賢者の石編 31
ヴォルはまだ俯きながら唇をかみ締めているを見る。
ぎゅっとヴォルの袖を握ったままの。
「おい、?大丈夫か?」
心配そうに声を掛けてみるが、はそのまま体勢を変えない。
まさか、本当にヴォルデモートが怖かったわけではないだろうと思う。
ヴォルがの肩に触れようとした瞬間、の肩が震える。
「ふっ…」
「?」
「っははは…!!!」
くくくくっとは肩を震わせて笑っている。
どうやら笑いを堪えていたらしい。
の反応にヴォルは顔を少し引きつらせる。
「や、だって、おかし!饒舌すぎるよ、闇の帝王!」
ふくくくっと奇妙な笑い声さえこぼす。
饒舌と言われれば、確かにヴォルデモートは結構べらべら喋っていた。
「闇の帝王ならば!もうちょい、もうちょっと、こう寡黙で…!さ、三流!」
何がツボに入ったのかは分からないが、には相当おかしかったようだ。
べらべら喋る悪の親玉というのも確かに変だ。
狡猾なスリザリン出身というのならば、余計なことなど言わずさっさと退散して次に備えればいいものを、変にプライドが邪魔をしていたのだろうか。
とにかく、それがにはおかしく映ったらしい。
全くヴォルデモートを怖がっていなかったに安心すると同時に、ヴォルは呆れていた。
恐怖心を抱いていないだろうとは思っていたが、こういう反応をしてくれるとは思っていなかった。
ヴォルはこちらに急いで向かってくる気配に気付く。
人の姿になっているのはまずいだろうと思い、猫の姿に戻る。
器用にも手に持っていた杖は猫の姿に変わった途端に口にくわえなおす。
はまだ肩を震わせて、笑いを何とかおさめようとはしている。
「…随分と楽しそうだな、」
低い不機嫌そうな声が響き、はぴしりっと自分が固まるのが変わった。
とっても振り返りたくない気持ちでいっぱいである。
(なんか聞きたくない声が聞こえたような気がしたんだけど…。まさかこんな所に、ってその前にヴォルさん!)
がヴォルのいるはずの方に目を向けてみれば、そこにいるのは杖をくわえた黒猫一匹。
(ヴォルさん、なんでちゃっかり1人だけ黒猫に戻っているのー?!誰か来るの分かっていたなら教えてくれれば良かったのに!)
かつかつっと足音を立て、怒りを隠さずにに歩みよってくるセブルス。
その後ろにダンブルドア。
「我輩は部屋からでるな、と言ったはずだが?聞こえていなかったのか、それともその言葉を理解できなかったのか?」
「はははは…」
「…10点減点だ」
「ひどっ!!」
セブルスはそのまま気絶して倒れたままのハリーに向かう。
怪我がないか確かめているようだ。
「それで、聞いてもよいかの?賢者の石はどうなったのじゃ?」
ダンブルドアがゆっくりとした口調で聞いてくる。
はちらっとヴォルを見る。
その視線でダンブルドアはなんとなく分かったようだ。
にっこりと笑みを見せる。
「事後承諾ですみませんが、以前言った通りにさせていただきました」
「そうかね。いや、あの石はもう壊すつもりだったから構わんよ。勿論作成者であるフラメルにも許可はとっておる」
「それはよかったです。あ、それとですね、あの人は逃走しちゃいました」
「そうか」
ダンブルドアのその言葉はため息を吐くように呟かれた。
恐らく予想はしていたのだろう。
残念そうなものではなく、やはり…というような感じだった。
「それと、クィレル先生はハリーにかけられたリリーさんの力で…」
灰になって消え去った、そう口にはできなかった。
ダンブルドアは分かっているらしく頷いてくれた。
どうやらこれで一段落、なのだろう。
だが問題がひとつある。
「う〜ん、教授にさっき10点減点された分どうしよ」
寮杯関係の点数など全く気にしていなかったが、が思っているよりもグリフィンドールの点数は少ないのではないのだろうか。
この後、ダンブルドアがちゃんとハリー達の分を加点はしてくれるが、果たしてそれで足りるだろうか。
(でも、ハリー達に怪我がなかったのだからよしとしようか)
はにっこりと笑みを浮かべた。
*
学年度末のパーティーが始まった。
はこっそりと参加していた。
周りはハリーがヴォルデモートと対峙したことの噂で持ちきりだった為このときばかりはを気にする人などいない。
緑と銀に染まった大広間を見ては
(やっぱ、グリフィンドールよりスリザリンカラーの方が好きだなぁ。こう、燃え盛る炎のような猛々しさより、自然と落ち着いた感じの緑と銀の方が好みなんだよね)
などとグリフィンドール生らしくない考え方をしていた。
ハリーがこっそり入っていくのを皆が見つけ、周りは一瞬静けさに包まれる。
ロンとハーマイオニーがハリーを手招きしてハリーが席に着くと、煩いくらいの話し声が又響きわたる。
皆ハリーに注目する。
ハリーは何かを探すようにきょろきょろしている。
「また1年が過ぎた!さて、夏休みを迎える前に寮対抗杯の点数を発表するとしようか。第4位グリフィンドール302点、第3位ハッフルパフ352点、第2位レイブンクロー426点、第1位スリザリン472点じゃ」
スリザリンの席から歓声が沸きあがる。
ちらっと教員の席を見れば無言で拍手をしているセブルスがいる。
ものすごく可笑しいです、教授。
はくすくす笑っていた。
「スリザリンはよくやった。しかし最近の出来事も勘定に入れなくてはならないの」
ダンブルドアが咳払いを一つ。
大広間がしんっと静まり返る。
「まずは…ロナルド・ウィーズリー君。最高のチェスゲームを見せてくれたことを称え、グリフィンドールに50点与えよう」
わっとグリフィンドールから歓声が上がる。
ロンは嬉しそうなフレッドとジョージに抱きしめられる、というか締め上げられている。
「次に、ハーマイオニー・グレンジャー嬢に。冷静な対処と素晴らしい理論を用いたことを称えグリフィンドールに50点を与えよう」
再びグリフィンドールから歓声。
ハーマイオニーは俯いていたが、その顔は嬉しさと恥ずかしさで真っ赤である。
グリフィンドールに期待が広がる。
「3番目は…ハリー・ポッター君。強き精神力とその勇気を称えグリフィンドールに60点与えよう」
これでグリフィンドールは462点だ。
しかし、スリザリンは472点である。
まだ10点以上足りない。
は思った。
(も、もしかして、私が教授に減点された分が響いてる?)
思いっきり冷や汗をかく。
ダンブルドアは言葉を続ける。
「誰かに立ち向かうのは勇気が入ることじゃ。しかし、味方の友人に立ち向かうのには何よりも勇気が必要じゃ。そこで、わしはネビル・ロングボトム君に10点を与えたい」
スリザリンとグリフィンドールが同点になった。
しかし、は更に焦っていた。
(こ、このままだと、私はグリフィンドール生に袋叩きにされるかも。私の減点分が響いているんだろうし)
こっそり逃げる準備をしてみたりする。
「それから最後に…、・君」
「へ?」
マヌケな声をあげたにみんなの視線が集まる。
(な、何?!!まさか、最後に減点?!そう言えば、事後承諾で賢者の石の力もらっちゃったし!)
「何ものにも屈指ない心と最後まで貫いた勇気を称え、グリフィンドールに20点を与えよう」
わっ!!とグリフィンドールだけでなくハッフルパフとレイブンクローからも歓声があがる。
これでグリフィンドールは逆転した。
ダンブルドアはグリフィンドールが寮杯を獲得したことをいい、飾り付けをグリフィンドールのものに変える。
大歓声のままパーティーは始まった。
は揉みくちゃにされそうになるのを恐れて、さっさとグリフィンドールの席から逃げた。
(逃げる準備をしていて正解だったみたい。うん、よかった、よかった。んでも、この点数配分はちょっと贔屓な気がしないでもないかなぁ?)
*
「それで、何故貴様はここにいる」
はちゃっかり教員席のセブルスのところに避難していた。
ここが一番安全そうだと思ったからだ。
騒いでいる今、生徒の1人が教員席にいても誰も気にしない。
「いえ、教授の側ならグリフィンドール生は近寄らないと思いまして。教授の側にいることがグリフィンドール生よけになりますから」
「…とっとと席に戻れ」
「あの中に戻って僕に揉みくちゃになれって言うことですか?」
「存分に潰されて来い」
グリフィンドールに寮杯を掻っ攫われたセブルスは少々不機嫌なようである。
酷いな〜とは言いつつもその場を動かなかったのであった。