賢者の石編 01
は今、少年の姿をして黒猫を抱えてダイアゴン横丁を歩いていた。
お金は、ヴォルに教えてもらった森で貴重な薬草を取って、ノクターン横丁で売って手に入れたもの。
それが結構楽しくて、グリンコッツの金庫にはそれなりの数の金貨が入っている。
さすが、元闇の帝王直々の教えである。
しかし何かが違う。
の手にしている紙切れは手紙だった。
ホグワーツからのフクロウ便。
「まさか、入学許可証が届くとはね」
「ダンブルドアもついに耄碌したんだろ」
「仮にも恩師に向かって耄碌とは酷いんじゃないかな?ヴォルさん?」
そう言うもくすくす笑っているので同じようなものではないのだろうか。
だが、これだけ軽口を互いに言えるようになったということは良い事なのだろう。
まず、とヴォルは住む所を決めることにした。
だが、二人ともちゃんとしたところには住めないだろう。
身元不明の少女と黒猫、黒猫の方は元ヴォルデモート欠片。
真っ当なところに住める筈もないという事で、最初にいた古びた屋敷を使うことにした。
少し調べてみれば今は持ち主がいないらしい。
がちょちょいっと力を使って少し綺麗にして、近くの村には暗示をかけておいた。
住めるように掃除し終わった後に来たのが、このフクロウ便。
『ホグズミード 外れの森 古き屋敷 ・ 様』
その手紙で、は初めてここがホグズミードの近くだと知ったのである。
その後、学用品を買うためにダイアゴン横丁へ行こうとしたが。
「やっぱ、このままじゃあどうみても11歳には見えないわよね」
「いや、大丈夫だろ」
「ちょっと、姿変えようかな。ホグワーツに行くなら、この姿でクィレル先生と対面するのもなんかまずい気がするし」
ヴォルの言葉は無視してはイメージをする。
11歳の少年のイメージを…。
『変われ』
ふわっ
一瞬柔らかな風が舞う。
そして、の体が変わる。
肩より少し長かった髪は短く、黒い瞳はそのままだが、眼鏡を。
そして、11歳くらいに見えるだろう少年の姿。
「で、ちょっと魔力を使って姿を固定で完成」
「何で、男なんだ?」
しかも、眼鏡。
わざわざ、指輪の魔力を使ってまで姿を固定させる。
「いや、だって、少年の方が多少何かしらやらかしても”男”だからってことで、大したお叱りも受けないかな〜って」
「そんなことないだろ」
「ちなみに眼鏡は趣味。というよりも、私は車の運転の時には眼鏡かけなきゃならないくらい視力悪いから今のうちに眼鏡に慣れておこうと思って」
「下らん」
呆れたようなヴォル。
といえば、楽しそうに入学許可証を眺めていた。
ダイアゴン横丁の正確な場所をは知らない。
もちろんヴォルに聞いて来たのだ。
「とりあえず、必要なものそろえないとね」
「楽しそうだな」
「だって、楽しいよ」
見るもの全てが新鮮で、見ているだけで楽しい。
余所見をしながら歩くは危なっかしい。
ヴォルはに注意をしつつ案内をする。
どうも、保護者気分である。
先に本を買った。
全てそろえれば、11歳の少年の腕には結構な量になる。
その本をは…
『移動』
の一言で何処かに消してしまった。
本人曰く
「家に運んだだけだから」
だそうである。
力の無駄遣い、というよりも、力の使い方を間違ってやしないだろうか。
楽しい気分のせいで力の使い道がどうのなど、全然考えていないだろうが…。
―マダム・マルキンの洋装店
「次は制服」
マダム・マルキンのお店へ入っていく。
魔法界、というかイギリスの建物はやっぱ違うよね。
「…ん?」
お店に入ったところではふと気づく。
「ね、ヴォルさん。ここってイギリスだよね?」
「何を今更なことを」
「私が今しゃべってるのは日本語、だよね?」
「何言っている?お前は最初から英語を話しているだろ」
「……」
そう、よく考えれば、本を買ったときもタイトルが英語なのに違和感なく読んでいた。
そして、周りから聞こえてくる言葉も全部日本語に聞こえる。
今更気付くの遅いのだが。
「これも、力のせいかな?」
どう考えても日常慣れ親しんだ言葉にしか聞こえない。
意味を聞き取るのも全く苦労しないし、英語を話しているという違和感を感じることもない。
「あら?坊ちゃんもホグワーツ?」
藤色のローブを着た愛想のよい女性が話しかけてきた。
はコクリと頷く。
「ちょっと待っていてね。今、丁度二人が丈を合わせているのよ。それが終わってからになるから」
少し奥の方で、丈を合わせている二人の少年がいた。
マダムともう1人の魔女がローブの丈を見ているようだ。
二人の少年はなにやら話をしている。
1人は今時流行らないだろうオールバックの少年。
もう1人は丸眼鏡をかけた黒い癖のある髪の少年。
「へぇ、もしかして、あの二人って」
「ルシウスの息子と、ハリー=ポッター、か」
「あらま、ヴォルさん、二人のこと知ってるの?あ、そういえばルシウスさんはデス・イーターだもんね。その息子のドコイ・フォイ、あ、違う。ドラマ・コルフォイ?」
正確に名前が思い出せずに首を傾げる。
どうやら、人の名前を覚えるのが苦手なようである。
「それを言うなら、ドラコ・マルフォイだ」
「あ、そうそう、ドラコ・マルフォイ」
それにしても、ハリーもドラコも可愛いよね。
そうだよね、まだ11歳だもんね。
ふふ、と怪しげに笑うをちょっと不気味に思うのはヴォル。
「君もホグワーツか?」
おや?と視線を向けるとどうやら丈あわせが終わったらしいドラコ。
人を少し見下すような視線が見栄を張っている子供みたいで、可愛いと思う。
くすりっと笑みをこぼし
「うん、そうだよ。君も?」
「君は純血かい?」
(なんだ突然、藪から某に。それが最初に会った相手に尋ねる事かい)
「うん。純血だよ」
マグルノね、とは心の中でのみ付け加えておく。
「そうか、スリザリンになれるといいな」
「そうだね」
「僕の家系は代々スリザリンなんだ」
「そうなんだ」
にこにこっとその話を聞き流す。
彼にとっては、純血としての家系が何よりの自慢なのだろう。
「さぁさ、坊ちゃんお待たせしました」
マダムが来てに奥に行くよう進める。
は、ヴォルを床に置く。
「ヴォルさん、ちょっと待っててね」
「え?!!」
「…?何?」
驚いたようにを見るドラコ。
は不思議そうにドラコを見る。
「そ、その猫、ヴォ、ルって名前なんだな」
「あ、うん。本名は違うけど、その方が呼びやすいからね」
本名、トム=マールヴォロ=リドルで、闇の帝王と呼ばれるヴォルデモート卿の一部でした。
とは紹介できまい。
「じゃ、じゃあ、僕はこれで……また、ホグワーツでな」
どこか怯えたように店を出ていくドラコ。
デス・イーターの息子が、ヴォルデモートの名前を恐れるなんていうのは可笑しい。
くすくすっと笑う。
マダムに案内され、眼鏡の少年―おそらくハリー=ポッターであろう―の隣の踏台に立つ。
ハリーは少し機嫌が悪いようだ。
先ほどのドラコとの会話が機嫌を降下させたらしい。
ま、とりあえずは本の通りのようだし、話しかける必要もないか。
とは思っていたのだが、視線を感じる。
ちらっと目を向ければハリーがこちらを見ている。
(何だ?別におかしくないよね。普通の11歳の少年の姿だと思うし。あ、待てよ。顔立ちが東洋人だからかな?)
「何?東洋人が珍しい?」
「あ、…ごめんなさい」
慌てて視線を逸らす。
ハリーは素直ないい子のようだ。
「別にいいよ、ここはイギリスだしね。東洋の人は珍しいでしょ?」
「あ、うん。僕、初めて見たよ」
「君も今年ホグワーツ?」
「…う、うん」
(あれ?どうやらさっきのドラコとの会話でちょっとヘコんでるのかな?確か、この時ハリーはまだ魔法界のこと全然知らなくて、ドラコにちゃんとした答えが言えなかったんだっけ?)
「僕はね、ご先祖様遡っても魔法族が誰もいなくてさ、いきなりホグワーツだよ?驚いちゃった」
「え?」
「見るもの全て新鮮で、面白いものばかりだから楽しみではあるんだけどねv」
「あ…、ぼ、僕も、ずっとマグルの中で暮らしてきたから自分が魔法使いだなんて信じられなくて」
「教科書は買った?」
「ううん、まだこれから」
「そうか、じゃあ、覚悟しておいた方がいいよ?」
はニヤリと笑みを浮かべる。
ハリーは不安そうな表情になる。
「分厚い本ばかりだから、すっごい重い!」
「え?」
「連れに力持ちがいなくてさ。ホラ、あの外にいるでっかい人」
は見せの外にいるハグリットを目で指した。
ほんとに大きいなぁ〜と思う。
「ああいう頼もしい人が一緒に買い物に来てくれたらよかったのになぁ〜と思うよ」
「え、あ。ハグリットは僕と一緒に買い物に来てくれたんだ!!」
嬉しそうにに言うハリー。
先ほどのドラコにはハグリットを侮辱されたが、この少年はハグリットを頼もしいと言う。
ハリーは先ほどのいやな気分が吹っ飛んで少し嬉しくなった。
「ハグリットって言うの?彼。羨ましいよ、君が…。彼と一緒でさ」
「はい、終わりましたよ」
マダムがハリーの方が終わりだと告げる。
どうやら、ハリーとのトークもこれで終わりだろう。
(ハリーとは話すつもりはなかったんだけどな)
「あ、じゃあ、また、ね」
「うん、又、ホグワーツで」
「…あの!名前、君の名前は?」
「僕?=だよ。君は?」
「僕はハリー=ポッター。また会おうね、!」
ハリーは嬉しそうに見せの外のハグリットの元にいく。
その嬉しそうな様子ににも笑みが浮かぶ。
「はい、終わりましたよ」
「ありがとうございます」
ふぅっと軽く一息。
「参ったな。仲良くなるつもりはなかったんだけど…」
「気に入られたようだな」
足元でヴォルがを見上げる。
は肩を竦める。
影ながら見守るつもりだった。
深く関わるつもりはない。
それにヴォルの正体がバレれば、ややこしくなること確実だろ。
といか、ややこしいというレベルでもないのだが。
「ま、なるようになれ、だね」