ゴドリックの谷 05





扉を壊して入ってきた男はとヴォルに気付く。
ニヤリっと笑みを浮かべ、杖を取り出す。
ははっとなり立ち上がろうとしたが、ヴォルの方が、行動が早かった。
ばっと、起き上がったヴォルは男の方に駆け出し、杖を持った手を蹴り上げる。

がっ

ぶかるようなぶつけるような音が聞こえる。

「貴様っ!!」

男はヴォルを睨み、しかし、蹴られた反動で男の持っていた杖は宙を舞う。
ヴォルは、その杖を宙で受け取りびしっと男に突きつける。

『オブリビエイト、忘れよ!』

ヴォルを睨みつけていた男の目が虚ろなものへと変わる。
ヴォルはそのまま、男の鳩尾に容赦なく一発叩き込む。
ごっと音がして、男は倒れこんだ。

「ヴォ、ヴォルさん?」

恐る恐る声をかける
いきなりのことで何が起きたのかいまいち把握しきれない。
ヴォルはに笑みを向ける。

「今日あたり来るんじゃないかと思っていたからな。コイツはデス・イーターだ」
「え?じゃあ、まさか今!!」
「大丈夫だ、ヤツは来ていない。ヤツ本人が来る前に一度部下を送り込んでいた覚えがある。それがコイツらだろう」

男をじっと見つめるヴォル。
ヴォルの記憶に顔しか残らない程度ならば、下っ端なのだろうと思う。
全てのしもべの顔と名前を覚えているわけではない。
使い捨ての下っ端などは顔程度しか覚えていない。

「でも、なんでヴォルさんそんなこと知ってるの?」

不思議そうに尋ねたに呆れた表情を向けるヴォル。
何故それを問うのか。

、お前、今の時代の俺が誰か分かってそれを言っているのか?」
「今の時代って、あ、そっか…」

今の時代、ヴォルはまだヴォルデモートである。
まだ、ヴォルとして切り離されていない。
闇の陣営のトップは言わずともヴォルデモート。
彼らは、ヴォルデモートの命令で動き、ヴォルデモートの命令にのみ従う。

「全ての魔法使いにヤツが直接手を下すわけではない。大抵部下を送り込み、それで駄目なら自らが出る。そういう方法を取っていた」
「ジェームズさん達の始末を命じたのはヴォルデモートだから、ヴォルさんはこの人が今日来るってこと知ってたんだね」
「ああ、それに…」

ヴォルは少し考えるように黙る。

「それに?何?」
「いや。多分だが、この時代の今、と俺がいることは必然なのかもしれない」
「え?それってどういうこと…」

あるべくして起こった事。
とヴォルがこの場にいるのは、決まっていたこと。

「ポッター夫妻の抹殺に失敗した報告を聞いたときに妙なことも聞いた。それが、ゴドリックの谷のポッター夫妻の家にはジェームズ・ポッター、リリー=・ッター、ハリー・ポッター以外に二人ほど別の魔法使いがいた、と」
「それが、私とヴォルさんってこと?」
「かもしれない、ということだ。秘密の守人しか知らないはずの場所に他の魔法使いがいたのが妙に引っ掛かったんだがな。結局ヤツが自らここに来た時にはそれらしい人物は見当たらなかった」
「…そっか」

それはつまり、とヴォルはヴォルデモートが来る前に元に時代に戻ることになるだろうということ。
少し沈んだ表情をする
しかし、ふと気付く。

「そういえば、ジェームズさん達は?!こいつの他にデス・イーターは来ていないの?」
「いや、もう1人いるはずだ」

ヴォルは気配を探ろうとする。

「それはもう、捕まえたから大丈夫だよ」

静かな声が響く。
驚いたのはだけだった。
ヴォルは落ちつた様子でジェームズを見つめる。

「侵入者は居間に捕まえて置いてあるよ。そっちの男も一緒に居間で縛っておこうね」

ジェームズは呪文を唱え、気絶している男を縄で縛り付ける。
はヴォルとジェームズを見比べる。

(え?!え?!何で、ジェームズさん、ヴォルさんに驚かないの?それに、ヴォルさんはなんでそんな落ちついているのさ?!)

ジェームズは縛りつけた男を魔法で浮かせ移動させていく。
ヴォルもその後をついていくのでも慌ててついていく。





どさっと居間に乱暴に縛られた男を下ろす。
そこには似たように縛られた男がもう1人。
どうやら、リリーとハリーは居間にはいないらしい。

「リリーはハリーと一緒に寝室で寝てるよ。ハリーも何か感じ取って起きちゃったからね、寝かしつけるのが大変だろうけど」
「それで、コイツらはどうするんだ?」
「そう、それが問題なんだよね」

うむ、と考え込むジェームズ。
ヴォルも一緒に考え込んでいたりする。

「ちょっとまって。何で、ジェームズさんはヴォルさんに驚かないの?」

自然に話し合う二人を見て、は心底驚いた。
動じてるジェームズを見ればそれはそれで驚くが、何故全然反応がないのか不思議でたまらない。

「だって、あの黒猫君なんだろう?彼」
「あ、まぁ、そうなんですけど…」
「じゃあ、いいじゃないか、敵じゃないんだし」
「いや、そういうことじゃなくてですね」
「じゃあ、どういうことだい?」
「だって、普通驚きません?黒猫が人の姿になってるんですよ?」
「アニメーガスがいるんだから、猫が人の姿になっても別に珍しくもないだろう?」

動物の姿になれるアニメーガス。
ヴォルの場合はまさにその逆なのだ。
昼間のヴォルとジェームズの会話を知らないはイマイチ納得できずに首を傾げる。

「あ、あのさ…」

躊躇いがちには二人に声をかける。
の声に二人はを見る。

「この二人、邪魔ならどっかに飛ばしちゃうことできるけど?」
「それが出来ればいいんだけどね。さすがに高位魔法を使う事は…」
「いえ、魔法を使わないでです」

ジェームズの言葉を遮り言う
ジェームズは高位魔法を使う、それも転移魔法など使えばこの場所をばらしてしまうようなものだと言いたいのだろう。

「そうか、の力は魔法ではないな」
「うん、そう。だから邪魔なら転移させることできるけど、と言っても私が知ってる場所にしか出来ないから、ホグワーツかダイアゴン横丁くらいになるけどね」

知らない場所への移動はどこに飛ぶかにすら検討がつかない。
それはそれでいいかもしれないが、このすぐ近くに転送されても意味がないだろうし、闇の陣営のど真ん中に送り返すようなことになってしまっても困る。

「魔法じゃない力って、君は”時の代行者”かい?」
「え?」

ジェームズの言葉に驚く
「時の代行者」のことは、ダンブルドアくらいしか知らないと思っていた。

「ジェームズさん、なんでそれ…」
「その反応だと本当なんだね、本当にいるとは思わなかったよ」

苦笑するジェームズは、半信半疑だったとでもいうようだ。

「何で知ってるんですか?」
「僕の先祖がね、先代の時の代行者の知り合いだったらしいんだ。まぁ、お陰で嫌な予言ももらったんだけどね」
「ジェームズさん?」

困ったような笑みを浮かべるジェームズ。
ジェームズの先祖が先代の時の代行者、シアン・レイブンクローの知り合い。
つまり、ジェームズの先祖はあのグリンデルバルドとの戦いに参戦していたのだろう。

「時の代行者は、未来を知ることが出来るんだろう?」
「ジェームズ、さん?」
「僕の先祖は予言されたそうだよ、子孫である僕が、20代で死ぬことになるだろうってね」

時の代行者の言葉は予言でもなんでもない。
でも、それは最良の未来。
変える事が許されていない未来。

「君達の時代に僕はいないんじゃないかい?」

は目を開く。
確かに、この先、ジェームズはヴォルデモートの手にかかる。
しかし、彼はそれを知っていたというのか?

「随分と冷静なんだな。いつから知っていたんだ?」

ヴォルは一瞬驚いたがすぐ冷静に戻り、尋ねる。
ジェームズは困ったような笑みを浮かべたままヴォルを見る。

「そうだね、ホグワーツに入学する前かな?ちょうど10歳になった頃だよ。最初は信じられなかった。でも決まった未来なんてないだろう?最後まで諦めるのはやめようと思っているんだ」
「11年後の未来から来た俺達の時代には、お前は生きていないと言ってもか?」
「君達が元の時代に戻ったら歴史が変わっているかもしれないじゃないか。最後まで諦めないよ、僕は。…そして、まだ信じてるから」

ジェームズは真直ぐな視線でヴォルとを見る。
迷いのない瞳は、彼を信じていると言っている。
瞳から感じるのは、ひとかけらすらも迷いのない思い。
秘密の守人となってくれた友人を信じる気持ち。

「強い、ですね。ジェームズさんは…」

まだ、信じている。
どんな気持ちでそれを言ったのだろう。
今日デス・イーターが襲ってきたことから、秘密の守人が裏切ったことなど分かっただろうに。

「僕は決して強くなんてないよ。信じきれない自分がどこかにいる、だから「タイムカプセル」なんて提案もしたんだ」
「え?」
「もし、予言通りの未来になってしまったら、残った者たちに僕は何かを残しておくべきだと思ってね」
「それで、私達を呼び寄せたんですか?」

ジェームズはゆっくり頷く。
信じたい、それでも万が一予言が本当になってしまったら?
ジェームズも怖いのだ。

「だから、もし、君達が本来の時代に戻ってそこに僕達がいなかったら、僕らの友人に渡してくれないか?」
「シリウス・ブラックさんか、リーマス=・ーピンさんに、ですね?」
「…驚いたな、そんなことも知ってるのかい?」

ジェームズは友人の名前を口にはしていない。
も彼らに会った事はない。
けれど知っている。
リーマスとシリウスはジェームズを親友であると大切に思っていることを。

「あ、セブルス=・ネイプ教授でもいいんですか?」
「セブルス、教授って?」
「私達の時代ではホグワーツの教授なんですよ、彼」
「あのセブルスがかい?!!」
「意外ですか?」
「いや、案外合ってるんじゃないかな?贔屓はしてそうだけどね」
「まさに、贔屓しまくりですよ」
「やっぱりそうかい?セブルスらしい」

くすくすっと笑うジェームズ。
今のジェームズの反応からすると、ジェームズとセブルスの関係は仲がいいとは言えずとも友人といえる関係だったのかもしれない。
自分の未来を知っても絶望しないジェームズ。
信じ続けようとする強さがとても羨ましい。
ジェームズの強さを見習いたいと思う。
強くなりたい。
未来を変える事はできなくても、できる範囲でできることやっていこうと思えるくらい強くなりたい。
はそう思った。