賢者の石編 20
結局はなんだかんだと、地下室を抜け出してはホグワーツ探検などに行っていたせいで、完治に1ヶ月以上かかってしまった。
もう、クリスマス間近である。
クリスマス休暇、ハーマイオニーとネビルは家に帰るようだ。
はハリー達と一緒にハーマイオニーの見送りに来ていた。
あの一件以来、前はすこし棘があったロンのに対する態度がいくらか和らいでいた。
「じゃあ、グレンジャー、また新年にね」
「ええ、もね」
「うん、良いお年を」
「?」
ハーマイオニーはの言葉に首をかしげる。
(あれ?)
「こっちじゃ言わない?今年も残り僅かだから、来年になった時、よい年明けを迎えられますようにっていうような意味なんだけど…」
「言わないわ。でも、いい言葉ね。じゃあ、良いお年を、」
ふふっと、笑みを浮かべるハーマイオニー。
ハーマイオニーはロンとハリーに向き直る。
「見つけたら、ふくろう便で知らせてね」
「君のほうも家に帰ったらフラメルについて聞いてみて。両親になら安全だろう?」
(ニコラス=フラメルか。ハグリットが口を滑らせたんだね。まぁ、私は教えられないけど…。あれ?そういえば、ニコラス=フラメルって普通に社会の授業かなんかで聞いたことあるような)
「?もしかして、、知ってるの?」
がフラメルの名前にちょっと反応したことにハーマイオニーが気付く。
(もしかして、顔にでてた?)
は焦るが、とりあえず表情に出さないようにする。
「いや、ちょっと以前に世界史かなんかの教科書でそんなような名前を見たことあるような気がするんだよね」
「世界史ってなんだい?」
ロンが聞いてくる。
魔法界で育ったロンはマグル界のことにかんしては全くもって疎い。
「マグルの世界の歴史を学ぶ教科、かな?」
「、それ本当なの?!」
「あ、本当かどうかは知らないけど、似たような名前かもしれないんだけど、確か…」
ハーマイオニーの顔が期待で輝く。
図書室の本は片っ端から調べたはずなのに見つからないニコラス=フラメル。
の言葉が本当ならマグル界の本に載っているかもしれない。
「じゃあ、私はマグルの世界史の本を調べてみるわ!」
「僕らはここでもう一度図書館の本を見直せばいいんだね」
任せておいて!とハーマイオニーは張り切って帰省した。
*
クリスマス休暇に入り、ホグワーツに残る生徒達は少なく、閑散としていた。
ハリーとロンはフラメルのことなどそっちのけで、談話室でチェスをしたりして遊んでいる。
は久しぶりにヴォルと戯れていた。
「平和だね、ヴォルさん」
「何が平和だ」
「う〜ん、でも、こうやって自分のベッドでごろごろするのって平和だよ」
「暇なら、俺の体をどうにかする方法でも考えろ」
「やだな〜、ヴォルさん。体をどうにかするなんて…言い方やらしいよ?」
「舐めるぞ」
その言葉にはばっと起き上がり、自分の首を押さえる。
又、舐められてはたまらない。
じっとヴォルを見る。
そして、何か思いついたようにぽんっと手を打つ。
「そうだ、ヴォルさん。ちょっと散策に付き合ってよ」
「散策?」
「うん、ホグワーツの地図作ろうと思ってね。ちょっと調べてみれば、不自然なところがわんさか出てきてさ。ヴォルさんなら抜け道とか隠し通路とか少しは知ってるでしょ?」
「まぁ、多少はな」
頭のいいヴォルのことだから、学生時代―と言ってもそれはトム=リドルのことなのだが―隠し通路などは結構活用したのではないのだろうか?
勿論、誰にも分からないように。
はひょいっとヴォルを抱き上げ、ノートとシャープペンを持ち部屋を出て行こうとする。
しかし、ふとハリーのベッドに目がとまる。
「どうした?」
中々部屋を出て行かないにヴォルが問いかける。
はハリーのベッドで何か小さなものがごそごそ動いているのが見えるのが気になった。
とりあえず近づいて覗いてみる。
「?」
「いや、ちょっとポッター君のベッドに何かいるみたいだから気になってね」
ハリーのベッドにいたのは一匹のネズミ。
ベッドの枕やシーツが所々かじられてちょっとボロボロになっている。
「こらこら、スキャバーズ。人様のベッドを散らかしちゃぁ、駄目だよ?」
はハリーのベッドからネズミのスキャバーズを追い払うように手を振る。
スキャバーズはに気付き、キーキー言ってくる。
追い払おうとするの手を噛もうとするが…。
べしょっ
スキャバーズは潰れた。
の腕の中にいたヴォルが見事に着地したことによって…。
一瞬、ぐぇっというような声が聞こえた気がしたが、聞かなかったことにする。
「ヴォルさん、ペット虐待は駄目だよ。やるにしてももっと徹底的にウィーズリー君に分からないようにやらないと」
「ああ、そうだな」
そういう問題ではない。
それに、ヴォルもあっさり肯定していいのか。
はスキャバーズを掴み、ぺいっとロンのベッドに投げつける。
『綺麗になれ』
ぽんっとハリーのベッドを軽く叩けば、シーツと枕は元の綺麗なものに戻る。
ヴォルはひょいっとの腕の中に戻る。
「、お前気付いてないのか?」
「ん?何が?」
「あのネズミ…いや、何でもない」
言いかけてやめるヴォル。
は気にせずにロンのベッドでキーキー抗議の声をあげているスキャバーズを見る。
「スキャバーズ。もう、ポッター君のベッドに悪戯しちゃ駄目だよ?今度したら、ヴォルさんけしかけるからね?」
それでもスキャバーズは煩くなく。
「むぅ、猫はネズミを食べるんだよ?」
ぴたりっとスキャバーズの声が止まる。
最も、ヴォルはスキャバーズなど食べたりはしないだろう。
大人しくなった事に満足してはにっこりと微笑む。
「さて、じゃあ、行こうか。ヴォルさん」
今度こそ本当には部屋から出て行った。
部屋の中のスキャバーズはが魔法も使わずに―彼にはそう見えた―ハリーのベッドを直した事に疑問を感じていた。
そして、あの猫、どこかあの雰囲気は知っている気がする、と。
*
「今時のネズミは躾がなってないね。人様のベッドを汚すなんて」
ぶつぶつ言うは今5階をうろうろしていた。
腕の中のヴォルはをちらっと見る。
「ん?ヴォルさん、どうしたの?」
「いや、別に…」
「そういえば、さっき言いかけてたよね?スキャバーズがどうとかって、何?」
は歩くのをやめ、ヴォルを見る。
ヴォルはから視線を外す。
「気付いてないならいい。お前はいろんなことを知ってるようだから、アレのことも気付いているのかと思っていた」
「それって、スキャバーズがアニメーガスだってこと?」
「気付いていたのか?」
「いや、気付いていたっていうより知ってたんだよ。彼が世間ではヴォルデモートの部下である裏切り者のシリウス・ブラックに殺された、ピーター・ぺティグリューだってこと」
ヴォルはの言葉に少し顔を顰めた。
「裏切り者のシリウス・ブラックか」
「何?なんか言いたそうだね、ヴォルさん」
「いや、お前も世間と同様な考え方なんだな、と思っただけだ」
「?もしかして、シリウスさんが実は裏切り者なんじゃなくて、ピーターに罪を着せられただけってこと言ってるの?」
ヴォルは驚いたようにを見る。
は当たり前のように言った。
ヴォルはまさか、そこまで知っているとは思わなかった。
あのネズミがアニメーガスであることくらいは気付いているだろうと思ってはいたが。
「何驚いてるの、ヴォルさん。私言ったじゃない、世間ではって。一応、真実は知ってるよ」
「ああ、そうか、そうだな。…お前は不思議だな」
「そう?」
くすりっと笑う。
ヴォルはに驚かされてばかりだ。
まるで何でも知っているかのように平気な顔をして言う。
「「時の代行者」とは、そう、何でもお見通しなのか?」
はふっと真面目な表情になる。
ゆっくりと首を横に振り、
「そんなことないよ。分からないことも多いよ、特に人の気持ちなんかはね」
そう、には理解できない。
どうしてトム=リドルはヴォルデモートになったのか。
どうしてピーター=ペティグリューは裏切ったのか。
そして何よりも不思議に思うこと。
(どうして、優等生だったはずのトム=リドルはヴォルデモートになった途端に間の抜けたような失敗をするようになったのか?どうして、ヴォルデモートはクィレル先生の後頭部に顔があるのに窒息しないのか?どうして、ヴォルさんはこんなお茶目な性格になっているのか?!とかとか!)
「ねぇ、ヴォルさん。もし、ヴォルデモートが倒されたら、自分が代わって闇の帝王になりたいと思う?」
初めて会った時、第二の闇の帝王になりたければ力を貸すとは言った。
でも、本当の所はどうなのだろうか?
「いや、闇の魔術に関しては学びたいとは思うが、闇の帝王になりたいとは思わないな。今はそれより興味深い事がある」
「興味深い事?」
きょとんっと首をかしげるにニヤリッとヴォルは笑みを見せる。
ぞくっ
その笑みには寒気が走る。
恐怖での悪寒とかではなくて、嫌な予感というのだろうか。
「ヴォ、ヴォルさん?なんか嫌な予感がするのは私の気のせいかな?」
「別に気のせいだと思ってていいぞ。…俺にとってはかなり興味深く面白いことではあるがな」
(な、何なのさー!!闇の帝王になることより興味深いことって?!)
のその嫌な予感はのちのち当たることになる。
まぁ、魔法界に害が及ぶものでもなし。
遠く離れたその部屋で、ヴォルの楽しみに気付いているだろうダンブルドアは、特にヴォルの楽しみを重要視していなかった。