賢者の石編 26
セブルスとダンブルドアと約束した通り、は大人しく学生生活を送っていた。
最も、の大人しいは一般の大人しいにならないかもしれない。
時間があれば双子に勧誘され、追い掛け回される。
「もー、いい加減諦めて欲しい。切実にそう思うよ」
顔を引きつらせながらも息を整える。
そんながいるのは自分の部屋だ。
忍びの地図を持つあの双子相手では、どこにいてもあまり変わらない。
ならば自分の部屋にこもっているのが一番だ。
一定時間が過ぎると、いつも彼らは次回に持ち越すかのように悪戯の作業に戻る。
「大丈夫??」
心配そうに聞いてくるのはネビルだ。
今この部屋にはネビルとしかいない。
ハリーとロンは談話室にいるのを先ほど見た。
ハーマイオニーにスパルタで勉強を見てもらっているのか、「賢者の石」関係で何か相談をしているのかは分からない。
「ロンからあの人達にやめてもらえるように言ってもらうのは駄目なのかな?」
「そのくらいで諦めてくれるのなら、ウィーズリー君に土下座でも何でもするよ」
はははっと乾いた笑いしかでてこない。
救いはこの追いかけっこがたまにであること。
一定時間経てば諦めてくれることだろう。
「ね、ねぇ、」
「ん?」
「ちょっと聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「ん、何?」
改まったような言葉には首を傾げる。
「授業での分からないこと、じゃなさそうだね」
「う、ん」
ネビルはどう言うべきか迷うように口を開いたり閉じたりする。
様子も少しおかしい。
にそれを聞くのが物凄く申し訳ない気がしているように見える。
「あ、あのね」
「うん、何?」
はネビルを安心させるようににこりっと笑みを浮かべる。
「はスネイプ先生と仲がいいよね?」
「え?あ、う〜ん…。仲がいいとはちょっと違うような気がするけど、一般的に見て、グリフィンドール生の割には好かれている方だとは自覚しているよ」
(教授はあれでいて結構優しいし、すっごく不器用なだけなんだし、昔のことでグリフィンドール生が憎々しいほど嫌いなだけだし、いや、ま、それも大人気ないって言えば大人気ないんだけどさ)
「は、スネイプ先生とは違う、よね?」
「ネビル?」
(違うって何が?)
「はっきり言えばいいだろ?」
ネビルに問うように名前を呼んだのだが、返ってきたのは別の声だった。
その声にびくりっとなるネビル。
ひょいっと今まで部屋の隅で丸くなっていた、はずのヴォルがの横にちょこんっと座る。
「はヴォルデモートの手先か?ってな」
”ヴォルデモート”の名にネビルの顔色が真っ青になる。
体は黒猫でこじんまりとした可愛らしいものなのに、口調が全く可愛くないヴォル。
「なんでまた、そんな突拍子もない疑問がでてくるの?」
というか一体どこからネビルがそんな疑問を出してきたのだろうか。
ハリーかロンなら分からないでもない。
(何故ネビル?)
「今の所と一番仲が良さそうなのがコイツだからな。ポッター共が聞いてくれって言っていたからだろ」
「ポッター君達が?んじゃ、ネビル、知っているの?」
ネビルは何故ハリーがを疑うのか事情を知っているのだろうか。
ハリーが疑うのはがクィレルとセブルスが話しているところに割り込んだからだろう。
あれだけではなんとも言いがたいが、は普段グリフィンドール生の割りにはセブルスと仲が良い。
と仲が良いなど、セブルスにしてみれば心外だろうが…。
「ぼ、僕…何も知らない!だって、ハリーとロンがどうしてか、スネイプ先生が『例のあの人』の手下だって言うんだ。だから、もそうかもしれないって!」
なんというか飛躍的なほどの想像力だね。
確かに私は怪しさ大爆発なのは認めるけど。
「くだらないな。たかがホグワーツ1年に何が出来る?見習いレベルの魔法使いが下僕になったからと言って…」
ぴたりっと話すのを止めるヴォル。
「ヴォルさん?」
は突然話すのを止めたヴォルを見る。
ヴォルは顎でくいっと部屋の入り口を指す。
入り口の扉は閉められていて何が言いたいのか分からないが、ヴォルが話すのをやめたということは、話しているところを見られたくないと言う事なのだろう。
となれば、扉の外に誰かがいるか、そこに誰かが近づいてきている。
「僕、僕はのこと信じているよ!、グリフィンドールだし!純血とか混血とかで差別しないから!」
「差別って、あの、僕、一応マグル出身だから、差別したら自分の存在そのものを否定することになっちゃうと思うんだけど…」
「え?」
きょとんっとするネビル。
(あれ?言ってなかったっけ?)
「だから、僕、家系をいくらさかのぼっても魔法使いの”魔”の字もないマグル出身。純血でも混血でもない、正真正銘のマグルなの」
実際マグル出身どころか、魔法使いでもなかったりする。
そんなことはここでは言う必要はないだろう。
「ポッター君は知っているはずなんだけど…」
「そうなの?」
「うん。最初に会った時にそれらしいことを言ったはずだから知っているはず」
「じゃ、じゃあ、は絶対違うよね!『例のあの人』は純血の人ばかりだし!」
ネビルはそう言うが、実際ヴォルデモート卿の部下は純血一族ばかりではない。
そもそも本人が思いっきり混血だ。
ルシウスあたりのしもべは純血だが、ワームテールは純血だっただろうか。
―ほら、だから言ったじゃないか!は絶対に違うって!
―けど、あいつ、怪しすぎるだろ?!
―ロンはいつでもを疑いすぎなんだってば!
―し、仕方ないだろ?!怪しすぎるのが悪いんだよ!
扉の外からそんな声が聞こえてくる。
ハリーとロンがいるようだ。
とネビルは顔を見合わせる。
どこから聞かれていたかは分からないが、ヴォルが話を出来る事は聞かれていないだろう。
ヴォルはそう迂闊ではない。
となると、ヴォルが口を閉じた辺りからだろうか。
はすくっと立ち上がり扉の方に向かい、がちゃりっと扉を開く。
「あ…」
「え…」
向かいあって何かを言い合っていたような体勢でハリーとロンがそこにいた。
はにこりっと笑みを浮かべる。
「お帰り、ポッター君、ウィーズリー君」
(でも、盗み聞きはもうちょっと上手くやろうね。声を出して自分の存在を相手に知らしめたら意味がないよ)
そう思いながらくすくす笑ってはハリーとロンを部屋の中へと促す。
「それで、僕の疑いははれたのかな?」
顔を顰めて互いの顔を見合わせるハリーとロン。
ロンは渋い顔つきだが、ハリーはほんの少しロンを睨んでいる。
「は絶対に違うよ!」
をかばうためなのか、ネビルが声を上げる。
「だってはグリフィンドールだし、マグル出身だし!スネイプ先生とが仲がいいのはがすごく変わっているからだよ!は絶対に違う!」
(それって、フォローしてくれているのかな?ネビル…)
”すごく”の所を思いっきり強調して言ってくれたネビル。
妙な説得力があるのは気のせいだと思いたい。
「ロン…」
「なんだよ、ハリーだってちょっとくらい思っただろ?」
ハリーは肘でロンをつつくが、ロンはちらっとハリーを見るだけ。
を疑っていたなどと思われているとやっぱり気まずいだろう。
は小さくため息をつく。
「僕は別に怒ってないよ。そりゃ、教授とはちょっと仲良く…教授としては大変不本意だと思うけど、させてもらっているし、教授自身もものすごーく怪しすぎる行動満載だし」
ハロウィンでの怪我、クィディッチで唱えていた呪文、そしてクィレルとの会話。
も”賢者の石”を始めて読んだ時、最初はハリーと同様セブルスが犯人だと思っていた。
クィレルが犯人などとは思わなかった。
よくよく考えればクィレルが怪しいところもあったにはあったのだが…。
(教授、怪しすぎます。傍から見ていて、私もそう思えるくらいに)
「もスネイプが怪しいと思う?」
ハリーがおずおずと聞いてくる。
「まぁ、要素は揃っているとは思うよ。スリザリン出身だし、グリフィンドール嫌いだし、ポッター君だけを異様に嫌っているし」
「なんでハリーを嫌っていると怪しくなるんだ?」
「誰だって”主”を倒した子なんて好きになれるはずないと思うけど…」
ロンの問いにそう答える。
事実は全然違うのだが、深く考えなければセブルスの存在は大変怪しいのだ。
(教授の自業自得。いくらジェームズさんに酷い目にあわされたからって、その子供にあたるのは良くないからね)
「じゃあ、やっぱり何としてもクィレルには頑張ってもらわないと」
「うん。クィレルが屈したらそこで終わりだよ」
ぽそぽそっと呟きあうハリーとロン。
ネビルはそこで何故クィレルの話が出てくるのか分からないため、首を傾げている。
ハリーはそれがここで離す話題ではないと気付いたのか、はっとなってとネビルを交互に見る。
「、何でもないからね!」
「へ?あ、うん」
とりあえず頷く。
クィレルの名前が出てきたことは何でもないわけないのだが、話を突っ込まれたくない様子だったので何も聞かないことにする。
「ロン、ハーマイオニーと相談しよう!」
「ああ、そうだな」
ハリーとロンは慌しく部屋から談話室へと降りていってしまった。
呆気に取られたのはネビルである。
「ハリーとロンって、何やっているんだろ?」
「そうだね、何やっているんだろうね」
呆然と呟くネビルの言葉に苦笑を返す。
ハリーもロンもまだまだ子供だ。
詰めが甘いところもあれば、話をするタイミングも場所ももう少し気をつけるべきだろう。
(本当に誰にも分からないように行動でもされたら、それこそ大変なことになるだろうから、今のままでいいかもしれないけどね)