんだ、やっぱり、ロックハートのファンなんじゃないの?マルフォイ君」
「違うと言っているだろ!!」
「ポッター君も実はロックハートの隠れファンだったりして?」
「絶対違う!」
「でも、その本…」
はハリーが持っているロックハートの本の山を指す。
勿論、その本はロックハートに無理やりもらったという事は分かってはいるのだが…。
「こんなのいらないよ!」
「え?じゃあ頂戴!」
満面笑顔で催促するように手を差し出す。
嬉しそうなにハリーは顔を顰める。
まるでがロックハートのファンのように見えるから…。
「って…あの人のファンなの…?」
「断じて違う。だけど、教科書買わずに済むならその方がいいからさ、いらないなら頂戴」
「意地汚いな、」
「マルフォイ!」
「どうとでも…。勤労学生の苦労が君らには分からないでしょ」
はひょいっと階段から飛び降り、ハリーの隣に着地。
にこっと手を差し出してハリーからロックハートの本を受け取る。
ずしっと重い本をは何の苦もなく持つ。
もちろんこっそり力を使って軽くしたのだが…。
「、勤労学生って…」
「ん?勤労学生ってのはね、働きながら学生してる人のことを差すんだよ、ポッター君」
「そうじゃなくて!働きながらって何で…?」
「どうせ、貧乏人は教科書買う金もないから自分で働かなきゃならないんだろ…」
「マルフォイ!!」
「その通りだよ、マルフォイ君」
「えばるなよ」
突っ込むドラコ。
ハリーに教科書もらっておいてえばれる立場のではないが…。
えばっているわけではない。
「ハリー…?どうしたの?」
ロックハートを囲む人ごみを書き分け、教科書を持って近づいてくるロン。
ハリーを見て、それから階段上のドラコとをみて顔を顰める。
「なんだ、マルフォイ、お前か…」
「ウィーズリー…、驚いたよ。君の家にはそんなに沢山の教科書を買えるお金がまだ残っていたんだね」
「なんだと?!!」
ドラコに掴みかかろうとするロンを後ろから止める手があった。
どうにか人ごみを掻き分けていたフレッドである。
後ろからジョージとジニー、アーサーも来る。
「なにをしているんだ、ロン。さぁ、はやく外にでよう」
アーサーはドラコの姿を目に止めたが挨拶もせずに、ロンを外へと促す。
関わり合いになりたくないのだ。
マルフォイ家とは…。
だが、物事はそう思うようにはいかない。
「これはこれは…。アーサー=ウィーズリーじゃないか…」
書店の入り口の方から入ってくるルシウス。
アーサーを見下しているようだが、やはりその雰囲気は何処までも冷めたもので…そしてどこか気高さがある。
「…ルシウス」
アーサーは顔を思いっきり顰める。
がちらりっと人ごみのほうをみれば、ハーマイオニーと彼女に似た女性と男性…おそらく両親なのだろう人たちまで来る。
階段上から傍観するように覗き込んでいるは思う。
う〜〜ん、殆ど勢ぞろいみたいだね。
今年起こる事件の関係者全員がね…。
リドルの日記を持っているルシウス。
その依代となるだろうジニー。
バジリスクに石にされてしまうハーマイオニー。
秘密の部屋までリドルを追いかける、ハリー、ロン、ロックハート。
一通り顔をあわせている面々を見る。
ルシウスはちらっとハーマイオニーの両親に目をやり
「こんな連中と付き合っているようでは、ウィーズリー家も純血とはいえ落ちたものだな…」
「なんだと?!」
見下すようにアーサーを見るルシウス。
かっとなりアーサーはルシウスに飛び掛ろうとする。
「パパ!やっちゃえ!」
「そうだ!いけ!」
それをあおるフレッドとジョージ。
アーサーの拳がルシウスの顔面にめがけて繰り出される。
がぃんっ
「…いっ…?!!」
それを阻んだのは一冊の本。
しかし、本だとは思えないような音がしたが…。
アーサーは本を殴りつけた拳を痛そうに押さえている。
「大の大人が無闇に暴力を振るわないで下さい、アーサーさん。それから、それを煽る様なことも言わないで下さいね、ウィーズリー先輩、ジョージ先輩。ついでにいえばルシウスさんもです」
アーサーの拳の本を手に持ったまま、アーサー、フレッド、ジョージ、ルシウスを順に見る。
本の硬度を強化して、アーサーの拳を止めたのだ。
「君か…」
「僕にはちゃんと名前がありますよ、ルシウスさん」
「ああ、悪かったな…。…だったか?」
「ええ、そうですよ。ルシウスさんも、アーサーさんを無闇に挑発しないで下さいね」
「本当のことを言ってなにが悪いのかね?」
「言っていいことと悪いことがあるんです、そりゃ、本人の前で正直に言うことが必ずしも悪いことだとは言いませんけどね…」
苦笑しながら肩をすくめる。
がルシウスと平然と話しているのに驚いたのはハリー以外の人達。
アーサーなど思いっきり目を開いている。
「まぁ、いい。……また今度出直すぞ…、ドラコ」
あれ…?
とは思う。
ここでリドルの日記をジニーに託してもらわないと困る。
仕方ない…。
はこっそりため息をつき、すっと後ろに一歩引く。
かつんっと何かに引っ掛かり…
どしゃっばさばさ……!
は本の山の中に思いっきり倒れこんだ。
後ろから…。
崩れた本の山はウィーズリー兄弟達がいた場所にもなだれ込む。
倒れる瞬間、は本の山がややジニーの方に向くように仕向けた。
思ったとおりジニーは反射的に本の雪崩を避け、ルシウスの近くの方にいくことになった。
「…い、いたい…」
「当たり前だよ!!大丈夫?!」
「はは…なんとか…」
心配して駆け寄るハリー。
ちらっとルシウスの方に視線を向ければ、こっそりとジニーの鍋の中に何かの本を入れるのが見えた。
が気付いたのが見えたらしく、一瞬顔を顰めたルシウスだが何も言わずにドラコを伴って出て行った。
ドラコが少し心配そうにこちらを見ていたのに、はちょっぴり嬉しかったりした。
何で私がこんなことしないといけないんだろ…?
でも、結局喧嘩するはずだった二人を止めたのは私だしな…。
喧嘩騒ぎがおこればこんなことする必要もなかったわけだしね…。
自業自得?
自分の考えに思わず顔を顰めてしまう。
「?どうしたの?どこか怪我した?」
「え?ああ、大丈夫だよ、ポッター君。ちょっとぶつけただけだから…」
顔を顰めたにハリーはどこか怪我をしたと思い込んだらしい。
は平気そうにひょいっと立ち上がる。
転んだ時にぶちまけてしまった本を探しだし手に持つ。
店主に睨まれたは仕方なく崩した本の片付けに入る。
自分でやったこととはいえ、どれだけ時間が掛かるだろうか…。
はぁ〜とため息をついてしまうのであった。
しかし、魔法で片付ければ早いということに気付こう。