賢者の石編 06




ハリーは注目されていた。
はハリー、ロンと一緒に行動せずに少し離れたところから見ていた。
傷に注目する周りの人たち。
ハリーは注目されることが余り嬉しくないらしく顔を顰めている。

「自分が覚えていないことで英雄扱いされても困るだけだよね」
「あら?でも彼がしたことは偉大なことよ」

独り言として呟いたはずの言葉に返事が返ってきたことに驚く
となりを見れば、ふわふわの髪の美少女。
うわぁ、可愛い。

「もしかして、ハーマイオニー=グレンジャー?」
「ええ、そうよ。
「あれ?僕のこと知ってるの?」
「勿論よ。貴方もハリーとは別の意味で結構有名よ」
「有名?別にそんな偉大なことした覚えはないけど?」

苦笑する
いたって普通の少年のはずだ。
ヴォルのこともばれてないし、魔法以外の力のこともばれてないのだから。

「ボートに乗る前のできこと、組み分けの時こと。この二つで貴方は十分有名になったわよ」
へ…?
「自覚ないのね」

そ、そういえばかなり注目浴びていた気がする。
周りに気を配れば、ハリーに注目している中、ちらほらを指し示す言葉もあるようだ。


「ほら、あいつだろ?」
「ああ、前代未聞の、組み分け帽子をたたきつけたやつ?」
「なんでも一年がのるボート乗り場では、ペットを湖に投げつけたらしいぜ?」


(ああ、目立ってる?目立ってる?!!それもこれもヴォルさんとあの組み分け帽子のせいだ!)

とりあえず、責任転換してみる。
としては全く自分が目立った行為をしたという自覚がなかったりする。
ちょっとやりすぎたかも…とは思っているかもしれないが…。


マッチ棒を針に変えてみましょう。
は適当に杖を振り回していた。
隣ではハーマイオニーが真剣に取り組んでいる。

(頑張れ、ハーマイオニー!君なら出来る!ってか、確か君にしかできなかったはずだよ。本の通りならね)

は変わらずに杖を適当に振り回しながら思う。
授業終わるまでずっとこうしてろと言う事なのだろうか。
変わらないって分かっているのに。
何もしないで時間がただ過ぎるのを待つのは退屈だ。
はぴたりっと杖を振るのをやめ、う〜〜ん、と考え込む。
こつんっと杖を机に当て…

「…針、ハリ、よしっ!!」

ニヤリっと何かを思いついたように笑みを浮かべる
形だけ杖を構える。
マクゴナガル先生がこちらをみていないか確かめ…。

『ハリネズミに変われ』

ぽんっ

軽快な音をたてて、マッチ棒が巨大なハリネズミに変わった。
となりでハーマイオニーがきゃっと驚いた声を上げる。

?!何をやっているのですか?!!私は針に変えなさいといったはずですよ!」
「すみません。針に変えようとは思っていたんですが、つい…」
「ついじゃありません。…グリフィンドール1点減点です」
「う…」
「しかし、マッチ棒をハリネズミに変えた事はすばらしいので、5点さしげます」

(あ、点数もらっちゃった。魔法使ってないんだけど、いいのかな?うん、ま、いっか)

隣ではハーマイオニーが凄いじゃない!!と褒めていたが…。
授業の最後で、やはりハーマイオニーだけがマッチ棒を針に変えられた。

(君の方がすごいって、ハーマイオニー。でも、授業であまり『力』は使わない方がいいかもしれないね)



「闇の魔術に対する防衛術」。
皆が一番楽しみにしていた教科だろう。
しかし教室にはニンニクの臭いが立ち込めている。
噂では、クィレルが吸血鬼をよせつけないためにニンニクをターバンの中に隠しているとか。
ニンニク臭いヴォルデモートさん。
クィレルのあのターバンの中に隠されているヴォルデモート卿。
今はさぞやニンニク臭いのだろう。
などとは思ったりする。

「で、ですから、これは………で、あ、あって…」

クィレルの説明を真面目に聞いている生徒は殆どいなかった。
唯一ハーマイオニーが一生懸命聞いている。
他の生徒達はつらなさそうに教科書をパラパラ眺めたり、隣の子とコソコソおしゃべりしたりする。

「あの、クィレル先生」

は手を挙げて、クィレルの話を遮る。
一瞬びくっと怯えるクィレルだが、は気にしない。

「な、な、なんですか?…」
「あ、いえ、授業とは全然関係ないことなんですけど、このニンニクの臭いはなんですか?」

の質問にぎょっとする他の生徒。
気になってはいても面と向かって聞けないのが普通だ。

「こ、これは、一種のまじない…、お、お守りみたいなものです」
「願掛けみたいなものですか?大切な方を守るためとか、近づけさせないためとかの?」

の言葉に一瞬クィレルの表情が変わった。
それに気づいたのはだけだった。

(ちょっと、突っ込みすぎたか…かな?)

「すみません。気になったものですから。授業続けてください、『古の闇の魔術というものもあり…』からでしたね。どうぞ…」

ぺこっと頭を下げ、は大人しく教科書を開く。
クィレルはちらっとを見たが、変わらぬ様子で授業を再開した。
おどおどしているクィレルを見る限りでは、とてもではないがヴォルデモートの器となっているとは思えない。

「闇の魔術に対する防衛術」の授業は普通に終わった。
生徒達はさっさと教室からでていく。

「…
「はい?」

突然呼び止められ、振り返る

(なんだろう?やっぱり授業中に関係ない質問したのが悪かったのかな?)

「少し片づけを、て、手伝ってもらっても…い、いいでしょうか…?」
「あ、はい。構いませんよ?どれを?」

教科書を適当な机の上に置き、クィレルの元へいく
ちらっとハリーがの方を見たが、結局教室をでていってしまった。
教室にはとクィレル二人だけになる。


『これも捨て駒に丁度いいだろう……』


「え…?」

クィレルとは別の声が響く。
いつか聞いた、そう、聞き覚えのある声だ。
に襲い掛かる暗い闇。
クィレルからあふれ出した闇はを包み込む。

「っ…!!!」

油断した、と思った。
ヴォルデモートの狙いは、賢者の石と、ハリーの命。
そう思い込んでいたのかもしれない。
だから、自分が襲われるはずはないだろうと……。

『行け、駒となれ』

命令する言葉。
輝きを失った瞳で、はなんでもなかったように教科書を持ち、教室をでていく。
の体は次の授業の場所へと向かう。





意識は闇の中。
それでも、自分の体が思い通りに動かないのは分かる。

何なの、これは。
魔法だけど、魔法じゃないはずだ。
それにクィレル先生が、こんなことができるなんて私は知らない。
何かが入り込んでいるような感覚。
そう、これは、ヴォルさんの時に似ている。
違うのは、入り込んでいる”何か”は人ではないということ。
心がない闇の人形…?

(冗談じゃない!!)

嫌だ!!