賢者の石編 25





ほのぼのとテーブルを囲んで日本茶を飲んでいる3人。
最も、内1人はほのぼのとは言い難い雰囲気だ。
ここはダンブルドアの部屋、もとい校長室である。

「やっぱり、日本茶は美味しいですよね〜」
「そうじゃろう?和菓子もなかなか美味なものじゃ」

ほぅっと幸せそうなため息をつくとそれに同意するダンブルドア。
その様子に眉間のしわを2本ほどふやすセブルスがいる。

「和むのは構わんが…大事な話をするのではなかったのかね?」
「まぁまぁそう言わずに、教授も一緒に和みましょうよ」
「そうじゃよ。ピリピリしていたところで何もいいことなどないじゃろう?」

差し出されたお茶と茶請けに手を出さずに真面目に座っているセブルス。
心なしか顔が引きつっているようにも見える。

「ま、とりあえず、話より実際見てもらいましょうか」

ふぅっと息をつき手にしていた湯飲みを置く
指にはめてある銀色の指輪に手をかける。
すっと指輪を抜き取れば、の周りだけ一瞬ふわっと風が吹く。
黒く以前よりも伸びた髪、漆黒の瞳。
その姿は少女のものである。
セブルスは驚いて目を開いて言葉も出ないようだ。

「というわけで、これがまず秘密の一つ。この姿では初めまして…ですね。教授」

はにっこりと微笑む。
ダンブルドアはセブルスの驚きように満足したかのように微笑んでいた。

「どういう…ことだ?」

掠れたようなセブルスの声。
それを言うのが精一杯のようだ。
は苦笑する。
普通は驚くだろう。

「見たままですよ。なぜか、今の私に「ホグワーツ入学許可証」が来たんです。姿を変えているのは今の私は入学する年ではないから。特に深い意味はないんですけどね」

本当に少年の姿でいることに深い意味はない。

(ヴォルさん曰く、18歳の私でも十分11歳で通用するとは言っていたけどさ…。なんか、それを認めるのはシャクだし)

「私はすべきことがあるから、今このホグワーツにいます。それはヴォルデモートに関係することであり、ハリー・ポッターに関係することでもあります。それを見届けるまでホグワーツから離れる事はできません」
「それはポッターをヴォルデモートから守ることか?」
「半分正解で半分違います。私は、ハリーがどんなに危険な目にあっていても必ず手をかすとはかぎりませんからね」
「どういうことだ??」

セブルスの視線が冷たくなる。
セブルスはハリーを守ろうとしている。
しかし、はハリーを絶対に守るわけではない。
ハリーの成長を妨げるほど手を貸すつもりはない。

「そんな怖い顔しても、私のすべきことは変わりませんよ」
「…そうか。それなら、我輩は貴様に手を貸すことなど出来んな」

セブルスは表情を変えずにを拒否する。

「そう来ますか。それなら仕方ありませんね」

はどこか悲しそうに微笑む。
忘れてもらうしかない。

「これこれ、もセブルスもそう険悪になるでない」

は力を使おうと思ったが、ダンブルドアがそれをとめるように口を挟む。

「それに、肝心なことを言わないでどうする?何の為にセブルスと話をしようとしたのじゃ?」
「肝心なこと?…何を隠している?

はダンブルドアを見る。
先代の時の代行者を知っているダンブルドアはを心配しているのだ。
自分がフォローできればいいのだが、ヴォルデモートのこともあり、全てをフォローできることなど無理だと分かっている。
だから、味方が多く欲しい。

「セブルスに頼みたいのは、が傷を負ったときのことじゃよ」
「それはに魔法薬のアレルギーがあることを言っているか?」

ダンブルドアはゆっくりと首を横に振る。
アレルギーであることを否定するかのように。

には、魔法は一切効かんのじゃ、魔法薬も例外ではない。魔法薬のアレルギーというのは嘘じゃ」
「魔法が、効かない、だと?」

本当なのか?とセブルスはを見る。
は困ったように肩をすくめるだけ。

、貴様それでは、それが分かっていてあの時ポッター達を助けたと言うのか?!」
「あの時?」
「トロールの時だ!」
「ああ、それですか。だって、まさかトロールが2匹もでるなんて考えてなかったし、何より彼らに怪我をさせるわけにはいかなかったですし」

としてはそれが当然だった。
痛みも消せる、いざとなれば力で治療することも出来る。
何よりも彼らに必要以上の怪我を負わせるわけにはいかなかった。

馬鹿者!何を考えている?!!魔法で怪我を治せないということがどういうことなのか理解できてないのか?!」
「失礼な、私はそこまで馬鹿じゃありませんよ、それくらい理解してます」
「理解しているものがあんな酷い怪我などするか!!」

そうは言ってもあの場合は仕方なかったとしか言いようがない。
にとって予期しなかったことなのだから。
自分は肩の骨を折っただけで、ハリー達に怪我もなかったことだしよかったと思う。

「そうじゃな、は無茶をしすぎるのじゃ。自分の存在がヴォルデモートに知られたらどうなるか分かっておるのか?」
「一応、分かってはいます。だから気をつけているんですけどね」
「それのどこが気をつけているというのだ?」

むっとした表情でセブルスが突っ込む。
はその言葉に少し考え

「…そんなに危なっかしいですか?」

セブルスとダンブルドアは頷く。
双方に頷かれ、ちょっと困った表情なる
自分ではそう思っていないので、頷かれるのはちょっと意外である。

(そ、そうかなぁ?)

、聞きなさい。唯一君に効く魔法「闇の人形(デス・ドール)」はその昔、グリンデルバルドがシアンを殺す為に作り出した魔法じゃ」

は驚く。
先代の時の代行者、シアン=レイブンクローを殺す為に作られた魔法。
それは、グリンデルバルドはシアンが時の代行者であることを最終的には知っていたわけで、知らなければ「力」が効かない魔法など作るはずもない。

「今では、どうして「闇の人形」という魔法が作り出されたのか知る者はいないがの」

それならまだ安心できる。
しかし、ヴォルデモートは「闇の人形」の魔法を今の状態でも使えると言う事は、にとっては嬉しいことではない。
もし、のことが知られれば、もちろんヴォルデモートは「闇の人形」を使ってくるだろう。

「今度また、無茶をするようならしばらく”入院”しててもらうぞい」
「へ?」
「ああ、そうだな、それがいい。寧ろ今からでも十分だろうと思うがな」
「え、ちょっと待ってください、教授!」

それは大変困る。
まだまだこれから起こる事件がある。
この先どう変わるか分からない。

「それが嫌ならば無茶はしないことじゃよ、
「む、無茶はしていません」

と一応答えてみるだが、呆れたようなセブルスの視線が突き刺さる。

「無茶をするつもりがないならば、二度とアレには近づくなよ」
「アレって…クィレル先生のことですか?」
「それ以外になにがある?」

(アレって…仮にも一応”人”に向かってその表現はちょっと酷いと思います、教授。でも今そんなこと言うと何を言い返されるか分からないから、言いませんけど。)

「授業以外ならば近づく必要ないから近づきませんよ」
「授業中もだ。あんなくだらん授業などサボれ」
「うわ、教授。それって教師の言葉じゃないですよ?」

サボると余計目立つので、目立たず大人しく授業を受けていれば大丈夫だろう。
とて、これ以上ヴォルデモートやクィレルに関わる気はない。
自分が関わって目でもつけられたら困るし、先が変わってしまいかねない。

「でも、”入院”は流石に困りますから、決着がつくまでは当分大人しくていますよ。約束します」

じっとダンブルドアとセブルスに疑いの眼差しを送られてしまうがそのあたりは、笑って誤魔化す。
はヴォルデモートの存在が怖いわけではないし全然重くみていない。
だから結構ひょいひょい動けるのだ。
それはこれからも変わらないかも知れない。


結局後はセブルスには、「闇の人形」という魔法のこと(と言っても以前ダンブルドアに聞いた知識でだが)の説明、そしてシアン・レイブンクローという、魔法の効かない人物が以前にもいたことなどを説明した。
しかし、時の代行者であること、別の力が使えることは言っていない。
時の代行者であること、別の力が使えることを知るのはヴォルとダンブルドアのみ。
それでも、未来を僅かながら知っていることと、別の世界から来た事は、ダンブルドアにもヴォルにも…誰にも言えないでいた。