賢者の石編 10
初めての飛行訓練の日が来てしましました。
結局はいいアイディアも浮かばず、劣等生を通すことに決めた。
フーチ先生はキリっとしていてカッコいい女性教師だった。
パキパキ動き、びしっと言う。
う〜〜ん、ああいう先生好きだなぁ〜。
「右手を箒の上に突き出して…そして、『上がれ!』と言う!」
皆一斉に「上がれ!」と言う。
もやる気なさそうに「上がれ」と言うが、やはり箒はぴくりとも動かない。
箒は馬と同じで、乗り手が怖がっているのがわかるのだろうが、の場合はそれ以前の問題であろう。
ハリーの手には勿論箒が収まっており、まもなくロンとハーマイオニーの手にも箒が収まる。
中々、箒が手に収まらないのは、ネビルとのみ。
「あ、あ、上がれ!!」
ぱしっ
ネビルの箒もなんとか手に収まり、残るはのみ。
1人だけ足元に箒が転がっている。
自身は、なんか目立つなぁと、実にのん気なことを考えていた。
「上がれ…。上がれ!上がれ!」
実にやる気なさそうに、形だけでも言ってみるが、やっぱり箒は動かない。
分かっていたことだ。
こうしてみて、改めて感じる。
自分には全く魔力がないのだと、魔法使いにはなれないのだと。
は肩を竦め
「フーチ先生、どうやら僕には無理なようです。時間がもったいないので先に進めて結構ですよ」
「…もう少し待ちますが?」
「いえ、結構ですよ。隅っこで、1人でやっていますので」
箒をずるずる引きずって、隅の方に移動する。
の方を心配そうに見たフーチ先生だったが、生徒達に向き直り授業を再開する。
ハーマイオニーとハリーがの方を少し気にしていた。
はころんっと箒を足元に転がし…
『上がって下がれ』
箒はふわっと浮き上がり、そしての手に収まることなく、地に戻る。
そんなことをしながらは遊んでいた。
持っている『力』の使い方の確認の意味でも、こうやって使い慣れていく事は大切だろう。
だが、その為ハリーの視線に気付かなかった。
浮いたり沈んだりしている箒を楽しそうに眺めているが、ちらっと見えたハリーは驚く。
それをフーチ先生に言おうとしたが、次の瞬間、
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
ネビルの箒が暴走して、勝手に空高く上がっていってしまう。
フーチ先生は「戻ってきなさい!」と注意するが、ネビルに箒をコントロールする術はない。
悲鳴を上げながら、それでも辛うじて箒にしがみついているが、箒はネビルを振り回す。
は箒で遊ぶのをやめ、その様子をじっと見つめていた。
箒はネビルを振り回し続け、ついにはネビルの手が箒から離れ、空中に投げだされる。
投げ出されたネビルの先には、尖った槍のようなものをもった銅像がある。
このままいけば、ネビルはその槍のようなものに刺されてしまう。
フーチ先生は慌てて魔法を使うが、魔法が届かない。
誰かの悲鳴が響く。
(ちょっと待て!確か、ネビルは手首の骨折だけで済む筈じゃあ…。このままじゃあ、アレに刺される?!!)
『止まれ!!ネビル=ロングボトム!!』
ぴたりっ
不自然な形でネビルが止まる。
尖った槍のようなものに刺される直前、不自然に浮いたまま止まったネビル。
はふぅっと軽く息をつく。
『そのままゆっくり下へ…』
ネビルから視線を離さないまま、ゆっくりとネビルを降ろす。
皆はフーチ先生の魔法が効いたと思ったらしく、を気にも留めない。
の力の発動の言葉も、悲鳴に隠れて聞こえなかっただろう。
ネビルはゆっくりと地面に横たわる。
しかし、意識を失っているようだ。
フーチ先生はネビルに近づき、無事かどうか確かめる。
「ロングボトム、大丈夫ですか?!」
ネビルは完全に気を失っているようだ。
仕方ない、というようにため息をついたフーチ先生は、魔法でネビルを浮かせ、他の生徒の方に向き直る。
「私が、ロングボトムを医務室に連れて行きますから、その間誰も動いてはいけませんよ。箒もそのままにして置くように。さもないと、クィディッチの『ク』を言う前にホグワーツから出ていってもらいますよ」
ぴしりっといってフーチ先生はネビルを連れて行く。
は、安心してるような困ったようなため息をついた。
本の内容と少しだが食い違いが出てきているような気がする。
ちらっとドラコを見れば、馬鹿笑いをしている。
「ドラコの行動は、本の通りか。これで、ハリーがちゃんと『思い出し玉』をとりかえせばいいんだけど…」
得意げに箒に乗って、ネビルの『思い出し玉』を掲げるドラコ。
ハリーは箒を掴んでドラコを追おうとするがそれをハーマイオニーが止める。
ハーマイオニーの制止も聞かずに、ハリーは空高く舞い上がる。
すぐにドラコに追いつくが、ドラコは『思い出し玉』を空中に放り投げた。
ハリーはそれを追いかける。
一直線に急降下。
はぎゅっと手を握り締める。
大丈夫だとは思いたい。
ハリーは見事地面スレスレでそれを掴み、箒を引き上げ水平に立て直して綺麗に着地した。
それを見ていた生徒達は驚く。
も本では読んでいたが実際に見てみると凄いものだと思う。
これで、ハリーが箒に乗るのが初めてだというのだから尚更である。
「ハリー=ポッター…!!!」
マクゴナガル先生が怒鳴りながら走ってきた。
ハリーの顔色は真っ青になる。
「よくもまぁ、こんな大それたことを、首の骨を折ったかもしれないんですよ?!」
心配しすぎでハリーに怒鳴るマクゴナガル先生。
初めて箒を使う生徒にとってあれほど危険な事はないだろう。
マクゴナガル先生は深いため息をつき、ハリーを見る。
ハリーはびくびくマクゴナガル先生のほうを見る。
「ポッター…。グリフィンドールから20点減点です」
ハリーは愕然とする。
スリザリンの生徒はいい気味だとくすくす笑う。
ハーマイオニーは「それみなさい」と言うように、呆れていた。
マクゴナガル先生はそれだけ言うと戻っていった。
(…って、ちょっとまって、かなり待って!!ハリーに減点?!いや、ここはハリーがクィディッチのチームにスカウトされる場面でしょう?!)
は慌てて、マクゴナガル先生の後を追った。
「どこいくの?!!」
ハーマイオニーの制止する声が聞こえたが、無視する。
そんな場合ではない。
このままでは話が大きく喰い違ってしまう。
「マクゴナガル先生!!」
追いついたはマクゴナガル先生を呼び止める。
そのの声に驚くように振り返る。
「どうしたんですか?ミスター・」
「あの!!さっきの!!ハリーに減点は、仕方ないとしても!何故あれだけ箒を使えるハリーをクィディッチの選手にしないんですか?!」
「そうですね、確かにあの才能は惜しいです。ですが、一年生は選手になれない決まりがあるのですよ」
「決まりは所詮決まりです!!その決まりに当てはめられないほどの才能がハリーにはあるはずです!その才能を潰す気ですか?!」
ですが、と困るマクゴナガル先生に、は一歩も引く気はなかった。
ここでハリーにクィディッチの選手になってもらわなければならないのだ。
「何にでも例外というものはあります。マクゴナガル先生、ハリーは20点も減点されてしまいました。それを挽回させる機会を与えてやってください!せっかく目覚めた素晴らしい才能の芽を潰さないで下さい!」
ここでハリーがクィディッチの選手にならなかったら、物語は大きく狂うだろう。
もしかしたら、ショックで賢者の石の件に関わらなくなるかもしれない。
それは避けなければならない。
それに、自分はなにより見てみたいと思うのだ。
クィディッチで活躍するハリーを…。
「ジェームズ=ポッターもクィディッチの代表選手だったんでしょう?ハリーもシーカーに適格だと思います。それにここ数年スリザリンにとられていた寮杯を取り戻せるかもしれませんよ?」
マクゴナガル先生は少し考え、決めたように顔を上げた。
は先生の言葉を待つ。
これで説得されてくれなかったらどうしよう。
「そうですね。ダンブルドアに相談してみしょう。去年は、クィディッチでスリザリンには散々にやられてますからね」
「ありがとうございます」
「いえ、お礼を言うのはこちらの方ですよ。私もポッターの才能は惜しいと思っていましたから。こうなったら何が何でもダンブルドアを説得して見せますよ」
どこか楽しそうな笑みを浮かべるマクゴナガル先生。
ハリーのシーカーとしての才能を見て、それを使えると思うとクィディッチの試合で勝利をつかむことが出来ると思ったのだろう。
散々負けっぱなしのスリザリンの一泡吹かせることが出来る、それを思って思わず笑みがこぼれたかもしれない。
(でも、その笑みちょっと怖いです、マクゴナガル先生)
ちょっぴり引いたであった。