賢者の石編 14
(うう、談話室行きたくないよ。行くとどんなことが待っているか想像つく分、余計嫌だ…)
本日は授業がないお休みの日である。
休みの日は、グリフィンドール生は談話室にいるか、自室で遊んでいるか、真面目な人は図書室か教授に質問しに行っていたりする。
が何故、談話室に行きたくないかというと、先日の競技場での一件のせいである。
けれど、いつまでも自室に閉じこもっているわけにも行かない。
しかし、意を決して談話室に下りてみれば…
「「おはよう!!!」」
(嗚呼、やっぱり来た)
は思いっきり泣きたい気分である。
「今日の気分はどうだい?」
「そうそう、今日は午後からクィディッチの練習があるんだ、是非来ないかい?」
「又、君のあの素晴らしい箒捌きをみせてくれ!」
「あれは、まさに神業だったよ!」
「あのスピード!」
「あの素早さ!」
「どれをとっても…」
「「に敵うものなどいないさ!」」
満面笑顔で語りかけてくるウィーズリー双子。
いや、語りかけてくるなんて生易しいものじゃない。
刷り込みのように言い聞かせてくる、だ。
競技場のあの日から、毎朝のようにこの双子の勧誘がある。
のあの箒捌きを見て、是非チームに入れたいと選手全員の賛成の元に。
選手は全員揃っているじゃないか!と言えば、クィディッチには怪我も耐えないから補欠が必要だ!と返ってくる。
加えて、ハリーとは同室のである。
やはりハリーも同じように、一緒にクィディッチをやろう!と言ってくるが、ロンはあまり言い顔をしない。
なぜなら、飛行訓練でのの成績は相変わらず箒を浮かすことも出来ない最低なものであるため、がすごい箒捌きをしたなどと信用できないからだ。
まだ、生徒である双子だけの勧誘で済んでるからいい。
なにしろ授業の成績は最低なのだから、マクゴナガル先生自らがスカウトしようにも実力が分からないのだから…。
「ウィーズリー先輩方、何度も言っていますけど、あれはまぐれです。ええ、火事場の馬鹿力というか、いざというときに発揮された思いがけないものです。通常時にあれと同じものを求められても絶対に確実にほぼ100%、無理、です。僕の飛行訓練の成績は酷いものですしね」
いつもの言い訳を言う。
けれど、それで済まないのがこの双子。
なにしろキャプテンのウッドも双子にの説得を任せるほどなのだ。
口で勝つのはかなり難しいだろう。
(屁理屈こねるし…)
「マグレであんなに素晴らしい箒さばきはできないさ!」
「あそこまでの速さはハリーなみだよ!」
「君もクィディッチをやってみれば分かるさ!」
「そう、あんなにすばらしいスポーツはない!」
「クィディッチをやろうにも僕には箒を浮かせることも出来ません」
「そんなはずはないだろう?」
「ハリーが、君箒を浮かせているところを見たらしいしな」
双子の言葉にぎょっとする。
が授業中箒を遊び半分で浮かせていたのは初めての授業の時のみ。
まさか、それを見られていたのか?
「見間違いですよ、きっと」
「見間違い、ねぇ…」
「その割には、随分驚いたようだけど?」
「やはり、!」
「君は授業で手を抜いているね!」
「能ある鷹はツメを隠すと言うしね!」
「隠そうとしても君のその溢れんばかりの才能は隠しきれないさ!」
「溢れんばかりの才能なんてありませんよ!そんな間違った考えはその辺にぺぺいっと捨ててください!」
本当に、いい加減にしてくれ。
さすがに毎日のようにこう言われ続けては、かなりキツイ。
それでも、授業がある日はまだいい。
授業の時間になれば、双子も授業に向かざるを得ない。
あとは、ハリーを適当に避けていればいいだけなのだ。
「?どこ行くんだい?」
「あなた達のいない所へ、です!」
「それは無理だね」
「そう、このホグワーツで!」
「僕達から逃げられる獲物など!」
「「どこにもいないさ!」」
(私は獲物かい?!)
言い返すのも疲れたはすたすた歩き出す。
やはりこの双子はまともに相手をするより無視してしまう方がいいようだ。
そのまま、グリフィンドールの寮を出ようと外に向かう
「あ…」
「!」
嬉しそうなハリーの表情とぶつかる。
前門の虎、後門の狼ってこういうことなのかな。
もちろんハリーだけではなく、ロンも一緒にいる。
「ごめん、ポッター君。僕、外に行きたいんだけど…」
道を譲っていただけるとありがたいんだけどな?
にこっとが笑みを浮かべるとハリーも笑みを返し
「嫌だ」
きっぱり、はっきりとそう言った。
「…へ?」
「が一緒にクィディッチの選手になってくれるならいいけど?」
の笑みが引きつる。
まさか、ハリーの口からそんな言葉が出るとは思わなかった。
(微妙に黒いよ、ハリー)
「ハリー、なんでそんなヤツを誘うんだよ?箒も浮かせられないんだぞ?」
ロンが不機嫌そうに言う。
そう、もっと言ってやれ!とばかりに、心の中でロンに拍手を送る。
「ロン。君もあのの箒捌きを見れば絶対に考えが変わるよ」
「いや、何度も言うようだけど、あれはマグレだって」
「マグレじゃないよ!だって僕は見たから」
「な、何を?」
(最初の飛行訓練の時に遊びで箒を浮かしていた事かな?いや、そこ突っ込まないで欲しいんだけど…)
「最初の飛行訓練の時、は箒を浮かせてたよね!しかも楽しそうに」
(そこまで見てたの?!力になれないといけないと思って、気軽に使ってた私が間違っていた。あの時の自分を地面に穴掘って埋めてしまいたい気分だよ。)
「…い、いや。見間違いだよ、ポッター君。…そうだろう?ウィーズリー君」
君だけが頼りだよ、ロン!
どうか、私の飛行訓練の無能ぶりを存分にアピールしてくれ!!
「え?あ、…うん」
「ロンは見なかっただけだよ!だって、はあの時スミにいたから気付かなかった人の方が多いはずだよ!」
「それでも、それ、たった一回きりで判断は出来ないだろう?その後の飛行訓練の成績は散々なんだしさ。そうだよね?ウィーズリー君!」
「…そ、そうだよ、ハリー。僕にはやっぱり信じられないよ、彼が箒に乗れること自体が…」
「ロンは黙ってて。が飛べなかったら、今頃僕は怪我でクィディッチがまだできなかったかもしれないんだから」
(ハリー…、ちょっとそれは脅しなんじゃないかな)
素敵な笑顔でロンを黙らせるハリー。
妙に静かな背後の双子が気になるが…
がしっ
「へ?」
両脇をサイドから捕まえられ、驚く。
何かと思えばそのまま、引きずられてしまう。
「やはり、ここは実践あるのみだな!」
「さぁ、、競技場へ行こう!!」
「「そろそろ、練習の時間だしね!」」
「え?!!ちょっ…?!」
問答無用でを引きずるのは双子。
ハリーはその様子をにこにこ見ている。
ロンは、不機嫌そうな表情ではなく気の毒そうにを見ていた。
兄弟であるロンは双子の凄さを誰よりも知っているのである。
(ちょっとまてーー!!)
双子のコンビと力に敵うはずもなく、はそのままずるずると引きずられていくのであった。
ハリーが嬉しそうにその後についていったのは言うまでもない。
*
競技場に向かう途中、は相変わらず双子に両脇を抱えられて引きずられていたがそこに思わぬ助けがはいる。
「何をしている?」
不機嫌そうな顔。
眉間に寄せたシワ。
それはグリフィンドールの敵とも言われるべきセブルス=スネイプその人だった。
セブルスの登場に双子はぴたりっと止まり嫌そうな表情になる。
もちろんハリーもだ。
「何をしているって。見れば分かるでしょう?ウィーズリー先輩に引きずられてます」
「楽しいのか?」
「教授。どこをどうみれば楽しそうに見えるんですか?哀れと思うなら助けてくださいよ」
「別に哀れとは思わん」
きっぱり言い切るセブルス。
グリフィンドール生がいくら嫌いだとはいえ、きっぱりそう言い切られるとちょっぴり悲しいものがある。
「…だが、。何故レポートを取りに来ない?レポートは提出して終わりではないということが分からんのか?」
セブルスに出された魔法薬学のレポートはつい先日授業のついでに提出済みである。
をじっと見るセブルス。
これは助けようとしてくれているのだろうか?
「つまり、今すぐにレポートを取りに来いということですかね?教授」
「そう聞こえなかったのか?」
「いえ!ばっちり、そう聞こえました!」
(ありがとう!!教授!一瞬、この陰険教師が…って思ったことを謝ります!心の中で、ですけど)
「…と、言う訳で、僕はスネイプ教授のもとにいかなければならなくなりましたので、失礼しますね!ウィーズリー先輩方、ポッター君!」
にっこりと満面の笑顔を見せてから、セブルスの後についていく。
そのをむすっと不機嫌そうな表情で3人が見ていたのは言うまでもない。
今日こそをクィディッチの練習に参加させることが出来たかもしれないのに…。
「今度の悪戯のターゲットはスネイプで決まりだな」
「勿論だ。気合の入ったやつをプレゼントしないとな」
「…僕も手伝うよ」
フレッド、ジョージ、ハリーの間でそんな会話がされていたのを、セブルスもも知るよしもないのであった。
邪魔をされたのが大層お気に召さなかったらしい。