賢者の石編 24
グリフィンドール対ハッフルパフのクィディッチの試合は見事グリフィンドールの勝利で終わったようだ。
はといえば、実は試合を見ずにあのフラッフィーのいる4階へと行っていた。
中へ進もうか迷っていたが、結局中には入らずにそのまま寮へ戻ることにした。
最近は一応本の通りに進んでいるようで安心する。
始めの頃など結構本と違うところが合ってフォローが大変だった。
今回もタイミングをずらしてクィレルが賢者の石を狙いに来るかもしれないと思って来てみたが杞憂で終わったようだ。
競技場にはセブルスとダンブルドアがいるから大丈夫だろうと思ってのこと。
のんびり寮に向かっている途中、4階の窓から森のほうに人影があるのが見えた。
はその人影が気になったので、森のほうに向かうだ。
*
「あのハグリットの獣をどう出し抜くか、もうわかったかね?」
「で、でも、セブルス…わ、私は…」
そこにいたのは、セブルスと彼に問い詰められているクィレルだった。
セブルスの詰問におどおどしながら答えるクィレル。
「何やっているんですか?教授」
が声をかけると二人とも驚いたようにばっと振り向く。
同時に近くの茂みがかさりっと動いたのが見えた。
「貴様こそどうしてこんな所にいる?」
「いえ、上から森に人影が見えたもので気になっただけですよ。こんなところに誰かいるなんて怪しいじゃないですか」
は当たり前のように言う。
かさりっと再び茂みが動き、こっそりとハリーが離れていくのが見えた。
「まるでクィレル先生を脅しているように見えますよ?教授。脅すならもっと分からないようにきちんとやらないと駄目ですよ」
そういうものでもないだろう。
はちらっとクィレルを見る。
相変わらずおどおどした様子でいる。
「余計な口出しはやめてもらうか、。我輩が、用があるのはクィレルだけだ」
セブルスはクィレルの方をキッと睨みつける。
クィレルはひっと怯えたような声を出すのかと思えば、無表情になりセブルスとを見ていた。
様子のおかしさには眉をひそめる。
『邪魔だな。セブルス・スネイプ…』
クィレルの口から聞こえてきた言葉ではなかった。
しかし、には聞き覚えのある声。
はっとセブルスを見る。
クィレルの様子のおかしさに気付き、杖を構えるセブルスだが、遅い。
『デス・ドール!闇を纏いて我が意に従え!』
クィレルの体から闇が溢れ出る。
は自分がその呪文を掛けられた時のことを思い出し震える。
セブルスの体が闇に包まれる。
「っ…?!!」
がくんっと膝をつくセブルス。
持っていた杖が落ちる。
強く唇を噛み締めながら必死に抵抗する。
『抵抗するだけ苦しみは長引きやがて死に至るだけだ…。存分に苦しむがいい』
冷めた眼差しでセブルスを見るクィレル。
いや、クィレルの瞳はどこか虚ろだ。
完全にヴォルデモートの支配下にあるのだろうか。
は、震える体を叱咤しセブルスに駆け寄る。
「教授!大丈夫ですか?!!」
苦しそうに噛み締めた唇からは僅かに血が流れる。
は何もできずに見ていることしか出来ない。
『そういえば、貴様も邪魔だ』
「え?」
は自分も又、「闇の人形」を埋め込まれるかと思い、びくっと怯える。
あの時の痛みは今思い出しても怖い。
それに、何より、「闇の人形」はの力が唯一効かないのだ。
しかしクィレルは何かに気づき、ちっと舌打ちをする。
『ダンブルドアか。仕方がない、貴様にはこれで十分だろう』
ダンブルドアが来る?!
それなら教授は助かる。
『クルーシオ!』
クィレルの呪文にはっとなる。
杖から放たれる光。
無意識か、それとも常々そう思っていたからか、は小さく何か呟く。
光はに向かいを包み込むように消える。
がくんっと体を崩し、苦しそうに胸元を押さえるを見て、クィレルは去っていく。
セブルスは苦しみながらも胸を押さえているを見る。
大丈夫かと声を掛けてやりたいが、自分もそれどころではない。
『滅せよ。闇の人形』
ぱきぃん
静かな声と何かが割れるような音。
セブルスは自分の体から苦痛が消えたのが分かった。
ふっと顔を上げればそこにはにこやかに立つダンブルドア。
「ダンブルドア」
「大丈夫かのぅ?セブルス」
「我輩は大丈夫だ。…それより、っ!」
セブルスはまだ胸元を握り締めたままのに近づく。
は俯いたままで表情が分からない。
今のの心境は…
(ど、どうしよう)
だった。
勿論クィレル、もといヴォルデモートの魔法など効いていない。
魔法が効いているように見せかけただけだ。
ヴォルデモートにに魔法が効かないことを知られては困る。
心配そうに声をかけてくるセブルスに罪悪感がつのるがこの場をどうするのかが一番の問題だ。
「、セブルスを信じてもよいじゃろう?顔を上げなさい」
「ダンブルドア、何を言って?」
「味方が多いに越したことはないぞ?シアンのことを知っておったのは何もわしだけではなかったからのぉ」
ダンブルドアの言葉にはゆっくりと顔を上げる。
まるで何事もなかったかのように。
「?」
「僕は大丈夫ですよ、教授。この通り、ね」
は苦笑して肩を竦める。
確かにダンブルドアの言うとおりセブルスは口も堅いだろうし、信用できる。
はすっとセブルスを見る。
「そうですね。教授も巻き込まれてもらいましょうか。全てを話すわけには行きませんけど、協力者がいた方が僕も助かります」
「?何を言っている?」
「ダンブルドア。話が漏れないような部屋をご存知でしたら貸していただきたいのですが…」
「わしの部屋でよければ貸そう」
「ありがとうございます」
セブルスには何のことだか分からない。
何故、あの魔法を掛けられたが今こうして平気でいるのか。
ダンブルドアはの何かを知っている。
それは、セブルスが以前に聞いた事なのだろう。
・は何者なのか。
その時は言えないと言った。
はセブルスににっこりと笑みを向ける。
「僕が何故、あの魔法をかけられて平気でいられるか知りたいのでしょう?お話しますよ」
いざと言う時、セブルスが味方であればそれほど心強いことはないだろうから。
彼にも巻き込まれてもらおう。
ただし、彼もこの先物語に深く関わる者である以上、全てを話すことは出来ない。