賢者の石編 27





はハグリッドと仲があまりよくない。
だからドラゴン騒動はこっそり見守るつもりだ。
とにかくはテスト勉強だ。
実技系がとことん駄目なは、ペーパーテストで稼がなければならない。
図書館でも勉強はするが、自室でも勉強である。

(魔法関係の勉強ってことで、興味深いから楽しいには楽しいけどね)

黙々と教科書を読みながら、ノートにそれをまとめていく。
未だに羽ペンに慣れないは、密かに購入してあったノートとシャープペンを使用している。
カリカリと分かりやすく勉強した範囲を書き出す。

「わ、すごい、
「え?」

何時の間にかネビルがすぐ側にいた。
驚いたようにのノートを覗き込んでいる。

「そんな細かく書いてるなんて、すごい…」
「そうかな?頭の中でまとめながら書き出したほうが覚えるし、忘れてしまった時にノートがあった方が思い出しやすいし」
「そうだけど、僕には真似できないな。そんな分かりやすくまとめることができないし」

ネビルは困ったように笑う。
が今まとめているのは魔法薬学だ。
ネビルは魔法薬学がとことん苦手である。
教師がセブルスであることも原因だろうが、根本的に不器用なのだろう。

「ロン、大丈夫?」
「平気さ、このくらい。それよりもマルフォイに気をつけるべきだ」

ハリーとロンの声が突然聞こえたと思えば、2人が部屋の中に入ってくるのが見えた。
ロンは片方の手をハンカチで覆っている。
その手をハリーが心配そうに見ている。

「お帰り、ポッター君、ウィーズリー君」
「僕達、テスト勉強しているんだ。君たちはしないの?」

テスト勉強のネビルの言葉にハリーもロンも顔を顰める。
勉強のことなど忘れたいのかもしれない。

(私からすれば、魔法学校の勉強なんてかなり興味深いから面白いんだけど、やっぱり、この年の子供にとっては勉強って事自体が一般的に嫌なのかな?)

「テストまでまだ日があるだろ?」
「まだまだ勉強なんてしなくても大丈夫だよ、多分。…それに、今それどころじゃないし」

最後の言葉を小さな声で呟くハリー。
その言葉はには聞こえたが、ネビルには聞こえなかったようで、ネビルはほんの少しだけ首をかしげた。


こつこつ


「ヘドウィグだ!」
「チャーリーからの返事!」

窓に白いフクロウを見つけて、ハリーとロンは駆け寄る。
勢い良く窓を開けたので、外の風がふわりっと部屋の中に入ってくる。
事情を知らないことになっているはずのとネビルは首を傾げる。

(ドラゴン騒動ってもう始まっていたんだ。じゃあ、減点されるのは今度の土曜日ってことだよね。ドラゴンを引き渡す時はどうなるか分からないから見に行こう)

ヘドウィグの手紙を受け取って、早速中を開いて内容を見ているハリー。
ロンも一緒に読んでいる。

「ネビル、今日はあとちょっと勉強して終わりにしようか」
「え?!、まだやるの?!」
「僕は実技関係駄目だから、筆記で稼がないとならないしね。知識でどうにかなる分はそちらでフォローしないと」
って意外と真面目なんだね」
「…意外とって」

はこれでも真面目に授業は受けているつもりだし、真面目に勉強をしているつもりである。
ただ、実年齢が年齢なので、手を抜けるところは手を抜いている。
要領の良さがあるだけだ。
手紙のないように喜ぶハリーとロンを横目にはほんの少しほっとする。

(順調に話の内容どおりに進んでいる、よね?)

心配することはなさそうだと思う。
このまま何事もなく進んでくれれば、それに越したことはない。
その日はは特に口を出すことはしなかった。





次の日、ロンの顔色の悪さには見かねて口を出す。
朝食前の談話室で、ハリー、ロン、ハーマイオニーが話をしているのを見た時だ。

「ウィーズリー君、顔色すごく悪いよ」

真っ青と言うと少し大げさだが、手の怪我のせいなのか、ロンの顔色は良くなかった。
ハリーとハーマイオニーがえ?と驚いてロンの顔をじっと見る。
怪我したらしい手はまだハンカチに隠れていて見えない。

「具合が悪いなら医務室に行った方がいいよ」
「別に平気だよ」
「でも…」
「ロン、まさか昨日の怪我のせいじゃ!」

ハーマイオニーが慌てたようにロンの手を覆っているハンカチをばっとひったくる。
ハンカチはきつく巻いてあったわけでもないのですぐ取れる。
ハーマイオニーの力が少しつよかったのか、ロンが痛みで顔を顰めた。
だが、現われた手の色が問題だ。

「ロン、これは絶対に医務室に行くべきよ!」
「どうしてこんなになるまで黙っていたんだ!」
「…大丈夫だと思ったんだよ」

ロンの手の色は赤黒くはれている。
恐らくドラゴンにかまれただろう傷口は酷いほどに緑に変色している。
見ているだけで痛そうな傷口だ。

「やっぱり毒があったのかしら?」
「ハグリッドの小屋で近づかなければ触ろうとしなければよかったんだよ」
「今更そんなこと言われても困るよ」

むすっとするロン。
本当に痛くないのだろうか。

「ウィーズリー君。どこでそんな怪我をしたのか分からないけど、これだけの怪我の状況を見る限りは絶対に医務室に行くべきだよ。だって、現に今のウィーズリー君の顔色すごく悪い」

手の傷だけならいい。
それが体全体にまで広がってしまっては大変なことになる。
こういう傷は甘く見てはいけないのだ。

「君には関係ないだろ!」

ロンはをきっと睨む。

「関係なくてもいいから、医務室に行って」
「医務室は駄目だ!この怪我の原因を話すわけにはいかないよ!」
「原因を言わなくてもマダムは治してくれるよ。もし、放っておいて命に関わるようなことになったら大変だよ。だから、医務室にちゃんと行って」

医務室のマダム・ポンフリーは叱りながらもちゃんと怪我を治してくれる。
悪戯で怪我をしても深く原因を探ったりしない。
自由に減点できる教師とは違うのだ。
ちゃんと子供の遊び心というのを分かってくれる。

(でも、叱られることは確実だろうけど…)

「そうよ、ロン。これはちょっと酷すぎるわ。ちゃんと医務室に行くべきよ」
「ロン、もしこれで何かあったらハグリッドが責任感じちゃう。それに、減点とかよりもロンの怪我のほうが大事だよ」

ハーマイオニーとハリーの言葉に、でも…とまだ迷うそぶりを見せるロン。

「もう!じれったいわね!医務室に行くわよ!ロン!」

しびれを切らしたかのように、ハーマイオニーがロンの怪我をしていない方の腕をひっつかんで歩き出す。
ロンよりもハーマイオニーの体の方が断然小さい。
ハリーが後ろからロンを押すようにロンを強制的に歩かせる。
どうやらなんとか医務室には行ってくれるようである。

は、ハリー達にはついていかずに談話室からハグリッドの小屋へと向かった。
授業が始まる前のちょっとした時間。
ドラゴンを確認することくらいは出来るだろう。
木作りの小さな小屋。
煙突があって煙がそこからでている。

(そう言えば、ハグリッドの小屋に来たのって始めてかも…)

中がちらっと覗けそうな窓を探す為にさくさくっと小屋の周囲を歩く

「…マルフォイ君?」

小屋の窓のすぐそばで意外な人物を発見する。
中を覗き込むように背伸びをしているドラコがそこにいた。
の呟きが聞こえたのか、ぎょっとした様子でこちらを見る。
ドラコは何か言おうと思ったのか口を開くが、が手で口をふさぐ。

「声を出したら見つかるよ」

人差し指を口元にあててにこりっと笑みを浮かべる
盛大に顔を顰めるドラコだが、それを気にしないでもちらっと中を覗く。
ドラゴンの種類は分からないが、小屋の中の小さなテーブルの上にそれらしき子がいた。
真っ黒な小さな体にぎょろりっとした目。

ぱしっ

ドラゴンの存在に意識がいっていたはドラコの口元を押さえていた手の力が緩んでいたらしい。
ドラコにぱしりっとはじかれる。

「触るな!グリフィンドールが!」

汚いものでも見るかのような目。
でもそんな目もは平気で受け止める。
所詮相手は小さな子供だ。

「ん?誰かいるのか?」

小屋の中からハグリッドの声がする。
はっとなって、はドラコの腕をつかんで、その場を走り去ることはせずに別方向の壁側に向かう。
ぱたんっと窓を開く音。

「空耳か?」

ぱたんっと窓が閉じる音がもう一度する。
それにほっと息を吐く
そのまま、ぐいぐいっとドラコを引っ張って小屋を離れる。
お互いにこっそり覗き見していたのだから、ハグリッドにばれたら困るだろう。
小屋が遠くに見える程度の場所まで来た頃、ばしりっと思いっきりドラコに腕を払われる。

「僕に気安く触れるな!!」
「うん、ごめん。ちょっとばれるわけにはいかなかったから」

の言葉に驚くドラコ。
だが、すぐにふいっと顔を背けてホグワーツ城の方へ行ってしまった。

(マルフォイ君がドラゴンのことを知ったのは予定通り、か。でも、土曜日のことは知っているのかな?)