賢者の石編 11
飛行訓練の授業での大量減点のせいで、部屋で思いっきり落ち込んでいるハリー。
ロンが、「君のせいじゃないさ」と慰めている。
ネビルはまだ医務室らしい。
がどうしたものか、と考えていたところに、ばさっばさっと一羽のふくろうが飛んできた。
どこからかふくろう便が来たようだ。
『=様 アルバス=ダンブルドア』
「ダンブルドアからだ…」
珍しい相手からの手紙に驚く。
まさか校長から手紙が届くとは思わなかった。
かさりっと中を開き内容を見る。
『ミネルバから話を聞いた、ハリーのことじゃが、勿論許可しよう!
の言うとおり、せっかく目覚めた才能を潰す権利は誰にもないからのぉ。
正式にミネルバからハリーに話がいくとは思うが、一足先にハリーに知らせておいてくれんか?
ハリーはさぞかし沈んでいるだろうからのぉ。
同封したもう一つの手紙を渡しておいておくれ』
よく見ればもう一枚手紙が重なるようにしてあった。
そのもう一枚の手紙内容はこうある。
『ハリー=ポッター殿 グリフィンドールのクィディッチ選手になることを許可する』
一番下に校長とマクゴナガル先生のサインがあった。
は満足そうに微笑む。
そして、落ち込んでいるハリーの下へと向かう。
「はい、ポッター君。吉報だよ」
はハリーの手に先ほどの手紙を渡す。
くすくす笑っているをハリーは不思議そうに見る。
ロンはそんなを睨みつける。
「何笑ってるんだよ。ハリーが減点されていい気味とでも思っているのか?」
「突っかかるね、ウィーズリー君。まぁ、いいからその手紙を見てみなよ。僕は先に大広間に移動してるから」
そろそろ夕食の時間だ。
洋食に最近飽きてきたは、やはり頼んで和食の材料を仕入れてもおうかと思う。
料理は多少なら出来ることだし…。
が部屋を出る直前にロンの叫び声が耳に飛び込んでくる。
「ハリー、君凄いや!!」
ロンが嬉しそうにその声に、ハリーが照れたような笑みを浮かべていたのがちらりっと見えた。
それにほっとすると同時には良かったと思った。
*
夕食も済み、は談話室で魔法薬学のレポートに取り掛かっていた。
この時間の談話室には生徒は少ししかいない。
大抵の生徒は自室にこもっている事が多い。
「えっと、アコナイト、別名モンクスフード、ウルフベーンと呼ばれる植物。根の部分には植物界最強といわれる猛毒を持つ…っと」
羊皮紙にカリカリと書き込んでいく。
羽ペンと羊皮紙は、には慣れていないので、引っ掻いてしまったり、にじんでしまったりする。
(普通のノートとシャープペンが懐かしい)
しみじみとそんな事を思ってしまう。
ついつい集中して書いていたら、いつの間にか談話室には1人になってしまっている。
とりあえず今日はこの辺で終わるかな、と思っていたところに、ハリーとロンがこっそり寮を出て行くのが見えた。
の姿は丁度死角になっていて見えなかったらしい。
すぐ後にハーマイオニーがついて行く。
ハリー達が出口の肖像画の穴に入ろうとした時、
「ハリー、まさか貴方がこんなことするとは思わなかったわ」
ハーマイオニーがランプを掲げ、ハリーとロンを照らす。
どうやら本日はドラコに決闘を申し込まれた日のようだ。
ドラコの挑発にのってそれが罠だとも知らずにハリーが夜中の決闘を受けてしまったのだろう。
影でこっそり見守る。
ハリーとハーマイオニー、ロンが何回か喧嘩ごしの言葉を交し合って、ハリーはロンを引きつれ、出てってしまった。
ハーマイオニーもそれに続いて追いかけていく。
「どうするかな」
「何がだ?」
誰もいないはずの談話室から自分以外の声が聞こえてびくりっとなる。
「うわっ!!!ヴォルさんいたの?!!」
ちゃっかり自分の横に座っている黒猫に驚く。
確かレポートを書き始めた頃はいなかったはずだ。
「お前が遅いから見に来ただけだ」
「もしかして、心配でもしてくれた?」
「…誰がするか」
素直じゃないな。
心配してくれた以外にここにいる理由なんてないのにさ。
ぽつりとそう思う。
捻くれた優しさがセブルスに似ている気がする。
スリザリン生ってのはみんな不器用な優しさ持つ人ばかりなのだろうか。
「まぁ、とにかく、ちょっと心配だから追いますか」
「行き先分かるのか?」
「まぁ、一応。だけど、先回りしておくかな」
フィルチに見つかる分は別に構わないだろう。
いや、それで退学にでもなろうものなら困るが。
恐らく、ハリー達は今夜、あの部屋に行くことになるだろう。
「どこへ行くんだ?」
「4階の右側の奥にある部屋だよ」
フラッフィーがいるだろう部屋にね。
(怪我などせずに、ちゃんと逃げ出せるといいけど…)
*
は4階で姿を消して、ヴォルを抱えて待っていた。
『姿を隠せ』
そう言葉を紡ぎ、周りから見えないようにしてある。
しばらくすると、ばたばたと賑やかな足音が聞こえてきた。
ハリー、ロン、ハーマイオニー、そしてネビルだ。
「行き止まり?!!もう駄目だ!」
絶望的な声を出したのはロン。
正面には鍵のかかった扉のみ。
どうしようと顔を見合わせるハリー、ロン。
ネビルがおろおろと1人怯えている。
かつかつっともう一つの足音が聞こえてくる。
おそらくフィルチの足音だろう。
「ちょっとどいて」
ハーマイオニーが3人を押しのけ、ハリーの杖をひったくり、鍵を杖で軽く叩く。
何かの魔法を使うようだ。
『アロハモラ 』
カチッと扉に掛かっていた鍵が開く。
4人はばたばたっと急いで扉の中に駆け込み、ぱたんっと扉をきっちり閉めた。
(一年生ですら空けられるような鍵にしてどうするんだろ。これじゃあ、いつ誰に入られても仕方ないような気がする。これもチャンスは皆平等に、ってことかな?)
フィルチが駆け込んできたときには、4人は部屋の中で息を潜めていた。
ピーブズも一緒である。
フィルチとピーブズは何度か言い合い、ピーブズは消えて、フィルチも諦めてどこかに行ってしまった。
しばらくしんっとした空間が広がる。
しかし、それもすぐに消える。
ばたんっ
ハリー達が入っていた部屋の扉が勢いよく開き、ハリー、ロン、ハーマイオニーが慌てたように部屋から出て行く。
バタバタと思いっきり足音を立てて逃げるように去っていく。
だが、ネビルの姿が見えなかった。
が部屋の中を覗いた時、驚きの余り腰を抜かしたネビルがフラッフィーに襲われるところだった。
『やめるんだ!フラッフィー!!』
叫んだの力ある言葉が届いたのか、フラッフィーはネビルに襲い掛かる格好のままぴたりっと止まった。
フラッフィーの視線がに行く。
は真直ぐにその視線を受けとめる。
「え?…?」
泣きそうな表情でを見上げるネビル。
どうやら、フラッフィーをとめた力ある言葉のせいで姿を消していた効果がきれたらしい。
思わず、先ほどの言葉に全ての集中を集めてしまったからなのだろう。
この力は想いで発動するようなものである。
フラッフィーをとめることの方を優先と考えてしまった為、姿を消す効果が消えた。
「立てるかな?ロングボトム君」
「…う、うん」
声を震わせながらもゆっくりと立ち上がるネビル。
はネビルを支える。
フラッフィーを見上げて、そっと「ごめんね」と呟く。
ネビルを連れて部屋から出て、扉をゆっくり閉める。
もちろん、カチリっときっちり鍵を掛けなおして。
「あ、あの、」
「何?」
「…ありがとう」
「いやいや、お礼を言われるほどじゃないよ」
大したことしてないしね。
苦笑するにネビルは言葉を続ける。
「さっきのことだけじゃないよ、あの時も助けてくれたのだよね?」
「あの時?」
「うん、飛行訓練の時」
は驚いて目を思いっきり開く。
まさか、気付いているとは思わなかった。
かなり遠くからの声で、しかも悲鳴にまぎれて誰にも聞こえてないと思っていたのに…。
「ほぉ、お前、”リズ・イヤー”か…珍しいな」
「え?ええ?!!猫がしゃべった?!!」
「ヴォルさん、他の人の前で話たりしていいの?」
の足元でとてとて歩いていた猫のヴォルが人の言葉を話したことに、思いっきり驚き慌てるネビル。
まぁ、普通の猫は話をしないだろう。
猫が人の言葉を話すというのは、結構奇妙なものだ。
「も、もしかして、その猫、アニメーガス?」
「いや、違うんだけど…、まぁ、特殊な猫ではあるね。ところで、「リズ・イヤー」って何?」
聞いたこともない言葉に首を傾げる。
魔法界の言葉で特殊であることは分かる。
「簡単に言えば聴力が異常に発達しているということだ。人の言葉以外のものも聞き取れる能力がある。多少距離は離れていても、意味は分からなくてもな。人は大抵、自分で意味の分からない言葉は聞きとりにくいものなんだ。「リズ・イヤー」はどんな言葉でも正確に聞き取ることが出来る。それこそパーセルタングでもな」
「へぇ、それじゃあ、聞き取った言葉は同じように言えたりする訳?」
「本人にその能力があればな。の力は言葉を覚えても無理だろうがな」
「あ、そうか。ロングボトム君は正式な魔法使いだもんね」
時の代行者の力は、魔力と反発することがある。
その力の一部でも、魔法使いで使えるものはごくごく僅かだろう。
ダンブルドアはその存在を知っていることから使えることは想像つくが、それ以外の魔法使いで使える者がいるかどうかは知らない。
「「リズ・イヤー」は、完全に遺伝性で血が繋がっているからといって、その子供が「リズ・イヤー」になる確率は僅か5%。確か、コイツの父親、フランク=ロングボトムが「リズ・イヤー」だったと記憶しているが…」
「へぇ、隠れた才能ってやつだね」
はネビルを見る。
ネビルの背中をぽんぽんっと叩く。
「そんな凄い特技もってるなら、もっと胸はってなよ、ね?」
「え?あ、でも、僕、そんなこと知らなかったし…」
「今、知ったじゃない。ロングボトム君は、もうちょっと自分に自信持つべきだよ」
「う、うん」
それでも自信なさげに返事を返すネビル。
確かネビルの両親が闇払いで、デス・イーターに襲われ、病院に入院中。
彼がお見舞いに行っても、息子であると分からないような状態。
そんな中で育ったのだから、魔法に怯えるのは分かる。
「君は強いよ、ネビル。ちゃんと、自信を持って」
ネビルはの言葉に驚いた。
実ははグリフィンドールでは、「誰が相手でも決してファーストネームで呼ばない」と言われている。
自身気づいてないが、は結構有名なのである。
それこそもういろんな意味で…。
そのから、初めてファーストネームで呼ばれた。
「うん!ありがとう!」
ネビルは笑顔でそれに返した。
ネビルは強い。
魔法の怖さを知りながらも、魔法を学ぼうとホグワーツに来たのだから…。
怖いと知っている事は、強くなれるということ。
その後、ネビルとはフィルチにも誰にも見つからずに寮に戻れた。
完全に寝静まっているハリーとロンを起こさないようにこっそり部屋にはいる。
互いに笑みをこぼしながら、ようやくベッドに潜り込んだのであった。
※「リズ・イヤー」はオリジナル設定です