賢者の石編 15





はなんとか双子+ハリーの勧誘を避け続け、かなりの月日がたった。
いつまでも逃げてばかりのに、双子+ハリーはともかく、ほかのメンバー達は諦めかけていた。
その様子に、あともう少しだ!とが喜んでいたのは内緒である。

「おはよう、
「…おはよ、ネビル」

寝ぼけ眼で大広間に入ってくる
が寝ぼけているのは珍しい。
ただ、ついつい面白い本を借りてきたので一気に読んでしまっただけなのだ。

って、ネビルの事はファーストネームで呼ぶのね」
「?…ああ、おはよぉ、グレンジャー」
「おはよう、

丁度ネビルとハーマイオニーの間に座る形になる
眠い〜と思いながら目をこする。

「まだ、あの人たちに知られてないようだけど、知られたら煩いわよ?きっと」
「何が?」

きょとんっと首を傾げる

(あの人たちって?)

寝ぼけた頭では思考が正常に働かない。

「ネビルだけファーストネームで呼んでいる事よ。いつからなのかは分からないけど、あの双子とハリーが知ったら煩いわよ?」
「ん?ああ、…ネビルのことは結構前からなんだけど。気付いてなかった?」
「気付いてる人殆どいないわよ。貴方食事の時は空いてる時間にしかいないし、めったに談話室にも来ないでしょう?」

もちろん、それは双子の勧誘を避けるためである。
人が集まるところに双子あり。
という訳で、必然的には人が少ないところにいる。
図書館とか、自室とか、禁じられた森とか、果てはセブルスの部屋とか。
そんなこんなで、1ヶ月ほどたった今でも、がネビルだけはファーストネームで呼んでいることを知らない人が多い。

「あれ?なんか、かぼちゃの匂いがするけど…」
「それはそうよ。今日はハロウィンですもの」
「ハロウィン?」
「知らないの?」
「いや、一応そういう行事があるってことは知ってるけど…」

(そうか、ハロウィンか。ってことは、あの事件が起こるのかな?)

は難しい顔をする。

「”お菓子をくれないと悪戯するぞ!”だっけ?」
「そうよ」
「悪戯、か」

悪戯といえば、思い出すのは双子のこと。

(何かやらかす気なんだろうけど)

それはそれでいい。
自分を放っておいてくれれば悪戯でも何でもしてくれという感じだ。

「ねぇ、グレンジャー?」
「何?」
「僕はグレンジャーのこと友達だと思ってるからね」
「どうしたの?いきなり」
「ううん、別に。ただね、ファミリーネームで呼んでいても友達は友達だよってこと」

ちゃんとそれを覚えておいて欲しい。
例え、ロンが何を言っていても、落ち込んで泣いても、それを頭の片隅でいいから覚えておいて欲しい。
可愛い子に泣かれるのは嫌だからね。





「妖精の呪文」の時間が来た。
今日はようやく物を飛ばす練習をするようだ。
皆の目が輝きだす。
やりたくてたまらない、という表情だ。
まだ1年生の為なのか、箒で飛ぶ以外は魔法らしい魔法というものが使えない。
モノを飛ばす…浮かせるということはなんとも魔法らしい。

「それでは、二人組みになってもらいます。ポッターはフィネガンと…」

フリットウィック先生が組み合わせを決めていく。
ハリーと組みたそうに、ネビルはハリーを見ていたがハリーの組み合わせが真っ先に決まって残念そうな顔をする。
はそれに苦笑する。
ロンはハーマイオニーと、そしてはラベンダー=ブラウンと組むことになった。
は彼女とは殆ど話したことがない。

「よろしくね、ブラウン」
「あら?やっぱり、噂は本当なのね」
「…そんなに有名?その噂」

なんか、初めての人をファミリーネームで呼ぶとその反応がよく返ってくる気がする。

(そんなに気になるものなのかな?)

日本人はよくファミリーネームで呼び合うので、にしてみればあまり違和感はない。
最も、ハリー、ロン、ハーマイオニーに双子のことは”知っている”ので、なんとなく違和感あるにはあったりする。
フリットウィック先生が発音に注意するように、説明する。
それを皆真剣に聞き、実際やってみるが…、なかなか、羽を浮かせられる人はいない。

「ウィンガ〜ディアム・レヴィオサ〜!」

ラベンダーがチャレンジしてみるが、羽は全くもって動かない。

「ブラウン、少し違うよ。ホラ、『ウィンガ〜ディアム・レヴィオ〜サ』じゃないかな?」
「え?そう?……じゃあ、ウィンガ〜ディアム・レヴィオ〜サ!

ラベンダーがビューン、ヒョイっと杖を振る。
ちょっと杖を振るタイミングがずれた様だが…。

ふわっ

羽はふわりっと10センチほど浮いた。
しかしすぐに、机の上に戻ってしまう。

「見た?!少しだけど浮いたわよ!」
「うん、見たよ。凄いじゃない、ブラウン」

頬を高潮させて喜ぶラベンダーにはにっこり微笑む。
この授業で羽根を浮かせられたのはハーマイオニーだけかと思っていたが、僅かでも浮かせられた生徒は他にもいたのかもしれない。


「皆さん!見てください!グレンジャーがやりましたよ!」


もう一度チャレンジしようとしたラベンダーを遮るかのように、フリットウィック先生が喜んだように言う。
ハーマイオニーの羽根がふわふわと天井近くまで上がっていた。
その時のハーマイオニーの表情は、純粋に喜びで満ちていたように見えた。
皆、その羽根に注目する。

「さすが、ハーマイオニーだわ」
「彼女は人一倍努力家だからね。…さぁ、ブラウンも頑張って」
「勿論よ!でも、もやるのよ!」
「あ、うん」

ラベンダーの勢いに圧されて頷くだったが、やはり羽根をぴくりとも浮かせることが出来なかった。
ラベンダーはハーマイオニーほどではないにしろ、羽根を浮かせることができた。
まぁ、私には無理だと分かっていたけどね。
は苦笑しながらその授業を終えた。





「誰だってあいつの知ったかぶりには我慢が出来ないさ。まったく悪夢みたいなヤツだよな」

授業が終わってすぐ、の耳に聞こえてしまったロンの言葉。
はっとハーマイオニーの方を見ると、顔を真っ青にしていた。
悲しそうに顔を歪め、俯きながら走り出す。
途中ハリーにぶつかって、ハリーはハーマイオニーが泣いていることに気付く。

「ロン、今の聞こえたみたいよ?」
「それがどうした?どうせ、あいつもとっくに気付いているんじゃないか?自分には友達なんて1人もいないって事にさ」

一瞬気まずそうにしていたロンだが、やはり先ほどの授業で偉そうに言われたのを相当頭にきていたらしい。
けれども、人には言っていいことと悪いことがあるんだよ。

「ウィーズリー君」

はため息交じりの低い声でロンを呼び止める。
ぎょっとした表情でロンとハリーが振り返る。

「言いすぎだよ。この年になってもまだ言っていいことと悪いことの区別もつかないの?」
「な、なんだよ?」
「ちっぽけなプライド傷つけられたからって、あんな酷いこと言うんじゃあ、それこそスリザリンのマルフォイ君と変わらないよ?」
「な、冗談じゃない!あんなヤツと一緒にするな!」

の言葉に真っ赤になって言い返してくるロン。
ハリーは困ったような表情でどっちの味方をすればいいのか悩んでいるようだ。

「それに君にも友達が1人もいないんじゃないか?ファミリーネームでしか呼ばないなんて他人行儀もいいところだしな!」
「ロン!言いすぎだ!」
「だって、本当のことだろ?!皆思ってるさ!は誰にも知られたくない秘密があるから他人を避けてるってな!」

は驚きで目を開く。

(成程、そう思われているんだ)

別に本当のことだからそれは構わない。
ふぅっと息を吐く。

「まぁ、でっかい秘密を抱えている事は否定しないよ。それと友達が1人もいないってことも確かに微妙だね。僕自身の一方通行かもしれないんだからね。けれど……」

はすぅっと目を細めロンを見る。
ロンの背筋にぞくっと寒気が走る。

「グレンジャーには謝れ。君はそれだけ酷い事を言ったんだ」

それだけ言うと、はふっと表情を和ませ「言いたい事はそれだけ」と残し、次の授業へと向かった。
ロンとハリーはしばらくその場に呆然としていた。
自分のことより、ハーマイオニーのことを優先した訳は、ただ、この3人が仲たがいしているところなど見たくなかったから。
彼らには仲良くして欲しいと思ったからだった。