クリスマス休暇 03





後ろから抱きしめられて、キスされて…ヴォルはといえば、そのまま眠ってしまっていた。
ずしっと肩にかかる重み。
ちらりっとリーマスの方を見てみれば、リーマスも酔いつぶれたのか眠くなったのか、眠っている。
随分静かなものだ。

「って、ヴォルさんやっぱり酔ってたんじゃ…

ちらりと見える横顔を覗き込む。
静かな寝息をたてて寝ている。
はゆっくりとヴォルを背中から下ろし、ヴォルはの背中に寄りかかるように眠っていたので、そっとソファーに横たえる。

「皆眠ってしまったようだね」

寝ているはずの部屋から聞こえる別の声。
声の方を向いてみれば、そこにはジェームズの姿。
いつの間にか本から抜け出してきたらしい。

「ジェームズさん…」

ジェームズはに笑みを見せながらもハリーへと視線を移す。
懐かしそうな、それでいて愛しそうにハリーを見る。

「ハリーは、…随分大きくなったんだね」

呟かれた言葉にそういえば、と思う。
ジェームズが成長したハリーを見たのはこれが初めてだろう。
子供を育てきれずに大きくなった子供を見るのはどういう気持ちなのだろう。
ジェームズは触れられない手で、そっとハリーの頭を撫でるようにする。

「ハリーが起きている時には、会わないつもりですね、ジェームズさん」

の言葉にジェームズは顔を上げる。
悲しげな笑みを見せてジェームズは小さく頷く。

「だって、僕らはあくまで記憶なんだよ、。いまこの時に関わることしては駄目だよ、だからこの記憶を残す魔法は闇の魔法に分類されているんだ。死んだ者が生きている者へと関わることをしてはいけない」

だからジェームズはハリーに会わない。
ジェームズとリリーはもうすでにこの世に存在していないのだから。
存在しないものが、この世界に影響を与えるのは許されない。

「リーマスや、黒猫君、それから。君たちはそれが分かっている。僕らがただの記憶で何もできないことを分かっている。だから僕らは君たちの前には出ることにしているんだ」
「そう、ですね。ハリーだと、ジェームズさんとリリーさんの記憶にすがってしまうかもしれないから…」
「思い出として語る分にはいいんだよ。僕もリリーも、『今』に関わるつもりはないんだ」

それでもジェームズの笑みは悲しげだ。
関わることを自ら戒める。
だが、息子が両親のいない状態で過ごしているのを見て平気なわけがない。
それでも…ハリーの前に現れるのは決してハリーの為にならないから。

「今の事は、今を生きている人たちが解決しなければならない問題だよ。この先ずっと、僕とリリーは傍観者でい続けるつもりさ。だから…」

ジェームズはじっとを見る。

「話してみないかい?」

何を言われたのか分からなかった。
話せと言って、何を話すのか。
一拍遅れて桜花が返した返事は短いもの。

え…?

ジェームズは、眠ったヴォルの隣に腰掛けているの反対隣に腰掛ける。
柔らかな笑みを浮かべての頭を撫でる。
といっても感覚はないのだが。

「全て僕に話してみないかい、。僕は聞くことだけならできるよ?現代の時の代行者さん?」

は驚いたように目を開く。
ジェームズは気付いてるのだろう。
か全てに対して一線引いているだろうことに。
それは時の代行者に関係することで…がまだ全てを話していないことに。

「話せないこともあるんだろう?例えば、そうだね…そこの黒猫君が実はヴォルデモート、とかね」
…っ?!!

びくりっとなる
鋭いジェームズのことだから、なんとなく分かっていてもおかしくはないとは思っていた。
だが、こう面と向かって言われると驚くなんてものじゃない。
平然としているジェームズが不思議でならない。

「大丈夫だよ、。僕は別に黒猫君をどうこうしようだなんて思ってないさ。彼は彼だ、今のヴォルデモートとは違うんだろう?」
「…はい」
「何を隠しているんだい、君は。両親はどうしたんだい?今まで住んでいた所は?リーマスに聞いても知らないと言うし…」

ぎゅっと拳を握り締める
聡明なジェームズがその矛盾に気付かないはずがない。
まだ、両親のもとにいても特におかしくない年齢の
そんな彼女が「時の代行者」として、ヴォルとそしてリーマスと共に住んでいる。

「『時の代行者』としての役目を与えられたから日本から出てきた?違うだろう?君は両親…両親がいなくても保護者や身内に全く連絡をとった気配がないね」

ジェームズが疑問に感じていること。
それは恐らくリーマスも、ダンブルドアも、そしてヴォルも感じていることだろう。
それを問わないのは恐らくが答えないと分かっているから。

「未来を垣間見るという『時の代行者』。君は未来を知っていることでその未来に関わる人達との接触を避けているんだろう?だから、真実を話せない…、いや他に理由があるのかな?」

にこりっと微笑むジェームズ。
言ってもいいのだろうか。
彼はヴォルと同様、本来ならば存在しないひとだ。
そしてこれからも関わることはないだろう。

「少し…聞いてもらっていいですか?ジェームズさん」

はジェームズを見る。
ジェームズはにこりっと優しそうな笑みでの言葉に頷く。
勿論だ、とでも言うように…。





「私は、この世界のひとじゃないんです」

ジェームズはのその言葉に驚かずに聞いている。
予想はついていたのかもしれない。
今この時にの帰る場所はないのだと。

「もしかしたら私は未来の人間かもしれない。この世界のマグル界の情勢は私の世界の過去そのものだから…でも、やっぱりここは私がいた場所とは違うところなんです」

本の中の世界へ入り込むことなど有り得るのだろうか。
それでも、この世界ががいた場所とは違うのは分かっている。

「『時の代行者』は世界を闇に染めないために存在するものです。恐らく6年後には全ての決着はついているでしょう。私は、きっとその時にはここにはいない、と思うんです」

おかしな確信がある。
『時の代行者』としての勘なのか、世界がを必要としなくなれば元々イレギュラーな存在のはここから追い出されてしまうだろう。
ずっとここにい続けることはできない。

「今の生活は楽しいです。けれど、そこに馴染んでしまったら帰りたくなくなってしまう…!」

今ならまだ、この世界から追い出されても平気かもしれない。
ヴォルもリーマスも、ハリー達も…、いい人たちばかりだ。
離れたくなくなるかもしれない。
けれど、世界の意思そのものに抗うことなどできない。

。僕は、そんな先のこと考えなくていいと思うよ?」
「ジェームズさん?」

ジェームズはふっと笑みを浮かべてを見る。
それは愛しむ様な表情。

「君はいずれ帰る…それは誰が決めたんだい?世界かい?」
「でも、私はいずれ帰らなければなりませんよ、絶対に…」
、世界が決めたことでもそれは絶対じゃないよ。絶対なんて有り得ない」
「それでもっ!世界が最良と決めた未来を私は導かなければならない!!ここの未来に私の居場所はないんです!」

本の中、の存在はいない。

「自分の知る未来は最良の未来だと、だから私は…「時の代行者」はその未来通りにことを運ばなければならないんです」
、決められた未来なんてないよ」
「いいえ、私は…」


ジェームズはそっとの肩に手を置くように触れる。
感覚はやはりない。
けれどどこか暖かさが伝わってくるような気がした。

「役目を果たそうとするのはの意思だから、の思う通りにすればいいさ。けれど、未来を知っているということは未来を変えることも可能だということじゃないのかい?」
「けれど、先代は…その未来を変えようとして、より多くの犠牲を生んでしまったって」
「先代は先代、今の代行者はだろう?未来を知っているからといってそれのみの対策に甘えていては犠牲が増えるのは当たり前だよ」

そうかもしれない。
けれど、には動く勇気がない。
普段、学生生活ではあまり動揺することなく堂々としている

、僕が言えるのはただひとつ。もし、もし本当に助けたい人がいるならば、役目なんて最良の未来なんて放り出してしまえ、世界中がの行動を責めても僕だけは君を褒めるから」
「ジェームズさん…」
「今でなくていい。もっと我侭になっていいんだってこと、覚えておいて欲しい」

役目だからといって諦めないで。
望みがあるなら、望むままに叶えていい。
自分が信じる道を突き進めばいい。

「1人で守りきれるものは結局ほんの少ししかないんだよ、。だから、世界はこぼれてしまう命を仕方ないと思い最小の犠牲で済まそうとしているのかもしれない。けれどその最小の犠牲の中に大切な人がいたら?それは果たして最良と言えるのかな?」

大切なものを失った者にとって、それは最良でもなんでもない最悪でしかない。

「役目は絶対じゃない。人の意思を自由にできる者はいないよ、。だから、自分が信じることをするんだ、後悔のないようにね」

ジェームズは、親友に裏切られた今の状況を見ているから…大切なものを失った気持ちが分かるから、そう言うのだろう。
大切なものを失った人を見ることほど辛いものはない。
もそれは頭の中では分かっている。
けれど、その辛い気持ちはやはり体感してみなければ分からないだろう。

ジェームズのこの言葉をが本当に理解する時はまだ先なのかもしれない。
それは、が誰かを失った時か、失う前に気付くか。

だが、ジェームズは知らない。
『時の代行者』は、の意思で放り出せるような役目ではないのだということを。
代行者の行動に世界はかかっているのだから。
たとえ、大切な人を守れても、世界が闇に染まってしまっては意味がない……はそれを無意識に分かっているからこそ、知る未来通りに事を運ぼうとしているのだろう。