賢者の石編 32




はホグズミード駅にハリー達を見送りに来ていた。
何故、見送りかと言えば、理由がある。

「実はずっと休んでいたからテスト受けてなくて、テスト受けるためにまだちょっと残ってなければならないんだ」

結局再試験である。
はははっと笑うを気の毒そうに見るハリーとロン。
ハーマイオニーは頑張ってね!と励ましてくれた。
3人は列車の中に入っていく。
しかし、ハリーは何か思いついたようにホームに戻ってきた。

!!」
「ポッター君?」

どうして戻ってきたのだろうか。
確かにまだ列車が出るまでは多少の時間はある。

「ねぇ、。なんであの時はあそこにいたの?」

ヴォルデモートと対峙した時のことを言っているのだろう。
ロンとハーマイオニーがいる前でそのことを言わなかったのはハリーなりの気遣いなのか。

「内緒、だよ」

は人差し指を口元に立ててにっこり微笑んだ。

「じゃあ、一つだけ聞かせて」
「何?」
は、僕の敵?」

しんっと周りが静まり返ったような感覚になる。
ハリーの洞察力の鋭さに苦笑するしかない。
それでも、怪しんではいてもこうして接していてくれることはダンブルドア同様甘いな、とも思う。

「僕は絶対に君の敵にはなりえないよ。味方かと問われると微妙なところだけどね」

どちらかと言えば、時の代行者は闇のものに対しては敵にあたるだろう。
世界を闇に染めない為に動くのだから。
だから、ハリーが闇に染まらない限り…いや、ハリーを闇に染める気はないのだからハリーの敵にはなり得ない。

「そっか、それならいいや。じゃあ、又新学期にね!」

ハリーはどこか嬉しそうに頷き列車の中へと走っていった。
その様子をはほっとした様子で見ていた。
仲良くなる気はないけれど、それでも嫌われてしまうのはやはり嫌だと思うのは我侭だろうか。





静まり返った寮に戻ってみれば、談話室にはヴォルがいた。
もちろん人の姿である。
しかもスリザリンの制服を着ているので違和感がある。
グリフィンドールの談話室にスリザリン生がいることなど前代未聞であろう。

「ヴォルさん。何やってるの?」
「ああ、見送りは終わったのか?」
「うん、終わったよ」

ヴォルはを手招きする。
はそのまま素直にヴォルに近づく。

「何?ヴォルさん?」

ぐいっ

ヴォルはいきなりの腕を引っ張る。
わっと声をあげながらはヴォルに倒れこむ。
倒れこんできたの指から銀の指輪を抜き取るヴォル。
の姿が少年のものから元の少女のものへと変わる。

「ちょっとヴォルさん?!何考えて!」
「いいから、黙ってろ」

抗議するをヴォルは抱きしめる。
18歳の割には小柄な、というか日本人は基本的に小柄なのだが、はヴォルの腕の中にすっぽりおさまってしまう。

(な、何がしたいんだ?!ヴォルさんは?でも、この体勢はちょっと恥ずかしいというか、やめて欲しいというか)

少し頬を赤く染める

「やっぱり、抱きかかえられるより、抱きしめる方がいいな」
「はい?」

いきなり何を言うかと思えば。
猫のとき散々抱きかかえられていたのが気に入らなかったのだろうか?
ヴォルはの耳元に口を寄せる。


「ひゃっ?!!ちょっと耳元でしゃべらないでよ!!」
「何故?」
「な、何故って…」

(ヴォルさんの声って、すっごいいい声だから困るんだよ!それを耳元で話されては、恥ずかしいというかなんというか…)

「はっきりした理由を聞かせてもわないと分からないな」
っ…!!と、とにかく!!やめてってば!」
「口と頭があるんだから、理由を言え。納得できるものなら離してやる」

くすくすっとヴォルが笑う声が聞こえる。
どうやら完全に楽しんでいるようである。

いつの間にかこのという存在に興味がわいた。
人の姿になりたいという目的がいつの間にか、と対等になりたいからという理由に変わってきた。
猫の姿で抱きかかえられるなど、以前の自分ならプライドが邪魔して考えられなかっただろう。
それでも彼女に抱きかかえられるのは不快ではなかった。
対等になって何がしたかったのかはヴォル自身よく分からないが、こうやって彼女を抱きしめてからかうのが一番の楽しみだった。
の温もりを全てで感じるのが嬉しいと思える。

「舐めたら怒るか?」
「ひゃぁ!!だから耳元ではやめてって!!…って何?」


ぺろっ


ヴォルは猫のときのように、今度は首筋ではなかったがの耳を舐める。
はびくっと反応して、すぐに顔を真っ赤にする。
あまりに素直な反応でさらに楽しくなるヴォル。
首筋に印でもつけてやろうか…、などと不埒なことも考えていた。
印とは言うまでもない。
一般的に首筋につける印と言えばアレだろう。

「ちょ…ヴォルさん!いい加減にしないと吹っ飛ばすよ?!」
「俺は以前に”やれるものならやってみろ”って言ったが?」
「そ、そんなに吹っ飛ばされたいなら、望みどおりにしてやるよ?!」
「最も今の状態じゃあ、俺がの口を塞ぐ方が早いだろうがな」

そう言ってヴォルはの耳元から顔を移動させ、の額と自分の額をこつんっとあわせるようにする。
ヴォルの表情はとても楽しそうだ。
額を合わせたは以前のことを思い出し、さらに顔を赤くする。

(く、口を塞ぐって、まさか…)

前はヴォルが猫の姿だったからまだいい…とは言い難いが…まぁ、今よりはいいだろう。
完全にヴォルのペースに嵌っているである。

「い、いつまでこうしてるの?」

とりあえず、今ヴォルには逆らわない方がいいと思うので抵抗は諦める。
ヴォルの両手はの背中に回って固定。
額と額が触れるほど、実際触れているのだが、顔も近づいている。

「俺が飽きるまで」
「冗談でしょ?!」

そんなに長い間こんな体制でいろと言うのか?!
恥ずかしいことこの上ない。
教師が寮にはいることなど殆どないだろうが、誰かが来たらどうするのだろう。

―別に気のせいだと思ってていいぞ。……俺にとってはかなり興味深く面白いことではあるがな……

ふと、ヴォルが以前言っていた台詞を思い出した。
嫌な予感がするが…。

「あ、あのさ、ヴォルさん」
「何だ?」
「前に言ってた『かなり興味深く面白いこと』って何…?」

嫌な予感を胸には聞いてみる。
一応勇気のグリフィンドール所属なのだから、勇気を持って聞いてみよう!!
などと訳分からないことを思いながら。

「ああ、それか。今まさにしていることがそれだが?」

(予感的中?!でもでも、なんでこれがかなり興味深くて面白い事になるの?!)

「気にするなって言っただろう?特に害はないからな」
「が、害がないって!この状態でそれを言う?!」
「この状態?別に害はないだろ?」

確かに害はない。
ないにはないが…。

「そんなに嫌か?」
「え…?」

その時のヴォルの表情がやけに真剣で、はとまどってしまった。
嫌、ではないと思う。
ただ、やっぱり…。

「えっと、別に嫌…じゃないよ?でもね、なんていうか、恥ずかしいんだってば!」
「だったら、慣れろ」
はい?
「ちゃんと慣れる様に毎日こうしてからかってやるからな」

(毎日?!てか、からかっていたの?!!ヴォルさんなんか!ヴォルさんなんかぁぁぁぁ!!)





きっぱり捨ててやろうかと一瞬思っただったが、ホグワーツに残ったを待ち受けていたテストにヴォルの助けは必要不可欠だったのでそうもいかなかった。
腐っても首席で卒業した元闇の帝王である。
学生が学ぶ程度の知識なら軽いものである。
テストが終わるまでからかわれながらも、なんとか勉強し続ける
お返しに猫の姿のときは思いっきり抱きしめ返してやるのだが、それが事態を悪化させていることに、が気付くのはいつなのだろうか。

の試験結果は、実技関係を除けばハーマイオニーに並ぶほどだったことを言っておこう。
ただ、実技に関しては力を使わないで受けたため最低最悪学年最低点だった為、総合点は平均点に落ちついたのであった。