賢者の石編 07





冗談じゃないよ。
私は、こんなのに負けるつもりはない。
そう、負けないよ!!
こんなの絶対に跳ね返してやる!

負けてたまるか!!!


ぴしっ


「馬鹿者!!!」

突然聞こえてきた声にはっと顔を上げる
自分の手をゆっくりと見る。
閉ざされた闇の中から抜け出し、今いる自分の場所が見えてくる。

「…もどった?」

ぎゅっと手を握り締める。
ふっと周りを見回せば、ここは薄暗い部屋。
グリフィンドールの生徒とスリザリンの生徒がいる。

―お前は駒だ。…ただの人形…

っ?!!

頭の中に響くくらい声。
従わせようとする高圧的な力のこもった声。
これは魔法なのか?
でも、魔法は効かない筈。


がたんっ


体が引きちぎられそうな痛みが襲う。
悲鳴をかみ締めて腕で体を抱え込むようにする。
は椅子から落ちたがそんなのも気にならないほど痛い。

「何をしている?!!」

ふっとは顔を上げる。
そこには見下すような視線の、黒ずくめの教師セブルス=スネイプ。
大広間で遠目でだが見た姿。

そうか、今は魔法薬学の授業。
じゃあ、さっきの「馬鹿者!」って声もスネイプ教授の声か。
その声が切欠で体を取り戻せたから、後でお礼言わなきゃね。

?!」

様子のおかしいに駆け寄るハリー。
の顔色は真っ青で、顔を歪めている。
ハリーはに触れようとして、ぴくっと止まる。
何故かハリーの額の傷が熱を持ち出す。
手で、額の傷を押さえているのがには見えた。
に近づこうとするハリーは、傷の痛みで足を止める。

(ハリーの傷は危険を知らせるものだったよね。私に触れるのは危険ってことか)

「何をしている?ポッター?席に戻りたまえ」
「でも!!」
「戻れと言っている」

ぱしっ

は途中までに伸ばされていたハリーの手をわざと振り払う。
痛みを堪えながらもハリーをまっすぐ見る。
ハリーを危険にさらすわけにはいかない。
これ以上近づいてもらってはまずい。

「教授の言うとおりだ。戻りなよ、ポッター君。…君に近づいて欲しくない」
「…

ハリーは傷ついた表情をする。
は心の中で「ごめん」謝る。
こんな方法でしか、傷つけなければハリーを危険から遠ざけられない自分が悔しい。
セブルスがすっとに手を差し出す。

「立てるか?
「…大丈夫、です」

痛みを堪えながらも、なんとか返事を返す。
は素直にセブルスの手を取る。
そのセブルスの手の熱さに驚く。

(まさか…)

はぱっとセブルスから手を離す。

「お気遣いありがとうございます、教授。無理して手を貸してくれなくてもかまいませんよ」

驚いたように目を開くセブルス。
は悲しそうに微笑む。
セブルスの手の熱さの理由になんとなく気付いてしまった。

「大嫌いなグリフィンドールの生徒に手など貸したくないでしょう?」

その理由をこの場で言うつもりはないが、それでも、無理はしてほしくない。
の中の”何か”に反応する「闇の印」が痛むのに手を貸してくれ優しさ。
そう、手が異常なほどの熱を持っていたのは「闇の印」が痛むからだろう。
顔色も変えない我慢強さは尊敬にすら値するかもしれないが…。

「医務室に行ってもいいですか?スネイプ教授」
「…あとで我輩の部屋に来い」
「はい、分かりました。…ありがとうございます」

軽く頭を下げて、平気なフリをしながら教室を出る。
陰険で贔屓をしまくる魔法薬学教授の優しさをはじめてみた気がした。





フラフラしながら医務室に向かう
途中の廊下で立ち止まり、ずるずるとしゃがみ込む。

?」

その声に驚き声のした方を見てみれば、黒猫の姿。

「ヴォル、さん?…どうしてここに?」
「…暇だったから、少し散歩していただけだ」
「そっか、まさか女子トイレになんて行ってないよね?」
「…、俺をどんな目で見ているんだ?」
「いや、だって、秘密の部屋ってあそこの女子トイレからしか行けないんでしょ?だから…」
「…相変わらずのもの知りだな。大体、この体であの部屋に行ってどうする?」
「はは、そうだね」

ヴォルはしゃがみ込んだの体に擦寄る。
ヴォルが来てくれたお陰でいくらか痛みが和らいだ気がする。

「お前、埋め込まれたな、人形を」
「…なに?それ」
「闇の魔術の一つに、「闇の人形(デス・ドール)」というのがある。術者の意志を介す人形を埋め込み、操る魔法だ。勿論、その魔法がきれたと同時に操られた方は死ぬがな」
「うぁ、ヤな魔法」
には魔法が効かないから変に作用しているのだろう。本来なら対象者の魔力と人形は一体化するからな」

魔力が全くないに埋め込まれた人形は行き場がなく、の体の中で中途半端に留まっている。
闇の人形は、闇の魔術の一つだが人に埋め込む人形自体に魔力は必要なく、人の想いを埋め込むようなものだ。
いくら魔法が効かないと言っても、人形自体を埋め込まれることを阻止できるわけではない。
だが、には魔力がない為、意識はすぐに戻った。
ただ中途半端に留まっている人形のせいで体中が痛むことになってはいるが…。

「ずっとこのままなのかなぁ?」
「…俺はこの体じゃあ、魔力も足りないし魔法も使えない」
「じゃあ、ヴォルさんに魔力と人の体があれば治せる?」
「まぁ、あればな」

その返事を聞き、ふぅっとは息をつき目を閉じる。
別に、誰か先生が通るのを待ち、ダンブルドアを呼んでもらえば治るのだろう。
ダンブルドアならば治せるだろうから。

『戻れ』

ふわっと柔らかな風が舞う。
黒く少し長めの髪がふわりっと舞った。
そこにあるのは、少女の姿。
服装はグリフィンドールの服装のままだが、は元の姿に戻っていた。

?」

驚くヴォルに優しく微笑む
ヴォルはが何を考えているのか分からない。

「おいで、ヴォルさん。…一時的なものだけど、姿、変えられるから…」

手を伸ばしゆっくりとヴォルを抱きかかえる。
ゆっくりと優しくなで

「人としての姿のイメージは、自分でしてね」


『人の姿へ…変われ』


ヴォルを包み込む光はどこまでも優しい。
淡い光。
光は形となり、人となる。
黒くサラサラの髪に紅い瞳。
ホグワーツのスリザリンの制服を着た、16−7歳の少年の姿。
は、ヴォルに自分が持っていた杖と銀の指輪を渡す。

「指輪には魔力があるよ、それから杖はヴォルさんのだから…」
「…俺に渡していいのか?」
「何で?」
「俺がこれを持ったまま、お前を見捨てるとは思わないのか?」
「思わないよ。とは言い切れないけど、まぁ、見捨てられたらしょうがないかな」

くすくすっと笑う
痛みもだんだん麻痺してきた。
このままでは、又意識は飲み込まれてしまうかもしれない。

、お前は馬鹿だな…」

すっとヴォルはに杖を向ける。
銀の指輪にためられた魔力を引き出し使う魔法は…。


『滅せ、闇の人形!』


ぱぁんっ!!


”何か”がはじけるような音。
の体がびくっと揺れ、ふらっと傾く。
受け止めたのは少年の姿のヴォル。
そのヴォルの表情がほっとしたものであることには気づかない。

「大丈夫か?」
「…う〜〜ん、なんとか。…あっ、ありがと」

少し照れながらも一応礼を言う。
痛みはすっかり消えていた。
ただ、痛みに耐えていたせいで精神的にかなり消耗していたが…。

「礼を言うくらいなら気をつけろ。大体、あの程度の魔法ならのあの『力』でどうにかできたんじゃないか?」

はう〜ん、と考え込む。
言われて見ればそうだが、なんとなく、使ってはいけないような気がしたのだ。

「使わなくて正解じゃよ。「闇の人形」と時の代行者の『力』が混ざって大変な事になっていたかもしれないからのぉ」

聞こえてきた声にとヴォルは顔を上げる。
ふぉふぉふぉ…と相変わらずの笑みを浮かべてそこに立っていたのは、ダンブルドアであった。