賢者の石編 05





は何の因果か、ハリー、ロン、ネビルと同室になってしまった。
嫌になる程遭遇率が高すぎる。
最も物語はハリー中心で動いていくのだからハリーの側にいるのは都合はいい。
1年の時ハリーと同室だったのは誰だったか。
確か5人部屋だったような気がする。
すでに話の内容が変わってきているのは気にしないことにしようと思う。
とりあえず、荷物の整理をする。
ハリー達は談話室に降りて行ったので、部屋には1人である。
明日からは授業が始まる。

「『薬草学』『魔法薬学』に『魔法史』『天文学』とかはいいけど、問題は『妖精の呪文』『変身術』『飛行術』の実技関係だよね」
「適当に誤魔化せばいいだろ?スクイブでもホグワーツに入学する奴らはいるんだ」
「うん、それもそうだね」

楽しそうに教科書を並べる
その中には、教科書ではない本もある。
面白そうな小説と、魔法薬学の本。
魔法薬学を読み始めたら意外と面白かったので、別の本も買ってしまった。
は理数系の教科の方が得意なので、化学のような魔法薬学は面白い。

「気になっていたんだが、お前本当にマグルか?」
「ん?何で?」
「マグルにしては魔法界のことを知りすぎている」
「ん〜〜。でも、正真正銘マグルだよ。魔法使おうとしても何もできないよ、例えば…」

はひょいっと杖をとりあげ軽く振る。
…何も起きない。

「アバダ・ケダブラ」
「…!!」
「なんてね」

にこりっと笑う
やはり何も起きない。
の言った呪文は闇の魔法。

「お前!今の呪文が何なのか分かっているのか?!!」
「知ってるよ。許されざる呪文の一つで、ちなみに強力な魔力がないと使えないもの」
「知っているなら、むやみに使うな!!」
「大丈夫だよ。どうせ何も起きないんだから」

悲しいことに魔法は全く使えない。
呪文を唱えたところで、が意志をもって自分の力を行使しなければ、現象は何も起きない。

「エクスペリアームズ、オブリビエイト、ウィンガーディム・レヴィオーサ」

ひょいひょいっとは適当に知っている呪文を言いながら杖を振るがやはり何も起きない。
見ているヴォルとしては気分のいいものではない。
間違って魔法が発動したらどうなるのか。

「ホラね」

ホラね、ではない。
本人はいいだろうが、魔法を向けられた方はたまったものではない。
そう、は今唱えた呪文は全てヴォルに向けられていたりする。
今のヴォルは記憶と知識だけの存在。
その身の魔力は極僅かなのだ。
はヴォルをゆっくりと優しく撫でる。

「とりあえずは、ヴォルさんを人の姿にすることと、魔力だね。魔力に関しては考えてはあるけど」

くすくすっと笑みをこぼす
ヴォルはそんなをじっと見る。

は、何故、オレにそんなことをするんだ?」
「ん?」
「べつにオレに魔力を与えたり、人の姿にしたりする必要などないだろう?」
「ん〜、そうだけど。私がしたいと思ったから、かな」

がこの世界にいるのは、過ちに向かってしまわないよう正すため。
けれど、せっかくこの世界に来たのだから自分のやりたいようにやりたい。
後悔をしないようにしたい。


ぴとっ


「ひんにゃぁぁぁぁぁ!!!」


またしてもいきなり首筋に冷たい感触。
は奇妙な叫び声を上げる。
ヴォルはの肩に乗っているトレバーを蹴って追い払う。

「来るな!近づくな!!」

顔を顰めながらトレバーから離れる
いや、顔をしかめていると言うより、泣きそうな表情である。

「随分気に入られたようだな、
「嬉しくないよ!!」
「まぁ、いいじゃないか。又、消毒でもしてやろうか?」
「っ…!!ヴォルさんのヘンタイ!!」

猫の姿とはいえ、舐められるなんて冗談じゃない。
それにしてもヴォルの性格が変わっているような気がする

(こんな性格だったっけ?もっと他人を見下したような性格だと思ってたよ)


「何やってるの?


部屋の入り口にハリー、ロン、ネビル。
どうやら戻ってきたらしい。
先ほどの声はハリー。
顔を少し赤くしながら猫に怒鳴りつけているを不思議に思って尋ねたらしい。
ヴォルの声は小さくて聞こえなかったらしいが…。

「な、なんでもないよ。って、それよりロングボトム君!!」
「えっ?!な、何?!」

いきなりに名指しされてびくっとなるネビル。
はびしっと、トレバーを指す。

「このヒキガエル、二度と僕に近づけないで!」

泣きそうな声では言う。
あの感触は気持ち悪いのだ。
気に入られたくもないのに気に入られたらしい。

「あ、う、うん。ご、ごめんね。ちゃんとトレバーに言っておくから」

(言っておくだけじゃなくて、どっかに閉じ込めておいてください)

心の中でそう思うであった。
しかし、気の弱そうなネビルにそうきっぱり言うのは気が引けるのだ。
一応、の方が年は上なのだから。

って、ヒキガエル嫌いなの?」

ハリーが尋ねてくる。
その質問には嫌そうに顔を顰める。

「嫌いって言うか、二度も首筋に触られたらきっと君も同じ気持ちになると思うよ」
「二度もって…?」
言わないで!感触思い出したくないから!!」

は、すぐ側にいたヴォルをぎゅっと抱き寄せる。
トレバーの感触を忘れるために、ヴォルを抱き寄せて頬擦りする。

(ヴォルさんはあったかくて気持ちいいのにな。毛並みが気持ちいいし、私好みの黒猫だよね)

しかし、は分かっていなかった。
ヴォルは大人しく抱きしめられているヤツではない。

ぺろっ

がぴしりっと固まる。
ヴォルは構わずに、ハタからみれば甘えるようにの首筋をぺろぺろ舐める。

「こ、こ、こ…」

(このエロ猫がぁぁ!!)

?」

ハリーは不思議そうにを見るが…。
がしっとヴォルを掴み、思いっきりハリーに向けて投げつけてしまう。

「うわっ?!!」

ハリーは突然のことで、ヴォルを受け止めるので精一杯。
それに気づいたは慌てる。

「ご、ごめん!!ハ、ポッター君」
?」
「悪いのはこのエロ猫だから」

ハリーの腕の中のヴォルをひょいっと上げ、ぺいっと自分のベッドに投げつける。
ベッドに投げつけられたヴォルを見ながらは思う。

(やっぱ、キャラが全然違よ、ヴォルさん。こんなお茶目…いや、私からすれば全然お茶目行為じゃないんだけど、そんなことする人じゃないはず。それにマグルの私にそんな構って面白いもんかね。いや、相手が誰であれ、ただ、反応見てて楽しんでいるのかも)

少なくとも、の知るリドルもヴォルデモートも、あんなお茶目なことをするような人ではなかったはずだ。
最も、が知っているのは本の中だけで、イメージだけなのかもしれないが。

「ねぇ、
「ん?何?ポッター君」
は何で、名前呼んでくれないの?」
「?」

は首を傾げる。
ハリーの言っている意味が分からない。

「僕達友達だよね?まだ会って間もないけど」
「それはもちろん、友達だよ?」
「じゃあ、ちゃんとファーストネームで呼んでよ」
「う〜ん」

は気まずそうに目を逸らす。
ハリー達のことをファーストネームで呼ばないこと。
それはホグワーツに来る前に決めたこと。
仲良くなるのはいい。
けれど、自分はいついなくなるか分からない、そして未来を少なからず知っている。
やはり、ハリー達とは一線引いた方がいいと思うのだ。
ファーストネームで呼ばないのは自分への戒め。
自分のしたことの何が原因で先が変わるか分からない。
もしかしたら、賢者の石はヴォルデモートの手に渡ってしまうかもしれない、トム=リドルはジニーを殺して蘇ってしまうかもしれない、シリウスは脱獄しないかもしれない、リーマスは教員にならないかもしれない、そして、ヴォルデモートは蘇らないかもしれない。
けれど、本当はただ単純に、自分の知っている未来が来ないことを恐れているのかもしれない。
知っている未来通りなら手を貸すことも出来る。
知らない未来ならば、魔法も使えない自分は足手まといにしかならないのではないか…?

「まぁ、僕にも僕なりの事情ってものがあってね、ごめんね」

ぽんっと軽くハリーの肩を叩く。
は自分自身一緒に動くより、見守る立場の方が合っていると思う。
なりに学校が始まるまでいろいろ考えた末の結論なのだ。