賢者の石編 19




少し寒くなってきたことくらいで、別段変わった事はなった。
2日に1回は、ハーマイオニーがこっそり授業のノートを持ってきてくれるので、授業の内容についていけなくなる心配はなさそうだ。
ハリーとロンにも来る様に言うわ!とハーマイオニーが意気込んでいたが、セブルスの機嫌が降下するだけなので断っておいた。

「う〜ん。やっぱり暇だぁ〜」

やはりというか、2週間過ぎたところでは飽きていた。
最初の頃は、セブルスの部屋にある魔法薬の本を読み漁っていたりしていたが、それも飽きた。
なにより、難しい本は意味が分からないので読んでも面白くない。

「あっ、そうだ、いいこと思いついた」

はがばっと起き上がり―相変わらず痛覚は消したままなので動いても痛みはない―指に嵌めてある銀の指輪を取る。
ふわっと黒い髪が舞う。
久しぶりに戻る元の姿。

ぱちんっ

と指を鳴らし、着ているものをホグワーツの女子生徒の制服にする。
顔立ち自体はあまり変化がないため、ネクタイの色をスリザリンのものに変える。
ネクタイが違うだけでも結構印象が変わるものだ。
銀の指輪をポケットにしまい、こっそりと地下室から出て行く。
の少女姿を知っているのは、この学校ではダンブルドアだけだ。

(さぁて、ホグワーツ探検でもしますか)






まずは1階をうろうろしていただが、すぐに違和感があるのに気付く。
部屋と部屋の間に隙間があるようなのだ。
その部屋の中の大きさから考えれば、次の部屋までの距離はこんなに長くないはずなのに思ったより距離がある。
そんな場所がいくつも見られた。
ホグワーツに隠し通路があるのは勿論知っている。
いくつかはそのための空間なのだろう。

「へぇ、面白い。地図でも作ってみるかな」

それこそ、彼らが作った忍びの地図に負けないほどの。
にっとは笑みを浮かべた。

『ノートとシャープペン!』

ぽんっ

音をたてて、真っ白いB5サイズのノートとシャープペンが一本現われる。
壁を机にして、は今現在わかっていることをカリカリと書き始めた。
羊皮紙と羽根ペンでは書きにくいし、なにより持ち運びが不便だ。
あとは、誰にも読めないように日本語で書き込めばOK。

「えっと、この部屋のタテの長さは歩幅50、次の部屋までの距離が歩幅30で…。ん?そういえば高さも合わないな」

セブルスが部屋に戻ってきたとき、はなにやらぶつぶつ言いながら書き込みをしていた。
見慣れぬペンと紙である。
しかし、が怪我をしている方の右手をつかって書き込みをしているのに気付き…

「何をしている?…」

低い声で呼びかける。
はびくっとなりばさばさっと慌ててノートを隠す。
ちらっとセブルスを見て

「あはは、お疲れ様です、教授」

誤魔化すように笑顔を見せる。
その表情は多少引きつっている。
今のは、ちゃんと少年の姿になっている。
地下室に戻ってきた時に、きちんと姿は変えた。

「安静にしてないようでは、あすのクィディッチの試合は見せられんな」
「え?!明日クィディッチの試合なんですか?!」
「そうだ。だが、安静にしてないようでは許可できんな」
「見たいです!絶対見たいです!!」
「自業自得だな」
「教授のケチ!陰険!根暗!!」
「…減点されたいか?」

ぴたっとの口が止まる。
減点されること自体は全然構わないのだが、の減点によって後々の最終結果が変わってしまってはかなり困る。
むぅ…とセブルスを睨むが、セブルスには全然効き目なし。

「いいですよ、明日も大人しくしてます」
「明日は、だろう?」
「教授、意地悪ですね。けど、お願いがあります」
「何だね?」
「クィレル先生をちゃんと見張ってて下さいよ。もし、ハリーに何かするようでしたら、阻止してくださいね」
「それは確定された警告か?それともただの憶測からの可能性か?」
「前者の方です」

明日のクィディッチの試合、クィレルはハリーの箒に呪いをかけるだろう。
それをセブルスが阻止するのが話の通りなのだ。
このところ、セブルス以外の人とは殆ど会わないので状況が自分の知っている通りなのかイマイチ分からない。

「分かった。気をつけておこう」
「お願いします」

ぺこりっと頭を下げる
セブルスはそんなを奇妙そうに見る。

「前々から思っていたが、どうしてはそんなにポッターのことを心配する?ただの友人にしては少し心配しすぎだと思うが?」
「そう、ですね。まぁ、それも言えない秘密の一つなんで…」

は苦笑する。
これに関しては絶対に言えない。
全てを知っているのは、ダンブルドアと共犯者でもあるヴォルだけで十分だろう。

「ただ、僕はロンやハーマイオニーのようにハリーの側に親友としていることなんて出来ませんから、こうやって外部からちょこっと補助をする事しか出来ないんですよ」
「ポッター達の前でもそうやって、きちんとファーストネームでよんでやればいいだろう」
「このままの状態が僕にとっては望ましいんですよ。ハリー、ロン、ハーマイオニーのことをファーストネームで呼ばないのはこの距離を保つ為です。ただの友達という域からでない為の自分への戒めです。他の子たちもファーストネームで呼ぶのはその違和感をなくす為です」

寂しそうに微笑む
何故、こんなことをセブルスに話しているのか分からない。
いや、全てを話せなくても、黙っているのは結構辛いからなのかもしれない。

「貴様が何を抱えているのか我輩には見当もつかん。だが、何も知らなくても愚痴くらいは聞くことが出来る」
「教授?」
「溜め込むくらいなら、いつでもそれを吐き出しに来い、聞いてやる」
「…ありがとう、ございますっ」

思わず泣きそうになる。
何故、こんなにも優しい言葉をかけてくれるのだろう。
自分は彼の大嫌いなグリフィンドール生なのに。





そして、クィディッチの試合は見事グリフィンドールが勝った。
セブルスからの報告でやはりクィレルはハリーの箒に呪いをかけていたらしい。
それは何とか阻止したと、言っていたが…、はセブルスのローブの端がちょっぴり焦げていたことを見逃さなかった。

(教授…、完全にハリー達に疑われましたね。その焦げているローブがいい証拠です)

しかし、一年生であるハーマイオニーに火をつけられて見事に焦げるまで気付かないってどうなんだろう?
いくらクィレル先生の呪いを阻止しようとしててもさ。