ゴドリックの谷 06
『転移!ホグワーツ』
力を使い、招かれざる客であったデス・イーター二人を転送する。
結局転移先はホグワーツにすることにした。
ホグワーツならばダンブルドアもいることだし、大丈夫だろうということで。
しかも、ヴォル曰く。
「捨て駒程度の雑魚だ。大丈夫だろ」
とのこと。
今は夜中なのだが、今更寝ても仕方ないということで、コーヒーを入れつつ夜明けをまつことにした、ヴォル、ジェームズ。
「、聞いていいか?」
「うん?何?ヴォルさん」
沈黙を最初にやぶたったのヴォルだった。
まだ人の姿のままで、静かにカップを口に運ぶ。
は顔を上げてヴォルを見る。
「…お前、未来を知っているのか?」
ぎくりっとなる。
ジェームズは先ほど言っていた。
先代の時の代行者に予言された、と。
は自分が未来を少なからず知っていることを誰にも話していない。
「確実な未来じゃないよ。予定外のことも起こりうるし…」
「つまり、知っているってことだな」
「うん、少しだけね」
頷く。
ヴォルはふぅっと深いため息をつく。
「その様子じゃあ、黒猫君は想像ついてたようだけど?」
「ああ。しかし、なんだ?その黒猫君ってのは」
「黒猫君は黒猫君だろう?」
「え?ちょっと待って、ヴォルさんは想像ついてたってどういうこと?」
慌てるだが、考えてみればの態度から一緒にいた時間が長いヴォルならば想像つくだろう。
もしかして、はこれから起こる事を知っているのではないかと。
の行動をずっと側で見れていれば分かるだろう。
「お前の態度、あからさまなんだよ。妙にあの3人と距離置くくせに、危険になると分かると心配して動く。しかも肝心な時にだけ動くからタイミングがよすぎる」
「そ、そんなにあからさまだった?」
「ああ、思いっきりな。ダンブルドアあたりならとっくに気付いているんじゃないか?」
何でもお見通しなダンブルドアのこと。
時の代行者が僅かながらも未来を知ることができるということなど既に知っているだろう。
の行動からではなく、先代からそれを聞いたのかもしれないだろうし。
「はホグワーツに行っているのかい?」
「はい。まぁ、どういう訳か入学許可証が届きまして…」
「ホグワーツは探検しがいがある所だよ。さすがの僕らでも全てを知ることができなかったよ。せめて噂のスリザリンの秘密の部屋くらいは見つけたかったなぁ」
懐かしそうに目を細めるジェームズ。
はその言葉にヴォルの方をちらりっと見る。
「スリザリンの秘密の部屋はパーセルマウスでないと行けませんよ?入り口の鍵がパーセルタングですから」
「え?そうなのかい?!ってことは、はその部屋が何処にあるかを知ってるんだね」
「ええ、でも私もパーセルマウスじゃないですから入り口知っていても行けませんけどね」
最も、強引に行こうと思えば行けることは行けるだろう。
の力を使えば、パーセルタングが鍵となる入り口でも開く事は可能である。
だが、強引に行ったところで何をしたいわけでもないから、行く気はない。
「あれだけ苦労しても、あの地図は完璧に完成には至らなかったしね」
「あの地図って、もしかして「忍びの地図」のことですか?」
今は、あのウィーズリーの双子がもっているはずである、ジェームズ達悪戯仕掛け人が作り上げたホグワーツの地図。
ジェームズは驚いたようにを見る。
「、君は…」
「何ですか?」
ジェームズはふぅっと息をつき、でなくヴォルを見る。
ヴォルもため息をついている。
「は随分と無防備なんだね、黒猫君の苦労する姿が思い浮かぶ気がするよ」
「それってどういう意味ですか?ジェームズさん」
には良く分からない。
なぜそこで無防備とか言われるのだろうか?
「、君は僕を信用しているかい?」
いきなり変わった質問にはきょとんっとなる。
話がずれているような気がするが、はとりあえず頷く。
その様子にジェームズとヴォルのため息が漏れる。
「君は一度信用したものに対して無防備すぎるよ?たとえ自分が知っていることでも、言わない方がいいこともあるんだ」
「え?あ、もしかして私、ジェームズさんに自覚なしで気に障ることでも言いました?」
不安になる。
ジェームズは首を横に振る。
それにはほっとする。
「君は自分を省みずに動いてしまうように見える。自分が危険にさらされることを承知でね」
「そんなことないですよ?」
「自覚してないだけだよ、きっと」
くすくすっと笑うジェームズ。
慎重な者が、あんなに簡単に自分の知っていることをぽろりっと話すものか。
「忍びの地図」のことを知っているものは少ない。
がそれを知っていると言う事はジェームズとは少なからず接点があるということになる。
自分の持つ情報を、信じている相手だからといってそう簡単にさらすようでは、相手としては心配だろう。
危なっかしいのだ。
「確かに、そいつの言うとおりだ。は全く無防備で困る」
「ヴォルさんまで。私そんな無防備じゃないよ?ちゃんと気をつけて行動してるってば!」
「気をつけてるなら、闇の魔法かけられて死にそうになったりするか?」
「う、だってあれは予想外のことで…」
「トロール相手に怪我をしたこともか?」
「でも、あれは方法がなくて…」
なんとか言い訳らしきことを言うだが、だんだんと小声になってしまうのは多少なりとも自覚があるのか。
よく考えれば、はかなり無防備だ。
「闇の人形」を埋め込まれて死にそうになったのに、トロールの時には迷わずにハリー達の元に駆けつけた。
そして、ハリー達がヴォルデモートと対峙する時も、迷わずにその場に駆けつけた。
「まぁ、でも、黒猫君がいるから大丈夫かな?」
「何で、ヴォルさんがいると大丈夫なんですか?確かにヴォルさんは魔法使いで優秀な方にはいるでしょうけど」
「黒猫君がを助けるだろうからね」
「ヴォルさんが?」
こくりっと首をかしげてヴォルを見る。
「私、別にヴォルさんに助けてもらうなんて期待してませんよ」
「それは俺がお前を平気で見捨てるようなヤツだとでも言いたいのか?」
「いや、そうは言わないけど。ヴォルさんって他人を助けるのってすっごく嫌でしょ?」
確かに、ヴォルは他人を助けたりするのは嫌いだ。
どんなにハリーが危機にさらされようとも助ける気など全くない。
そして、ジェームズ達が近いうちにヴォルデモートに殺されることを、どんな風に殺されることを知っていても助けるつもりなどない。
今回の襲撃を教えたのは、ここにがいたから。
「お前、何も分かってないんだな」
「そうだね。は何も分かってないみたいだね」
「なんでそうなるの?」
それがのいいところなのかもしれない。
顔を顰めて首をかしげる。
カップを手に取り一口、口に運ぶ。
「とりあえず、僕の言いたい事は一つだけだね」
「何ですか?」
ジェームズはぴしっと人差し指を立てる。
「自分を大切すること、だよ」
自分を省みることなどしないで欲しい。
自分自身を何よりも大切にして欲しい。
僅かの間話しただけでも、はいい子だとジェームズには分かるから。
「どうやら、今の「時の代行者」は、先代が心配するような性格のようだからね」
そう言ってカップを口に運ぶジェームズ。
え?っとは顔を上げる。
まるで先代の「時の代行者」を知っているかの口ぶり。
「ジェームズさん、シアン・レイブンクローを知っているんですか?」
「少しだけね。実は僕に残された予言は、僕にしか読めないように手紙になにかの力をかけてあったらしくてね、他の人は知らないんだけど…それに書いてあったんだよ」
先の未来を垣間見たシアンは何かに残したかった。
見た未来の先にはもう、自分は存在しないと知っていたからなのか。
「書いてあったのは「時の代行者」のこと、僕への予言、そして、僅かに次代の「時の代行者」のこと」
「私のこと?」
「そう、自分の二の舞にはなって欲しくないって、僕がもし会うことがあったら支えてやって欲しいって書いてあったけど…」
最もその必要なさそうだけど、と心の中で呟くジェームズ。
ちらっとヴォルを見る。
には彼がいるようだから、大丈夫だろうね…とジェームズが心の中で呟いた事をは知らない。