秘密の部屋編 4
フォード・アングリアは無事着地に成功し、車はこっそりと車庫に収められる。
ウィーズリー家の家はハリーからみれば変わったもので、それでも面白いものだった。
は怒っているだろう二人に対する言い訳を一生懸命考えていた。
「「げっ!」」
ウィーズリー家の方から1人の女の人がずんずんと歩いてくる。
双子とロンは彼女を見て「ヤバイ…」という表情になる。
ハリーは彼女が誰なのか分からず首をかしげる。
は、双子の声にふと顔を上げた。
「お、おはよう、ママ」
にっこりと挨拶をしたのはフレッド。
しかし、その笑顔がどこか引きつっているのは仕方ないのだろう。
しかし彼女、ウィーズリー夫人、モリー=ウィーズリーは、じっと彼らを見つめる。
「おはよう…ですって?何を考えているの、貴方達は!朝起きてみればベッドは空っぽ、車はない…どんなに心配したか……!」
モリーは双子とロンを怒鳴り続ける。
けれど、それは心配してるからで…、いつもの調子なのか双子はあまり堪えていないように見える。
ロンだけがしゅんとした様子で、大人しく叱られていた。
どうしようかな…。
とりあえず、モリーさんの怒りが解けてから帰らせてもらおう。
これ以上遅くなると…それこそ恐ろしい事態になりかねないし…。
一通り叱りまくった後、モリーはハリーに向き直り…
「まぁ、ハリー。よく来てくれたわね。家の中へどうぞ、朝食をご馳走するわ。それから…」
モリーはの方に目を向ける。
そういえば、とは初対面だ。
はにっこりと笑みをみせて…。
「はじめまして、モリー=ウィーズリー夫人ですよね。僕は=です」
「まぁ、礼儀正しいのね…、あなたも一緒に朝食をどう…」
「あ、いえ…、僕はすぐに帰りますよ。さすがに家の者が心配してるでしょうから…」
帰るのは怖いけど…。
「あらいいのよ、遠慮しないで頂戴。お家の方にはふくろう便でも出せばいいわ。お腹すいているでしょう?」
「いや…。でも……」
「いらっしゃい、子供がへんな遠慮をするものじゃないわよ」
そう言ってモリーは家の中へと戻って行った。
断る隙もない。
このままこっそり帰ってしまおうと思っただったが、双子に引きずられようにして家の中へと連れ込まれたのであった。
そのまま朝食を頂いて、ハリー達は庭小人の駆除に行った。
はリーマスとヴォルあての手紙を書いていた。
手紙を書いても書かなくても、帰ったときの反応は変わらないような気がするが…。
せっかくなので、購入してあった便箋と封筒とシャープペンを使用する。
何を書こうか迷っていた時に…
バタンっ
玄関の扉が音を開けて開いた。
かつかつと疲れた表情をした男がキッチンの椅子、丁度の向かい側に座る。
モリーが、すぐにお茶をいれ差し出す。
「おかえりなさい、アーサー。疲れてるようね…、とりあずお茶でも飲んでて頂戴」
「ああ、すまない」
疲れた様子でその男、アーサー=ウィーズリーはお茶を口に運ぶ。
ふぅ〜と重苦しいため息をつく。
「毎日残業、残業続きでたまらないよ…。抜き打ちが9件もだ…。…おや?」
アーサーは目の前に座る見慣れない少年、に気付く。
はぺこりっと頭を軽く下げる。
「ロンのお友達よ。フレッドとジョージとロンが無理やり連れてきてしまったらしいのよ」
「あ、どうも…。=です」
「アーサー=ウィーズリーだ、よろしく。それより、君のそれ…」
アーサーはの使っている便箋と封筒、シャープペンをじっと見る。
魔法界では珍しいだろう。
「あの…。僕はマグルの中で育ったので羊皮紙と羽根ペンでは書きにくくてこれ使っているんですが…」
「それはどういうものだい?」
「こっちはシャープペンといって羽根ペンの変わり様なものです。こうやって…」
はカチカチとシンを出してみせる。
さらさらっと便箋に適当な文字を書く。
ほぉ…と、それを物珍しげに眺めるアーサー。
「あと他にも、文具なら買ったものがありますから見ますか?」
「ああ!是非!!」
文具と小さな日用品などはバックの中に入ったままだ。
はバック開け、珍しそうなものを出していく。
ノート、ルーズリーフ、赤と青のボールペン、スケジュール帳、電卓に腕時計。
次々出てくるものにアーサーは興味深々である。
にどういうものか説明を求め、は苦笑しながらも丁寧に説明する。
「そういえば、あのフォード・アングリアは見事ですね。アーサーさんが作ったんでしょう?」
「フォード・アングリア…、ああ、あれかい?勿論、そうだとも!…だけど、何故そんなことを知って…?」
「今朝、あの子達がそれに乗ってハリーとを連れて来たんですよ!」
モリーが怒りの形相でだんっとテーブルに朝食を置く。
お皿の中のソーセージとハムが少し皿から飛び出る。
「何を考えているんですか、貴方は!あんなものが見つかれば、仕事は即座にクビですよ?!取り締まる側のヒトが違法してどうするんですか?!」
「いや、モリー…、それは違うよ。その…な…、あの車は違法ではないんだよ…」
「どこがですか!」
「そもそも、飛ぶことに使うつもりのない車に飛ぶ仕掛けを作っておいても違反じゃな……」
「貴方が法律にそういう抜け道を作っておいたからでしょう?!」
モリーにたじたじのアーサーである。
怒る妻と怒られる夫。
それでも、ギスギスした雰囲気でなく、ほのぼのした雰囲気だ。
はくすくすっと笑う。
「ママもパパもなにしてるの?が笑ってるよ」
肩を竦めてそう言って家の中に戻ってきたのはジョージ。
続いて、フレッド、ロン、ハリーが戻ってくる。
それと同時にばさばさっと一羽のフクロウが飛び込んできた。
「誰のフクロウだ?」
「見たことないフクロウだね」
「エロールじゃないしね…」
呟いたのは双子とロン。
茶色いフクロウはの目の前に手紙をぽとりっと落とす。
そのまま、ホゥ…と鳴いてすぐに飛び立っていった。
の目の前に置かれたという事は、宛なのだろう。
手紙の宛名も「= 様」とある。
首をかしげながら、は手紙を開く。
誰からだろ……?
綺麗な字で書かれた文字を目で追い読む。
読んでいくうちにの顔色が変わっていく。
がたんっ
手紙を握りしめて慌てたように立ち上がる。
「すみません!!僕、帰ります!!」
「まぁ、急にどうしたの…?」
「そんなに慌てなくても…。私はもっと話を聞きたいんだが…」
「迎えが来るそうなので!」
のんびりとにこやかなウィーズリー夫妻に構わず、は広げていた文具などの荷物をバックに詰め込む。
手紙はリーマスからだった。
文の端々から、怒っていることが伺える。
「アーサーさん、モリーさん、お世話になりました!御礼は改めて…」
「いいのよ、お礼なんて…」
「いや、また話を聞かせてもらえればそれで…」
「あなた!」
「いえ、お話くらいならいつでも構いませんよ」
の持っていたマグルの使う道具に興味を覚えずにはいられないアーサーをたしなめるモリー。
苦笑しながら答える。
「それから、ポッター君、ウィーズリー君、ウィーズリー先輩方。僕はこれで失礼します!」
バッグを手に持ち、頭を下げる。
迎えが来る前に一刻も早く帰らなければ…。
後が恐ろしい…。
慌てたように外に出ようとする。
がしっ
を止めるように腕を掴むジョージ。
じっと、を見る。
「あ、あの…。ウィーズリー先輩…?離して欲しいんですけど…」
急いで帰らないと…。
は一分でも一秒でも早く帰らねばならない。
「どうして…?」
「…?」
「どうしてなの?」
「何が……ですか?」
はきょとんっとする。
ジョージが何を言いたいのか分からない。
「パパとママはファーストネームで呼ぶのに、僕らはファミリーネームで呼ぶの?」
「え…?あ……。」
言われて気付く。
そう言えば、さっきウィーズリー夫妻をファーストネームで呼んでしまった。
手紙の内容を見て慌てていたせいもあるが…。
「年長者をファーストネームでは呼べないって言ってたよね」
「あ、でも…。どっちもウィーズリーさんじゃあどっちか分からないし…」
「僕らは兄弟多いから、ファミリーネームじゃあ誰を呼んでいるのか分からないよ?」
それはそうだが…。
でも、急いでいるんだってば!
早く帰らないとリーマスが…!
「ちゃんと、呼んでよ」
「いや……そう言われましても……」
「じゃないと、階段下での会話………バラすよ?」
ニッと笑みを浮かべるジョージ。
は顔を顰める。
そうくるかー!
急いでいるは説得する時間も惜しい。
となれば…。
「あ〜、もう!分かりましたよ!性格悪いですね!ジョージ先輩は!…これでいいんですよね?!」
「できればその丁寧語もやめて欲しいんだけど…」
「それは無理です!」
「しょうがないな…」
諦めたようにの手を離すジョージ。
それでも満足そうな表情だ。
何をそんなに拘るのかには分からない。
二つ年下のごく普通の後輩だというのに…。
そう思っているのはだけだが…。
未だに自分がどれだけ慕われているか気付いていないである。
ともかく、急いで帰るのみ!
そう思ってやっと外にでようとしただが、玄関に人影がある。
その人影はこんこんっと軽く扉を叩いて、家主の返事も待たずに入ってくる。
「ウィーズリー家はここでいいのか?」
眉間にシワを寄せながら不機嫌そうな表情で入ってきたのは、ここにいるのはかなり珍しい人物。
全身黒ずくめで、グリフィンドールの嫌われ教師。
「き、教授?!!」
「「「「スネイプ?!!」」」」
は思っても見なかった人物の登場に驚き、ハリー達は思いっきり顔を顰める。
ほのぼのした家に黒ずくめのセブルス。
思いっきり違和感がある。
な、なんで教授がここに……。