秘密の部屋編 6
しばらくは、も大人しくしていた。
リーマスのあの笑顔と、ヴォルのあのキスが堪えたらしい。
ヴォルを強制的に猫の姿にさせ、ここ数日過ごしていた。
人の姿のヴォル相手だとどうにも意識してしまうからだ。
ふと、あの本がの目に留まる。
「そういえば、魔力が必要だから人ごみの中にたまには持って行ってほしいって言ってたよね……」
そっと本を取り上げる。
うむ…と考える。
コンコン
「、私だけど入ってもいいかな?」
「はい、どうぞ」
かちゃりっと扉を開いたのはリーマス。
手には手紙が握られていた。
「ホグワーツからの手紙だよ」
リーマスは持っていた手紙をに差し出す。
少し黄ばんだ羊皮紙に緑のインクで宛名が書かれている。
はそれを受け取り開く。
それには、去年と同じような内容が書かれていた。
ホグワーツ特急のことと、2年生で必要なもののリスト。
2年の教科書は見事にギルデロイ=ロックハート著の本ばかりである。
『泣き妖怪バンジーとナウな休日』『グールお化けとのクールな散策』『鬼婆とオツな休暇』等々。
「なんてセンスのない題名…」
「ほんとだね…」
横からひょっこりの手紙を覗き込み同意するリーマス。
こんな題名では内容もしれているだろう。
まぁ、ギャグ小説を読むつもりでいればいいか…。
「ダイアゴン横丁にいかないと…」
「そうだね…、でも、私はちょっと暫く出かけるから…」
「リーマス、どこかに行くの?」
「あ、うん。ちょっとね……」
誤魔化すように微笑むリーマス。
はそういえば…と思う。
もうすぐ満月だ。
今の時代、脱狼薬があるとはいえ、リーマス自身この家にはいられないと思ったのだろう。
深くは聞かないことにする。
知られたくないことを無理やり聞く必要もないし。
「じゃあ、ヴォルさんと………いや、1人で行って来る」
「駄目だよ、。1人ではこの間のことがあるから駄目」
「う……。でも、ヴォルさんと二人ってのは…」
「友達と一緒には行かないのかい?」
「一緒に行くような友達いないし……」
どこか一線引いた付き合いをしているである。
買い物へ一緒に行くと誘えるほど深い付き合いをしている友人はいない。
「う〜ん、じゃあ、やっぱりヴォルさんと一緒に行くね」
確かにまた以前のようなことになってしまったら困る。
黒猫のヴォルならば可愛いし、一緒にいてもあの時みたいなことにはならないだろう。
そうと決まれば…はグリンゴッツの金庫の鍵を探し出す。
金庫でお金をおろさないと買い物はできないのだから…。
準備が出来、が一階に降りていくと出かけるような支度をしているヴォル。
姿は人の姿である。
「あれ、ヴォルさん?どこか行くの?」
「」
振り向いたヴォルと目があって、ふっとの頭の中に昨日のことが思い浮かぶ。
反射的に顔が少しだけ赤くなってしまう。
うっわー、もう、赤くなったらおかしいって思われる。
落ち着け落ち着け、自分。
別に何が変わるわけでもないし、無茶しなければあんな事もないはずだし。
「?」
の様子にヴォルはもう一度名前を呼ぶ。
「えっと、うん、別になんでもない。うん、全然なんでもないから!」
「そうやって言い訳する方が怪しいって言っているようなものなんだがな」
「全然怪しくないから!」
変なところでするどくなくてもいいよ!
とにかく本当に落ち着け、自分!
「昨日のことでも気にしてるのか?」
ぎくりっと盛大に反応する。
これではその通りですと言っているようなものである。
ヴォルはの反応にくくくっと笑う。
「本当にそういうの駄目なんだな、お前」
「し、仕方ないでしょ?慣れてないんだから」
はふぅっと息をついて気持ちを落ち着ける。
このままではヴォルのペースに持っていかれかねない。
「ところで、ヴォルさんはどっか行くの?」
「ああ、ちょっとな」
誤魔化そうとしていたヴォルだったが、ふと気付く。
「そういえば、は日記のこと知っていたな?」
「日記……?それって、ヴォルさんの学生時代の記憶を閉じ込めたあれ?」
おそらく今年起きるだろう事件に関わってくる日記。
ヴォルは頷く。
その日記は今おそらくルシウス=マルフォイが持っているはずだ。
「あの日記の魔力を少し感じてな、どうやら行動を起こすらしいからダンブルドアに忠告に行こうかと…。それと、他に残っている魔力を込めたものをついでにいくつか回収してこようかと思ってな…」
「他にもあるの?」
「ああ、それなりに魔力を込めたものだからこの際その魔力も頂こうかと思って…、ルシウスのヤツにいくつか預けた物もあるが隠しておいたものも結構あるからな…」
「そっか…。魔力はあるに越したことないもんね」
「をフォローする為にはな」
「私をフォローって、それどういう意味?ヴォルさん!」
「そのままの意味だ。お前は何をしでかすか分からないからな」
「む〜…」
反論したくても反論できない。
反論しようものなら、去年の事件で怪我をしたことに加えこの間のことも言われるからとりあえず黙っておく。
「気をつけろよ?ダイアゴン横丁なら大丈夫だと思うが…」
「大丈夫だよ。ノクターン横丁に迷い込んでも、あそこには何回も行ったことあるから」
ヴォルと一緒に金稼ぎのために入学前に薬草などを売りさばきに行ったことがる。
薬草や石は、多少法を侵して手に入れたものもあって表では売れないものが多かったからだ。
「とにかく、気をつけろよ?」
ぽんぽんっとの頭を軽く叩く。
「私、子供じゃないよ、ヴォルさん」
「似たようなもんだろ?」
「失礼な…。これでも私19歳なんだよ?」
「それでも、俺より年下だろ?」
…そうでした。
見た目はどうあれ、ヴォルの実年齢は60を越えている。
より、それにリーマスより年上である。
互いに表向きの年齢を偽る関係。
とヴォルの関係は、とても奇妙な関係かもしれない。
それでも、何時の間にかにとってヴォルの存在は大きなものになりつつある。
側にいるのが当たり前になってきている。
そしてヴォルもまた、の存在はとても大きなものだ。
に対するこの大きな想いは、決っして失うことはないだろう。