秘密の部屋編 03




階段下の物置の鍵をいとも簡単に開ける
かちっと開いた鍵をとり、そっと扉を開ける。
まずは、箒を取り出す。
次にヘドウィグの入った鳥籠。

「ウィーズリー先輩は、箒とヘドウィグをお願いしますね」
「あとは1人で運ぶのか?」
「はい、大丈夫ですよ」

箒と鳥籠をうけとるジョージ。
は奥からなんとかハリーの他の荷物を取り出す。
トランク2個分。
ぽつんっと小さく何かを呟くとトランクの重さが殆どなくなる。
ふたつをひょいっと持ち上げるにジョージは驚く。

「見つからないうちに行きましょう。ウィーズリー先輩」
「そうだな」

そっと階段を上っていこうとしたとジョージの前に人影が見える。
薄い桃色の寝間着を着た女性が立っている。

「行かせないわよ!」

ジョージは顔を歪め、舌打をする。
怒ったような、それでもどこか必死の様子が感じられるようでは不思議に思う。

「ペチュニア=ダーズリーさん?」
「そうよ!それが何なのかしら?!さぁ、そのへんてこなものを置いてハリーを帰して頂戴」
「ハリーを帰すだって?あんな鉄格子に閉じ込めてハリーが帰りたいとでも…」
「ちょっと黙っててください、ウィーズリー先輩」

ペチュニア=ダーズリーは魔法を信じずに、魔法使いを馬鹿にしているマグルの1人のはずだ。
ハリーを邪魔に思っているのなら、勝手に出て行っても別に構わないと思うのだが。
それともハリーに何か拘る理由でも。

「ペチュニアさん。すみませんが、ハリーは連れて行かせてもらいます。見逃してもらえませんか?」
「何を言っているの?!あの子はここに閉じ込めておくのよ!外にでるなんて…!」
「守ります」
「何を…」
「僕が絶対にハリーを守ります」
「駄目よ!!だってあの子は、姉さんの大切な忘れ形見なのよ!魔法なんてわけの分からないものには絶対関わらせたくなかったのよ!」

必死に叫ぶペチュニアにジョージは呆然とする。
はやっぱり、と思う。

「リリーさんのこと。大切だったんですね」
「勿論よ!!大切な姉ですもの!」
「でも、リリーさんはきっと、ハリーを閉じ込めることなんて望んでませんよ」
「そんなことないわ!だって、ここが何処よりも安全ですもの!」
「それでも…。ハリーはホグワーツに行くべきです」
「駄目よ!姉さんのようになって欲しくないわ!ハリーは!」

厳しくあっていても、リリーのことを大切だと思っていたペチュニア。
勿論、その息子ハリーのことも大事なのだろう。
こうすることでしか、自分はハリーを守れないから。

「どうしたのかね?ペチュニア」

はっとするとペチュニア。
ペチュニアは、まだ寝ぼけた様子のバーノンの方に駆け寄る。

「あなた、あの子が逃げようとしているのよ!!」

必死な様子でバーノンに知らせる。
バーノンははっとなり、とジョージを見る。

「ウィーズリー先輩、先に行ってください」
「でも、
「行ってください!」
「行かせるか!」

怒りで顔を歪めたバーノンがジョージに襲いかかろうとする。
ジョージはひょいっとそれを避け、階段を急いで登っていく。
バーノンはには目も留めずにジョージを追いかける。
「あの小僧が…」と憎々しげにバーノンが呟いたのが聞こえた。
どうやら猪突猛進型らしく、一度に二つのことはできないらしい。
現在のターゲットはジョージに定められたので、を目に留めなかった。

「ペチュニアさんは、ハリーのことを本当に思ってくれているんですね」
「勿論よ。あの人やダドリーはそんなこと思ってないようだけど、それでいいのよ、あの子の為には…」
「殺されるより、今の方がまし…ですか」
「そうよ!死んでしまったら何も出来ないわ!」
「それでも、僕はハリーを連れて行きます。それがきっとリリーさんの望みでしょうから」
「あなたに姉さんの何が分かるの?!何も知らない部外者の癖に!」

は少し顔を伏せる。
きっと、ペチュニアはハリーが狙われていること知っているのだろう。
姉のようになって欲しくないからこうして閉じ込める。

「…すみません」

は深く頭を下げる。
知っていてリリーを守れなかった自分。
そして、ハリーが危険にさらされると知っていても連れて行こうとしている。
いろんな思いを込めての謝罪。
ペチュニアには本当の意味など分からないだろう。
ばっと、急いで階段を駆け上がる。
格子の取れた窓から、バーノンが乗り出して車に乗っているハリーを連れ戻そうとしてる。
は窓の方に走り…


むぎゅっ


バーノンを踏み台にして見事に車に乗り込む。
転げるように飛び込んできたに驚くハリー達。

「このっ!小僧!育ててもらった恩を仇で返す気か?!!」

窓から身を乗り出すバーノン。
に踏み台にされても全く堪えてないのはある意味すごい。

「フレッド、早く出せ!」
「ああ!分かってる!」

ジョージの言葉に頷きながら思いっきりアクセルを踏み込むフレッド。
ぐんっと勢いをもって車が前進する。
窓から身を乗り出しすぎたバーノンが窓から落ちるのが見えた。
それもすぐに遠くなる。
ふぅっとため息をつき、ハリーの荷物を後ろの荷台へと移動させる
そこにはすでに箒と鳥籠がきちんとあった。

「あの、、ありがとう」

ハリーが助手席から後部座席のに顔を覗き込ませてお礼を言う。
は苦笑する。

「いいよ、ああそうだ。ヘドウィグを放してあげたら?随分と窮屈そうだったから」
「あ、うん。そうだね。ロン、頼むよ」
「分かった」

ロンは荷台を覗き込み、鳥籠の鍵を外す。
鍵は鳥籠のすぐ側に括り付けてあった。
かちっとはずし、放してやればヘドウィグは空高く舞い上がっていった。
久しぶりの外で嬉しそうだ。

「ああ、そうだ…」

は何か思い出したような顔をして、隣のジョージの方を向く。
口元に人差し指をあて…

「ウィーズリー先輩。さっきの事は内緒でお願いしますね」
「さっき?」
「階段下での会話です」

あの時、はハリーをファーストネームで呼んでいた上に、ハリーの母親リリーのことも話していた。
ハリーとはただの友達…しかもロンやハーマイオニーほど仲良くもないのにそこまで詳しいのはおかしいだろう。

「何で?」
「ワケ有りです」
「ワケ有りね。やっぱり、君には秘密が多そうだね」
「やっぱりって」
「1年の時から有名な話だよ。どこか周りの人たちとは違う雰囲気だったしね」
「そうですか?」
「まぁ、でも、いいや。今はとりあえず深く聞かないことにするよ」
「そうしてもらえると助かります」

苦笑する
深く聞かないでもらえるのは助かる。
しかし、ジョージにしてはその態度は珍しいが…。
とジョージがこそこそ話している間、ロンがハリーから事情を聞いていた。
ドビーという屋敷しもべ妖精の事、ホグワーツに行くことを止められたこと、手紙は全てそのドビーが取り上げていたこと。
うっすらと空が白み始めてきた。
もうすぐ夜明けのようだ。

「もうすぐ着くぞ」

フレッドがほっとした様子で言った。
なんとか、完全に夜が明ける前に着けそうである。
あたりは、森と言っても差し支えないほどの木々。
車はゆっくりと高度を落としていく。
は外を見ながらぼぅっとしていた。
ようやく着くということで安心してほっとしていたが…ハタと気付く。

ああっ!!

大きな声を出す。

「ど、どうしたんだい、?」

の声に驚いてジョージ達はに注目する。
は顔色を変えて、冷や汗を流していた。
大変なことを思い出してしまった。

「いや、買い物に行くって言ったきり何も連絡してないから…」

(ヴォルさんと、リーマス…絶対怒ってるだろうな…)

不機嫌そうなヴォルと、腹黒笑顔のリーマスが家できっと待ち構えているに違いない。

「ど、どうしよ。帰らないわけにも行かないし…帰ったら帰ったで、あの二人が怖いし」

時間は戻せない。
となれば、早く帰って二人に謝るべきなのだろう。
しかし、ここからすぐに戻る事は出来ない。

(うぁぁぁ、このままどっかに逃げたいよ!怒ったヴォルさんと、リーマスなんて最悪の組み合わせだ!)