クリスマス休暇 02





クリスマスパーティーは盛大だった。
リーマスの料理は上手い。
ただ、ただ、…少し思う事がある。

「よぉし!!今度はコレを一気飲みだ!!」
「おお!相棒!僕もコレを飲むぞー!!」

グラスに注がれた液体を一気に飲み干していく双子。

「一番!ハリー・ポッター!いきまぁぁす!!パーセルタング!!」
「ハリー!いいぞ〜!」
「面白いわ!ハリー!」

ハリーは真っ赤な顔でケラケラ笑いながら、訳の分らない言葉を紡ぐ。
何が面白いのか同様に真っ赤な顔で盛り上がるロンとハーマイオニー。

「う〜ん、子供達はやっぱり元気だねぇ〜」

こちらもほんのり赤みを帯びた表情で子供達を眺めるリーマス。
手に持ってるグラスには深紅の液体。

「…リーマス、いつの間にお酒なんて」

唯一まともな顔色のがリーマスを睨む。
子供達の飲んでいるのはれっきとしたお酒。
お酒にまだ耐性のない子供達は完全に酔っ払っている。

「しかも!これ、クリスマス用のアルコール度低めのシャンパンじゃなくて、ワインじゃない!」
「いいじゃないか、。今日はクリスマスイブ、こんな日くらい羽目を外してもいいだろう?」
「それでも、これはやりすぎ!」

は一口飲んでワインだと気付いたので、それ以後はジュースのみを飲んでいる。
酒には多少なりとも耐性はあるが、流石に酔っ払えないという保証はない。
リーマスを見れば、彼も酔っ払っているように見える。

「…こんな時にヴォルさんいないし」

ヴォルは昼間からどこかに出かけているらしく、今はいない。
深いため息をつかずにはいられない。
どんちゃん騒ぎを見守る


「何をやってるんだ?」


ぼうっとしていたの上から声がかかる。
見上げてみれば、そこにはヴォルの姿。

「ヴォルさん!お帰り」
「ああ、それはいいが、なんだこれは?」

酔っ払って騒ぎまくっている子供達を呆れたように見るヴォル。
ちなみに全身黒ずくめの人の姿である。
は、一瞬ヴォルの姿をハリー達に見せるのはまずいと思った。
だが、完全に酔っ払っているハリー達の様子を見て、この分なら夢か幻かで済ませられるかも…と思ってしまう。

「見ての通り、リーマスがいつの間にか用意したお酒に皆酔ってるだけ」
「酒か…」
「ところで、ヴォルさんどこに行ってたの?」
「ん、ああ、ちょっとな」

ヴォルはの隣にどさっと腰を下ろす。
手に持っていた本を放り投げる。
がその本を見てみれば、それはジェームズたちの記憶の本である。

「ヴォルさん、もしかして、ジェームズさん達と出かけてたの?」

わざわざ、ヴォルがジェームズ達に魔力を与える為にその本を持ち出したとは考えにくい。
その本をどうこうしようとはするとも思えない。
となれば、ジェームズに強制されてどこかへ行っていたか。

「ああ」

どこか不機嫌そうに肯定するヴォル。
その様子から、やはりヴォルの意思関係なく、脅されたか強制させられたかなのだろう。
さすがポッター一家。
ヴォルは不機嫌な表情のまま、近くのワインとグラスを取る。
慣れた手つきでグラスにワインを注いで口に運ぶ。
はそれをじっと見る。
やけに絵になるその構図。
こういうシーンをみると、やはりヴォルは綺麗な人なんだと改めて思ってしまう。

「なんだ?

の視線に気付いたのか、ヴォルがの方を向く。

「別に…なんでもないけど、ワインって美味しいものかな?」

はあまりお酒をたしなまない。
まだ、お酒を美味しいとは思えない。
苦い、としか思えないのだ。
だが、ヴォルは苦味など感じないかのように飲んでいる。

「時と場合によるだろうな。無性に飲みたくなる時もある」

そして一口、ヴォルはワインを口に運ぶ。
はハリー達に視線を移した。
いつのまにか、ハリー、ロン、ハーマイオニーは床に倒れこむように寝ていた。
やはりまだ子供だからだろう。
双子は何がおかしいのか、まだ笑って騒いでいる。
リーマスはそれをにこやかに見ている。

「皆、酔っ払っちゃって、明日大変だろうな」

(二日酔いにならなければいいけれど…。ハリー達のあの酔いぶりだとどうか分からないな)


ぐいっ


ぼうっと双子の方を見ていたは突然引っ張られる。
きょとんっとして、引っ張った相手を見ようとすれば、いつの間にか後ろからヴォルに抱きすくめられていた。

「ヴォルさん?」

突然なのはいつものこと。
スキンシップが最近激しくなってきたので、この程度ではあまり慌てなくなった
しかし、内心は結構ドキドキものである。

も飲んだらどうだ?」
「え?いいよ。お酒弱いし」
「いいから飲め」

ヴォルはくいっとに上を向かせる。
そして自分の口にワインを含み、そのままの唇に自分のそれを合わせた。

「っ?!!」

合わさった口から流れ込んでくるワインの味。
少し甘くて、苦い、…が、はっきり言ってには味があまりよく分からなかった。
そのまま舌を絡めてくるヴォル。
体勢が体勢なので、ヴォルから離れようとしても難しい状態である。
背後から抱きすくめられながら、顔だけ上を向かされ口付けられている状態なのだ。
しかし、何よりもまずい事がある。

(やばい!何がやばいって…まだウィーズリー先輩達が起きていることが!上手い言い訳なんて全然考え付かないよ!)

「…っは」

唇が離れた時、の息は少しあがっていた。
最初のキスから何度目になるかわからない。
抵抗する気がおきないまま、拒まないが悪いのかもしれないが、ヴォルは1度許すと平気で2度3度と仕掛けてくる。

「どうだ?」

(どうだって、聞かれても困るってば!!)


!何やっているんだい?」
「そこの彼は誰なんだい?」
「…っ?!!!」

双子の呼びかけにびくっとなる
視線を向けてみれば、いつの間にかの前ににこにこ笑顔でいる。

「お前ら、邪魔だな」
「え?ヴォルさん?」

頭の上からの声に顔を上げてみれば、目つきを鋭くしたヴォルがいつの間にか杖を構えていた。
すっと杖を双子に向ける。

(ま、まさか…)

!そんなところにいないで一緒に騒ごうじゃないか!」
「そうさ!僕らと一緒に悪戯の極意を極めよう!」
「伝説のムーニーから教わった悪戯の極意と!」
「君の突飛な発想!!」
「「僕らと一緒に!さぁ!!」」

両手広げてを歓迎している様子の双子。
しかし、ヴォルの存在をそんなに気にしないところをみるとやはり酔っているのだろう。
彼らは酔うと一点のみ集中、周りが全く見えなくなるようだ。
最も普段と変わりがないといえば変わりがないのかもしれないが。

「餓鬼は寝てろ、スフューリー、眠れ!

ひょいっとヴォルが杖を振れば、光が双子を包み込み、二人はばたっと倒れる。
そして次の瞬間すぐに、安らかな寝息が聞こえてくる。
その様子を見てはふと思う。

(ヴォルさんってもしかして…)

ちらっとヴォルを見上げれば、顔色は特に変わりがない。
飲んだお酒もそう多くはないはず。
まさか、かのヴォルデモートがお酒に弱い、のはちょっとイメージと合わない。

「ヴォル、さん?」
「何だ?」
「…もしかして、酔ってる、わけないよね?」

酔っているようには見えない。
見えないが、ちょっと言動がいつもよりも大胆なように思える。

「酔っているように見えるか?」
「見えないけど」
「だったら、酔ってないんだろ…ああ、でも」
「でも?」
「俺はこの体になって体質が変わったかもしれないからな、酒に強いとは言い切れないかもな」

(それって、それって、つまり猫の体になってお酒なんて飲んでるはずもなく、これが初めてのはずで、初めてお酒飲んで酔わない、なんてことない訳だから…)

ちゅっ

うひゃぁっ?!!

首筋に触れた感触。
ヴォルがの首筋に軽く口付けた。

「ちょ、ちょっとヴォルさん!!」
「嫌か?」

即座に返されるヴォルの言葉。
嫌か?と問われれば、嫌ではないである。
それでも、この際はっきりしておきたい部分もある。

「嫌、じゃないけど…、いっつも思うけど、ヴォルさんって何でこういうこと私にするの?」

ヴォルに寄りかかるようにしてヴォルを見上げる。
視線が合う。

「分からないか?」

じっとを見つめるヴォル。
真剣な表情。
想われている事は分かる。
だが…

「別に俺は、と恋人同士になりたいとか、結婚したいとかそういう感情はない」
「じゃあ、なんで?」

キスは恋人同士の行為ではないのか。

「恋はいずれ冷める、夫婦は僅かな亀裂で壊れる絆だ、俺はそう思っている。とはそういう関係になりたいわけじゃない」
「ヴォルさん?」
が恋しい、愛しい、触れたい、抱きしめたい、キスをしたい。こういう感情は初めてで、俺にはこれが『恋愛感情』だとは分からない」

ぎゅっとを抱きしめる腕に力がこもる。
はほんのり頬を赤く染める。

「触れたいと思って触れるだけじゃ駄目か?抱きしめたいと思って抱きしめるだけじゃ駄目か?キスしたいと思ってキスするだけじゃ駄目か?」

わずかに見える、ヴォルの迷い。
が好きだということ、それは迷いのない想い。
だが、それがどの『好き』であるか、それを確定したくはないのだろう。

「側にいて欲しいいんだ、。お前の唯一になりたい、俺は…」
「ヴォル、さん」
「抱きしめる腕と、キスする唇だけは拒まないで欲しい。俺はお前に拒まれるは何よりも辛い」

切なそうに言葉を紡ぐヴォル。
知らないという『恋愛感情』。
今、抱いているそれこそが『恋愛感情』なのではないのだろうか?
だが、今までの環境からか、ヴォルは『恋人』や『夫婦』という関係に不信を抱いている。
だから、あえてそいう関係になろうと望まない。
ただ望むのは、拒まないで欲しいと気持ちだけ。
抱きしめる腕に身をゆだねて、口付ける唇を受け入れて。

「言葉欲しいのか?が欲しいのならいくらでも言ってやる」
「言葉って…」

何を言うつもりなのか。

「愛してる、

耳元でささやかれる言葉。
言葉に込められた感情が切なくて、どきっとする。

「ヴォ、ヴォルさん?!」

言われた言葉に慌てる
そこまで気持ちを込められた言葉をもらうのは初めてで、照れくさいと同時に恥ずかしい。
でも、嬉しい。
そんな気持ちが混ざり合う。

「愛してる、愛してる、愛してる………

かぁぁぁっとの顔は真っ赤になる。
強い想いが伝わってくる。

「俺はの側にいる。そう決めているから、だから、キスだけは拒むな」

背後から腕を回されて、顔を固定される。
背中には僅かなぬくもり。
合わさる視線と、唇。
今までは、ただ、嫌じゃないから拒まなかっただけだった。
けれど今この時のキスは、ヴォル自身を受け止めていた。
この世界のものとは全て一線引いていたが、少しだけヴォルの気持ちを受け入れた瞬間だった。