賢者の石編 02





次は杖だ。
途中、「イーロップふくろう百貨店」の前を通った。
ふくろうを欲しいとは思う。

(でも、ペットはヴォルさんがいるしな。ペット扱いされたら、本人すごく怒りそうだけどさ)

そう思って、やめた。
抱えられているヴォル自身は、自分がペット扱いされていることには気づかないだろう。


―オリバンダーの店 紀元前382年創業 高級杖メーカー

「紀元前、創設された頃はどんな店だったんだろ」

本で読んだときも思ったのだが、古すぎると思わずにはいられない。
しかしには心配事が一つ。
魔力が全くないのに、ちゃんと合う杖があるのだろうか?
そもそもには杖は必要ない。
魔法を使えないのはもとより、魔法などなくても大丈夫だからだ。

(杖は多分使い手の魔力や性格に合わせて選ばれるんだよね。それなら…)

はちらりっと、腕の中のヴォルを見る。
にこっと笑みを浮かべ、店の中に入る。
どうやら、名案が浮かんだらしい。

「いらっしゃいませ」
「こんにちは」

にっこりと笑顔で店にいたオリバンダー老人には同じように微笑んで挨拶をした。
一見、人の良さそうな老人に見える。

「おやおや、君はかね?」
「はい。僕をご存知で?」
「ダンブルドアから聞いておるよ、今年は珍しい新入生が多いとな」
「まぁ、確かに…」

は苦笑する。
完全マグルの
あの英雄ハリー=ポッター。
純血一族では有名な家系の、元死喰い人と言われている人達の息子。
そして他にも注目される生徒は多いだろう。

「さて、それでは、どちらが利腕ですかな?」
「右です」

そう言ったは、オリバンダーが計測をする前に小さく何か呟く。
オリバンダーはの右腕を測る。
肩から指先、手首から肘、肩から床、膝から脇の下、頭の周り。
ふむ、と頷くと奥のほうから箱を取り出してきた。

「柊に一角獣のタテガミ。26センチ。さぁ、手にとって振ってみなさい」

手に取り軽く振ってみる。
だが、しんっとした空気になるだけで、さっぱり何も起こらない。

「駄目だ。これはどうかね?桜の木にドラゴンの心臓の琴線、30センチ」


がしゃがしゃぁぁぁん!!


近くに保管してあった杖の箱が散乱する。
杖がしまわれていた箱と杖が辺りに散乱している。
その様子にオリバンダーは気にせずに次の杖を探す。

がたがたんっ

がこぉぉぉぉんっ

どしゃぁぁぁ

すさまじいまでに店内が破壊されていく。
そのたびにオリバンダーが杖を振って片付けるが、本当にいいのだろうか、とちょっと申し訳なく思ってしまうほどだ。

「楓に人魚の真珠、24センチ。さぁ…」

これで何本目だろう。
振ればこの店が散らかったり、何も起きなかったり。
本当に合う杖があるのだろうか?

チリンチリン

お客がもうひとり来たのか、ベルが鳴る。
はいってきたお客さんはさぞかしこの惨状に驚くだろう。
オリバンダーは気にすることなく、入ってきたお客さんに挨拶する。

「いらっしゃいませ」
「…こんにちは」

(あれ?)

聞き覚えのある声には振り向く。
振り向けば、そこにいたのは先ほど別れたばかりの少年ハリー、そしてハグリットも一緒だ。
ハリーもに気づいたらしく驚く。

?」
「あれ?ポッター君、早いね、もう本買ってきたの?」
「うん」
「…ってことは、かなり時間たっているってことだよね。一体何本試したっけ?」

は少しウンザリした様子である。
実際は1時間以上が経過している。
試した杖の本数はもう多すぎてすでに覚えていない。

「ハリー、知り合いか?」
「あ、うん。さっき洋装店で会ったんだ」
「ごめんね、ポッター君。僕の杖決まるまで待っていてくれる?」
「うん、分かった」

また、会っちゃったよ。
それにしても、早く杖決まって欲しいな。
どんな棒切れでもいいから。

「さぁ、これはどうかね。イチイの木と不死鳥の尾羽根30センチ」

(あれ、まてよ?この組み合わせって確か…)

はゆっくりと杖を握る。
イチイの木と不死鳥の尾羽根の組み合わせは、かのヴォルデモートの同じもの。
ひゅっと杖を振ると金色の光がキラキラ舞い上がる。

「ブラボー!」

オリバンダーは嬉しそうに叫んだ。
どうやらこの杖に決定らしい。
ほっと息を吐く

「いやいや、よかった、よかった。しかし、不思議なものだ」
「そうですか?」
さん、貴方の杖の組み合わせは珍しい。この組み合わせの杖は、貴方のものとあともう一つのみだ」
「へぇ、そうなんですか」

は頷き、杖を見る。
もう一つとはヴォルデモートの持つ杖のことだろう。

「オリバンダーさん、貴方のおっしゃりたいことが分かりました。でも、もしかしたらこれは、必然であり当然であるかもしれません」

意味ありげな笑みを浮かべる
これはいくらですか?と聞き、オリバンダーが8ガリオンと答えると、丁度の額を置く。

「ヴォルさん、行こう。じゃあ、ポッター君、今度こそ又ね」

ひらひらっと手を振り、店を後にする
黒猫のヴォルもその後についていく。
後ろに、少し困惑した様子のハリーとハグリットを感じた。



「必然であり当然である、どういう意味だ?」

帰り道、に抱えられたヴォルが聞く。
オリバンダーの店で言ったの言葉。

「いや、だってこれ、私の杖じゃないんだよ」
「どういうことだ?」
「私は魔法使いじゃない。だから杖に選ばれるはずないんだよ?分かる?」
「でも選ばれただろう?」
「いや、違うよ。これはヴォルさんの杖だよ」
「俺の?」

にこっと笑みを浮かべる
杖を選ぶ時は小さな声で呟いた。

『私が選ぶのは「彼」の杖』

魔力などないにとって杖などどうでもいい。
最初は適当に選ぼうと思っていたが、せっかくならば、ヴォル用の杖を買おうと思っていたのだ。
その杖の組み合わせが皮肉にもヴォルデモートと同じものとは、やはりこれは当然とも言えるのだろう。

「そのうち、ちゃんとした人の姿になれるようにするからさ、その時には杖が必要でしょ?」
「お前…」
「だからそれまで貸してね。一応、杖持ってないと困るしさ」

ヴォルは驚いた。
どうして自分のことを考えてくれるのか。
今の自分に捨てられた過去の自分。
その器に選ばれたただのマグルの少女…のはずだった。
しかし、魔法界について知っているようで知らない。
この不思議な少女に少し興味を持ち始めるヴォルであった。