賢者の石編 13





「僕は日本人です!日本では、ファミリーネームで呼ぶのが当たり前なんです!!」

はそう言いきり、皆を無理やり納得させた。
確かに日本ではファミリーネームで呼ぶ習慣がある。
しかし、仲のいい友人同士などはファーストネームで呼ぶし、愛称などでも呼ぶ。
どうせ日本のことなど知らないだろうと思い、そういう習慣、風習だと言い切る。


ふぅっと息を吐き、空を見上げる
あたりはもう薄暗い。
魔法の僅かな明かりで練習をしている選手達。
クアッフルはともかく、ブラッジャーやスニッチを使って練習するのは危険で回収にもた大変なため、別のもので代用して練習をしている。
本物のブラッジャーとスニッチは、のすぐ隣のケースにきちんとしまいこんである。
クィディッチ競技場のスミで、は1人で練習を見学しながら、予備の棍棒及び箒、そしてブラッジャーとスニッチのはいったケースの見張りをしていた。
誰も持っていくことはないが、何もしてないのは悪いと思って、一応見張りのようなものをしている。

「随分と楽しそうだったな」

(……ん?)

「ヴォ、ヴォルさん?!!」

横を見れば、黒猫ヴォルがちゃっかり居座っている。
は競技場にヴォルは連れてこなかった。
しかし、なぜかヴォルは隣にいる。

「気配消してこないでよ!」
「お前、気配なんか感じ取れるのか?」
「いや、無理だけど…」
「…おい」

でも、突然前触れもなく話しかけられるのは心臓に悪い。

「話しかける前に、ちょっと声かけてくれてもいいのにさ」
「言ってる事が矛盾してるぞ」

呆れたようにを見るヴォル。
話しかける前にどうやって、声を掛けろというのか。

「それにしても、ヴォルさん。なんで、ここに?」

いつも部屋でが戻ってくるまで大人しくしているはずである。
さぞかし、昼間は暇だろう…と思っているんだが、そうでもないようだ。
ヴォルはスリザリン生だった為、グリフィンドールの寮はスリザリンと違い見てまわるのは面白いらしい。

「いや、気になるモノを目にしたんでな」
「気になるもの?」
「ここから見える塔の窓から、アイツがここを覗いてるのをな。競技場に来てみればお前とポッターがいるから、何かしでかすかと思ってな」
「アイツって、クィレル先生?」
「そうだ。…いいか、探そうとするなよ、怪しまれる」

そう言われて、きょろきょろしようとしていたはうっと詰る。
見ていると言われれば、気になるものだ。
しかし、こちらが気付いていることに気付かれては面倒になる。

「でも、ヴォルさんのことバレてない?」
「大丈夫だろ?まさか猫になっているとは思わないだろうし、お前の姿も違うしな。何より今の俺の魔力は弱い」
「拗ねない、拗ねない」
「誰が拗ねてるか!」

ヴォルは魔力が弱いことに随分コンプレックスを持っているようだ。
でも、賢者の石の力もらえれば大丈夫だからね。
辛抱強く待っててもらいましょうか。

「もしかして、私に埋め込んだ『闇の人形』がなくなってることに気付いて怪しまれたとか?」
「それはない」
「なんで言い切れるの?」
「ダンブルドアに聞いた。「闇の人形」を埋め込まれた生徒はかなりいるらしい。…今まで十数人ほど、ダンブルドア自身が「闇の人形」を壊した覚えがあると言っていたからな」
「へぇ。って、あれ?ヴォルさん、いつダンブルドアに会ったの?」

と一緒に始めてダンブルドアと話し合った時には、そんな話はしなかったはずだ。

(もしや、密会?ダンブルドアとヴォルさんで昔話しをほのぼの楽しくしてみたり…ってヴォルさんに限ってそんなの想像つかない)

「ダンブルドアがグリフィンドールの寮に来るんだよ。生徒達が授業している時間にな」
「確かに、あの校長ならやりかねないよね。『寂しいから、話し相手になってくれんかのぉ』とかって」
「…まさにその台詞そのままで、よく来るぞ。盛大に迷惑だ」

うんざりした様子のヴォルだが、暇つぶしも出来、情報も入手できる。
ダンブルドアの事は好きではないが、その実力は認めるに値するもの。
今の自分の身を思えば話を聞いておくに越した事はない。
それにヴォル自身、にとって足手まといになりたくないという気持ちも何処かにある。

「しっかし、クィレル先生(INヴォルデモート)は何を企んで…」

かちっ

「?…あれ?今何か音が」
!!しゃがめ!!!」

反射的にはひょいっと身を屈めた。
その上を何かが通ったのを感じた。

「え?え?!ちょっと、何?!」
「ブラッジャーだ」
「え?!ブラッジャー?!だって、ちゃんと鍵…」

はブラッジャーの納まっているはずのケースを見る。
そこにあるのは、スニッチ一つのみ。
ブラッジャーのあるはずのスペースは二つとも空である。

「嘘?!」

ばっと空を見れば、黒いブラッジャーがハリーに向かって勢いよく飛んでいく。
まだ、誰も気付いてない。

「危ない!逃げて!!」

は出来る限りの大きな声で叫んだ。
その声に、皆がはっと振り向き異変に気付く。
ブラッジャーは二つともハリーに向かう。


ガッ


鈍い音。
しかし、ハリーは間一髪避ける。
ブラッジャー同士がぶつかっただけの音のようだ。
ぶつかり合ったブラッジャーはおかしな動きをして、尚もハリーを狙ってく。
ハリーは何とか避け、フレッドとジョージが手に持つ棍棒でブラッジャーを叩き落す。
なんともしつこいブラッジャーである。
何度も何度もハリーを追いかける。
ウッドは何とかブラッジャーを捕らえようとするが、動きが早くて捕まえられない。
チェイサー3人組、アンジェリーナ、アリシア、ケイティは地上に降りてくる。
全員が追いかけっこした所で無駄に怪我をしてしまったら意味がないからだ。

「でも、なんかおかしいよ、あのブラッジャー…」
「それはそうだろ。アイツが呪いかけてるからな」
「なっ?!!」
「ハリー=ポッターを狙い撃ちするようにな」

冗談じゃない!!
ハリーの始めてのクィディッチの練習だというのに怪我などさせてたまるか!
は近くにあった箒を掴み

『我が意のままに!』

地面を軽く蹴り、箒にまたがり浮き上がる。
箒はふわりっとの意のままに浮き、ブラッジャーの飛び交う方に向かう。

?!!」

アンジェリーナの慌てる声が聞こえたがは止まらなかった。
箒を握り締め、スピードを上げる。
空中では、二つの異常なスピードのブラジャーに双子とウッドが苦戦中である。
は双子の方に向かい

「ウィーズリー先輩!右側のブラッジャーをお願いします!」
「「?!!」」

はそう叫んで、双子が頷くのも見ずに左側のブラッジャーに突っ込んでいく。
飛びつかれてきたハリーをなんとかフォローするウッドに、ブラッジャーは突っ込んでいく。
間に合うか?!
はぐんっとスピードを更に上げる。
ウッドに激突しようとするブラジャーを寸前でかっさらう。
なんとか、腕には暴れようとするブラッジャーが収まっていた。
くるんっと一周し、勢いを殺す。
かなりスピードを出しすぎてしまったようだ。
ふぅっと息をつく、の手の中で尚も暴れようとするブラッジャー。

『静かにしろ』 

すると、暴れていたブラッジャーが少し静かになる。
は確かめるように近くにある塔全てを見回す。
しかし、誰もこちらを覗いている様子はなかった。
逃げたか、去ったか。

(どちらにしろ、ひと段落かな。ハリーに怪我がなくてなによりだよ)

ちらっともう一つのブラッジャーを探せば、多少掠り傷を負いながらもブラッジャーを押さえつける双子の姿があった。
くすりっと笑いがもれる。
ハリーに怪我がなかったことにほっとしていただが、このあと更に大変なことになることに全く気付いてなかった。
は自分が今、何をしてしまったのか気づいていない。
ヴォルは気付いているらしく、はぁと疲れたような呆れたようなため息をついていたのであった。