賢者の石編 12
次の日の朝食の時間、ハリーのもとに大きな包みが届けられた。
はちらりっと横目で見ながら…
(…ニンバス2000か)
「大きい包みだね…。なんだろ?」
隣でネビルがぽつりと呟くのが聞こえた。
朝起きれば、ネビルの方からに一緒に食事に行こうと誘ってきた。
は苦笑しながら頷き、一緒に朝食をとっているのである。
「ほんと、なんだろうね」
くすくす笑いながらは答える。
そんなを不思議そうに見てくるネビル。
まだ、ハリーがクィディッチの選手になったことは知られていないのだろう。
嬉しそうに手紙をロンに見せるハリー。
ロンははしゃいでハリーに「すごい!」と笑顔を向ける。
はそっと立ち上がり
「ネビル、僕、先に行くね」
「え?もう、いいの?少ししか食べてないじゃない」
「うん、朝はあまり入らないんだ」
というか、朝からこんなこってりしたものは口に合わない。
パンを少しもらっただけで、は食べるのを止めた。
まだ食べてるネビルには悪いと思うが、胸焼けしそうになる。
(あ〜、日本食が恋しい…。ダンブルドアに相談しようかな。米が食べたい!!)
「=?」
大広間を出てすぐには声をかけられた。
振り返るの目にがっしりした体格の少年が映る。
(で、でかい…。何でこう、他国、特に西洋人は成長早いの?!)
はっきりいって、元の姿のよりでかいのではないのだろうか?
「…あ、はい。そうですが、何か?」
上級生(と言っても実際はの方が年上なのだが)に声を掛けられるなんて、何かしただろうか…?
過去を振り返ってみる。
しかし、心当たりはない、はず。
「へぇ。君があの有名な…ね」
(有名?!!というと、ハーマイオニーから聞いた、あの入学の時のこと?!ヴォルさん投げたとか、組み分け帽子を叩きつけたとか)
「まぁ、有名かどうかはさておき、確かに僕が=ですけど」
「いや、マクゴナガル先生から聞いてね。ハリーをチームに入れるように説得してくれたんだって?」
「…チーム?クィディッチのですか?」
「勿論さ。君が説得してくれたお陰で名シーカーを得る事ができたんだ!礼を言うよ」
「いえ、そんな大したことはしてないですよ」
ハリーがクィディッチの選手に選ばれたのはハリー自身がシーカーとしての実力を持っているからだ。
ハリーがクィディッチの選手になることはにとっては当然のこと。
なぜなら、本の内容ではそれが当たり前だからだ。
しかし、このクィディッチに熱心な様子からすると、恐らく彼は…。
「それで、今夜練習があるんだが、見に来ないか?」
「僕は部外者ですよ」
「いや、外野もいてくれた方が他のヤツらも絶対張り切る!」
「…そんなもんでしょうかね。まぁ、時間があったら是非行かせていただきますよ。オリバー=ウッド先輩?」
にっと笑みを浮かべる。
話している内容で、どうやら彼があのクィディッチマニアのオリバー=ウッドではないかと気付いた。
正解だったようで彼は驚く。
「僕の名前を知っていただいているとは光栄だな」
「自分の寮のクィディッチチームのキャプテンの名前くらいは知ってますよ」
「そうかい?実は君もクィディッチ好きかな?」
「いえ、僕はその…、飛ぶこと自体が余り好きではない、というか飛べないんですよ。なのでクィディッチに関しては基礎的な知識くらいしかありませんよ」
「飛べない?」
「はい、飛べないんです」
魔法を使っては。
と心の中で付け加える。
魔法でない力でならば箒だろうがデッキブラシでだろうが何であろうが飛べるだろう。
魔力が全くないのに箒で飛べるはずがないのだ。
力を使えば別という事。
「それでも、実際見ると面白いもんだぞ!是非見に来てくれ!」
気合いの入った様子でに念押ししてから、「じゃあ!」と去っていく。
(なんか、ウッドは想像通りの人だな)
*
夜、セブルスに出されていたレポートは終わっていたので、とりあえずはクィディッチ競技場に向かった。
レポートの提出期限は言われてないのだから、次の授業でいいだろう。
競技場についてみれば、ウッドがハリーにクィディッチの説明をしている所だった。
競技場はかなり広い。
そこにぽつりっと選手のみがいる。
はてくてくとウッドの方に近づいていく。
「それじゃ、6つゴールがあって箒に乗ってプレイするバスケットボールみたいなものじゃないかな?」
「バスケットボールってなんだい?」
「バスケはマグルのスポーツの一つで、二つのゴールのうち味方の方のゴールにボールを入れるゲームですよ」
ハリーとウッドは、いきなり聞こえてきた別の声にビックリする。
くすくすっとは笑う。
「?!!何で、君、ここに?」
ハリーは本当に驚いた様子でに尋ねる。
ここには以外の一般性とはいない。
選手以外は殆どいないのだからは、ハリーの驚きは当然だろう。
「いや、ちょっと誘われたもんでね。来てみたんだ」
「…誘われたって、誰に?」
はちらっとウッドを見る。
ハリーは、その視線でウッドが誘ったのだと分かった。
ウッドは頷き、を紹介するように皆を見る。
体のがっしりした青年はキーパーのオリバー=ウッド。
女の子も入っているチェイサー3人集、アンジェリーナ=ジョンソン、アリシア=スピネット、ケイティ=ベル。
人間ブラッジャーとも言われる双子のビーター、フレッド=ウィーズリー、ジョージ=ウィーズリー。
そして天性の素質を持つ100年に一人の逸材のシーカー、ハリー=ポッター。
ウッドはメンバーを順々に紹介していくが…。
(覚えられんって)
元々、人の顔と名前を覚えるのが苦手なである。
しかも横文字の名前に、西洋人の見分けはいまだつきにくい。
フレッドとジョージは、それこそ悪戯などでよく姿を見かけたりしていたので、なんとなくだが見分けはつく。
名前だけは知っている他のクィディッチ選手であるアンジェリーナ、アリシア、ケイティの顔と名前を覚えられるかは自信がない。
「知ってるヤツもいるだろうが、彼が名シーカーを我がチームに授けてくれた!」
「…大げさですよ、ウッド先輩」
笑顔でを紹介しているウッドに冷静なツッコミを入れる。
本当にたいしたことはしてないのに…。
「がって、…何?」
「「知らないのかい?ハリー!」」
フレッドとジョージが声をそろえて言う。
うぁ…、ステレオだよ。
双子が声をそろえて両側から同じことを言えば完全ステレオ。
やられたくないよなぁ…。
「彼こそが、あのマクゴナガル先生を説得し!」
「一年生である君を、クィディッチの選手にと!」
「「校長さえも脅したという真実を!!」」
「…脅してない、脅してない。しかも真実じゃないし」
双子の言葉に、ぱたぱた手を振る。
まぁ、あれでマクゴナガル先生が説得してくれなかったら、ダンブルドアに対して何か進言するという手段もあっただろうが…。
「ポッター君。くれぐれも、ウィーズリー先輩達の話を信じちゃ駄目だよ?」
「…が先生を説得してくれたの?」
「いや、だからそうじゃなくてね」
「でも、僕がマクゴナガル先生に減点された後、は先生を追いかけて行ったよね?」
「…あ〜、うん、でも!!断じて説得とか大それたことをしたわけではなくてだね、ただ”このままポッター君の才能を置いとくのは勿体無いと思いませんか”と進言しただけだよ」
実際は、一生懸命考えられる説得をした。
だがそれは言わない方がいいだろう。
変にハリーに気を使わせる必要もない。
「うん。でも…、ありがとう、」
にこっと少し照れたように笑うハリー。
うっとは息を詰らせる。
ハリーは小柄な為か、この年ではとても可愛い。
素直な分尚更だ。
こんな笑顔を見せられては、どうしても味方をしたくなるのも仕方ないかもしれないと思う。
「いや…、がんばってね、ポッター君」
くれぐれも怪我しないようにね。
いや、言っても無駄かもしれないんだけどさ。
「「ふぅ〜〜ん」」
ぎょっと横を見れば、同じ顔が二つ、意味ありげにを見ていた。
フレッドとジョージはをじっと見ている。
(え?!な、何なのさ?!)
「噂、本当なんだね」
「ああ、本当のようだね」
「何が本当なんですか?ウィーズリー先輩方?」
「…成程、やはり本当だ」
「そのようだな」
(だから、何が本当なのさ。噂って、入学式の時のこと?いや、それが本当かどうかなんて今確かめられないし…。もしや!噂に尾びれ背びれがついて大変な噂になっているとか?!)
「貴方、本当に呼ばないのね」
「ジョンソン先輩?」
「アンジェリーナ、よ」
「…先輩にあたる方をファーストネームで呼ぶわけにはいけません」
「あら?私は全然構わないわよ?」
「僕は構うんです」
あまり深く突っ込まないで欲しい。
ハリー達を名前で呼ばないのは、自分自身への戒めのため。
ハリー、ロン、ハーマイオニーだけじゃあ、違和感あるだろうから他の人たちも全員ファミリーネームで呼んでいるのだ。
最も、昨日の件でネビルだけは特別になってしまったが…。
「「どうして君は、ファミリーネームで呼ぶんだい?」」
「僕自身の身勝手な都合で、ですよ、ウィーズリー先輩」
「おや?ウィーズリー先輩とは誰を指しているのかな?」
「僕もウィーズリー、フレッドもウィーズリーだよな」
「そういえば、パーシーもウィーズリーだな」
「ウィーズリーって誰を指しているんだい?」
「ちゃんとファーストネームを言ってくれないと分からないな」
(にゃろぅ…、そうくるか)
さすが現役悪戯仕掛け人、一筋縄ではいかないようだ。
「それなら、呼び方変えますよ?先ほどのウィーズリーは、あなた方二人のことですよ。
ジョージ=ウィーズリー先輩、フレッド=ウィーズリー先輩」
「フルネームだなんて長くて大変だろう?」
「ファーストネームだけで結構だよ」
「「!」」
(まだ言うか!)
「ですから!僕の身勝手な都合ですから、気にしないで下さい!」
「気にするなと言われれば」
「気にしたくなるのが人間ってものさ」
「身勝手な都合ってなんだい?」
「人には言えないことかい?」
(くぅ…、て、手ごわい)
「…そんな僕の都合より練習しなくていいんですか?」
(そうそう、練習をやれ!もう、日が暮れてきたし、時間は大切だよ。その間に私はとんずらさせてもらうから)
「練習よりも、の”身勝手な都合”の方が気になるさ!」
「そうさ!きっと、皆も同じ気持ちさ!」
「君は決してファーストネームで呼ばないと有名だからね!」
「ウッドも気になるだろう?」
「まぁ…確かにな」
ちらっとを見るウッド。
双子と同意見のようだ。
(いや、ちょっと待って。クィディッチの熱狂的ファンなら、ここでファーストネーム呼びがどうのよりも練習を優先させるのが普通でしょう?!)
「僕も気になる…」
(ハリーまで?!!)
よく見れば、他の皆もに注目している。
自身本当に知らないが、はグリフィンドールでは有名なのだ。
誰に対しても当たり障りのない態度で、決してファーストネームを呼ばない。
そのくせ、入学式、クィレル先生の授業での質問、セブルスの授業の途中で医務室に言ったことなどなど。
かなり目立つことをしているのにも関わらず、だ。
楽しいこと好きなお祭り好きのグリフィンドールの生徒達は、そういう人種を大変好む。
何しろ、一緒にいれば楽しいだろうからだ。
と仲良くしたい人は結構沢山いるのであった。
「どうしてそこまで拘るんですか…」
7対1。
ちゃんと納得させるような理由などない立場としては困る。
「勿論僕らの悪戯仲間に入れるためさ!」
「仲間といえば、ファーストネームで呼び合うのが常識だろう?」
「…悪戯仲間になんかはいりませんって」
「そんなこと言わずに!」
「君が仲間になってくれれば、もっと楽しい悪戯が出来るはずさ!」
「何を根拠にそんなことを…」
「勿論それは、君の数々の武勇伝を聞けばこそ!」
「あのスネイプにも怯えぬその勇姿!」
「誰もが聞けなかった、クィレルへの質問!」
「そしてなによりも…」
そこでフレッドとジョージは互いの意見を確認しあうように一度目をあわせて頷く。
「「あの組み分け!!あの瞬間、僕らはを絶対仲間に巻き込むと決めたんだ!」」
(ま、巻き込むんだ…。いや、もう、誰かなんとかしてくれ)
こうして、暫く双子に延々と説得らしきものをさせられる。
さて、どうすべきか。