賢者の石編 04





「イッチ年生、イッチ年生はこっちだ!」

列車から降りれば、ハグリットが新入生達を誘導している。
は、コンパートメントが一緒だったこともあり、ハリー、ロンと一緒に行動している。
ハリーはハグリットを見つけると嬉しそうに駆け寄る。
もとりあえずはハグリットの方に向かおうとする。

ぴとっ

「ひゃっ?!!」

首筋にひんやりとしたものが触れ、変な声をあげてしまう。
ヴォルがすぐに気づき、の肩にいるナニカを威嚇する。
器用にも後ろ足で、そのナニカをげしんっと蹴り上げて追い払う。

「な、何?」
「ただのヒキガエルだ」

少し怯えた様子のに、小声でヴォルが答える。
猫がしゃべるなどとまわりに知れたら困るのはとヴォルなのだから。
にだけ聞こえる声で話す。

「あ、トレバー!」

丸顔の男の子が嬉しそうに、ヴォルに蹴られたヒキガエルに駆け寄る。
このヒキガエルが「トレバー」ということは、この子はネビル=ロングボトムなのだろう…とは思う。
無意識に先ほどトレバーが触れた首筋に手をやる
あまり気持ちのいい感触ではなかった。

「…ヒキガエルのペットは絶対嫌だな」

思わず顔を顰める。
手で首筋をさすっていると、ヴォルが頭をその手に摺り寄せてくる。

「そんなに嫌だったのか?」
「う〜、悲鳴上げるほど嫌いじゃないんだけど、やっぱ苦手なんだと思う」

首のすぐ横にあるヴォルの顔を撫でてやる。
ペットなら、触れていて気持ちいいものがいい。
その点、ヴォルは毛並みがいいので首に擦り寄られても全然嫌じゃない。

ペロ

首筋に何か濡れたものが触れた。
ヴォルを撫でていたの手がぴたりっと止まる。

「…ヴォル、さん?今何をしたの?」
「ああ、ただ、が余りにも嫌そうだったから消毒してやった」
「しょ、消毒って…舐めてませんでしたか?」
「まぁ、消毒といえば舐めるのが一番ポピュラーな方法だろ?」

声色でヴォルが楽しげに笑みを浮かべたのが分かる。
もし人の姿であったのならば、さぞや意地悪げな笑みを浮かべていたのだろう。

「このエロ猫ぉ!!!」

ぺいっとヴォルを駅の側の湖に思いっきり投げつけた。
元ヴォルデモートであったとはいえ、今の彼には何の力もない。
その為、綺麗な弧を描き…


ぼちゃんっ!


は顔を真っ赤にして、息を乱している。
先ほどの大声とその行動で、周りが全てに注目する。
はっとなり、周りを見れば、を驚いた目で見ているものが殆どである。

「何をやっとる!!ペットを投げてはいかん!」

ハグリットが怒った様にの元にやってくる。
そういえば、ハグリットは動物大好きだった、と今更ながらに思い出す。
は慌てて謝り

「ご、ごめんなさい!!」

心配そうなフリをして湖に駆け寄る。
しんっと静まり返った湖。
ヴォルはどうやら綺麗に沈んだらしい。
って、思ってる場合じゃない!
は周りに聞こえないように呟く。

『おいで、ヴォルさん』

伸ばした腕にふっと現われるずぶ濡れのヴォル。
の使った力は自身が壁となって、おそらく誰も見なかっただろう。
自分のローブを脱ぎ、ヴォルを包む。
さすがのヴォルも意識を失っているようだ。
はヴォルをじっと見つめ…

(まさか、本当に綺麗に沈みきるとは思わなかったよ。仮にも元闇の帝王だから、何かしらのことして這い上がるくらいはするかと思ってた)

だが、魔力もさっぱりない上に体は小柄な猫の体どう抗えと言うのだろう。
しかし、それでも周りから見れば不注意でペットの猫を湖に投げ心配そうに駆け寄り抱きあげた少年、に見えた。

結局、はハグリットと一緒にボートに乗ることになってしまった。
本来なら、ハグリットは1人でボートに乗るはずだったのだが…。
動物好きのハグリットとしては、又が猫を投げたりしないか見張る意味で一緒に乗ったのだった。



「なんか、って子、変わっているね」

別のボートではロンがハリーに話しかけていた。
ロンはのことをあまりよくは思っていなかったが。
まぁ、初対面であれでは仕方のないことかもしれないが。

「僕がダイアゴン横丁で会った時は普通だったよ?……多分」

ちょっと自信なさげのハリー。

「でも、なんでファミリーネームで呼ぶんだ?」

まだ最初のときのことを根に持っているらしい。
ロンでいい、と言ったのにも関わらずは「ウィーズリー君」と読んだ。

「僕のことも、ファミリーネームで呼ぶよね、は」
「もし彼が日本人ならおかしくないわ」

ロンとハリーの会話を聞いて、おなじボートに乗っていたハーマイオニーが口を挟む。
ロンとハリーはどうして?と不思議な顔をする。

「日本人はファミリーネームで呼ぶのが普通だそうよ。彼が日本人ならそれが癖なんじゃないかしら?」

得意げに説明するハーマイオニー。
彼女とて、聞きかじっただけで正確にそうとは言い切れないのだが。

「彼は、日本人なのかな?」
「さぁ、東洋人だとは言っていたよ」
「ハリー、ダイアゴン横丁で会ったんだろ?何か話したんじゃないか?」
「ううん。僕が知っているのはがマグルの中で育ったってことくらい」
「へぇ、彼マグル出身なんだね…。だから、例のあの人の名前も言えるんだろうね」

ヴォルデモートの怖さをしらないのだから、あんなに簡単に名前が言えるのだとロンは思った。
ロン自身は気づいていないだろうが、ロンはその時点でを見下している。
ハリーの顔が少し顰められたのにロンは気づかなかった。



黒いローブの新入生の中、1人ローブを着ないでいるは目立つ。
途中、マクゴナガル先生が気を失ったままのヴォルを預かりましょうか?と申し出てくれたが、は苦笑しながら断った。
濡れたままのヴォルには悪いが、このままでいてもらおうと思う。

(ごめん、寮に行ったらすぐ乾かすから。まぁ、自業自得だけどさ。大体、消毒だからって言って舐めることないでしょ、普通は)

大広間の様子が珍しい新入生達は周りを珍しそうに見回す。
そんな中、マクゴナガル先生が、古いボロボロの帽子を乗せた椅子を持ってくる。
組み分け帽子。
皆がその帽子に注目し、静寂が訪れる。
帽子がぴくりっと動き出し歌いだした。
はその歌に耳を傾ける。

グリフィンドールは勇気ある者
ハッフルパフは正しく忠実、忍耐ある者
レイブンクローは古き、賢き者
スリザリンは狡猾な者

(悪く言えば各寮の特徴って、グリフィンドールは単純馬鹿、ハッフルパフは優柔不断、レイブンクローは頑固、スリザリンはあくどい…って所かな?)

「ABC順に名前を呼ばれたら、帽子をかぶって椅子に座り、組み分けをしてください」
「アボット=ハンナ!」

ファミリーネームのアルファベット順に名前が呼ばれていく。
はどの寮になるのだろう。

(公式ホームページで組み分けやった時は、一応グリフィンドールだったんだよね。友人には絶対嘘だって言われたけど…。でも、やっぱ、グリフィンドールかスリザリンがいいな)

!」

はい、と返事をして、ヴォルを抱えたままは前に出る。
ちょこんっと、椅子に座り帽子をかぶせられる。

「おや?君は…」
「僕が何か?」
「いや、時の代行者が必要とされる時代になったのかと思ってな」
「随分と詳しいようですね」

驚きもせずには答える。
この組み分け帽子はダンブルドア以上に謎な存在だと思う。

「さて、どの寮がいい?」
「希望聞いてくれるの?そうだなぁ、グリフィンドールかスリザリンがいいんだけど、私的にグリフィンドールカラーは似合わないような気がするんだよね、だからやっぱスリザリンが…」
「そうか、そうか、それなら……グリフィンドール!!


って、まてい!!どの寮がいいって聞いたのは一体何の意味があったのさ。希望聞いてくれるんじゃなかったんかい?!)


べしんっ


は帽子を剥ぎ取り、思いっきり床に叩きつけた。
べしんっと思いっきり床に叩きつけられた帽子はぺしゃんこになる。
しかし、はっと気づき周りを見回せば静まりかえり、注目を浴びている。

「…」

は帽子を拾い上げ、ぱたぱたと埃を払い椅子の上に丁寧においたあと、何事もなかったようにグリフィンドールの席へと行った。
が空いている席にこっそり腰掛けると何事もなかったように組み分けは再開された。
最も一瞬、微妙な空気が流れたが。

「組み分け帽子を床に投げつけるとは前代未聞だっただろうな」

腕の中から声がする。
と思えば、いつの間にかヴォルが目を覚ましていた。

「ヴォルさん、いつから気づいてたの?」
「組み分けが始まる頃な」
「そう。でも、もうちょっと我慢しててね。組み分け終わったらちゃんと乾かしてあげるから」
「料理は食わないのか?」
「う〜ん。多分、イギリスのパーティー用の料理って口に合わないと思うから」

苦笑する。
はあっさりした味の料理の方が好きだ。
こっちの料理はどちらかといえば、脂っこいものが多いだろう。

「んでね、ものは相談なんだけど、ヴォルさん」
「何だ?」
「ダンブルドアには話そうかなって思ってるんだ」
「何だと?」
「いや、だってね、色々知っていてもらった方が動きやすいと思うんだよ」
「…俺を殺す気か?」

(殺す?)

突然のヴォルの物騒な言葉にきょとんっとなる
何故、ダンブルドアに話すことがヴォルを殺すことに繋がるのか。

「俺はアレの一部だぞ?放っておけばどんな害になるか分からない。そんな俺を生かしておくと思うか?」
「随分悲観的だね。まぁ、ダンブルドアなら大丈夫だよ、多分ね。…ヴォルさんはあのヴォルデモート卿とは違うよ」

はちらりっと教職の席を見る。
そこには、紫色のターバンのクィレル先生が座っている。

「それに、私がそんなことはさせないよ。だって、私とヴォルさんは…」
「仲間とでも言うのか」
「違うよ」

馬鹿にした様子でを見るヴォル。
は首を横に振る。

「仲間じゃなくてもっといい言葉があるよ」

はにっこりと微笑み。


「私と貴方は共犯者、だよ」


世界を導く時の代行者。
隣にいるのは、闇に染まりかけた闇の帝王の過去。
その彼は、代行者の共犯者となる。