賢者の石編 08
校長室でゆったりとお茶を飲む3人。
1人は真っ白髭が床につきそうなくらいの老人。
1人はグリフィンドールの男子用の制服を着た少女。
1人はスリザリンの制服を着た少年。
ダンブルドア、、ヴォルである。
「う〜〜ん、日本茶ですね。ダンブルドア先生、わざわざ日本から取り寄せたんですか?」
ほんわかと湯気のたつ湯飲みを持ちながら香りを楽しむ。
湯飲みの中はイギリスでは珍しいはずの緑茶である。
「最近ジャパンのお菓子に嵌ってのぉ。やはり和菓子には日本茶が合うじゃろう?」
「和菓子と言うと、羊羹とかですかね?」
「色々じゃ」
ふぉふぉふぉと笑うダンブルドアに、にこにこ笑う。
それを冷めた目で見ているヴォル。
「何、和んでるんだよ?」
頬杖をつきながら半ば呆れた様子である。
は、ヴォルを見て「あ、そうそう事情話さないとね」と、やっと言い出す。
校長室に来たのは、ダンブルドアと和やかにお茶しに来た訳ではないのだ。
「ダンブルドアは「時の代行者」をご存知なんですか?」
「の事は知らないが、先代の「時の代行者」を知っておるよ」
「先代?」
初耳である。
先代と言う事は、以前にもいたということになる。
―時の代行者
それは、この世界が歩む道を正すために現われる存在。
世界に正しき導きをし、時を進める。
それを「時の代行者」と言う。
の中にある知識では、どうやら自分がその「時の代行者」らしいことは分かる。
「そうじゃな、先代の「時の代行者」は今から50年ほど前に現われたんじゃよ」
「50年前っていうと、ヴォルさん知ってる?」
「…いや」
ヴォルはゆっくりと首を横に振る。
今から50年前と言うと、ちょうどトム=リドルが学生時代の頃。
先代がと同じようにホグワーツに来ていたのなら、リドルあたりならば気付いたはずではないかと思う。
「先代はホグワーツには来なかったんじゃよ。…そうじゃな、あの時も又、ヴォルデモートのように闇の帝王と呼ばれる魔法使いがおったな」
「グリンデルバルドか」
「そうじゃ」
ダンブルドアの言葉に、ヴォルが呟く。
は聞きなれない名前に首を傾げる。
いくらハリポタの本を読んでいても、でてきた名前を全て覚えているわけではない。
50年前にそんな人いたっけ?
「グリンデルバルドって誰?」
「知らないのか?」
「あのね、私は何でも知ってるって訳じゃないんだよ?」
ヴォルにしてみれば、はかなりいろんな事を知っているように見える。
自分のことも、詳しく知っているようだった。
「グリンデルバルトは、50年前、今でいえばヴォルデモートの様な存在、つまり闇に染まった魔法使いで魔法使い・魔女達に恐れられていた存在だ」
「へぇ〜、でも、今はいないってことは倒されたって事?」
「ああ、ダンブルドアにな」
はダンブルドアを見る。
ダンブルドアは悲しそうに微笑んでいるように見えた。
そして、ゆっくりと首を横に振る。
「いや、わしだけじゃない。当時の時の代行者、シアン=レイブンクローのお陰じゃ」
「シアン…レイブンクロー?!」
「そうじゃ、ロウェナ=レイブンクローの子孫にあたると本人が言っておった。彼女は魔女ではなかった。故に時の代行者として選ばれた」
ダンブルドアは話を続ける。
とヴォルはそれを大人しく聞いていた。
口を挟める雰囲気でもなかった。
シアン=レイブンクロー。
彼女はスクイブだった。
そのため、魔女にはならずに普通の学校に通ったそうだ。
しかし、何かのきっかけで時の代行者となり、ダンブルドアと共にグリンデルバルドを倒すための手伝いをしたという。
ダンブルドアは彼女からあまり詳しい事は聞きださなかったという。
彼女は魔法を使わないが、不思議な力をもっていた。
「その力は時の代行者としての力であり、魔力が全くない者にしか授けられないと言っておったな。魔力があれば、その力は反発し合い上手く使えないそうじゃ」
「それって、「闇の人形」を埋め込まれた時に力を使わない方がいいってことと関係があるんですか?」
「…あるとも言えるじゃろうな。シアンは、自らの体に埋め込まれた「闇の人形」をその「力」で消し去ったせいで命を縮めたのだから」
は目を開いて驚く。
あの時、力を使わない方がいいとは思って使わなかったのは正解だったようだ。
どういう作用なのか分からないが、もし使っていたらどうなっていたか。
「わしは、時の代行者に関して少しは知っておる。ヴォルデモートが現われてから、いつかは又「時の代行者」が現われるだろう思っておった」
「どうしてですか?…どうしてヴォルデモートが現われたら、「時の代行者」が必要になるんですか?」
「いや、別にヴォルデモートでなくても、強力な闇の魔法使いが現われればおのずと「時の代行者」は必要になる、とシアンが言っておった。『世界は闇に染まりきることを良しとしない。闇に染まりきる可能性があれば「時の代行者」は現われるだろう』とな」
語っているダンブルドアの瞳は少し悲しそうだった。
昔のことを思い出しているのだろう。
「それはつまり、はヴォルデモートを倒すために「力」を託されたということか?」
「…そうではない。シアンもそうじゃったが、「時の代行者」は決して闇の魔法使いを倒すために現われるのではない。シアンはグリンデルバルドを倒そうとはしていなかった。拡大し過ぎそうな闇の力を抑えることをしていただけじゃ。それが結果として、ヤツを倒すことに繋がっただけじゃ」
「時の代行者」は闇が世界全てに広がるのを防ぐために存在する。
闇が全てに広がらなければ、たとえヴォルデモートが蘇ろうと構わない。
「つまり、「時の代行者」は、闇の魔法使いが存在しようが何しようが、世界が闇に呑まれない程度に手を貸せばいいだけってことですかね?ダンブルドア」
「そうじゃな。あとは「時の代行者」の意思によって関わり方は変わってくるじゃろうが…。シアンはわしに手を貸してくれたが、が必要だと思えばヴォルデモートに力を貸してもいいのじゃよ」
なるほど、とは頷く。
「時の代行者」は、世界が闇に染まりきらないように手を貸すこと。
は、本の通りに事が運ぶようにするだけかと思っていたのだが、別に本の通りでなくてもいいのではないかと、少し思う。
いや、けれど本の通りならば対処は可能であるし、世界が闇に染まりきって終わり、ということもないだろう。
(当面の問題は、イレギュラーな存在、物事をどうするか、だよね)
はちらっとヴォルを見る。
ハリポタの本の中では、このヴォルの存在はなかった。
しかし、彼が世界を闇に染める、ということはないだろうと思う。
(性格が結構お茶目だし)
「分かりました。とりあえず、私の好きなように行動させて頂きます。それでですね…」
が考えをまとめ、ダンブルドアにヴォルのことを話そうとした瞬間
ぽんっ
軽快な音とともにヴォルの姿が変わる。
人の姿から黒猫へと。
「あらま、ヴォルさん。戻っちゃったね」
「…あらま、じゃないだろうが」
あからさまに不機嫌そうな声で答える。
じろっとを睨む。
「だって、最初に言ったじゃない、一時的なものだって。猫の姿ならともかく人の姿ってのは難しいんだよ?それを維持し続けるにはやっぱりそれ相応の魔力が必要なんだってば。今指輪にためられてた魔力じゃあその程度が限度」
「…つまり、俺が人の体になるのは難しいってことか?」
「いんや、方法考えてあるよ。そうそう、それなんですけどね、ダンブルドア?」
「なんじゃね?」
「もし、賢者の石を壊すことになった場合、賢者の石に宿ってる「力」いただきたいんですけど…」
「もし」も何も、賢者の石は恐らく壊されることになるだろう。
それを見越しての相談。
賢者の石に込められている力を魔力に変換させれば、ヴォルを人の形にすることが出来るかもしれない。
まぁ、定期的な魔力補給は必要になってくるだろうが…。
「理由によっては構わんよ」
「本当ですか?!」
断られてもこっそり頂こうと思っていた。
許可がとれれば堂々と、きちんとできる。
「それで、わしはそちらの黒猫についてよく知らないんじゃが、説明はしてくれんのかのぅ?」
ダンブルドアの言葉にとヴォルは顔を見合わせる。
そういえば、説明を何もしてなかったと思い出す。
ダンブルドアは何もかもお見通しという感じを受けるので、説明など必要ないと思ってしまうのだ。
は簡単にヴォルのことを説明する。
彼はヴォルデモートの捨てた過去であること。
猫の姿はが「力」で作り出したこと。
そして、彼を人の姿にするために、賢者の石の力をもらえないかということを…。
「そうじゃな、その理由なら構わんよ」
「あ、ありがとうございます。…ほら、ヴォルもお礼言わないと」
「…なんで俺が」
ふいっとそっぽむくヴォルの頭をぺしりっと叩く。
その様子をダンブルドアはにこにこと見ていた。
「あ、そういえば、ダンブルドア。私、一つ気になっていたことがあるんですけど…」
「なんじゃね?」
「何故、私にホグワーツの入学許可証が来たんでしょうか?」
魔力の全くない。
先代の「時の代行者」はホグワーツに通わなかったらしい。
「理由は、わしにも分からんが、=の名前は確かに入学者リストに入っておった。だたそれだけじゃ」
「そう、ですか…」
がホグワーツに来る必要があった。
だから入学者リストに名前が載った。
それだけなのかもしれない。
「ああ、あとですね。クィレル先生なんですけど…」
「…知っておるよ」
「知ってるんですか?じゃあ、何故?」
「事を大きくしたくないしのぉ、それにアレは厳重に守られておるから大丈夫じゃ」
(厳重、ねぇ)
ハリー達3人の1年生の手にかかって見事に突破されてしまうあの仕掛けが…。
確かに頭脳、箒の才能、チェスの才能、全て揃っている人などそうそういないだろう。
「チャンスは誰にでも平等に、じゃ」
「…甘いですね。いつか足元すくわれますよ?」
楽しそうに笑みを浮かべるダンブルドアに、苦笑して答える。
それでも、ダンブルドアには信用できる力ある人たちが大勢いる。
ダンブルドアの強さは、自身の力でなくそこにあるのだろう。
心の底から信じられる仲間がいること。
「シアンの好きだった言葉じゃ。わしはこの言葉が一番気に入っておる」
そう言って微笑むダンブルドア。
その笑みにはどこか悲しみが感じられた。
「そうですか…」
(チャンスは誰にでも平等に、か。確かに悪い言葉ではないよね)