賢者の石編 21
「「メリークリスマス!!!」」
「…まだ、眠いぃ……」
イギリスの冬は、はっきり言って日本育ちのには寒すぎる。
もちろんこのホグワーツに冷暖房など完備してあるはずもなく…。
休みの日くらいはベッドでぬくぬく過ごしたいものだ。
「!はやく起きないとご馳走がなくなるぞ!」
「…いーよ、別に」
「何を勿体無いことを!」
「だって、イギリスの食事飽きてきたから今日くらいは材料もらって自分で作るからいい」
「、料理できるのかい?」
「…一応、だって、1人暮らししてたし」
「その年でホグワーツに来る前に1人暮らし?」
「両親はいないのかい?」
「…いや、いるけど。だって、学校が家から離れていて」
(あれ?私、誰と話してる…)
言いかけては何かおかしいことに気づく。
先ほどまでの言葉は、はベッドにもぐりっぱなしで答えてたものだ。
しかし、聞こえてきた声はハリーのものでもロンのものでもない。
がばっ!!
は勢いよく起き上がる。
そして見れば、のベッドの側には同じ顔が二つ。
二人とも青いセーターを着て、片方にはFの文字、もう片方にはGの文字がある。
「ど、どうしてウィーズリー先輩がここにいるんですか?!!」
ここは、ハリー、ロン、ネビルの部屋だ。
だが、同じ男子寮にいるフレッドとジョージなら簡単に入れる。
同じ男子寮の中での行き来は特に校則での制限はないのだ。
「どうしてかって?」
「それは勿論、なかなか起きてこないを起こしに来たのさ!」
「今日はクリスマス!」
「いつまでも寝ていては時間が勿体無いだろう?」
はぁ〜と思わずため息がこぼれる。
とりあえず、下手に逆らわない方がいいだろう。
逆らえば、無理やり連れて行かれる羽目になりそうだからだ。
「分かりました。分かりましたから、大広間で待っていてください。すぐに行きますから」
「いや、一緒に行こう!!」
「そうさ、僕らは迎えに来たんだから!」
「…はい、はい。分かりましたよ」
は諦めてさくさく着替えることにする。
双子にも一応デリカシーというものがあるのか、部屋を出て行かないまでもの着替えている時は別の方向を向いていた。
かなりありがたいが、できれば部屋の外にいて欲しかった。
まぁ、今の私は少年なんだから仕方ないけどさ。
「にも随分沢山プレゼントが来ているんだね」
「へぇ、ハッフルパフや、レイブンクロー、スリザリンの生徒からも来ているんだね」
「いつの間に他の寮生と親しくなったんだい?」
「気になるね」
(それはこっちが逆に知りたいよ)
特に他の寮生と親しくなった覚えはない。
「何々?『階段から飛び降りる貴方の姿に一目惚れしました』ああ、あの時のことだね」
「こっちは『スネイプ教授に取り入らないで下さい!』だってさ。何勘違いしてるんだろうねぇ」
「が怪我した時にスネイプの部屋で治療受けてたのが、スリザリンの奴らにとっては気に入らないんだろ?」
「僕らグリフィンドール生にとっても、があのスネイプの部屋にいるだなんて嫌だったんだけどね」
「そういえば、。どうしてマダム・ポンフリーのところで治療受けなかったんだい?」
そんな事気がつかなくていいのに、この双子は鋭すぎる。
突っ込まれたくないところによく突っ込んでくる。
それもが知られたくないところを狙うようにだ。
「支度出来ましたよ。大広間に行きましょうか?ウィーズリー先輩方?」
質問を聞かなかったことにして双子を部屋から追い出すようにはでていく。
休暇期間中なので、ヴォルも一緒にについていく。
ちらっとフレッドとジョージの着ている手編みのセーターを羨ましそうに見る。
(家族からのプレゼント、か。さすがにクリスマスプレゼントをもらうような年じゃないけど、寂しいかもしれない。願わくば、さっきの寝ぼけて言った1人暮らし云々の言葉に双子が突っ込んできませんように!)
*
「メリークリスマス!!」
「メリークリスマス。ポッター君、ウィーズリー君」
「メリークリスマス、」
嬉しそうなハリー。
苦笑しながら挨拶を返す。
少し照れながらもに挨拶するロン。
「ああ、そうだ。ごめんね、プレゼント何も用意してなくて」
やはり何かプレゼントを用意するべきだっただろうか、とは思う。
まわりで何人かプレゼント交換をしているのが目に入る。
「ううん、僕の方も何も用意してなくて」
ハリーが申し訳なさそうな顔をする。
(まぁ、ハリーの場合は今までの環境が環境だったからね、プレゼント交換だなんて思いつかないでしょう。それと、ロンの場合は多少打ち解けても、私とプレゼント交換するほど仲良くないし。あ、そうだ、いい事を思いついた)
「まぁ、プレゼント変わりと言ってはなんだけど、面白いものを見せてあげよう」
は少しハリー達から離れる。
聞こえないようにぽつりっと何かを呟く。
にこっとハリーとロンに微笑んで…
ぱちんっ!!
指を鳴らす。
とたんに天井の色がふっと変わる。
クリスマスパーティー用に浮いていたろうそくはそのままで、天井のみ七色の輝きへ変わる。
「わぁ…」
「すごい綺麗」
薄暗い空に輝くオーロラ、そしてろうそくの僅かな光がそれを照らし出す。
とても幻想的な光景だ。
「まだまだ、驚くのは早いよ」
ぱちんっ!!
がさらに指を鳴らせば、大広間全ての景色が一瞬で変わった。
足元、頭上、そしてテーブルまでもが闇……いや、無数の光と闇。
そこはまさに宇宙空間。
ちょうどグリフィンドール寮生のいる足元あたりに青く輝く地球がある。
料理と生徒達、教師達のみがその空間に浮いているようだ。
その空間は動く…、地球がどんどん小さくなったと思えば次は紅く輝く火星、そして火星が通り過ぎたと思えば小惑星群。
生徒達、教師までもが感嘆の声を上げる。
天文学に詳しくなければかなり珍しい光景であろう。
いや、天文学でもここまではやらないだろう。
宇宙からみた地球などを知ってる魔法使いは少ないのではないのだろうか?
次々に太陽系の惑星が移りそして消えていく。
最後の冥王星が移りだし、小さく消えていった。
大広間はまるで先ほどのことが夢のようにふっと元の姿を取り戻す。
この大広間の光景も、魔法を知らないものにとって見れば素晴らしいものだ。
しかし、先ほどの宇宙空間の光景を見てしまっては、平凡なものにしか思えない。
クリスマス休暇で残って大広間にいた数少ない生徒達と、その場にいた教師達は残念そうなため息をこっそりはいた。
「どうだった?珍しいものでしょ?太陽系の惑星を見るなんてさ。…あ、太陽から順の方がよかったかな?水星と金星とばしちゃったね」
ごめんね、と苦笑する。
しかし、ハリーもロンもぼぅっとしたままである。
「あれ?ポッター君、ウィーズリー君?お気に召さなかった?」
ひらひらっと二人の前で手を振ってみる。
としては、魔法使いならプラネタリウムみたいな映像を流すことも珍しくはないだろうと思ってやったことだった。
魔法は何でもありでしょ?
「すごいよ!!!」
「そうだよ!今の何?!!」
はっと我に返ったハリーとロンが興奮した様子でに詰め寄る。
いきなりの勢いにちょっぴり引く。
ハリーはともかく、魔法界で育ったロンにとっては珍しくもないことだと思っていたのだが、それはの巨大な勘違いである。
「え?何って、ただ、太陽系の惑星を投影しただけだけど…」
「太陽系?」
「何って、この地球がある銀河の名前って言うのかな」
「さっきうつってた青い星とか紅い星とかは?」
「火星と木星のこと?太陽系の第4惑星と第5惑星で、地球よりも外側を公転してる惑星だよ。青い星は地球、僕達が今住んでいるこの惑星で太陽系第3惑星」
へぇ〜と感心するハリーとロン。
ちなみに前者の質問がハリーで、後者の質問がロンである。
ちらっとヴォルを見れば、驚いたような表情をしている。
ついでに周りを見回せば、皆がに注目して何か聞きたそうにしている。
(な、何?!なんか変なことでもした?!!)
十分したのだが、自身全くそれに気付いていない。
「でも、それくらい知っているよね?」
むしろ知っておいてくれ。
という気持ちである。
にとって映像はともかく、太陽系のことなど一般常識のはずだ。
「それくらいって?」
「いや、地球は太陽を中心に回っていて、その太陽を中心に回っている惑星は9つあることとか…」
「そうなの?!星が占いに使うとかそういうのは知っているけど、わくせい?とかそういうのは全然知らないよ」
ロンが顔を顰めて言う。
は一筋の汗が流れるのを感じた。
も、もしかして、とんでもないことしてしまったとか?
「だって、地球が丸いって定義とか、自転、公転、恒星とか惑星とかって…」
(普通に中学で習った覚えが…って、ホグワーツ1年は小学生か?!しかもそれはマグルの日本の学校での事であって、魔法界ではそいうのは一切習わない、とか?)
ロンが更に顔を顰める。
難しくて何を言っているのか分からないようだ。
ちらっとハリーを見れば、ハリーも困ったような顔をしている。
(そう言えば、ここは私がいた時代よりも昔になるんだっけ?となると教育面では多少遅れが出ていてもおかしくない。マグルの学校で習う知識なら尚更、だね。う、どうしよう…)